(90)年齢差別

個別労働関係紛争判例集 11.雇用平等

1 ポイント

(1)年齢差別とは、労働関係の場面においては、一般に年齢を理由として採用、賃金その他の労働条件につき差別することをいう。特に、法の下の平等を定めた憲法14条1項等との関連で問題となってくる。

(2)労働者の募集及び採用についての年齢差別は、平成19年施行の雇用対策法改正により、原則として禁止されている(同法10条;例外については同法施行規則1条の3第1項)。

(3)現在、裁判例等においては、定年制延長に伴いあるいは人件費削減の必要性等から、一定年齢(55歳など)以上の労働者の賃金が減額されるような場合に、このような労働条件の不利益変更が年齢差別に当たり、法律上許されないのか否かが問題とされるケースが増えてきている。

2 モデル裁判例

日本貨物鉄道(定年時差別)事件 名古屋地判平11.12.27 労判780-45

(1)事件のあらまし

原告Xらは、昭和62年4月、国鉄の分割・民営化に伴い貨物鉄道部門を承継し営業を行うことになった被告Y会社に、運転士として雇用されていた。Yの就業規則には60歳定年制が定められていたが、その附則において、厳しい経営状況等を勘案し、当面は55歳定年として逐次60歳に移行する旨が規定されていた。

その後、年金法の改正により、平成2年4月から退職共済年金の支給開始年齢が従来の58歳から60歳に引き上げられたこと等に対応するため、Yにおいても前記附則が削除され、同月以降定年を60歳に延長することとされた。それとともに、延長する5年間の労働条件に関して、Yは就業規則を変更して、a.満55歳に到達した労働者は原則として出向する、b.その者の基本給は55歳到達月の65%(退職手当受給者は55%)とする、c.定期昇給および昇進を行わないこと、等を新たに規定し実施した。平成5年から同9年の間に満55歳を迎えたXらは、この就業規則変更について、合理性がないこと、及び、年齢による不合理な差別であること等を理由に違法・無効であると主張して、賃金減額分の支払いを求めて提訴した。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

まず、このような就業規則の不利益変更につき、この事案における様々な事情を考慮に入れたうえで、55歳以上の労働者への不利益を法的に受忍させることができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであったと認めている。そのうえで、年齢による差別的取扱いについて、「労働基準法3条は……均等待遇の原則を定めているところ、同法条に列挙された事由も例示的なものと解されることから、使用者は、たとえ年齢を理由としても、差別すべき合理的理由なくして労働条件について差別することは許されないというべきである」。

この事案においては、前述のとおり就業規則の変更自体合理性があるものと認定されており、このような年齢による差別的取扱いも、「やむを得ない合理的理由があるものとして、是認され得る」。また、「年齢差別に関する国際的公序及び高齢者雇用安定法の制定経緯並びに平成2年4月当時から現時点までのわが国の社会的状況等に照らしても、公序良俗に反するとまでは」認められない。

3 解説

(1)一律定年制について

労働関係の場面において年齢差別が問題となるのは、まずは、一定年齢到達という事実により、労働者の労働能力や適格性の有無等に関係なく年齢のみを理由に労働契約を終了させてしまう一律定年制であろう。学説・判例において一律定年制自体は、終身(長期)雇用制や年功序列型賃金制等との兼ねあいの下、人事の刷新や若年労働力の雇入れ等のため必要かつ合理的な制度として一応認められてきた。ただ、定年制度における定年年齢が妥当か否かという問題は別途生じてくる。

一律55歳定年制が年齢差別に当たるか否かが争点の一つとなっていた裁判例にアール・エフ・ラジオ日本(定年制)事件(東京地判平12.7.13 労判790-15、(80)定年(制)のモデル裁判例)がある。また、55歳から60歳への段階的定年延長制の下における60歳未満の定年制は公序良俗に違反するとの大枠のなかで年齢差別が主張されていた事案に青森放送事件(青森地判平5.3.16 労判630-19)がある。

