労働政策研究報告書 No.176
職務構造に関する研究Ⅱ
―5万人の就業者Web職業動向調査より、 現状、変化、能力、生活のデータ分析―

平成 27年5月29日

概要

研究の目的

個人が就職や転職を考える際、また、就職の支援や政策の検討において、職業の現状や変化に関して情報収集する必要があるが、これまで、幅広い職業に関して実際の就業者から、直接、大規模に、情報収集することはできなかった。最近、数百万人というWeb調査モニターを有する調査会社が出てきていることから、細かく職業を特定し、現状や変化に関して情報収集することが可能となってきている。当機構ではこのWeb調査の方法を活用し、これまで興味、価値観等比較的変化の少ない項目の情報収集を行ってきたが、今回は変化が大きいと考えられる項目、これまで情報収集してこなかった項目に関して情報収集した。具体的には、職業の現状や変化、求められる要件(能力)や職業の生活への影響等、体系的に情報収集し、これまでの情報収集と併せて、全体として、職業の状況を捉えようとした。

研究の方法

今回の調査では、厚生労働省編職業分類の職業細分類で職業を特定し、職業毎に偏りがないようデータを収集した。全体の収集数は2013年には26,586名、2014年には27,074名収集であり、2014年の回答者から2013年も回答した者(1,652名、3.1%)を除くと、2014年は25,422名となり、2年の合計では52,008名となる。これを厚生労働省編職業分類の職業細分類でみると、100名以上収集は192職業、50名以上収集が259職業、20名以上収集が365職業となっている。 

 調査項目としては、職業の増加減少等量的変化、職業の内容面の変化、職業の現状、職業面の満足度、現在の職業に必要な意識、行動を含めた能力、仕事の生活への影響、生活面の満足度、休日や余暇の過ごし方、現在の職業からの収入、勤務先、回答者属性、等々である。

主な事実発見

(1)各職業の仕事の状況

職業や仕事に関して、様々な立場から、仕事でのやりがい、仕事を通じての成長、職場での人間関係、等々が重要であり、このような要素が、職業の選択、そして定着や離職にも関係していると、しばしば言われてきた。ところがこのような面に関して、広く体系的に情報収集されたことはこれまでない。そこで、ここでは、このような面について、各職業の状況を幅広く捉えられる設問を用意し、データ収集した。

幅広く用意した設問を統計的に検討すると(因子分析)、「自律性・能力発揮・達成感・成長」、「良い人間関係・人や社会に役立つこと」、「キャリアアップ・賃金上昇」、「顧客やミスに気をつかうこと」という仕事の4つの要素にまとめることができた。この4つの要素を職種別にみると、専門的職業は「自律性・能力発揮・達成感・成長」と「良い人間関係・人や社会に役立つこと」が他に較べて最も高かった。しかしながら、専門的職業は「顧客やミスに気をつかうこと」も比較的高かった。「キャリアアップ・賃金上昇」は、研究者・技術者が他の職種と較べて高かった。

この4要素に勤め先や基本属性を加え、「継続希望」(「現在の職業をずっと続けていきたいと思う」)との関係をみると(回帰分析)、「良い人間関係・人や社会に役立つこと」、「自律性・能力発揮・達成感・成長」、「キャリアアップ・賃金上昇」、「年収」の順にプラスに影響していた(回帰分析の標準化回帰係数)。職場の良い人間関係や自分の仕事が人や社会に役立っているという実感が、その職業を続けていこうという気持ちには重要であり、次に、自律的な仕事で、能力発揮でき、達成感があり、仕事を通じて成長できること、そして、勤続によってキャリアアップし、賃金が上昇していくことが重要であり、これらは年収が高いことよりも重要であるという結果である。

「職業満足」(職業面の満足度を100点満点で評定)との関係では「良い人間関係・人や社会に役立つこと」、「自律性・能力発揮・達成感・成長」、「キャリアアップ・賃金上昇」の順にプラスの影響がみられた(回帰分析の標準化回帰係数)。「継続希望」同様、職場の良い人間関係や自分の仕事が人や社会に役立っているという実感、次に、自律的な仕事で、能力発揮でき、達成感があり、仕事を通じて成長できること、そして、勤続によってキャリアアップし、賃金が上昇していくことが、職業の満足に影響している。

(2) 職業の人数等量的変化と内容面の変化

職業の世界は常に変化している。仕事が忙しくなり、雇用が増加している職業があるかもしれないし、逆に、仕事が無くなり、雇用も減少している職業もある。また、同じ職業であっても、仕事内容が大きく変化していることも考えられる。同じ職業名ではあるが、仕事が高度化したり、IT化が進んだり、等々は生じていると思われる。そこでここでは、職業の人数等量的変化と仕事の内容面の変化を幅広くとらえる項目を用意し、データを収集した。

