ディスカッションペーパー 12-07
オランダのケア提供体制とケア従事者をめぐる方策
─我が国における地域包括ケア提供体制の充実に向けて─

平成25年5月29日

概要

研究の目的

団塊世代が後期高齢期を迎える2025年に向け、住み慣れた地域での尊厳ある生活の継続を支える地域包括ケアシステムの構築及びその担い手となる人材の確保が喫緊の課題となっている。

本研究は、地域包括ケアに含まれる2つのコンセプトといわれる「地域を基盤とするケア」と「統合ケア」の双方を組み込んだシステム構築に早くから取り組んできたオランダを取り上げ、ケア提供体制、それに影響を及ぼす制度・政策、ステークホルダーの動向について時系列で俯瞰を試みることにより、我が国における地域包括ケア提供体制の充実に向けた検討の基礎資料とすることを目的とする。

研究の方法

文献調査、インタビュー調査(海外調査を含む)

主な事実発見

我が国の地域包括ケアシステムの構成要素に対応する制度及びケア従事者の現状、ケア提供体制と関連政策の変遷を概観のうえ、統合ケアの観点から国際比較可能なカテゴリーを用いてケア提供体制に検討を加えた。さらにケア従事者のなかでまず看護・介護職に焦点をあて、資格構成と資質管理、資格の整備・発展のあり方をみたのち、広くケアの担い手確保・活性化に向けた方策を整理した。

1960年代に脱病院化、70年代以降脱施設化が進むと同時に、セカンダリケアとプライマリケアの機能分業、一貫してプライマリケア強化、地域医療・予防重視の方針となり、まずプライマリケアの一体性向上がはかられる。福祉国家の拡大が終焉を迎えると「自己責任」と「参加」重視の改革が続き、長期ケアにおいては集中的で高いケアをより安いケアに「代替」しながら「個別仕立てのケア」を実現することが重要となる。こうして医療ケア・社会的ケアセクター内・間の水平的・垂直的統合、住まいと多様なケア・サポートの組み合わせが進展し、伝統的に小規模地域密着の宗教・宗派別非営利組織に実施・運営が委ねられてきたケア提供体制は、世俗化と市場志向の政策のなかで大きく変容を遂げる。90年代は待機リストの拡大、提供者主導で非専門職化したケア、不完全な代替が大きな課題となり、2000年代をつうじて提供主体別・領域別アプローチから機能アプローチへの転換、質・成果に基づく評価に向けた基盤整備と専門職・事業者裁量の拡大をはかる改革とともに、社会参画と公衆衛生の切り口からケアを再び地域に根ざしたものにする努力が重ねられている。昨今改めて多職種によるプライマリケアの充実、地区レベルでの福祉や公衆衛生の役割を強調しつつ、健康増進、自己管理推進と身近な関係のなかでの問題解決を図ることを重視している。

ケアセクターにおける統合が進むにつれ、専門職の養成体系見直しの必要性が高まっていたところに、労働市場のニーズと職業教育の結びつきを強め、労働者のエンプロイアビリティと国際競争力を高めることを目的とした(全産業にわたる)職業教育訓練改革の波が押し寄せる。国レベルの資格枠組みと全国統一の職業資格の整備、中等職業教育と成人教育の一本化に向けた職業教育訓練機関の再編がはかられ、ケアセクターにおいては90年代を通じて地域レベルでのステークホルダー協働による実験プロジェクトをつうじてあらゆる職業の棚卸と分析が行われ、1997年から新しい資格構成が適用された。産業別(ケアに関しては保健・福祉・スポーツセクター横断)の職業教育訓練労働市場知識センターが産業界・教育界のステークホルダーにプラットフォームを提供し、継続的に職業プロファイルと資格プロファイルの見直しを行っている。資格はモジュール認定であり、実地訓練割合が6割以上の働きながら学ぶ見習い訓練ルートも設けられていること、課題は多いものの既得職業経験・訓練の認定制度があること等から、ケアセクターにおいても継続教育に取り組む者が少なくない。

ケア従事者の確保・活性化については、イノベーション、現任者の定着・能力発揮、新たな人材の採用・確保、地域労働市場強化の観点からケアワーカーの確保定着促進を継続するだけでなく、ケア提供形態の多様化をつうじてさまざまな主体の参入促進をはかっている。また、さまざまな当事者の自立と参加、当事者力発揮を推進する枠組みがあり、近年は慢性疾患ケアモデルを背景とするセルフマネジメント支援やインフォーマルケア提供者支援にかかる取組みも活発である。社会保障政策全般にわたる生涯参加と自己責任重視の方向性が堅持されるなか、インフォーマルケア提供者支援の重要性はさらに高まっている。

政策的インプリケーション

利用者中心の良質なケアを効率的に提供する体制として地域包括ケアシステムを構築し、その担い手を確保するうえで、オランダの経験から得られる主たる示唆と課題について、「地域を基盤とする」統合とコミュニティデザイン、多職種協働プライマリケアの機能強化、セクター横断の対話に基づく資格構成検討と継続的発展、社会全体のケアワーク力を高めるイノベーションの進化、ケア政策と労働政策の連動という5つの観点からまとめた。

政策への貢献

地域包括ケアシステム、人的資源の適切な形成・活用、ソーシャルキャピタルの活用等にかかる検討の基礎資料となりうる。

なお、本研究の内容は地域包括ケア研究会2012、介護支援専門員の資質向上と今後のあり方に関する検討会、認知症国家戦略の国際動向とそれに基づくサービスモデルの国際比較研究事業、介護職員の処遇改善等に関する懇談会、介護労働安定センターの組織及び運営に係る検討会等における委員としての報告・発言にも活用している。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「経済・社会の変化に応じた職業能力開発システムのあり方についての調査研究」

サブテーマ「企業内外の能力開発・キャリア形成のあり方に関する調査研究」

研究期間

平成24年度

執筆担当者

堀田 聰子
労働政策研究・研修機構 研究員

入手方法等

入手方法

非売品です

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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