(2)一定年齢以上の労働者を対象とした労働条件の不利益変更について

次に、近年増加してきているケースであるが、定年制延長などに伴い又は人件費削減の必要性などにより、一定年齢(55歳など)以上の労働者を対象に賃金その他の労働条件等を不利益に変更するような場合、このような不利益変更は、不合理な年齢差別に当たり、法の下の平等を保障した憲法14条1項や労基法3条等に違反し、法律上は許されないのか否かが問題となってくる。

モデル裁判例は定年制延長に伴う減額の事案の一つであり、年齢差別に関して明確に論じた判決として意義があるが、このような事案においては、年齢差別ゆえに違法・無効との評価を行うことは難しい側面もあろう。同様に、役割期待、職務範囲、能力・知識および勤務地・出向の4点により区分けされた複線型コース別制度が導入され、55歳以上の従業員の賃金減額につき争われたケースで、年齢差別に当たり憲法14条及び民法90条に反するとの原告らの主張に対し、その賃金減額は就業規則変更の高度の必要性に基づく合理的な内容のものであったこと等を認め、同法には違反しないと判断した第三銀行(複線型コース別制度)事件(津地判平16.10.28 労判883-5)がある。また、51歳となる社員を対象に50歳時に雇用形態の選択を行う制度が導入され、自らその選択を行わなかったため、勤務地限定のない「満了型」を選択したものとみなされ、首都圏に配転された労働者らが、配転命令権の濫用等によりその配転が無効であると争ったケースにおいて、51歳以上の社員に対する年齢差別であるという主張もなされたが、その主張が認められなかったNTT東日本(首都圏配転)事件(東京高判平20.3.26 労判959-48 労経速2003-3;結局この事件では配転が有効と判断されている)がある。同種の事案としては、NTT東日本(北海道・配転)事件(札幌地判平18.9.29 労判928-37;この事件では、年齢差別の主張は却けられているものの、配転は権利の濫用として違法と判断されている)等がある。

さらに、労働協約に基づく賃金改定により、若年労働者の採用を延ばす目的で若年層・中堅層の待遇改善を図る一方で、55歳以上の組合員に対しては月額最大で約3万円の減額が生じたケースにつき、年齢差別が争点となった事案に日本鋼管(賃金減額)事件(横浜地判平12.7.17 労判792-74)がある。この事件で裁判所は、年齢差別につき、生活保障という観点やわが国にみられた年功賃金制度等を勘案したうえで、このような賃金改定も不合理ではなく、憲法上の平等原則や労基法3条等に反するものではないと判断している。

この種の事案では、年齢差別自体が直接争点になるというよりも、就業規則の不利益変更の問題((69)【労働条件の変更】参照)として取り扱われることの方が多い。例えば、55歳から60歳への定年延長に伴い、55歳以降は嘱託社員とし賃金減額がなされたケースにおいて、その賃金減額は、就業規則の不利益変更自体には当たるものの、会社の経営環境や経営実態に照らす等した場合には合理性があったものと判断された協和出版販売事件(東京地判平18.3.24 労判917-79)があるが、その他にも一橋出版事件(東京地判平15.4.21 労判850-38)及び八王子信用金庫事件(東京高判平13.12.11 労判821-9)等多数の裁判例がある。

なお、年齢差別に関してはその他、整理解雇基準の中で例えば「53歳以上の者」などの一定年齢が設定された場合の適法性(ヴァリグ日本支社事件 東京地判平13.12.19 労判817-5)等が問題となりうる。ただ、定年退職後の再雇用において雇止めが争われた大京ライフ事件(横浜地決平11.5.31 労判769-44)では、「特に65歳以上の者の再雇用については……解雇権の濫用の法理が類推適用されるといっても、自ずから程度の差はある」と述べられている点などには留意しておく必要がある。