(82)【解雇】法令上の解雇規制

個別労働関係紛争判例集 10.雇用関係の終了及び終了後

※個別労働関係紛争判例集は個別事例について法的なアドバイスをするものではありません。
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1 ポイント

(1)使用者の一方的な意思表示による労働契約の解約=解雇は、法令によって制限されている。大別すると、a.解雇権濫用の禁止、b.解雇予告の義務付け、c.一定の状況に置かれた労働者に対する解雇の禁止(解雇禁止期間)、d.差別的理由等の特定の理由による解雇の禁止、などがある。

(2)労働基準法20条により、使用者は解雇の際に30日前の予告か30日分の予告手当の支払いを義務付けられる。この義務に違反した場合、最高裁判例によれば解雇の効力は使用者が解雇に固執する趣旨であるか否かによって決まる。

2 モデル裁判例

細谷服装事件 最二小判昭35.3.11 民集14-3-403

(1)事件のあらまし

原告労働者Xは、洋服の製造・修理を行う被告Yに雇用されていたが、昭和24年8月に、Yから解雇の通知を受けた。このとき、Yは労働基準法20条で義務付けられている予告期間を置かず、予告手当も支払わなかった。Xは8月分の未払賃金及び退職金の支払いを求めて提訴したところ、一審の口頭弁論終結日である昭和26年3月19日に未払賃金と予告手当がYからXに支払われたが、裁判ではXは敗訴した。Xは、控訴審において、Yが未払賃金と予告手当を支払った昭和26年3月19日まで解雇の効力が発生していないと主張してこの間の賃金支払いも求めたが、敗訴したため上告した。

(2)判決の概要

労働者側敗訴

使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払いをしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の30日の期間を経過するか、または通知の後に同条所定の予告手当の支払いをしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきである。本件解雇の通知は昭和24年8月の解雇通知があってから30日後に解雇の効力を生じたものとする原判決の判断は正当である。

3 解説

(1)法令上の解雇制限の諸類型

民法上は、期間の定めのない労働契約(雇用契約)は、当事者双方から、いつでも自由に解約できるものとされている(627条1項)。しかし、使用者による一方的な労働契約の解約=解雇は、労働者の生活等に重大な影響を与えるものであるため、法令上に様々な解雇制限の規定が設けられている。

第一に、労働契約法16条は、客観的合理的理由と社会通念上の相当性のない解雇は、解雇権濫用により無効になると規定している。これは、2003年の労基法改正時に、それまで判例法理として存在していた解雇権濫用法理が条文化された(労基法旧18条の2)後、労働契約法成立時に当該条文が労基法から労働契約法に移されたものであり、解雇理由や解雇手続に対する一般的な制限である((84) (85) (86)【解雇】参照)。

第二に、労基法20条は、解雇の手続的規制の一環として、予告期間に関する規定を置いている(→(2))。

第三に、労基法19条は、a.労働者が業務上の災害の療養のために休業中の期間(労基法81条の打切補償が行われた場合及び労災保険法19条により打切補償が行われたとみなされる場合を除く)、b.労働者が労基法65条に基づいて産前産後休業中の期間、およびc.これらの休業終了後30日間を解雇禁止期間とし、この期間中の解雇を禁止している。なお、この規定により禁止されるのは、当該期間中に労働契約を終了させること(解雇)であり、解雇禁止期間満了後に解雇するための解雇予告をこの期間中に行うことは禁止されない(東洋特殊土木事件 水戸地龍ヶ崎支判昭55.1.18 労民集31-1-14、栄大事件 大阪地決平4.6.1 労判623-63など)。

第四に、国籍・信条・社会的身分差別(労基法3条)、性差別(均等法6条)、労働組合員差別(労組法7条1号)などの差別的理由による解雇、労働者が特定の権利を行使したことや、特定の法違反を行政官庁等に通告したことを理由とする解雇、女性労働者の妊娠・出産等を理由とする解雇など、特定の理由での解雇を禁止する規定がある(育児・介護休業法10条、16条、労基法104条2項、労安衛法97条2項、賃確法14条2項、公益通報者保護法3条、均等法8条など。均等法が定める妊娠・出産等を理由とした解雇の禁止については、その実効性を担保する目的で、妊娠中及び出産後1年未満の女性労働者の解雇も原則として禁止される)。

(2)解雇予告義務

モデル裁判例は、上記各類型のうち、労働基準法20条の解雇予告義務に関するものである。同条は、解雇を行う使用者に、30日前に予告するか、平均賃金30日分の予告手当を支払うことを義務付けている。予告期間と予告手当は組み合わせることも可能であり、予告手当の日数分だけ予告期間が短縮される(たとえば、平均賃金10日分の予告手当を支払う場合、予告期間は20日で足りる)。

労基法20条をめぐっては、同条の定める予告期間を置かず、予告手当も支払わない解雇の効力が問題となるが、モデル裁判例は、この点につき、相対的無効説と呼ばれる考え方を採用した最高裁判決である。この考え方によれば、労基法20条に違反して行われた即時解雇は、使用者が即時解雇に固執している場合には無効であるが、そうでない場合には法所定の予告期間である30日を経過するか、法所定の額の予告手当が支払われた時点で効力を生ずる(解雇権濫用等、他の理由で無効となることはありうる)ことになる(使用者が即時解雇に固執しているか否かを基準として解雇の効力が相対化されるため、相対的無効説と呼ばれる)。同最高裁判決以来、裁判実務においては、この相対的無効説が主流となっている(アクティ英会話スクール事件 大阪地判平5.9.27 労判646-55、関西フエルトファブリック事件 大阪地判平10.3.23 労判736-39など)。

これに対し、学説上は、労基法20条違反の解雇が行われた場合には、解雇の無効を主張するか、(解雇は有効とした上で)予告手当の支払いを請求するかを労働者が選択できるという、選択権説も有力であり、比較的最近の裁判例の中にも、この考え方に立つものが存在する(セキレイ事件 東京地判平4.1.21 労判605-91)。