(36)【異動】配転の意義

個別労働関係紛争判例集 5.人事制度

※個別労働関係紛争判例集は個別事例について法的なアドバイスをするものではありません。
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1 ポイント

(1)配転とは、従業員の配置の変更であって、職務内容または勤務地が相当の長期間にわたって変更されるものをいう。

(2)使用者は、以下の場合に労働者の個別的同意なく配転を命ずることができる。すなわち、a.労働協約や就業規則に配転がありうる旨の定めが存在し、実際にも配転が行われていたこと、b.採用時に勤務場所や職種を限定する合意がなされていなかったこと、である。

(3)ただし、配転命令につきa.業務上の必要性がない場合、b.不当な動機・目的が認められる場合、c.労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合には、当該配転命令は権利濫用として無効になる。

2 モデル裁判例

東亜ペイント事件 最二小判昭61.7.14 労判477-6

(1)事件のあらまし

Yは大阪に本店をおき、全国十数カ所に事務所・営業所を持つ会社である。Yの就業規則には、「業務の都合により異動を命ずることがあり、社員は正当な理由なしに拒否できない。」と定められており、実際にも従業員、特に営業担当者について転勤が頻繁に行われていた。Xは大学卒業資格の営業担当者として、勤務地を限定することなくYに採用されたが、入社してから約8年間、大阪近辺で勤務していた。こうした中、YはXに対して神戸営業所から広島営業所への転勤を内示したが、Xは家庭の事情を理由に転居を伴う転勤を拒否した。その後Yは、Xに名古屋営業所への転勤を内示したが、Xはこれにも応じなかった。Yは、Xに対して名古屋営業所勤務を命じたが(本件転勤命令)、Xはこれを拒否した。そこでYは、この転勤命令拒否が就業規則所定の懲戒事由に該当するとしてXを懲戒解雇した。これに対してXは、本件転勤命令および本件懲戒解雇の無効を主張して提訴した。

第一審(大阪地判昭57.10.25 労判399-43)および第二審(大阪高判昭59.8.21 労判477-15)は、本件転勤命令は権利濫用で無効であるとし、Xの請求を全面的に認容した。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

本件のように、労働協約及び就業規則に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、実際に転勤が頻繁に行われ、さらに入社時に勤務地を限定する旨の合意がなかったという事情の下では、使用者は個別的同意なしに労働者の勤務場所を決定することができる。しかし、特に転居をともなう転勤は、労働者の生活に影響を与えるものであるから、使用者の転勤命令権は無制約に行使できるものではなく、これを濫用することは許されない。具体的には、「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合」には、当該転勤命令は権利の濫用になる。ただし、業務上の必要性は、「当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、…企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、肯定すべきである」。

本件転勤命令には業務上の必要性が優に存在し、Xに与える家庭生活上の不利益も通常甘受すべき程度のものであるから、権利濫用に当たらない。

3 解説

(1)配転命令の意義

職務内容や勤務地を相当の期間にわたって変更することを「配転」という。勤務地の変更を伴う配転を特に「転勤」と呼ぶ。長期雇用慣行をとる日本企業では、多様な能力と経験をもった人材を育成するために配転が頻繁に行われてきた。

(2)配転命令権の根拠・範囲

使用者が配転を命じるには、まず、労働協約や就業規則によって配転命令権が労働契約上根拠づけられている必要がある。就業規則に配転を命じうる旨の包括的規定が設けられており、これに基づいて実際上も頻繁に配転が行われているという場合には、配転命令権自体は肯定されることになる。当該労働者について職務や勤務場所を限定する特約が存在する場合にはそちらが優先するが、こうした特約が認められるケースは少ない((37) (38)【異動】参照)。

(3)権利濫用による制約

使用者に配転命令権が認められる場合も、a.配転命令に業務上の必要性が存しない場合、b.配転命令が不当な動機・目的に基づく場合、c.労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を及ぼす場合には、配転命令は権利濫用(労契法3条5項)として無効になる。

a.配転命令の業務上の必要性については、余人をもっては容易に替え難いといった高度のものに限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性は肯定される(モデル裁判例参照)。

b.不当な動機・目的については、退職に追い込むために発令された配転(フジシール事件 大阪地判平12.8.28 労判793-13、プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク(本訴)事件 神戸地判平16.8.31 労判880-52)や、社長の経営方針に批判的な労働者を本社から排除する意図で行われた配転(マリンクロットメディカル事件 東京地決平7.3.31 労判680-75、朝日火災海上保険事件 東京地決平4.6.23 労判613-31)について、不当な動機・目的が認められている。

c.労働者の不利益については、伝統的には、配転に応じると単身赴任せざるをえないという事情だけでは、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」とは認められてこなかった(モデル裁判例、帝国臓器製薬事件 最二小判平11.9.17 労判768-16等)。配転によって通勤時間が片道約1時間長くなり、保育園に預けている子供の送迎等で支障が生じる場合でも、労働者の通常甘受すべき程度を著しく超える不利益とまではいえないとされている(ケンウッド事件 最三小判平12.1.28 労判774-7)。

労働者に著しい不利益を負わせると判断されるのは、当該労働者が配転すると病気の家族を介護・看護できなくなるといった限定的ケースである。例えば、配転を命じられた労働者が、病気の家族3人の面倒を自ら見ていた場合(日本電気事件 東京地判昭3.8.31 判時539-15)、病気の子供2人と近隣に住む体調不良の両親の面倒を妻と2人でみていた場合(北海道コカ・コーラボトリング事件 札幌地決平9.7.23 労判723-62)、重度の皮膚炎の子供2人を共稼ぎの配偶者とともに看護していた場合(明治図書出版事件 東京地決平14.12.27 労判861-69)、重度の子供を自ら看護していた場合(日本レストランシステム事件 大阪高判平17.1.25 労判890-27)である。

なお、最近では、平成13年の育児・介護休業法改正によって子の養育または家族の介護状況に関する使用者の配慮義務が導入され(26条)、労働契約法においても使用者が仕事と生活の調和に配慮すべきことが規定された(3条3項)。したがって今後は、これらの規定が配転命令権の濫用判断の際に参照され、労働者の私生活上の不利益が慎重に検討される可能性がある。