労働政策研究報告書 No.140
シングルマザーの就業と経済的自立

平成24年1月17日

概要

研究の目的と方法

日本のシングルマザーにとって、働いても貧困が解消されない、非正規就業者を中心に慢性的貧困に陥りやすいなど、経済的自立には多くの壁がたちはだかっている。

こうした状況を踏まえ、本報告書は、アンケート調査の二次分析を中心に、母子世帯の経済的自立状況とその必要条件について総合的に検討している。

主な事実発見

経済的自立を果たせたグループと果たせなかったグループとの比較(第2章、第4-5章、第8章)を通じて分かったことは、比較的高い人的資本(短大以上の学歴、社会経験、専門資格等)や身体的資本(年齢の若さ、健康状態等)を持つシングルマザーは、稼働能力が高いため、経済的に自立しやすい。また、同等な稼働能力を持つシングルマザーの場合には、子育て負担の低い母親は経済的に自立しやすい(図表)。したがって、母子世帯の経済的自立を促進するためには、シングルマザーの稼働能力の向上と子育て負担の軽減に向けての支援が必要不可欠である。

では、シングルマザーの稼働能力を向上させるためには、具体的にどのように支援すれば良いのであろうか。本報告書は、職業訓練、専門資格の取得、正規就業のキャリアラダーの構築、ジョブマッチング効率の改善など様々な角度から稼働能力の向上策を論じようとしている(第3章~第9章)。これらの実証研究より、看護師等の専門資格を持つ者や(第3章、第4章、第8章)、就業履歴において正社員就業を継続してきた者(第5章)、国の職業能力開発支援を利用した者(第9章)等は、その比較相手と比べて平均的に高い稼働能力を持っていることが分かった。こうした就業支援を充実・拡大することによって、より多くのシングルマザーが稼働能力を高めて、経済的自立に向けて一歩前進できるものと考えられる。

しかしながら、母親の就業所得の向上に頼って経済的自立を目指すことも、一定の限界がある。例えば、高年齢、低学歴または疾病等の関係で専門資格を目指すような職業訓練を受けることができないシングルマザーが大勢いる。また、多くのシングルマザー(とくに低年齢児の母親)が、子どもとの時間を大切にしたいため、フルタイム・正社員就業をそもそも希望していない(第4章)。さらに、シングルマザーはそうでない女性に比べ、家事時間と睡眠時間が既に少なく、勤労時間が長くなっている(第11章)。

図表 経済的自立度の決定要因

図表 経済的自立度の決定要因/労働政策研究報告書No.140

注:(1)第2章第2-3-2表より作成。

(2)「統計的に有意」である説明変数は星印が付いている。 *** P<0.01、**P<0.05、*P<0.1

政策的含意

シングルマザーに必要なのは、「企業戦士型経済的自立」というよりも「ワーク・ライフ・バランス(WLB)型経済的自立」である。

「WLB型経済的自立」を実現するためには、母子世帯の母の稼働能力を高めるような就業支援が今後も必要である。また、離別父親にきっちり養育費を支払ってもらい、国が社会保障(児童扶養手当等)や税金での所得移転を通じて母子世帯に引き続き経済支援を行うことも重要である。離別父親に養育費の追及を強めることや(第10章)、児童扶養手当の減額議論により慎重な姿勢(第2章、第5章)が、いま、行政側に求められているのではなかろうか。

本文

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研究期間

平成21~23年度

執筆担当者

周 燕飛
JILPT 副主任研究員
マッケンジー・コリン
慶應義塾大学経済学部教授
馬 欣欣
JILPTアシスタントフェロー
大石 亜希子
千葉大学法経学部教授
阿部 彩
国立社会保障・人口問題研究所部長

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