労働政策研究報告書No.98
企業内紛争処理システムの整備支援に関する調査研究

平成 20 年 7月 28日

概要

近年、個別的労働紛争が著しく増えている要因には様々なものが考えられますが、労使間の問題が紛争という形で外部化していると見れば、企業内の紛争処理システムが有効に機能していないという側面も要因の一つとして考えられます。このような問題意識の下、当機構では、「企業内紛争処理システムの整備支援に関する調査研究」を 2006~ 07年度に実施し、その成果を報告書に取りまとめました。

本研究では、文献調査、アンケート調査、ヒアリング調査、諸外国の現地調査を実施し、労働法学や人事管理論、紛争管理論や心理学の視点など複数領域にまたがる学際的なアプローチから研究を進めてきました。本報告書は、2年間の研究成果を取りまとめたものです。

各調査の結結果の概要は次のとおりです。

(1)アンケート調査結果から(対象:企業・従業員・労働組合)

企業には従業員の苦情処理を専門とする制度と、副次的にそのような役割を担っている仕組みがあり、複線的な仕組みによって従業員の苦情・不満の把握や解決が図られている。

企業が重視している「管理職への相談」については、約7割の企業が部下の苦情・不満の相談にのることを管理職の職務としており、2割強が「評価項目」としているが、実際に役割を負わされる管理職のほぼ半数が「自分の立場で解決できるかわからない」と感じている、また、上司に苦情や不満の相談を実際にしたことがある従業員は約6割で、そのうちの約6割が結果に満足している。

(2)ヒアリング調査結果から(対象:11社の企業、労働組合等)

各企業・労組等は、各種窓口の設置など多様な取組みが一定の機能を果たしていると認識しているが、信頼性・簡便性をより高めるべきと考えている。また、上司の役割は労使双方から重視されているが、多忙等の理由でその役割を果たしにくくなっていることも認識されている。労使協議や人事評価の納得度を高めるための面接など、未然防止の取組も重要といえる。

(3)諸外国からの示唆

現地調査の対象国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス)を、企業内紛争処理システムの役割が大きい国(米英)、従業員代表の役割が大きい国(独仏)に大別し、その特徴を分析した。企業内紛争の対応を考える上では、事後解決のみならず予防等も視野に入れて「紛争処理」を広く捉えること、システム整備にあたってはニーズやインセンティブ(企業内で紛争を解決することのメリット等)が重要な要因となること等、示唆となり得る点が明らかになった。

本報告書では最後に、企業内紛争処理システムには簡易性、迅速性、透明性および信頼性が担保され、当事者間の自主的な合意に基づき解決できるシステムであることが望ましいとし、また、システムの担当者には、紛争解決についての一般的スキルに加え、労働紛争の特質に即したスキルが必要となるとしています。そして、行政に対し、企業が自主的に有効なシステム運営を行えるよう、各種媒体やセミナー等を通じた情報提供等による支援を提言しています。

本文

研究期間

平成 18年度~平成 19年度

執筆担当者

入江 秀晃
元三菱総合研究所研究員・早稲田大学紛争交渉研究所客員研究員
奥村 哲史
名古屋市立大学大学院経済学研究科教授
北浦 正行
(財)社会経済生産性本部事務局次長
木原 亜紀生
労働政策研究・研修機構(JILPT)副統括研究員
郡司 正人
労働政策研究・研修機構(JILPT)主任調査員
鈴木 誠
労働政策研究・研修機構(JILPT)アシスタント・フェロー
田口 和雄
高千穂大学経営学部准教授
土屋 直樹
武蔵大学経済学部准教授
内藤 忍
労働政策研究・研修機構(JILPT)研究員
野村 かすみ
労働政策研究・研修機構(JILPT)主任調査員
山川 隆一
慶應義塾大学大学院法務研究科教授
山崎 憲
労働政策研究・研修機構(JILPT)副主任調査員

入手方法等

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