仕事の内容面の変化については、その変化をどのようにまとめられるか検討した(因子分析)。その結果、「高度化」(仕事が高度化する)、「語学力」(外国語の必要性が高まる)、「成果主義」(成果主義が進む)、「顧客や同業者との関係」(顧客や同業者との関係が重要になる)、「チームワーク」(チームワークが重要になる)、「機械化・自動化」(機械化・自動化が進む)の6要素にまとめることができた(図表1)。この6つは相互に独立した動きであり、すべての職業がこのような方向に変化しているわけではないが、職種別にみると、専門的職業において、「高度化」し、「顧客や同業者との関係」、「チームワーク」が重要になっていた。研究者・技術者では「高度化」し、「語学力」が重要となり、「成果主義」が進み、「チームワーク」が重要になっていた。販売の職業では「成果主義」が進み、「顧客や同業者との関係」が重要になっていた。

(3) 意識・行動面を含めた仕事に必要な能力等

職業にはそれぞれ、意識、行動面を含め、必要な能力等、要件があるはずである。ところが、これまで、必要なスキルや知識に関しては調査を行ってきたが(労働政策研究・研修機構,2012、他)、意識、行動面を含め幅広く必要な要件を調べたことはない。各職業に必要な能力等の情報は個人にとっても必要であり、社会としても必要な情報である。また、各職業に必要な要件は変化している可能性もあり、必要な要件を押さえておく必要がある。

必要な能力等をどのようにまとめられるか、統計的に検討すると(因子分析)、「ねばり強さ・責任感」、「ビジネス創造・革新性」、「口頭スキル・説明力」、「身だしなみ・社会常識」、「機械操作・コンピュータスキル」の相互に独立した5つにまとめることができた(図表2)。年収が高い者、職位が高い者は、この5つの得点が高かった。また、転職による年収の変化に関しても、転職によって3割以上収入が増加した者はこの5つの得点がいずれも高かった。つまり、この5つは相互に独立していながら、広く仕事に必要なものということができ、収入や職位とも関係するということができる。

必要な能力等は職種によっても異なるはずである。職業中分類別に必要な能力等も示している。

(4) 職業の生活面への影響と余暇

それぞれの職業は生活面へ影響していると考えられる。職業の性質上、勤務が夜間になったり、不規則になったり、等々、生活面への影響があるはずである。また、職業が生活面に影響することによって、余暇の過ごし方にも違いがでてくることも考えられる。職業を選択することが生活や余暇に影響することは、就職を考えている若年や転職を考えている者に必要な情報である。この職業の生活面への影響と職業毎の余暇の過ごし方に関しても、これまで、幅広く、体系的に、実際の就業者から情報収集されたことはない。そこで、ここでは、生活面への影響、余暇の過ごし方に関して幅広く設問を用意しデータを収集した。

生活面への影響がどのようにまとめられるか統計的に検討したところ(因子分析)、「疲れ・心配」、「不規則・夜間勤務」、「休日も仕事」の3つにまとめられた。「不規則・夜間勤務」は、業種別では宿泊業、運輸業に顕著にみられ、職種別では輸送・機械運転の職業に強くみられた。

生活満足(生活を100点満点で評定)との関係では、「疲れ・心配」、「不規則・夜間勤務」、「休日も仕事」の順にマイナスに影響していた(回帰分析の標準化回帰係数)。仕事で疲れ、そのことから心身への影響が心配になると、それが最も生活満足を低下させることになる。不規則な勤務や夜間勤務、休日も仕事であったり、休日にも仕事が頭を離れないような状況も生活満足を低下させるという結果である。

余暇の過ごし方に関しては、「家族と過ごす」、「旅行・行楽」、「友人と過ごす」では職種による違いがみられた。余暇の過ごし方は個人の生活意識や価値観などによっても異なると考えられるが、どのような職業に就くかということによっても、違いがあることになる。

図表1 内容面の変化に関する分析結果(主成分抽出、直交回転、52,008名)

図表1画像

図表2 必要な能力の分析結果(主成分抽出、直交回転、27,074名)

図表2画像

政策的インプリケーション

みてきたように、職業の状況とその変化等を具体的に把握し、また、その関係もみている。職業の現状、また、それがどのように満足や継続希望に関係しているか、職業の世界がどのように変化しているか、意識、行動面を含めた仕事に必要な能力、生活の状況、そして生活の状況がどのように満足に関係しているか、等々、政策的にも示唆のある結果と考えている。

政策への貢献

職業の状況とその変化は、政策の検討において、基本的な情報の一つといえる。漠然としたイメージや印象として語られることが多いが、実際の就業者から、大規模な情報収集を行った本調査研究の結果は、様々な判断の根拠の一つになりうるものと考えている。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「就職・採用実現のためのマッチングとコンサルティングに関する調査研究 」

研究期間

平成24年度~26年度

執筆担当者

松本 真作
労働政策研究・研修機構 特任研究員

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.133)。

関連の研究成果

 

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