ディスカッションペーパー 17-03
日本型雇用システムと解雇権濫用法理の形成

平成29年12月15日

概要

研究の目的

日本型雇用システムの研究の一環として、解雇権濫用法理の形成過程をまとめる。

研究の方法

文献調査

主な事実発見

戦後直ちに制定された1945年労働組合法は不公正労働行為に対して直罰主義を採り、無効構成とはしなかった。そのため、刑事事件として有罪判決が確定しても直ちに民事上の効力を有さず、復職するためには別途民事訴訟を起こす必要があり、当時の判決で不公正労働行為たる解雇を金銭賠償ではなく無効としなければならない理由を論じたのが、解雇無効判決の出発点である。1949年労働組合法改正で労働委員会による救済命令方式になった後も、裁判所判決では無効構成が維持された。

1950年代には個別解雇事案についての地裁レベルの判決が多く出され、そこでは解雇自由説、解雇権濫用説、正当事由説が拮抗していたが、やがて解雇権濫用説が主流となっていった。しかしその実体は権利濫用説といいながら立証責任を事実上使用者に負わせるものであった。かかる事態の原因は、この時期のレッドパージ解雇事件と駐留軍労務者解雇事件において、解雇有効という結論を導くためにあえて権利濫用説を採ったことにあるとみられる。1950年代の解雇権濫用法理による判決においては、日本型雇用システムを論拠とするようなものはほとんど見られない。

1960年代の高度成長期には整理解雇や能力不足解雇が裁判になった事例は少ないが、日本型雇用システムを解雇無効とする論拠に挙げる判決がいくつか現れてくる。しかし、それが全面化するのは1970年代の不況期に行われた整理解雇に対する判決においてであった。当時の下級審判決は揃って終身継続的な雇傭関係の期待を根拠に、整理解雇に対する厳しい司法審査を正当化している。また、当時盛んに行われた配置転換の可能性が整理解雇の必要性判断の厳格さに影響したとの指摘もあり、この時期に日本型雇用システムの判例的表現としての解雇権濫用法理、とりわけ整理解雇法理が確立したと言える。

政策的インプリケーション

今後、労働政策審議会において金銭解決制度を中心に解雇法制の在り方が議論されることとなろうが、その際、本レポートで紹介した、解雇権濫用法理の形成過程に関する認識が活用されることが期待される。

政策への貢献

政策検討の基礎資料として活用。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「雇用システムに関する研究」
サブテーマ「雇用システムと労働法政策の変遷」

研究期間

平成26年 ~ 平成29年

研究担当者

濱口 桂一郎
労働政策研究・研修機構 研究所長

関連の研究成果

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