労働政策研究報告書 No.152
働き方と職業能力・キャリア形成
―「第2回働くことと学ぶことについての調査」結果より―

平成25年3月25日

概要

研究の目的

非正社員が増加する中での職業能力開発・形成およびキャリア形成の実態と課題を明らかにすることを目的とする。2008年度の「第1回働くことと学ぶことについての調査」の後に非正規労働問題が深刻化し、その生活基盤の脆弱さがあらわになったことを踏まえ、第2回調査を実施し、リーマンショック後の動向および家族形成や主たる生計維持者との関係も含めて検討する。

研究の方法

  • アンケート調査(「第2回働くことと学ぶことについての調査」)

    全国19の政令指定都市、及び東京23区部に居住する25歳以上45歳未満の男女就業者および非就業者(学生を除く)を母集団とし、標本数4,000としたエリアサンプリング法で実施した。具体的には、国勢調査に基づき、対象地域ごとに対象年齢の人口に比例した確率を与えて、200地点を抽出し、性・年齢区分は20歳代後半、30歳代前半、30歳代後半、40歳代前半の男女8区分とし、就業者比率、非就業者比率(学生をのぞく)に合わせて地点ごとに回収数を設定した。実際の回収数は4,076。

    調査時期は、2011年10月末~2012年1月末。

  • 研究会の開催

主な事実発見

  • 本調査ではOJTを多角的に把握することを試みたが、非正社員のうち、日々の仕事の中で指導を受けたり、上司や同僚の仕事のやり方を見て学んだり、担当する仕事のレベルや範囲の拡大を経験したりした者は、正社員に比べて少ない。
  • 非正社員において、担当する仕事の幅が広がったり、仕事の水準が高まったりといった仕事の変化や、上司や同僚からの指導や助言といった仕事を通じた能力開発(OJT)の機会が充実している場合、研修等のOff-JTや自己啓発も充実していることが多かった。

図表1 昨年度1年間の仕事能力や知識を高めることにつながる職場での経験

図表1画像

注*1:それぞれの設問に「よくあった」「ときどきあった」と答えた者の比率(設問の選択肢はほかに「あまりなかった」「まったくなかった」「そういう人はいなかった」「マニュアルはなかった」)

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  • 能力開発機会は勤務先企業の従業員規模のよって異なるが、規模が大きい企業の非正社員は規模の小さな企業の正社員と比べ能力開発機会が小さいとはいえないが、規模の小さな企業の非正社員は能力開発の機会がとくに小さい傾向にあった。
  • 専門性や技能を活かしたいなど仕事内容を重視した働き方を希望する非正社員の場合は、能力開発の機会が多い傾向にあったが、こうした層は、未経験の仕事を積極的に担当したいとする仕事への姿勢や技能向上への高い意欲も高く、こうした姿勢に応じて、仕事の幅の拡大や水準の向上、指導・助言が与えられていると考えられる。他方、今後の働き方について明確な希望を持たない非正社員では、未経験の仕事を担当したいとする姿勢や技能向上への意欲が低く、仕事の変化や指導・助言の機会が限定される傾向があった。後者は、34歳以下の男性非正社員で最も多かった。

図表2 非正社員におけるキャリア志向別、能力開発機会・技能向上経験

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注1)2010年4月~2011年3月までの期間に、現在の勤務先で勤務経験がある回答者のみを集計。したがって、集計対象の勤続期間は7か月以上である(調査時点は2011年10月末現在)。

2)非正社員としては「パート」「アルバイト」「契約社員」「嘱託」「臨時社員」「派遣社員」を集計。

3)「会社幹部もしくは管理職としてマネジメントの仕事につきたい」「専門性や技能を活かせるような仕事につきたい」を「仕事内容重視志向」、「社内での地位や仕事内容にこだわらず仕事をしていきたい」を「就業重視志向」、「家庭生活や社会貢献などを優先させながら仕事をしたい」を「生活重視志向」、「なりゆきにまかせたい」「わからない」を「成り行き志向・未確定」とした。「仕事をやめたい」および無回答の票は集計から外している。

