調査シリーズ No.77
最低賃金に関する調査

平成22年9月30日

概要

研究の目的と方法

最低賃金については、「成長力底上げ戦略推進円卓会議」で、中小企業の生産性向上を踏まえた最低賃金の中長期的な引上げの方針を政労使で合意形成することとなったが、我が国において、中小企業の生産性向上と最低賃金引き上げ、企業の雇用・処遇との関係についての実態把握、実証研究は非常に少ない。このため、厚生労働省からの要請を受け、「最低賃金に関する調査」を実施した。全国の中小企業20,000社(民間調査機関の企業台帳名簿に基づき、各都道府県の企業規模別・業種別の企業構成比を反映させる形で抽出(従業員規模300人未満(卸売業は100人未満、小売業,飲食店は50人未満、サービス業は100人未満))を対象とする郵送調査であり、調査実施は平成20年3月下旬、調査時点は平成20年3月1日現在である。有効回答数は2,987社であり、有効回収率は14.9%である。

主な事実発見

  • 正社員の賃金について、最も低い賃金水準(時給換算)は、1,000~1,049円が頂点で、平均1,104円である(※1)。正社員の賃金決定時の最も重視した事項は、「経験年数」、「仕事の困難度」等が多い(※2)。正社員の賃金を引き上げた企業(約45%)が引き上げの際最も重視した要因は「本人の業績」(2割強)、「自社の業績」、「能力の向上」等が多い。賃金を据え置き・引き下げをした企業(5割)の理由は、「企業業績から賃金を上げる余裕がなかった」が4分の3、次いで「将来の経営状況が不透明」、「毎年賃上げをしている訳ではない」等である。
  • パート・アルバイトの賃金について、最も低い賃金水準(時給換算)は、800~849円を頂点に分布し、平均863円である(※1)。パート・アルバイトの賃金決定時の基も重視した要因は「同じ地域・職種のパート・アルバイトの賃金相場」(約37%)が最も多く、次いで「仕事の困難度」、「経験年数」、さらに「地域別最低賃金」(約8%)等である(※2)。パート・アルバイトの賃金を(全員、一部)引き上げた企業(約36%)が、引き上げの際最も重視した要因は「能力の向上」(2割弱)、「労働力の確保/定着」、「本人の業績」、「経験年数」等が多く、「地域別最低賃金の改定」は約6%である。パート・アルバイトの賃金決定には地域別最低賃金の影響もある程度みられる
  • 地域別最低賃金額の認知度について、「金額を知っている」が3分の2で、「金額を知らない」が3割である(※3)。地域別最低賃金額の認知経路は、「労働局のホームページやパンフレットをみて」が過半数である。
  • 平成19年度の地域別最低賃金近辺労働者の有無について、正社員では6.6%の企業、非正社員は21.5%の企業が最低賃金×110%未満の従業員がいる結果となった(※1,※2)
  • 平成19年度の地域別最低賃金引上げに対して経営面や雇用・賃金面で対応策や見直しを行った企業は2割、行わなかった企業は4分の3である(図1)。地域別最低賃金の引上げに対する対処方法は「従業員の賃上げ」が7割強で最も多く、次いで「人件費以外の諸経費等コストの削減」、「人員配置、作業方法の改善」、「従業員の新規雇用の抑制」等が多い(図2)。対処方法が、「賃金の引き上げ」、「新規雇用抑制」、「福利厚生費の見直し」、「教育訓練の見直し」の場合、対象となる従業員は「正社員」が4~5割、「正社員・非正社員両方」が3~5割である。「福利厚生費の見直し内容」は「増やした」(5割弱)が「減らした」(4割弱)を上回り、「教育訓練の量・費用見直し内容」は「増やした」(6割強)が「減らした」(約16%)を上回る。地域別最低賃金の引き上げに対応策や見直しを行わなかった理由は「もともと自社の賃金が最低賃金より高い」が大多数(約86%)である。
  • 平成19年度の地域別最低賃金引上げの経営面や雇用面(経常利益、販売価格、労働生産性(※4)、人件費以外の費用、人件費総額、従業員数(全体、正社員、非正社員)、総労働時間数、従業員の意欲、欠員の充足度)への影響について尋ねた。全体的な傾向は、各項目とも「変化なし」が7~8割であり、「増加(上昇)に影響」、「減少(低下)に影響」は数%程度が多いが、経常利益は「減少に影響」が約16%(「増加に影響」約2%)、人件費以外の費用は「増加に影響」が約11%(「減少に影響」約6%)、人件費総額は「増加に影響」が約20%(「減少に影響」約4%)と一部の企業で影響を受けている。
  • 当該企業の業況判断は「悪い」、生産・売上水準は「減少」、経常利益は「減少」が多く、従業員数(増減DIは減少超)、人件費(増減DIは増加超)は「横ばい」が多く、雇用過不足感は不足超過、雇用調整・賃金調整は実施・計画は3割となっている。経営上の問題点では、「同業他社との競争激化」、「原材料高・仕入価格の上昇」、「需要の低迷」が多い。販売価格は、費用の増加に応じた引き上げが「できる」、「できない」がほぼ2分で、取引先との契約内容は「対応な話し合いで両者合意」が多く、次いで「取引先が主導」である。
  • 「労働生産性」(※4)について、前年度の生産性が伸びた企業(2割弱)の伸びた要因は「取引先との関係強化」、「従業員の意欲の向上」、「国内外の需要の増大」等、生産性が低下した企業(3分の1強)の低下した要因は「国内外の需要の低迷」、「原材料費の値上げ」、「(販売)価格の低下」等が多い。労働生産性の伸びの成果の分配の重視先の上位1位は「従業員」が過半数、次いで「企業内部(内部留保)」が4分の1である。労働生産性の向上のために今後強化していきたいものは、「従業員の意欲・やる気の向上」、「人材育成」、「製品・サービスの高付加価値化」等が多い。
  • 人材の活用・確保方針の重視項目は、「従業員の長期安定雇用の維持」、「中途採用の活用」、「高齢者の継続雇用・定年延長」等が多い。人材育成のための施策は、「計画的なOJT」、「自己啓発支援制度」、「Off-JT制度」等が多い。能力開発の方針について「企業は積極的に従業員の能力開発に関わる」は正社員が5割弱に対して、非正社員は3割となっている(※2)。人事管理で困っていることは、高齢化、人材育成難、正社員の採用難等が多い。

