(39)【異動】出向

個別労働関係紛争判例集 5.人事制度

1 ポイント

(1)労働者が自己の雇用先の企業に在籍のまま、他の企業の事業所において相当の長期間にわたって当該他企業の業務に従事することを「出向(在籍出向)」という。

(2)出向を命じるには労働者の同意が必要であるが、就業規則や労働協約に出向を命じうる旨の規定があり、出向によって賃金・退職金その他労働条件等の面での不利益が生じないように制度が整備され、出向が実質的に見て配転と同視されるような場合には、労働者の個別的同意がなくとも出向を命じることができる。

(3)出向命令は、たとえ契約上根拠づけられる場合でも、出向の必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合は、無効となる(労契法14条)。

(4)出向期間中は、基本的な労働関係は出向元との間で維持されるが、労働契約上の権利義務の一部は出向先に譲渡される。

2 モデル裁判例

新日本製鐵(日鐵運輸第2)事件 最二小判平15.4.18 労判847-14

(1)事件のあらまし

Yは、構内輸送業務のうち鉄道輸送部門の一定の業務を訴外Aに業務委託し、委託業務に従事していたXらにAへの出向(在籍出向)を命じたところ、Xらが本件出向命令の無効を主張して提訴した。a.Xらの入社時及び本件出向命令発令時のYの就業規則には、業務上の必要性に応じて社外勤務がありうる旨が定められており、b.Xらに適用される労働協約にも同旨の規定があった。c.労働協約である社外勤務協定には、社外勤務の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当、昇格・昇給等の査定その他処遇等に関して出向労働者の利益に配慮した詳細な定めがあった。第一審(福岡地判平8.3.26 労判847-30)および第二審(平11.3.12 労判847-18)でXらの請求が棄却されたため、Xらが上告。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

本件では、a.b.c.の事実を前提とすれば、YはXらに対し、その個別的同意なく、Yの従業員としての地位を維持しながら出向先であるAにおいてその指揮監督の下に労務を提供することを命ずる本件出向命令を発令することができるというべきである。そして、YによるAへの業務委託は経営判断として合理的であり、委託される業務に従事していたXらに出向を命じた点も、出向対象者の人選として不当ではない。また、本件出向命令によってXらの労務提供先は変わるものの、その従事する業務内容や勤務場所には何らの変更はなく、上記社外勤務協定による出向労働者の処遇に関する規定等を勘案すれば、Xらがその生活関係、労働条件等において著しい不利益を受けるものとはいえない。本件出向命令の発令に至る手続にも不相当な点はない。以上から、本件出向命令は権利濫用に当たらない。

3 解説

(1)出向の意義

労働者が自己の雇用先の企業に在籍のまま、他の企業の事業所において相当の長期間にわたって当該他企業の業務に従事することを「出向(在籍出向)」という。

「出向」は、勤務する職場が同一会社内の「配転」と異なり、他の会社の事業所等に勤務し、出向先の会社の指揮命令に服するものである。出向を行うには、出向元企業と出向先企業の間で従業員の受け入れについて出向協定を締結する必要がある。

(2)労働者の同意

出向は、出向元企業が労働者への労務提供請求権を出向先企業に譲渡するものであり、民法625条1項にいう「労働者の承諾」が必要である。問題は、この場合の「承諾」が事前の包括的同意で足りるのか、それとも労働者の個別的同意を要するのかである。

企業間の人事異動である出向については、労務提供の相手方が変更されるので、密接な関連会社との間に日常的に行われる出向であっても、就業規則や労働協約上の根拠規定、もしくは採用時の同意等の明示の根拠のない限り、出向命令権が労働契約の内容になっているということは困難である。就業規則中に会社外の業務に従事するときは休職にする旨を定める休職条項の間接的な規定があるだけでは、出向命令の根拠にならない(日東タイヤ事件 最二小判昭48.10.19 労判189-53)。ただし、出向先での賃金や出向期間、復帰の仕方等が出向規定において労働者の利益に配慮して規定されている場合には、包括的な規定ないし同意によって出向を命じることが許容される(新日本製鐵(日鐵運輸)事件 福岡高判平12.11.28 労判806-58、モデル裁判例参照)。グループ内企業への出向の有効性が争われた事案において、配転と同視できる事情(企業間の実質的一体性、多数の実績あり、経済的不利益なし等)を重視して、包括的同意で足りるとした裁判例も存在する(興和事件 名古屋地判昭55.3.26 労判342-61)。逆に言えば、実質的に見て出向が配転と同視できないような事案においては、出向について労働者の個別的同意が必要であるということになろう。

(3)権利濫用による制約

出向命令は、根拠規定が存在する場合であっても、その権利を濫用してはならない。出向の場合は労務提供の相手方が変更し、労働条件が引き下げられる等の不利益が生ずることが多いため、この点が配転の場合の私生活上の不利益に加えて審査される。出向命令権の濫用の成否は、出向命令の「業務上の必要性」と「出向者の労働条件および生活上の不利益」とが比較衡量され、労働条件が大幅に下がる出向や復帰が予定されない出向は、整理解雇の回避等、それを肯定する企業経営上の事情がない限り、権利濫用となる(日本ステンレス事件 新潟地高田支判昭61.10.31判時1226-128、東海旅客鉄道事件 大阪地決平6.8.10 労判658-56、モデル裁判例等)。この点について、労働契約法14条は、出向命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合は、当該命令は無効とすると定めている。

(4)出向期間中の法律関係

出向期間中は、基本的な労働契約関係は出向元企業との間で維持されるが、労働契約上の権利義務の一部は出向先企業に譲渡される。出向元企業の権利義務のうちどの部分が譲渡されるかは通常出向協定に定められるが、明示の定めがない部分については黙示の合意や信義則による補充的解釈が行われる。一般には、就労に関わる権利義務(労務提供請求権、指揮命令権、出勤停止処分権)は出向先に移るが、就労を前提としない権利義務(解雇権や復帰命令権等の労働契約関係の存否・変更に関する権利義務)は出向元に残ると解釈されることになろう。

なお、裁判例においては、出向労働者に対する懲戒処分の権限について、出向元は出向元の就業規則に基づいて出向元の立場から懲戒処分を行うことができ、出向先(10名未満の会社で就業規則なし)は、親会社である出向元の就業規則の適用についての出向労働者の同意に基づき、出向元の就業規則に従って懲戒処分を行うことができるとしたものもある(勧業不動産販売・勧業不動産事件 東京地判平4.12.25 労判650-87)。