(41)【異動】転籍

個別労働関係紛争判例集 5.人事制度

※個別労働関係紛争判例集は個別事例について法的なアドバイスをするものではありません。
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1 ポイント

(1)「転籍(移籍)」とは、現在雇用されている企業と労働契約関係を終了させ、他企業との間に新たに労働契約関係を成立させることをいう。

(2)転籍には、a.現企業との労働契約を合意解約し、新労働契約を締結するという方法と、b.現企業が労働契約上の使用者たる地位を譲渡するという方法があり、いずれの場合も労働者の同意が必要である。

(3)転籍の場合には、労働者の事前の包括的同意は認められないのが原則であるが、採用の際に転籍について説明を受けた上で明確な同意がなされ、人事体制に組み込まれて永年実施されて実質的に社内配転と異ならない状態となっている転籍に関しては、事前の包括的同意で足りるとされることがある。

(4)転籍の場合は、転籍先企業との間で労働契約関係が新たに開始するため、使用者責任は原則として転籍先企業のみが負う。

2 モデル裁判例

三和機材事件 東京地判平7.12.25 労判689-31

(1)事件のあらまし

Yは、和議手続下での会社再建策の一環として同社の営業部を独立させ新会社を設立し、Xらを含む同社の営業部門の全員に対して新会社への転籍出向(以下単に「転籍」という)を内示したところ(本件転籍命令)、Xのみが転籍を拒否したため、YはXを就業規則に基づき懲戒解雇した。そこでXが本件転籍命令および懲戒解雇の無効を主張して提訴したのが本件である。Yは、本件転籍命令は、会社と新会社とは法人格こそ別であるが実質的には同一会社で、出向者にとっては給付すべき義務の内容及び賃金等の労働条件に差異はなく、転籍となっても何の不利益もなく、本件転籍については配転と同じ法理により、会社の持つ包括的人事権に基づき、従業員の同意なしに命じ得ること、新会社設立の3ヵ月前に、従前から存在した就業規則の出向規定に転籍を含む改訂を行ったこと等を主張し、争った。

なお、本件の仮処分決定(東京地決平4.1.31 判時1416-130)では、少なくとも包括的同意もない場合にまで転籍を認めることは相当でないとされ、本件転籍命令は無効とされている。

(2)判決の内容

労働者側勝訴

本件転籍命令は、XY間の労働契約関係を終了させ、新たに新会社との間に労働契約関係を設定するものであるから、いかにYの再建のために業務上必要であるからといって、特段の事情のない限り、Xの意思に反してその効力が生ずる理由はなく、Xの同意があってはじめて本件転籍命令の効力が生ずるものというべきである。本件ではいまだこの「特段の事情」に該当する事実は認定できないため、本件転籍命令は無効であり、その有効性を前提とする懲戒解雇も無効である。

3 解説

(1)転籍の意義

現在雇用されている企業と労働契約関係を終了させ、他企業との間に新たに労働契約関係を成立させることを「転籍(移籍)」という。これを実現する法技術としては、a.現企業との労働契約を合意解約し、新労働契約を締結する方法と、b.現企業が労働契約上の使用者たる地位を譲渡する方法(民法625条1項)とがある。本件のような「転籍出向(以下転籍という)」は、「在籍出向」と同様に、企業間にまたがって行われる労働者の異動であるが、現在の使用者との間の労働契約を終了させ、新たに転籍先の企業との間に労働契約関係を生じさせる点で「在籍出向」とは異なる。また、転籍は、労働契約の当事者には何らの変更のない「配転」とも大きく異なる。

(2)労働者の同意

転籍については、上記a.b.いずれの場合も労働者の同意が必要である(日立製作所横浜工場転籍事件 最一小判昭48.4.12 集民109-53)。a.の場合は、元の契約の解約も新契約の締結も労働者の個別具体的な同意が必要である。これに対して、b.の場合は、入社時等の事前の包括的同意でもよいのか、それとも転籍時の個別具体的な同意に限定されるのかが問題となる。

まず、雇用関係を維持した上で解雇を回避するために広く認められてきた配転や出向と、雇用関係自体を解消してしまう転籍とは、法律的にも機能面でも大きく異なることから、転籍については、事前の「包括的同意」で足りるとは原則として考えられていない(モデル裁判例参照)。ミロク製作所事件(高知地判昭53.4.20 労判306-48)では、元の会社が労働協約や就業規則において業務上の都合で自由に転籍を命じうるような事項を定めることはできず、労働者の個別的同意が必要であると明確に述べられている。

しかし他方で、裁判例の中には、採用の際に転籍について説明を受けた上で明確な同意がなされ、人事体制に組み込まれて永年実施されて実質的に社内配転と異ならない状態となっている転籍に関しては、就業規則の規定によってこれを命じうるとしたものが存在する(日立精機事件 千葉地判昭56.5.25 労判372-49)。学説でも、一定期間後の復帰が予定され、転籍中の待遇にも十分な配慮がなされているなどして、実質的に労働者にとっての不利益性がない場合に限って、事前の包括的同意に基づく転籍命令の有効性を認める見解が有力である(菅野和夫『労働法(第8版)』(弘文堂、2008年)418頁参照)。

なお、転籍をめぐっては、転籍元法人が別法人との間で従業員を同法人に転籍させることを合意し、当該従業員が転籍元法人に対して転籍を承諾した場合でも、その時点で転籍時期、転籍後の雇用条件について何も決まっていない場合には、当該従業員の転籍承諾と同時に雇用契約上の地位が別法人に移転したとみることはできないと判断された例もある(生協イーコープ・下馬生協事件 東京地判平5.6.11労判634-21)。

(3)転籍後の労働関係

転籍の場合は、転籍先企業との間で労働契約関係が新たに開始するため、労働保護法上の使用者も、労働契約上の使用者も、団体交渉上の使用者も、原則として転籍先企業のみとなる。復帰が予定され、元の企業が賃金の差額を補填し続け、退職金も通算されるというような特別の事情がある場合には、限定的に元の企業の使用者責任が問題となる余地があるが、このような転籍の場合にも、転籍先を退職するときには退職金支払義務は転籍先にあるとされた例もある(幸福銀行(退職出向者退職金)事件 大阪地判平15.7.4 労判856-36)。

なお、在籍出向の場合には、出向期間は出向元の勤続年数に加算されるのが通常であるが、出向元が解散し、出向先に転籍した者については、出向期間を含めた退職金請求は認められず、特別の出向元から出向先への通算の合意等がない限り、出向先に対しては転籍後の勤続期間に応じた退職金しか請求できないとされた裁判例がある(日本ケーブルテレビジョン事件 東京地判平16.1.28 労経速1868-21)。