労働政策研究報告書 No.181
求職者支援制度利用者調査
―訓練前調査・訓練後調査・追跡調査の3時点の縦断調査による検討

平成27年12月11日

概要

研究の目的

本研究では、厚生労働省から要請を受けて、今後の制度見直し等の検討に資する基礎的な情報の収集・整理を行うことを目的とした。具体的には、①求職者支援制度利用者の属性を把握し、②求職者支援制度利用の前後で生じた変化を検討した。加えて、派生する目的として、より一般的に、職業訓練・給付金支給・就職支援(キャリア支援)の連携・統合による相乗効果について、職業訓練および就職支援の両面から検討を行うこととした。

研究の方法

本研究では、訓練前後のスキル面・意識面等の変化、訓練終了後一定期間を経た後の就職状況への影響などについて、幅広に情報収集するために、「訓練前調査」「訓練後調査」「追跡調査」の3回の調査を実施した。

訓練前調査(第1回調査)は、求職者支援訓練を受ける前に実施した。2012年9月に開講する求職者支援訓練を受講する全ての者(7,275名)を対象とし、支援指示を受ける日に各安定所で実施した。回収率は87.2%で6,347名が回答した。

訓練後調査(第2回調査)は、9月開講コースを受講した全ての者を対象とした。調査実施日は訓練終了後の最初の指定来所日で、各安定所で実施した。訓練前調査と訓練後調査は、各安定所で調査対象者固有の整理番号をふることとし、後の分析で突合が可能となるようにした。訓練後調査の回答者は4,797名であった。

追跡調査(第3回調査)は、平成24年9月開講コース受講修了者で事後調査に回答した者のうち、追跡調査に回答することに同意した者を対象に実施した。調査票は2013年9月に送付され、10月末日までに返送された891名分を分析対象とした。ハローワークから直接、調査票を配布する手法を取ったため、追跡調査への協力である旨の同意書を提出した回答者を対象とした。なお追跡調査実施時点で、調査回答者は、既に一度は就職をした者、一度も就職をしていない者の2つに大きく分けられると想定されたので、既就職者用と未就職者用の2つの調査票を用意し、回答者には、該当する調査票に回答をするよう求めた。

主な事実発見

  1. 利用者属性:調査時点(2012年時点)で女性が7割、男性が3割であり、概して30代では女性が、50~60代では男性が多かった。男性では30~40代の回答者の7割が配偶者や子供のいない単身者であった。女性は30代以降で配偶者がおらず子供がいる割合が約1/4程度あった。多変量解析の結果、回答者は「親と同居する正規就労経験の乏しい若年者」「失業期間がやや長期にわたる独身男性」「正規就労経験が長く生計の担い手でもあった中高年の長期失業者」「配偶者あり子供ありの主婦層」の4つの類型に分類して考察することが可能であることが示された。
  2. 職業訓練および就職支援:職業訓練期間は3~4か月未満が最も多く5割強であった。また、職業訓練受講給付金を受給した者は約5割であった。求職者支援制度を知った媒体で最も多かったのは「ハローワークのパンフレット等の広報」で4割強、以下、「ハローワーク職員に紹介された」が約3割強、「家族や友人・知人に勧められた」が3割弱であった。制度利用理由で最も多かったのは「職業訓練を無料で受けられる(技能や知識を修得することができる)」であり、約7割であった。訓練分野で最も多かったのは「介護福祉」で約1/4、次いで「基礎コース」「営業・販売・事務」がそれぞれ2割弱と続いていた。また、就職支援のうち、特に役立ったものとして、約6割弱が「履歴書の作成指導」「個別の職業相談(キャリア・コンサルティング)」「ジョブ・カードの作成の支援及び交付」を挙げていた。

    表1 求職者支援訓練制度利用者の特徴

    表1画像

  3. 訓練前後の変化:訓練後に「受講した訓練分野の仕事をこなす自信がついたか」について質問を行った結果、「やや自信がついた」と回答した者が約5割弱、次いで「かなり自信がついた」と回答した者が約1割であった。高齢者または若年、高校卒、正規就労経験年数なしの者、受講した訓練分野が「基礎コース」だった者で自信がついたと回答した割合が高かった。訓練前後の変化を検討した結果、「職業スキル」「生活スキル」「キャリア意識」「就職意識」のどの側面についても、基本的にはポジティブな方向に変化していた。総じて、これまで十分な職業スキルの蓄積の機会に恵まれなかった利用者層で、特定の業界の知識、ビジネスマナー、パソコンスキルといった基本的な職業スキル面での変化が大きかった。また、家族がおらず正規就労経験がない、失業等で収入がなく無業状態にあるなど、一時的に生活リズムが崩れやすい状況にあった回答者で、生活リズム面での変化が大きかった。職業スキル・生活スキルともに「基礎コース」で訓練前後の変化量が大きかった。

