労働政策研究報告書 No.201
「日本的高卒就職システム」の現在
―1997年・2007年・2017年の事例調査から―

平成30年9月10日

概要

研究の目的

「日本的高卒就職システム」(「推薦指定校制」「一人一社制」に基づき、高校と企業との継続的・安定的関係である「実績関係」の中で生徒が就職を決定していく仕組み)の変化を明らかにする。

研究の方法

インタビュー調査

主な事実発見

<日本的高卒就職システムの現在>

「推薦指定校制」「一人一社制」に基づき、高校と企業との継続的・安定的関係である「実績関係」の中で生徒が就職を決定していく「日本的高卒就職システム」は時代に合わせて相当に調整(アップデート)された。「推薦指定校制」「一人一社制」という仕組みはおおむね維持されながらも、高卒就職のマッチングプロセスは生徒の納得性を高め、ミスマッチによる早期離職を避けようとする方向に変化していた。具体的には事前の校内選考が限定化し、高校は応募先選択過程における多様な情報提供(インターンシップ・校内での企業説明会・経済団体主催の生徒と産業界との交流会等・キャリア教育)を行うことに力を入れていた。またSNSやラインにより結びつく部活の先輩からの情報、またインターネット情報からの影響が拡大しており、生徒の応募先選択過程における「主体性」は高まる傾向にある。なおこの10年間の変化として、発達障害・外国籍の生徒の就職支援に対するニーズが高まっていた。

<高校と企業との継続的な関係>

高校と企業との継続的な関係性は弱くなっている。図表1によれば、非単発採用企業比率(観察期間中に採用のあった企業のうち、2回以上採用のある企業の割合を算出した指標)が高いほど、高校と企業との継続性が高いことになるが、普通高校・商業高校では継続性は減少しており、工業高校では維持されている。労働市場類型に関わらず、学科の影響が大きい。

図表1 非単発採用企業比率(観察期間中に2回以上採用を行った企業の割合)

図表1画像

資料出所:図表3-2(本文p.56)より作成

注:97年調査:80年代後半から90年代後半の就職者

17年調査:2000年代後半から2010年代後半の就職者

17年就職者人数・観察期間 長野M工業(149人・10年) 埼玉E工業(121人:5年)

島根R商業(30人:8年)東京A普通(22人:10年)

<高卒労働市場のマクロ的変化>

  • 現在の高卒の求人増加は、建設と介護の需要の増加で説明でき、製造業求人はあまり伸びていない。また高卒就職者の4割は普通科出身者であり、少子化により専門学科が総合学科に再編され、特に商業科出身者が減少している。男性の就職先職種は工業科ではほぼ生産工程等であり、普通科は半数が生産工程である。女性は商業では事務職が半数弱、普通科はサービスと生産工程となっている。
  • 景気回復は県外就職に結びつくものであったが、今回は地元定着が進んだ。これはリーマンショック以前の好景気の時期とは対照的である。輸出型製造業にかわって、今回の高卒求人を押し上げているのは建設・介護であり、地域を超えた求人が少ないという労働力需要の違いがある。
  • 今回対象となった7地域を ① 県外移動、② 需給状況、③ 求人内容の3点から、流入地域(東京・埼玉)、バランス地域(長野)、流出地域(秋田・島根・青森・高知)の高卒労働市場3類型に分類した。いずれの地域でも人手不足状況にあったが、流出地域では求人が増加するだけでなく求職者も減少していることが求人倍率を引き上げていた。流入地域でも建設・介護の求人が増加して相対的に製造業求人の割合が低下しており、建設や介護求人の増加は地元完結型の就職を増加させることが見込まれる。

    また流出地域での地元定就職傾向が進んでいる(図表2)。県内就職を促進するため「(流入地域より遅い傾向があった)地元企業の求人票提出時期を早める働きかけ」が行われたことが効を奏した側面もある。

お詫びと訂正

上記の<高卒労働市場のマクロ的変化> 箇条書き3つめの記述に誤りがありましたので、お詫びして訂正いたします。(2019年11月14日)

誤)
地域でも建設・介護の求人が増加して相対的に製造業求人の割合が低下しており、
正)
地域でも建設・介護の求人が増加して相対的に製造業求人の割合が低下しており、

図表2 流出地域における県外就職割合の推移(%)

図表2画像

資料出所:文部科学省「学校基本調査」(各年度)

<高卒採用企業の採用パターンの変化>

  • 企業調査から高卒の採用パターンを3つに整理した。パターンAは高卒者の「質」には問題ないが、景気変動によって採用を抑制することもある企業であり、事例の多数を占めた。
  • パターンBは高卒者の「質」が低下していると認識し、そのまま採用を抑制した企業と、にもかかわらず採用を再開(しようと)する企業がある。採用を再開(しようと)した企業には、大卒技能工を採用したところ処遇が難しく高卒者に回帰しようとする企業や、大卒採用の未充足等により採用した高卒者が企業の人材育成方針のおかげで定着していることから、より積極的に高卒者を採用している企業があった。
  • パターンCはよい大卒者の採用は困難だが「質」の高い高卒者を採用できているという認識から、高卒技能職を技術者へと抜擢するという新しい人事制度を作ったというケースであった。

政策的インプリケーション

  1. 「日本的高卒就職システム」の変化を踏まえた労働政策の展開
  2. 学校やハローワーク経由以外の職場情報の読み方に関する支援
  3. 生徒が企業に直接接触できる機会の充実に対するハローワークの支援の拡大
  4. 特別な支援を要する生徒への対応の拡充
  5. 高校の就職指導担当者の変化に対する補完的支援の充実

政策への貢献

  • 高卒者等への就職支援施策の分析・企画・立案等に活用予定。
  • 一人一社制のあり方について議論する際の基礎資料として活用予定。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「多様なニーズに対応した職業能力開発に関する研究」
サブテーマ「若者の職業への円滑な移行とキャリア形成に関する研究」
高卒就職の変化に関する調査研究、緊急調査「高卒者における一人一社制の現状調査」に対応

研究期間

平成29年度~平成30年度

執筆担当者

堀 有喜衣
労働政策研究・研修機構 主任研究員
小杉 礼子
労働政策研究・研修機構 研究顧問
金崎 幸子
労働政策研究・研修機構 前研究所長
尾川 満宏
愛媛大学 教育学部 講師
小黒 恵
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー
筒井 美紀
法政大学 キャリアデザイン学部 教授

関連の研究成果

入手方法等

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