(※1)数値について異常値等の処理を行ったベース(精査済み)の集計結果。

(※2)正社員は正社員がいる企業、パート・アルバイトはパート・アルバイトがいる企業、非正社員は非正社員がいる企業について集計。

(※3)調査票裏面に記載した地域別最低賃金額一覧表により金額の確認が可能。

(※4)本調査の「労働生産性」は労働者1人1時間当たり、どの程度の付加価値を生み出したかを表す。付加価値額は、経常利益と人件費と金融費用、租税公課、賃借料、減価償却費を合計したものをさす。

図1 平成19年度地域別最低賃金引上げに対する対処の有無

図1 平成19年度地域別最低賃金引上げに対する対処の有無/調査シリーズNo.77「最低賃金に関する調査」

(注)全回答企業(2,987社)について集計

図2 平成19年度地域別最低賃金引上げに対する対処法(複数回答)

図2 平成19年度地域別最低賃金引上げに対する対処法(複数回答)/調査シリーズNo.77「最低賃金に関する調査」

(注)最低賃金の引上げに対して対応策や見直しを行った企業(628社)について集計

政策的含意

 中小企業の生産性向上と企業の賃金・処遇との関係、最低賃金が中小企業の企業経営、賃金、雇用等に与える影響等の実態を詳細に調べており、最低賃金制度に関する検討に当たっての有益な情報を与えている。

本文

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研究期間

平成21年度

執筆担当者

藤井宏一
(2010年7月まで)
労働政策研究・研修機構 統括研究員
堀 春彦
労働政策研究・研修機構 副主任研究員

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ
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