労働政策研究報告書 No.194
次世代幹部人材の発掘と育成に関する研究
事業をグローバルに展開する製造企業を中心に

平成29年3月31日

概要

研究の目的

人事管理の課題として、「次世代経営人材の育成・登用」が挙げられる状況を鑑み、グローバルに事業を展開している製造企業における次世代幹部人材の発掘・育成の実態を明らかにし、得られた知見から、企業の人的資源管理政策に対する提言を行う。

研究の方法

文献調査、聞き取り調査、研究会の開催

主な事実発見

  1. 各事例ともより良い内部調達の仕組みを構築すべく取り組んでいた。ただし、重点的な対象には若干の違いがある。まず、(1)国内と海外の双方を重視し、制度改革を進めているタイプ(製造A社、B社)、(2)どちらかと言えば国内を重視し、制度改革を実施しているタイプ(製造D社、E社)、(3)海外を重視し、制度改革を実施しているタイプ(部品メーカーC社)。
  2. 一方、制度改革の内容については、いずれの事例も将来の幹部候補群のようなものを形成し、彼らや彼女らに対して、育成をかけていこうとしている。ただし、その候補群の形成の方法にも若干の違いがあった。(1)人を軸、すなわち、社内にいる実力がありそう、もしくは、興味深そうな人材を見つけ出しポテンシャル層として把握していく中で人材群が作られていく方法、(2)ポジション(ポスト)を軸にその後継候補を人材群とする方法、(3)社員区分や資格等級を基礎に人材群を設ける方法の3つの方法があった。事例によっては、複数の方法を組み合わせて実施している。(1)と(2)の双方を利用しているが、どちらかと言うと(1)を進めて行こうとしている例として、製造A社とB社が、(2)を中心にしている例として、部品メーカーC社の海外と製造E社が、(3)を中心にしている例として、部品メーカーC社国内と製造D社がそれぞれ挙げられる。この3つであるが、どちらかと言うと(3)が古くからのスタイルであり、(1)や(2)が新たに出てきたスタイルと言えよう。
  3. 各事例とも、その方法や程度は異なるものの、将来の幹部候補人材群、すなわち、タレントプールを設けていた。共通の傾向として、対象を絞ることで一つのクラスターを形成し、そのクラスターに対して優先的に育成機会を提供しようとしている。これは、ポジション軸であれ、人軸であれ共通している。
  4. それぞれの把握方法において共通することとして、少なくともポテンシャル人材については、長期的な計画を立てて育成しようとする傾向が見られる。人を軸とした場合、A社やB社のように、最高到達点が組織階層の上の方まで(将来の役員クラス)伸びていけそうな社員を見つけだし、その最高到達点に実際に届くような育成が行われている(ようとしている)。一方で、ポジションを軸とした場合も、E社で見られたように、10年先の次々世代までその対象を伸ばし、人材育成を試みようとしている。このように、計画などを立て、長期的なスパンで人材を育成しようとしている点は、共通する事柄のように思われる。また、本体企業だけではなく、企業グループも含めて人材活用を進めていこうとしている点も一つ共通する流れとして見ても良いと思われる。
  5. 事例の中からいくつか変化の兆しのようなものを読み取ることもできる。以下、昇進慣行と自社の考え方の浸透の2つについて、事例から読み取れることを記しておきたい。第1に、昇進慣行について。社員区分や資格等級によらない人を軸とした取り組みは、ポジションを軸とした場合よりも、既に企業内で構築されている昇進慣行を変化させようとする意図が強いようである。第2に、自社の考え方の浸透について。日本の人材育成は、新卒という白い布を内部育成を通じて、自社色に染めていくと言われている。いわゆる「白い布仮説」である。こうした慣行は、自社の考え方の浸透にとって効率的であると言われてきた。これにかかわり、いくつかの事例では、海外現地採用の外国人を海外拠点における幹部候補として本気で活用しようとしている。この動きは、本体のみならずグループ企業の人材も含めた人材活用に向けた取り組みと言えるとともに、新卒採用者以外からも積極的に幹部人材を調達しようとしていると言える。その際に見られる特徴として、自社の社員への同質化に向けた取り組みが実施されている。一方、本国においては、将来の幹部候補というコア社員内において、自社の色に染まりきらない異質性を持った人材の育成が進められようとしている。以上の点を考えると、自社の色を持ちつつも、その色に染まりきらない人材の育成が試みられようとしていると言えるかもしれない。

政策的インプリケーション

企業の人的資源管理に対する含意は下記の通りである。第1に、人材発掘について。人材発掘のポイントは、人選の際にどれだけ多様な視点を加えることができるかにあると思われる。部門長による縦のラインだけではない視点からも人材を探していく必要があると言えよう。また、部門と人事双方において、人事評価だけでは見えてこない優秀層の発掘を心がけることも重要なことだと思われる。A社やC社では、人事評価に凸凹がある人材も、候補として選ぶよう心がけていた。B社もポテンシャル人材を選ぶ際に、「スケール感」というものを考慮に入れていた。減点方式のみではなく、加点要素も踏まえた上で人材の発掘に取り組んで行く必要があると思われる。

第2に配置転換の実施について。配置転換を通じたOJTによる育成という点について総論では賛成していても、実際に実施するとなるとそう上手く行くものではない。一つの対策として育成にかかわる事柄を議論する会議体の実施が挙げられる。その際に重要なことは、同僚によるプレッシャーが適度にかかる場とすることであろう。通常、異動が上手く実施されないのは、後釜が育っていないことによる部分が大きいと思われる。例えば、会議の場でそうした後釜を作っていない者に対して、同僚からプレッシャーをかけられるような場を作ることができれば、育成を主眼とした配置転換が進むことに繋がる可能性がある。また、人材交流を目的とした会議の実施も一つの施策として考えられる。同じレベルの人材を交換するという条件をかけることで、優秀人材同士の異動が活発になるかもしれない。この方法は、スペックの細かな設定と、人材同士の正確な比較を可能にすることにより、日々の業務の効率性を一方の当事者が失うことなく、当事者間同士で人材交流を活性化する途を開くものではある。ただし、細かなスペックを設定するが故に、当事者同士の交渉にかかる労力を高めると共に、結果として合意にいたらないということに繋がる危険もある。制度によって得られる効果と、その際に生じる交渉などの非金銭的なコストを上手く均衡させるような運用が望まれるといえよう。

第3に、人材の発掘や配置転換を通じた育成を実施していくためには、全社を巻き込んだ取り組みが重要になると思われる。対象が会社全体であるか、特定の部門であるかに関わらず、会社のトップ層を巻き込んだ取り組みが重要であると思われる。

政策への貢献

労働政策の効果的、効率的な推進にかかわる基礎的情報の提供。

本文

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研究の区分

研究期間

平成26年~平成28年

研究担当者

西村 純
労働政策研究・研修機構 研究員
田中 秀樹
青森公立大学 専任講師
青木 宏之
香川大学 教授

関連の研究成果

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