労働政策研究報告書No.142
高齢者の社会貢献活動に関する研究
―定量的分析と定性的分析から―

平成24年3月30日

概要

研究の目的と方法

本報告書では高齢者の社会貢献活動の実態を、アンケート調査(第Ⅰ部)およびヒアリング調査(第Ⅱ部)から明らかにする。

第Ⅰ部の分析のフレームワークは図表のように示される。矢印 (1)では、社会貢献活動への参加はどのような要因で決定されるかを分析する(第2~6章)。特に現在・過去の就業状況、賃金や所得と社会貢献活動の関係に注目している。矢印 (2)は、社会貢献活動への参加がどのような影響を及ぼすかを分析する(第7、8章)。社会貢献活動が健康状況と生活満足度に及ぼす影響を検証する。

第Ⅱ部(9~12章)では、ヒアリング調査から日本の3地点における社会貢献活動に注目する。調査対象は、急速に高齢化が進んできている首都圏近郊と地方都市部および町村部の自治会組織やNPOなどの地域活動について調査を行った。

図表 第Ⅰ部の高齢者の社会貢献活動に関わる分析フレームワーク

図表 第Ⅰ部の高齢者の社会貢献活動に関わる分析フレームワーク/労働政策研究報告書No.142

主な事実発見

第Ⅰ部の定量的分析からは、次のようなことが明らかになった。

社会貢献活動に取り組む高齢者は、子供がいる、学歴が高い、貯蓄が多い、月給が低い、健康状態が良好であるという傾向がみられる。55~59歳で取り組みは減るが60歳から増加に転ずる。大都市よりも町村部に住む人ほど社会貢献活動に取り組む傾向にある。(第2章)

過去の職業キャリアから社会貢献活動参加をみると、55歳時点の仕事内容が事務職やジェネラリストタイプのキャリアを歩んだ人の方が、管理職やスペシャリストタイプの人に比べてボランティア活動専念する傾向がみられる。(第3章)

就業と社会貢献活動の関係をみると、就業と共に充実した社会貢献活動を展開している少数層と、就業一辺倒で活動には関心の低い多数層に大別できる。前者は若い頃から長きにわたって様々な活動に取り組んでおり、就業しながら社会貢献活動も手掛けて行くという「補完関係」にある。定年後から活動に携わる場合、全般的に「アクティブ度」は下がり、密度の薄い取り組みになる。無給・無償ボランティアが多くなるのはそのためだと考えられる。(第5章)

社会貢献活動に取り組む高齢者の比率が高い地域は、平均年齢が高い、学歴が高い、健康状態が良い、戸建住宅を所有している、社会教育費支出が高い傾向にある。持家の場合、長期にわたって居住することを踏まえて、地域をよりよくしようという思いやコミットメントの高さが背景にあることが考えられる。(第6章)

男性高齢者の社会貢献活動と健康状態の関係性について、統計的有意は観察されなかったが、健康状態の悪さが社会貢献活動への参加確率に与える負の影響(限界効果)は、就業確率に与える負の影響よりもかなり小さいことが明らかになった。(第7章)

社会貢献活動に参加している高齢者の生活満足度は、非参加者よりも高い傾向にある。特に世帯所得が低い高齢者ほど、社会貢献活動参加による生活満足度へのプラスの効果が大きい。男性はターニングポイントが60歳代前半であり、社会貢献活動への参加が退職による人的・社会的資源の喪失を止める役割を担っていると考えられる。(第8章)

第Ⅱ部の定性的調査からは次のようなことが明らかになった。

大都市郊外は高度経済成長期に流入した団塊世代を中心として急激な高齢化がみられ、特に男性高齢者に関しては地域とのつながりが薄く、活動へのマッチングの機会が重要である。一方、地方町村部では1960~70年代に人口が流出し過疎化が深刻となり、町の復活をかけて地域活動が盛んになっていった。現在はさらなる高齢化に直面しており、地縁による地域活動から、地縁に頼らない活動に変化することが求められている。また、三島市のように新しい形態のNPO活動が根付いている地域をみると、地域の有力者がコア層となって働き、地縁に頼らずさまざまな支援層を巻き込んで活動を行っていることがわかる。(9~12章)

政策的含意

高齢者の社会貢献活動は、実態として60歳を過ぎてから活動する者が多いが、高齢期の生活をいきいきとアクティブに過ごしている者をみると、定年後に就業の代替活動として始めるのではなく、就業している時から補完的に活動し、リタイアを機に活動が深まっていくという形が望ましい。より早い段階での社会貢献活動への参加は、高齢期の生活満足度を高めるものであるといえよう。

また、過去の職業キャリアがあまり社会貢献活動に活かされていないという現実もある。特に、都市部の男性高齢者においては、地方に比べて地域性が希薄であるために、社会貢献活動のきっかけさえ掴めない状況にある。元気な高齢者の知恵や経験を活かすためにも、NPO等の団体とボランティアのマッチング事業は重要である。

本文

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研究期間

平成23年度

執筆担当者

小野晶子
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
馬欣欣
労働政策研究・研修機構アシスタントフェロー
浦坂純子
同志社大学社会学部教授
石田 祐
国立明石工業高等専門学校専任講師
梶谷真也
明星大学経済学部准教授
森山智彦
同志社大学社会学部助教
米澤 旦
東京大学大学院人文社会系研究科
社会学専門分野博士課程後期

入手方法等

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