ディスカッションペーパー 12-08
専業主婦世帯の収入二極化と貧困問題

平成24年10月23日

概要

研究の目的と方法

貧困ながらも専業主婦でいる子育て女性は、全国で55.6万人に上ると推計される。こうした専業主婦世帯にとって、食料や衣料等生活必需品の不足がそれほど深刻な問題ではないものの、「子どもの学習塾」など教育投資の負担感が非常に強く、経済的な理由で子どもを通塾させられない家庭が非常に多い(図表1)。

なぜ世帯収入が貧困ライン以下なのに、働きに出られない専業主婦がこれほど多くいるのか。本研究は、こうした現象を引き起こす理由を探った。

図表1 専業主婦における暮らしの実感

画像:図表1

主な事実発見

JILPT「子育て世帯全国調査2011」の個票データに基づく本論文の分析によると、貧困ながらも専業主婦でいる子育て女性の大半は、本人が直面している市場賃金が低く、家事・育児活動の市場価値が相対的に高いことに起因する合理的選択の結果である。主要な結果をまとめると、(1)大学卒の主婦は、中学校・高校卒の主婦より、就業確率が48.7%ポイント高い;(2)専門資格を持つ主婦は、資格のない主婦に比べて就業確率が36.9%ポイント高い;(3)そして、3歳未満の子どもを持つ主婦の就業確率が39.5%ポイント低下する。(図表2)。

ただし、貧困専業主婦の中にも、5人に1人は今すぐに働きたいのに、不本意ながら専業主婦でいる。働きたいのに、働けない社会環境的要素として、認可保育所不足が一因だと考えられる。200人以上の規模の待機児童を抱える都市部では、貧困なのに専業主婦となるリスクが高くなっている。また、多くの主婦が望む時間的に融通の利く仕事の求人が少ないという労働需要側の要因もある。

政策的含意

専業主婦世帯の貧困を解消する手段として、主婦の就労が有効だと考えられる。調査では、8割強の貧困専業主婦は早かれ遅かれ働きたいと考えているようである。そこで、仮に彼女たちが全員パート就業(JILPT調査ベースでパート平均年収94万円と想定)できていれば、専業主婦世帯全体の貧困率が、最大で5.6ポイント(12.4%→6.8%)下がるとみられる。

貧困層の専業主婦が働くための環境整備として、保育所不足が深刻な都市部を中心に認可保育所を拡充させることや、働く時間に融通の利く仕事の求人を増やすよう企業や公共団体等に働きかけることが必要不可欠である。また、貧困層の専業主婦が直面している市場賃金を高めることも、彼女らの職場進出につながるであろう。具体的には、無料職業訓練の提供、専門資格取得への支援等の手段が有効だと考えられる。

政策への貢献

本研究成果は、女性の活用と専業主婦の貧困対策の基礎資料としての活用が期待される。

図表2 妻の就業を決める要因(夫の年収が貧困ライン以下の世帯に限定)

画像:図表2

注:(1)一部の変数の推定結果が省略されている。

(2)*** P値<0.01, **P値<0.05, *P値<0.1

本文

研究期間

平成23~28年度

執筆担当者

周 燕飛
労働政策研究・研修機構 副主任研究員

入手方法等

入手方法

非売品です

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ
 
※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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