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  • OJT経験が将来の可能性の拡大(の認識)に繋がるかについて検討すると、女性非正社員では有意な関係がみられなかったが、男性非正社員では、上司や同僚の仕事のやり方を見て学ぶことがプラスの影響を与えていた。
  • 非正社員のうち女性の有配偶者以外、すなわち男性および無配偶の女性非正社員は、将来に明るい見通しを持つ者が少なく、安定した雇用を望む一方、今の仕事が今後のキャリアにつながるとは考えておらず、働き方を変えるための能力開発に意欲を持つ傾向がみられた。(以上1章、5章)
  • 離学(=卒業と中途退学)後5年間のキャリアに注目すると、2回の転職経験の後、正社員になる類型が最も積極的に自己啓発を行っており、特に女性では、自己啓発の頻度がこの類型と非正社員に長期にとどまる類型を分ける要因となっていた。(2章)
  • 非正社員から正社員への移行はリーマンショック以降減少傾向にあるが、特に年齢の高い層での移行が減少した。また前回調査では、内部登用による移行は20歳代後半以降でも比較的機会があったが、高い年齢層で減少傾向がみられた。(3章)
  • 中途採用において正社員として採用される確率は、初職が非正規である場合低かった。一方、中途採用後の定着状況をみると、女性では初職の雇用形態との間に有意な関係はないが、男性では初職を早期に離職していたり、初職非正規であった者より、初職正社員でかつ1年以上の初職継続者のほうが中途採用後の離職率は高かった。中途採用において、企業は個人の定着性向を適切に識別することができていない可能性が高い。(4章)
  • 女性の就業継続意識や能力向上意欲は、正社員、非正社員とも、職場における能力開発機会の均等化と両立支援の整備の両者が実現できている職場で高い。均等のみが実現できている職場では仕事意欲が相対的に低く、両立のみが実現できている職場では能力向上意欲が相対的に低い。(6章)
  • 女性の賃金はOff-JTや自己啓発の実施回数が増えると増加する傾向があり、就業中断による賃金へのマイナスの影響は、これらの実施によって小さくなった。一方、男女間賃金格差はOff-JTや自己啓発の実施をコントロールしても埋まらなかった。男女間には、仕事を通じた能力開発(OJT)の機会にも大きな差があり、とりわけ有配偶女性で著しかった。仕事の範囲やレベル、仕事上の責任が変化しない仕事に就いている女性が多いことから、企業は訓練、とくに長期育成を目指した訓練の実施に消極的になっていることが示唆され、さらにこのことが男女間の賃金格差につながっている可能性が高い。(7章)

政策的インプリケーション

  • 非正社員はOJTを含め職業能力開発の機会が限られている。能力開発機会の拡大のためには、企業内において基幹的な業務への職域拡大を促進することが考えられるが、それは同時に非正社員側の意欲や姿勢にも左右される。企業の非正社員への雇用管理・キャリア管理を改善する施策として、具体的にはジョブ・カード制度のキャリアアップ型等を用いた正社員への登用の促進、非正社員へのキャリア・カウンセリング機会の提供、非正社員と正社員の間の均衡・均等待遇化の促進、非正社員の職域拡大にキャリア形成助成金などを使いやすくする施策などが考えられる。
  • 特に能力開発機会が少ない中小規模企業向けに、これらの政策的支援を活用するために必要な事務処理などを援助する、中間的な支援の仕組みも考慮されるべきであろう。
  • 外部労働市場を通じてのキャリア形成を目指す非正社員も少なくないことから、企業外での能力開発機会の充実も重要である。男性非正社員では、働き方を変えるための自己啓発に比較的長期で経費負担の大きい教育機会を利用する傾向もあった。一定水準の専門性や技能水準を担保するために、高等教育機関などの活用や職業資格取得と結びつけるなど、長期的な訓練で、かつ、企業現場での実践的な学びを核とすることにより企業からの評価を高めるとともに、個人の経費負担も抑えられるような職業訓練システムの設計も、ひとつの方向として考えられる。
  • 女性の能力開発機会も限られている。男女間賃金格差には、就業経験年数ばかりでなくOJTを含む能力開発機会の格差も強く影響していると推測される。中でも有配偶女性の機会が乏しいが、その背後には、深く根付いた性別役割分業観があると推測される。こうした現状を前提にすれば、両立支援施策と併せて、女性の能力開発を促進する均等施策を推進する必要がある。
  • 女性は企業内での能力開発機会が限定されがちであるため、自己啓発のしやすい環境整備が重要である。キャリア形成助成金の認定コースを女性の視点から見直し、より女性の関心が高い分野への拡充を図ること、また、雇用保険加入期間が短かったり、未加入の就業者に対する自己啓発支援制度の整備も期待される。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「経済・社会の変化に応じた職業能力開発システムのあり方についての調査研究」

サブテーマ「能力開発施策のあり方に関する調査研究」

研究期間

平成24年度

執筆担当者

小杉 礼子
労働政策研究・研修機構 統括研究員
香川 めい
立教大学社会学部 助教
山本 雄三
青山学院大学経済学部 助手
(前 労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員)
佐野 嘉秀
法政大学経営学部 准教授
佐藤 博樹
東京大学大学院情報学環 教授 (労働政策研究・研修機構 特別研究員)
原 ひろみ
日本女子大学家政学部 准教授
(前 労働政策研究・研修機構 副主任研究員)

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.55)。

関連の研究成果

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