労働政策研究報告書No.131
中小製造業(機械・金属関連産業)における人材育成・
能力開発

平成23年3月31日

概要

研究の目的と方法

  • 中小企業では、様々な環境変化に適応し経営の維持発展を図っていく上で、経営者も含めた就業者個々人のスキル・ノウハウのあり様がより大きな比重を占めている。しかしながら、実際には時間的・資源的制約や、ノウハウの不足などから中小企業における人材育成・能力開発は不十分なものになりがちで、中小企業の現状や今後の活動の方向性に即した政策的支援の必要性が高い。
  • 本報告書では、中小企業分野のうち機械・金属関連産業に属する企業とそこに勤務する従業員を対象に2010年に実施した、人材育成・能力開発に関するアンケート調査を様々な観点から分析し、中小製造業分野における人材育成・能力開発に対する政策的支援の方向性について検討を試みた。

    なお、調査・分析の枠組みは、統一的な観点のもと、中小企業分野の業種間での異同を明らかにしていく目的から、2009~2010年度にかけて行った中小サービス業の人材育成・能力開発に関する調査研究と同様のものとしている(労働政策研究報告書No.118 『中小サービス業における人材育成・能力開発』参照)。

主な事実発見

  • 中小機械・金属関連産業の企業およびそこに勤務する従業員の間では、効果的な人材育成/キャリア形成のあり方として、一社での長期勤続による育成・能力開発(「内部労働市場型」)を志向する意見が大きな比重(企業の82.5%、従業員の72.1%)を占め、勤務先は変えながらも同じ仕事を継続することでの育成・能力開発(「職能別労働市場型」)を志向する意見は少ない。職能別労働市場型を志向する意見は、社歴が新しく、小規模な、職務階層が少ないと言った内部労働市場の形成が難しい企業において見られがちである。
  • 従業員に業務独占的資格とは別に、業務命令で従業員に取得させている資格があるという企業や、能力開発や企業内でのキャリア形成に資するために取得を奨励している資格があるという企業は、職場での教育訓練活動もOff-JT、自己啓発支援もより積極的に進めている(図表1)。また、サービス業の分析において見出された、資格を活用している企業ほど人材の確保がうまくできているという傾向は、機械・金属関連産業では見られない。
  • 従業員に求められる仕事上の能力を明確にしている企業ほど、将来必要な能力について配慮して方針を定めており、また、教育訓練の実施においては、指導者を決め、計画にそって、育成・能力開発(OJT)を積極的に展開している。ただ、サービス業に比べると、従業員に求められる能力を明確にする傾向が機械・金属関連産業ではやや弱い。
  • 企業外の人材育成・教育訓練の活用状況を分析してみると、企業内においてOJTを積極的に展開している企業ほど、従業員の教育訓練において経営者・業界団体を活用している。また、セミナー・研修会の開催や産学連携といった人材育成・能力開発に関わる取組みが所在地域においてより盛んに行われているという企業、およびそうした企業に勤務する従業員ほど、人材育成・教育訓練に関わる様々な取組みに取組む傾向が強い(図表2)。

図表1 企業における資格の活用と従業員を対象とした教育訓練の取り組み

図表1 企業における資格の活用と従業員を対象とした教育訓練の取り組み/労働政策研究報告書No.131

図表2 企業所在地における人材育成・能力開発における取組みと従業員の能力開発行動

図表2 企業所在地における人材育成・能力開発における取組みと従業員の能力開発行動/労働政策研究報告書No.131

政策的含意

  • サービス業と比べて、機械・金属関連産業では、人材育成・能力開発において企業内でのOJTの占める比重が大きい。このOJTを促進する役割を従業員に求められる能力の明確化が果たしているが、サービス業の場合と異なり既存の職業資格の活用と明確化の程度との関連は弱い。したがって機械・金属関連産業の分野において従業員に求められる能力の明確化を進めようとした場合、単に職業資格の整備・充実を図るだけではなく、企業や業界の実状を踏まえた支援(具体的には地域の経営者団体、業界団体、あるいは取引先企業などによるコンサルティングなど)が必要と考えられる。
  • ただ、中小の機械・金属関連企業の中には内部育成をしようにも、困難が多く思うにまかせない企業が少なくないため、この産業分野においても、特定企業を超えた公共的な教育訓練の体制、あるいは社会的職業能力評価制度を整備していく必要性は低くない。
  • 企業の所在地域においてどの程度人材育成・能力開発に関わる取組みが進められているかという点は、実際に企業や従業員の能力開発活動に影響を与えている。地域での効果的な取組みやその取組みを進める体制についての検討を促すために、製造業の集積地域などで活動する主体(地方の経営者団体、大学・高校などの公共教育機関、産業振興や人材育成などを目的としたNPOや任意団体など)を主な対象とした支援策が必要となろう。

政策への貢献

2011年に策定される予定の「第9次職業能力開発基本計画」の立案などにあたり活用される予定。

本文

研究期間

平成22年度

執筆担当者

藤本 真
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
佐藤 厚
法政大学キャリアデザイン学部教授
労働政策研究・研修機構 特別研究員
大木栄一
雇用能力開発機構
職業能力開発総合大学校准教授
藤波美帆
高齢・障害者雇用支援機構常勤嘱託
姫野宏輔
労働政策研究・研修機構 臨時協力研究員
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
立道信吾
日本大学文理学部教授
小杉礼子
労働政策研究・研修機構 統括研究員
高見具広
日本学術振興会特別研究員
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
金井 郁
埼玉大学経済学部専任講師

入手方法等

入手方法

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