ディスカッションペーパー 15-01
非正規労働者の組織化の胎動と展開
―産業別組合を中心に―

平成27年3月31日

概要

研究の目的

本研究は、パートタイマーを中心とする非正規労働者の組織化がいつ頃から取り組まれ、どのように展開され、現在に至っているのかを明らかにすることを目的とする。

研究の方法

本研究では、産業別組合の資料、関連する文献・資料、当事者へのインタビュー調査等を用いて、歴史分析を行っている。

主な事実発見

主な事実発見は、2つある。1つめは、産業別組合(以下、産別)の迅速な対応とその後の苦悩である。いずれの産別も、パートタイマーが1960年代に登場すると、1970年前後には、パートタイマーの組織化を検討し始め、その方針を策定する等、パートタイマーの組織化に取り組み出した。ただし、その動きは一部の先進的な組合(単組)の取り組みにとどまり、即座に全体的な取り組みに発展し、大きな成果を得るまでには至らなかった。その背景には、産別内で、組織化方針や組合員の権利義務、組合員の範囲等について意思統一を図るのに、試行錯誤の時間を要したということがあった。

2つめは、単組は組織化の必要性を感じなければ、取り組まないということである。パートタイマーの組織化が、産別の後押しのもと、本格的な取り組みに発展し、大きな成果を得たのは2000年以降である。その当時は、流通部門を中心に、職場の従業員全体に占めるパートタイマーの割合が高まった時期であり、正社員組合が36協定締結の際の過半数代表になり得るかどうか、組織防衛等の観点から、産別を中心に危機感が広がり、産別に促される形でパートタイマーの組織化が進められた。

政策的インプリケーション

本研究の政策的インプリケーションとして、以下の3点をあげておく。

第1に、組織化の成果が出るまでには時間がかかるということである。各産別は、パートタイマーが登場すると、組織化の方針を策定したが、その成果を得るまでには多くの時間を要した。今後の集団的労使関係のあり方を検討する際には、推定組織率だけにとらわれずに、組織化のプロセスとその活動の困難さ、組織化の効果等を踏まえて、慎重に判断する必要がある。

第2に、産別の機能である。産別は、36協定締結の際の過半数代表となり得るか、組織防衛等の観点から、単組が危機的状況に陥りかねないことを察知し、傘下組合に対して、非正規労働者の組織化に取り組むよう、発破をかける等の対応をしている。また非正規労働者が働く実態について定期的に調査を行うとともに、法律の施行や改正、経済環境の変化に対応するために、組織化の方針や組合員の範囲を見直す等の対応も行っている。非正規労働者の組織化をスムーズに進め、成果をあげるためには、産別を中心として、非正規労働者の実態を把握し、環境変化に迅速に対応することが必要である。

第3に、労働組合は非正規労働者の発言機構として有効に機能することである。非正規労働者を組織化した組合は、非正規労働者の処遇改善に取り組んだり、正社員との処遇格差を縮小させたりしている。それゆえ、労働組合は、非正規労働者の発言機構として有効に機能している。

政策への貢献

政策への貢献として、以下の2点を指摘しておく。

第1に、今後の集団的労使関係のありようを議論する際の判断材料を提供することである。労働組合の推定組織率の低下ばかりに注目が集まるが、その裏側では、産別を中心に地道な組織化が行われてきた。今後の集団的労使関係のありようを模索する際には、そうしたプロセスやその活動の困難さ、組織化の効果等を十分理解し、慎重に判断する必要がある。

第2に、均衡処遇を実現するための1 つの手段として、労働組合の活用が考えられることである。労働組合は、組織化をすれば、非正規労働者の処遇改善等に取り組む。こうした取り組みは、正社員と非正規労働者の処遇格差を縮小させ、均衡処遇の実現により一層近づけるものと考えられる。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「労使関係を中心とした労働条件決定システムに関する調査研究」

サブテーマ「規範設定に係る集団的労使関係のあり方研究プロジェクト」

研究期間

平成26年度

執筆担当者

前浦 穂高
労働政策研究・研修機構 研究員

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※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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