(37)【異動】職種の変更

個別労働関係紛争判例集 5.人事制度

※個別労働関係紛争判例集は個別事例について法的なアドバイスをするものではありません。
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1 ポイント

(1)労働契約の締結時もしくは労働契約の展開過程で職種が限定されていると解される場合には、この職種の変更は使用者の一方的命令ではなしえず、労働者の同意が必要である。

(2)長期雇用を前提として採用された労働者については、同一の仕事に長年継続して従事してきたことのみでは職種限定の合意が成立しているとは認められにくい。

(3)職種限定の合意が認められない場合には、異職種への配転は契約上可能であるが、配転命令権の行使について権利濫用の制約は及ぶ。

2 モデル裁判例

日産自動車村山工場事件 最一小判平元.12.7 労判554-6

(1)事件のあらまし

Xらはいずれも自動車の製造販売を目的とするYのA工場において「機械工」として就労してきた者であり、就労期間は最も長い者で28年10ヵ月、最も短い者で17年10ヵ月であった。Yは、世界自動車業界の車軸小型化、駆動装置のFF化に対応するため、従来A工場にあった車軸製造部門をB工場等に移管し、A工場では新たに小型乗用車を製造することになった。それにともない人員も再配置され、従来A工場で「機械工」として勤務していたXらは単純反覆作業であるコンベアライン作業へ配置換えされた(本件配転命令)。そこでXらは、Yに対し、A工場を就労場所とする「機械工」の地位にあることの確認、および、本件配転命令が不当労働行為であるとして不法行為に基づく損害賠償を求めて提訴した。

一審(横浜地判昭61.3.20 労判473-42)ではXらの主張が認められたが、二審(東京高判昭62.12.24 労判512-66)ではXらが敗訴したため、Xらが上告したのが本件である。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

十数年から二十数年にわたって「機械工」として就労してきた者であっても、この事実から直ちに、労働契約上職種を「機械工」に限定する旨の合意が成立したとまではいえない。配転命令が、各人の経験、経歴、技能や個人的希望等を個別的に考慮することなく行われたものであっても、本件では車軸製造部門の縮小による異動対象者が500名近くの多数に上り、通勤可能圏内の他の職場でこれを受け入れる余地がなく、一部の者のみについて他の職場の従業員との入替えを行うことも、手数が掛かるだけでなく公平確保上の理由からも困難であること、今までの工場における新型車の生産要員として異動対象人員を超える数の従業員を必要とすることになったこと等の事情を考慮すると、異動対象者全員につき、一斉に他部門へ配置換えすることとしたのは、企業経営上の判断としてあながち不合理なものとはいい難い。本件では、配転対象者の中に長年他の職種に従事してきた者がいることを考慮しても、労働力配置の効率及び企業運営の円滑化等の見地からやむを得ない措置として是認し得るのであり、本件配転命令は権利濫用には当たらない。

3 解説

労働契約の締結時もしくは労働契約の展開過程で職種が限定されていると解される場合には、この職種の変更については労働者の同意が必要である。

(1)採用時の職種限定の合意

まず、特殊な技術・技能・資格を有する者については、採用時の職種の限定が認められることが多い。裁判例では、病院の検査技師(大成会福岡記念病院事件 福岡地決昭58.2.24 労判404-25)、看護師(国家公務員共済組合連合会事件 仙台地判昭48.5.21 判時716-97)、大学教員(金井学園福井工大事件 福井地判昭62.3.27労判494-54)について、職種限定の合意が認められている。

アナウンサーについては、事案に応じて判断が分かれている。日本テレビ放送網事件(東京地決昭51.7.23 判時820-54)では、アナウンサーが難関の専門試験に合格し、20年近くも一貫して同職に従事していたことや、従業員本人の承諾を得ないで職種の異なる業務への配転を命ぜられることはなかったこと等から、職種が採用時の契約からアナウンサーに限定されていたと判断された。これに対し、九州朝日放送事件(福岡高判平8.7.30 労判757-21)では、放送会社のアナウンサーについて、採用時には特殊の技能は要求されておらず、採用後も当該会社では配転の対象となっていること等から、労働契約上アナウンサーとして職種が限定されていないとされた。

(2)業務の系統を異にする配転

厳密な職種の概念が定義されていない職場でも、職種の範囲を事務職系統の範囲内に限定し、それを超えた現場・労務職業務系統への配転は無効とされることがある。例えば、ヤマトセキュリティ事件(大阪地決平9.6.10 労判720-55)では、語学堪能を条件とする社長秘書募集に応じて採用された労働者に対する警備業務への配転について、当該労働者の労働契約は事務系業務を内容とするものであったとされ、当該配転命令が無効とされた。また、直源会相模原南病院事件(東京高判平10.12.10 労判761-118)では、事務職員のナースヘルパーへの配置換えについて、本件の就業規則上の配転条項は、一般職員については同じ業務の系統内での異なる職種間の異動についての規定であり、「業務の系統を異にする職種への異動、特に事務職系の職種から労務職系の職種への異動については、業務上の特段の必要性及び当該従業員を異動させるべき特段の合理性があり、かつこれらの点についての十分な説明がなされた場合か、あるいは本人が特に同意した場合を除き」一方的に命ずることはできないとされた。

さらに、東亜石油事件(東京地判昭44.6.28 労民集20-3-614)では、技術職の従業員をその技術に関する専門的知識を要するサービス業務や販売職に配置換えすることについて、就業規則に包括的配転条項が存在する場合も、従業員が無制限に職務の変更を予め承諾し、会社側に一方的な職種の変更権を与えたものと解するのは相当ではないとされた。そしてその限界については、「当該労働契約締結の際の事情、従来の慣行、当該配転における新旧両職務間の差異、特に技術者においては、その過去の経歴に照らして将来にわたる技術的な能力、経歴の維持ないし発展を著しく阻害する恐れのあるような職種の転換であるかどうかを綜合的に判断して、合理的であると考えられる範囲において画されるべきものであ」るとされた。

(3)長期同一業務従事

採用時に職種限定の合意が認められないとしても、採用後の特別な訓練、養成を経て一定の技能・熟練を修得し、長期間当該業務に従事してきた者の労働契約が、その職種に限定されていると判断されることがある(日野自動車工業事件 東京地判昭42.6.16 労民集18-3-648)。しかし、長期雇用を前提として採用された労働者については、同一の仕事に長年継続して従事してきたことのみでは職種限定の合意は認められにくい(モデル裁判例参照)。東京アメリカンクラブ事件(東京地判平11.11.26 労判778-40)では、約21年間にわたり電話交換の業務についていた労働者の洗い場への配転につき、職種限定の合意はないとされた。また、東京サレジオ学園事件(東京高判平15.9.24 労経速1865-3)では、18年間児童指導員に従事してきた者の調理員への配転につき、児童指導員の職業の専門性、技術性は否定できないものの、看護師または国家試験に基づく公的資格ではなく、その職務には、掃除、洗濯、食事の準備などの日常の家事的業務も含まれていること等から、調理員への配転は業務上の必要性があり有効とされた。

(4)権利濫用による制約

職種限定の合意が認められず、異職種への配転命令が契約上許容されるとしても、配転命令権は濫用されてはならないという制約を受ける(労契法3条5項、(36)【異動】参照)。