労働政策研究報告書 No.133
個別労働関係紛争処理事案の内容分析Ⅱ
―非解雇型雇用終了、メンタルヘルス、配置転換・在籍出向、試用期間及び労働者に対する損害賠償請求事案―

平成23年3月30日

概要

研究の目的と方法

今日、労働組合組織率は2割を下回り、従業員100人未満の中小企業ではわずか1.1%に過ぎない。また、非正規労働者を組合員としない日本の企業別組合の慣習の下で、組合のある企業においても組織されない非正規労働者が増大してきた。このような中で2001年10月から個別労働関係紛争解決法が施行され、全国の労働局において、個別労働紛争に関する相談、助言指導及びあっせんが行われている。しかしながら、これら個別紛争処理の内容については、1年に1回、厚生労働省から「個別労働紛争解決制度施行状況」として、大まかな統計的データが公表されるのみで、その具体的な紛争や紛争処理の姿は明らかにされてこなかった。

そこで、労働政策研究・研修機構の労使関係・労使コミュニケーション部門では、2009年度から2011年度までの3年間のプロジェクト研究として、労働局で取り扱った個別労働関係紛争処理事案を包括的に分析の対象とし、現代日本の労働社会において現に職場に生起している紛争とその処理の実態を、統計的かつ内容的に分析している。第2年度においては、非解雇型雇用終了事案、メンタルヘルス事案、配置転換・在籍出向事案、試用期間関係事案および労働者に対する損害賠償請求事案を分析対象として研究を行い、報告書として取りまとめた。

主な事実発見

退職勧奨事案と自己都合退職事案に加え、あっせん処理票上においては雇用終了が申請内容とされていないが実質的には使用者側の何らかの行為によって労働者が退職に追い込まれたことを主張している事案を含めて「非解雇型雇用終了事案」と一括すると、175件中、労働条件引下げ、雇用上の地位変更、配置転換・出向等を理由とする労働条件型が64件、いじめ・嫌がらせ、職場トラブル、ボイスへの制裁等を理由とする職場環境型が123件である。これらと解雇型雇用終了事案599件(雇止めを含む)とを比較すると、就労形態では正社員が退職勧奨を受ける可能性が高く、直用非正規は自己都合退職の可能性が高く、派遣と試用期間は解雇型が多いという興味深い現象がみられる。また、合意成立状況では退職勧奨が6割以上不参加打切りであるのに対して、自己都合退職と潜在的準解雇では不参加が少なく合意成立が多い。

全あっせん事案のうち労働者側に何らかのメンタルヘルス上の問題があるとみられるのは69件あり、全事案では半数に過ぎない正社員が7割強と極めて多く、正社員が非正規労働者に比べて高い精神的圧迫を受けていることを窺わせる。また企業規模別にみると、相対的に大企業が多く、中小企業が少ない。

配置転換・出向事案は58件あり、就労形態別に見ると、正社員が3分の2を占めている一方、直用非正規も27.6%と全事案に比べて大差なく、直用非正規も配置転換をめぐる紛争が多発している点は特筆すべき点である。また相対的に大企業や労働組合のある企業でも発生している。また、合意率は低い。

試用期間における紛争は75件あり、全体の7%を占め、裁判例に比べてかなり多い。これは、全事案に比べても小規模企業の割合が高く、こういった企業では大企業に比べて採用手続が簡素であるため、試用期間の認識が異なることが原因とも考えられる。

使用者が労働者に対して損害賠償を請求した事案は19件で、就業中の交通事故で生じた修理代を請求するものが多いが、労働者の勤務態度に対する制裁的な意図で損害賠償を求めるものもある。

政策的含意

非解雇型雇用終了事案においては、裁判のように権利義務関係を確定するための判定的な解決システムでは難しい事案をそれなりに解決できるという意味で、あっせんのような調整的解決システムのメリットを示しているとも言える。とりわけ、いじめ・嫌がらせには主観的な面があり、客観的にその存在を立証することがかなり難しいので、裁判で争うことには障壁があるが、あっせん事案では、事実を否定している使用者も「事実関係の真偽を問わず」一定の解決金を支払うことが多い。これは判定的でなく調整的な解決システムであるから可能なことである。

図表 雇用終了形態と就労形態

図表 雇用終了形態と就労形態/労働政策研究報告書No.133

本文

研究期間

平成22年度

執筆担当者

濱口桂一郎
労働政策研究・研修機構 統括研究員
鈴木 誠
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー
細川 良
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員

入手方法等

入手方法

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