ディスカッションペーパー 21-11
日本版O-NETの数値情報を使用した応用研究の可能性:
タスクのトレンド分析を一例として

2021年3月31日

概要

研究の目的

本研究の目的は、米国O*NET等の職業に関する数値情報を使用した先行研究のレビューを行うとともに、日本の労働市場におけるタスクの分布の現状及びそのトレンドについて把握することにより、厚生労働省により2020年3月から公開されている職業情報提供サイト(日本版O-NET、以下「日本版O-NET」という。)の数値情報を使用した応用研究の可能性を示すことである。

研究の方法

  • 米国O*NET等の数値情報を使用した先行研究のレビュー
  • 日本版O-NETの数値情報と国勢調査の集計データ(1990年~2015年)を用いた二次分析

主な事実発見

日本版O-NETと国勢調査の職業マッチングデータを使用して、Acemoglu and Autor (2011)の定義に基づき、「非定型分析タスク」「非定型相互タスク」「定型認識タスク」「定型手仕事タスク」「非定型手仕事タスク」の5つのタスクに分類し、1990年から2015年にかけてのタスクのトレンド分析をした結果、次の3点が明らかになった。

第1に、2005年以降の就業者におけるタスクの分布をみると、高度な知的スキルを必要とする非定型分析・相互タスクが増加している一方で、身体的作業を行う定型手仕事・非定型手仕事タスクは減少している。また、2000年頃まで増加傾向が見られていた定型認識タスクは2005年以降横ばいになっている(図表1)。

第2に、性別や年齢、就業形態などの属性によりタスクの分布のトレンドは異なる。性別にみると、1990年以降の女性の非定型分析・相互タスクの増加は一貫して男性より大きく、男女差が縮小している(図表2)。年齢別にみると、1995年頃から2005年頃にかけて、氷河期世代が含まれる25~34歳の若年男性の非定型分析・相互タスクの減少、定型手仕事・非定型手仕事タスクの増加が見られている。これは35~54歳の中高年男女や全体の傾向とは対照的な結果である(図表3)。就業形態別にみると、2005年以降、正規雇用・役員の非定型分析・相互タスクが増加している一方で、非正規雇用の非定型分析・相互タスクは減少している(図表4)。特に、女性の正規雇用・役員の非定型分析・相互タスクの増加が見られている。

第3に、より詳細なスキルに着目し、就業者におけるスキルの分布のトレンドをみると、1990年以降、分析スキルやケアスキルは米国と同様に増加している一方で、コンピュータースキルや情報通信技術(ICT)・人口知能(AI)と補完的な創造性スキル、マネジメントスキルについては、米国とは異なり(Liu and Grusky 2013:1350)、大きな増加は見られていない(図表5)。

図表1 タスクスコアのトレンド(1990年~2015年)

図表1画像

注)2005年以前は旧職業分類を、2010年以降は新職業分類を用いている。ただし、2005年は遡及集計も公開されているため、新職業分類・旧職業分類の両方を用いて推計し、2005年を基準(0)として、該当年のタスクスコアを推計している。

図表2 性別の5タスクスコアのトレンド(1990年~2015年)

図表2画像

(注)非定型分析・相互タスクの2005年の値が旧職業分類と新職業分類とで大きく異なるのは、職業分類の改訂が関係している。新職業分類において事務職等一部の職業分類が細分化されたため、男女のタスクスコアの差がより明確になったと考えられる。

図表3 性別・年齢別の5タスクスコアのトレンド(1990年~2015年)

【男性】

図表3【男性】画像

【女性】

図表3【女性】画像

図表4 就業形態別の5タスクスコアの変化(2005年~2015年)

図表4画像

図表5 スキルスコアのトレンド(1990年~2015年)

図表5画像

政策的インプリケーション

以上の分析結果を踏まえた政策的インプリケーションは次の3点である。

第1に、氷河期世代を含む就労困難者に対する就労支援の充実が必要である。具体的には、求職者支援訓練をはじめとした公的職業訓練の充実(訓練期間の拡充・訓練内容の見直し等)や求職者支援制度の拡充(対象者の要件緩和や給付金の増額等)があげられる。

第2に、コンピュータースキルやICT・AIに代替されないスキルの開発・育成が重要である。具体的には、企業における就業者のICT・AIスキルの開発・育成に加え、国による在職者訓練、人材開発支援助成金の充実や教育訓練給付制度の拡充(対象講座の拡大、給付金の引上げ等)により、国全体としてAI・デジタル人材を育成していく必要がある。特に、キャリアアップ助成金の充実や教育訓練給付制度の拡充(雇用保険の加入要件のない非正規雇用やフリーランスへの対象拡大)等を通じて、高度な非定型タスクに従事する機会が少ない非正規雇用労働者等のキャリア形成を公的に支援することが重要である。

第3に、公的統計の職業分類の改善が必要である。分析結果から、2005年以前の国勢調査の職業分類が粗いことがタスクスコアの推定にバイアスを生じさせていた可能性や、タスクスコアの男女差を見えにくくしていたことが示唆された。労働市場のより正確な実態把握が可能となるよう、国勢調査をはじめとした公的統計について、スキルやタスクを考慮したより詳細な職業分類を検討していくことが望まれる。

政策への貢献

氷河期世代を含む就労困難者を対象とした就労支援政策や今後の職業訓練・人材育成支援政策を検討する際の基礎資料として活用されることが期待される。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「全員参加型の社会実現に向けたキャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「職業情報、就職支援ツール等の整備・活用に関する研究」

研究期間

令和2年度

研究担当者

小松 恭子
労働政策研究・研修機構 研究員

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内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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