    表2 訓練コース別にみた分野別の訓練前後の変化の違い

    表2画像

  4. 就職者の特徴:訓練終了後に就職先の条件が良くなった者は、女性、若年者、正規就労経験の短い者(または無い者)など、総じて訓練前にあまり良好な条件で働いていなかった可能性の高い者が多く含まれる利用者層で多かった。なお、追跡調査時点で一度でも就職している既就職者には、女性、子供あり、主な担い手と同居、本人収入多い、求職期間短い、訓練期間長い、介護福祉分野を受講などの特徴があった。
  5. 自由記述結果:「求職者支援制度を利用して良かったこと」として、概してスキルアップできたとの回答が多かったが、パソコン関連の資格取得が希望職種への拡大につながっているという記述が寄せられた。また、給付金の受給によって余裕をもって訓練を受けられて安心できた、受講生どうしの交流や人間関係や仲間に満足した、訓練を受けることで自信がついた、キャリア・コンサルティング、マナーの授業が役だった、生活のリズムが規則正しくなった等の回答などもみられた。「求職者支援制度を利用して、もっとも大変だったこと」については、勉強が大変であり、課題が多い、資格試験の勉強との両立が大変などの回答が寄せられた。また、日常生活との両立についても回答が寄せられた。「求職者支援制度を利用して、もっとこうなればいいと思ったこと」については、授業の内容、カリキュラム、講師・先生の質について要望が寄せられた。キャリア・コンサルティング、職業相談、就職支援なども増やしてほしいとの声が寄せられた。制度が多くの人に知られ、活用されれば良いとの回答もあった。

政策的インプリケーション

  1. 求職者支援制度利用者の属性に応じた職業訓練について:職業訓練・就職支援・給付金支給の組み合わせによる求職者支援制度の利用者には、いくつかの類型が確認された。各類型には、それぞれ特徴や背景があり、そのため、より学習効果の高い訓練を提供しようとした場合には、各類型の特徴にそった形での訓練機会の提供を模索する可能性が示された。職業訓練の提供にあたって、その環境整備には多大な費用とリソースを要するため、軽々に訓練機会の拡大を言うことはできないが、長期的な検討課題として態様別の職業訓練といったテーマは、今後の公的な職業訓練(および就職支援)を拡大していく上で重要であることが示唆された。
  2. 制度利用前後の肯定的な変化と「基礎コース」の職業訓練について:求職者支援制度利用の前後でおおむねポジティブな変化がみられており、少なくとも本人の意識面での短期的な変化については、おおむね良い効果が得られることが確認された。なかでも、おもにデータ入力や基本的なパソコン操作を中心とした訓練であるいわゆる「基礎コース」の受講者は、おおむねどのような側面においても訓練前後の変化量が大きかった。基礎コースは、就職に必要な基礎的なスキルが十分でないものを対象とした訓練であるが、それ故、短期間の訓練であっても一定以上の訓練効果がみられたものと推察される。また、関連する結果として、基礎コースの受講者を中心に、広く生活全般に関するスキル、どの職業にも共通する読み書き計算のような基礎スキル、対人コミュニケーションを含む対人スキル等も、訓練後、大きく向上していた。制度利用そのものが、職業訓練と同時にかなりの部分、有意義な就職支援・キャリア支援になりえていたことが示される。
  3. 給付金支給の重要性について:給付金を受給した利用者は調査時点では約半数であり、制度利用目的が給付金であると回答した割合は約5%であった。一般に考えられるよりは、給付金を目的とした制度利用者は少なく、おおむね求職者支援制度の利用者は、職業訓練を受けて職業スキルを身につけることに動機づけられていた。ただし、給付金を受給した利用者の多くは、訓練や学習を安心して行える生活基盤・学習環境を提供するものとして、一定額以上の給付金があることを肯定的に捉えていた。給付金があることで、職業訓練に専心しうる環境整備がなされて訓練・学習の実効が上がるといった側面は、職業訓練+給付金支給+就職支援の三位一体の施策としての大きな特徴の1つとして示唆される。
  4. より専門的な職業訓練および労働市場との連結について:求職者支援制度利用者には、一定の割合で、より高度で専門的な職業訓練を時間をかけて学びたかったというニーズが示された。制度利用者は多種多様となっているため、正規就労経験が豊富で就労に向けての基礎スキルは既に十分に習得している層も多分に含まれており、そうした対象層向けに、より高度で専門的な職業訓練の提供の可能性が模索される必要がある。なお、職業訓練に関する欧州先進各国での議論は、職業訓練に先立つキャリアガイダンスの重要性に関心を向けつつあるが、より高度な職業訓練を望む対象層に対して職業訓練に先立つキャリアガイダンスを行う際に、労働市場との結びつきを十分に意識した上で、より適切な訓練分野・訓練コースへ導いていくことの重要性は、今後、いっそう考えておくべき論点として示唆される。

政策への貢献

今後の求職者支援制度の検討に加えて、公的な職業訓練・職業能力開発政策全般に資するものと思われる。なお、本研究の一部は、第13回中央訓練協議会における報告資料として活用された。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「生涯にわたるキャリア形成支援に関する調査研究」

研究期間

平成24年4月~27年12月

執筆担当者

下村 英雄
労働政策研究・研修機構主任研究員
牟田 季純
早稲田大学大学院文学研究科

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ご購入について
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