調査シリーズ No.66
定年退職者の働き方の選択―条件変更との取引―
概要
研究の目的と方法
- 定年後の労働者に対しては65歳までの雇用確保が行われる場合でも労働条件の変更が行われることが多い。定年による労働条件の変更が及ぼす労働者の職業心理への影響を明らかにし、60歳代前半層の労働者の職業能力発揮を促進または阻害する要因を見出す研究である。
- 50歳以上70歳未満の労働者に対するアンケート調査。民間の調査会社のモニターから対象者を抽出。
主な事実発見
- 定年退職したほぼすべての労働者は、賃金、権限など仕事を進める上での条件はいずれも定年前よりも低下したと考えている。しかし、「総合的にみた仕事を進める条件」が低下しなかったと考える者(55.9%)は低下したと考える者(44.1%)よりも多い。
- 総合的にみた仕事を進める条件が「低下しなかった」と考える者は「低下した」と考える者よりも、定年後には「以前よりも自由な発想で仕事をするようになった」と考える割合が有意に高い。「解放された気分になって仕事を面白く感じるようになった」と「会社全体を以前よりも冷静に評価できるようになった」でも「低下しなかった」と考える者の割合が大きい。
- 定年退職経験者が定年退職した直後の自分を振り返ると、概ね肯定的なイメージを持とうとするものの、過半数が自分を「合理性がある」人間像として描けない。
- 定年退職した後、次に働く時に労働者に潜む共通意識は、「期待されないことの自覚」、「遠ざかる責任」、「取引」、「気詰まりと気遣い」、「合理性の追求」である。
- 65歳以下の者の60%以上が、自分が「勤め人」として働いていくと予想する年齢は65歳以下までと予想。年齢が若いほど低い年齢を予想する傾向がある。
政策的含意
日本の労働者は定年退職した後は、次の職場における自己の立場や周囲の期待を考慮して自発的に職業活動以外の人生全般の活動にそれまで以上に目を配って生活全体のバランスを整えようと暗黙のうちにしていた。定年後の第二の職場で遭遇した仕事を進める条件の変化を自らのライフ・プランのなかで総合的に不利にならないようにするための工夫を自発的に行っていると考えられる。それは雇用の安定を確保することに細心の注意を払いつつのことであり、自己の能力の表し方を制御する傾向がみられる。
同時に、定年退職の経験は条件の変化の見方を自己の職業キャリアの自然な展開として比較的余裕のある見方に導く傾向がある。組織との関係が自立的になり、仕事そのものをみつめて働くことの意義を実感するという面で、働く条件との合理的な「取引」があった。
政策への貢献
定年による労働条件の変更と高年齢者の意識と行動の変化について基礎的な情報を分析・整理したことによって、定年後の労働者に快く能力を発揮してもらうため雇用管理のポイントとなる個人の自立性の尊重のあり方を示唆した。
本文
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研究期間
平成21年度
執筆担当者
- 奥津眞里
- 労働政策研究・研修機構特任研究員
データ・アーカイブ
本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.40)。
お問合せ先
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