(25)【労働時間】時間外労働

個別労働関係紛争判例集 4.労働条件

※個別労働関係紛争判例集は個別事例について法的なアドバイスをするものではありません。
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1 ポイント

(1)労働者に、労基法の限度を超えて時間外・休日労働を行わせるためには、非常事由による場合等を除き、a.三六協定の締結・届出と、b.時間外・休日労働が労働契約上の義務内容となっていることが必要である。就業規則に、業務上必要ある時は三六協定の範囲内で時間外・休日労働を命じうるという明確な定めがある場合には、それが合理的な内容であると認められる限り、b.の要件を満たす。

(2)労働者に時間外・休日労働を行わせた場合には、労基法37条により割増賃金を支払う義務がある。割増賃金を算定する際に、割増の基礎となる賃金から除外されるものは法により限定されており、それ以外の賃金は全て算入しなければならない。除外賃金に該当するか否かは、名称に関わらず、実質的に判断される。

(3)割増賃金を労基法と異なる方法で算定することや、割増賃金に代えて一定額の手当を支払うことも違法ではない。但し、a.労基法が定める計算方法による割増賃金額を下回らないこと、b.割増賃金の部分とそれ以外の賃金部分とが明確に区別されていること、の2つの要件を満たす必要がある。

2 モデル裁判例

日立製作所武蔵工場事件 最一小判平3.11.28 民集45-8-1270

(1)事件のあらまし

原告側労働者Xは、Y社の工場で製品の品質管理業務に従事していた。Xは、上司から、製品の良品率が低下した原因の究明と手抜き作業のやりなおしを行うために、残業をするよう命じられたが、これを拒否した。これに対して、Xは出勤停止の懲戒処分を受けたが、なお残業命令に従う義務はないとの考えを改めなかった。そこで、Y社は、過去3回の懲戒処分歴と併せ、悔悟の見込みがないとしてXを懲戒解雇した。Xは懲戒解雇が無効であると主張して提訴した。懲戒解雇の効力を判断する前提として、残業命令の適法性が問題となった。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

使用者が、三六協定を締結して労働基準監督署に届け出た場合に、就業規則に、三六協定の範囲内で業務上の必要があれば労働時間を延長して労働者を労働させることができると定めているときは、その就業規則の規定内容が、合理的なものである限り、使用者と労働者の間の労働契約の内容となる。そして、就業規則の適用を受ける労働者は、その定めるところに従って時間外労働を行う義務を負う。

Y社における時間外労働の具体的内容は三六協定によって定められている。そして、本件の三六協定は、使用者が時間外労働を命じうる時間数の上限を設定し、かつ、時間外労働を命じるには所定の事由を必要としている。所定の事由のうち「業務の内容によりやむを得ない場合」等はやや包括的であるが、相当性を欠くとまではいえない。それゆえ、業務上の都合によりやむを得ない場合には三六協定により時間外労働を命じることがあるという、本件就業規則の規定は合理的なものというべきである。したがって、本件の残業命令は適法であり、その命令に従わなかったXに対する懲戒解雇は有効である。

3 解説

(1)時間外労働を命じるための要件

労基法は、労働者に休憩時間を除き一週間について40時間、一日について8時間を超えて労働させてはならないと定めている(労基法32条)。これに違反した使用者には罰則が適用される(労基法119条1項)。

使用者が、労基法の限度を超えて労働者を労働させるには、非常事由による場合(労基法33条)を除き、まず、いわゆる三六協定を締結し届出ること(労基法36条)が必要である。三六協定には、時間外・休日労働をさせる事由、業務の種類、労働者の数、延長できる時間数及び労働させる休日数の上限を定める必要がある(労基法施行規則16条)。時間外労働の上限時間数については、労基法36条2項に基づいて基準が定められている(平10.12.28労告第154号、『労働関係法規集2009年版』(JILPT、2009年)127頁参照)。ただし、この基準は私法上の効力をもたないと解されているので、基準の定める限度を超える三六協定が直ちに無効とされるわけではない。

また、三六協定締結の相手方である「労働者の過半数を代表する者」とは、労基法上の管理監督者(41条2号)に当たらない者で、かつ従業員の意思が反映されるような民主的な手続で選出された者であることが必要であり(労基法施行規則6条の2)、例えば親睦団体の代表が自動的に過半数代表となって締結された三六協定は無効とされる(トーコロ事件 最二小判平13.6.22 労判808-11)。

三六協定の締結・届出により使用者は罰則の適用を免れるが、労働者に時間外・休日労働を命じるためには、三六協定のほかに労働契約上の根拠が必要である。モデル裁判例のように、時間外・休日労働に関して就業規則の一般的な規定(「業務上必要があれば三六協定の範囲内で時間外休日労働を命じうる」)が存在するとき、それが労働契約の内容となっていれば、労働者は使用者の命令により時間外・休日労働を行う義務を負う。就業規則が労働契約の内容となるためには、その内容が合理的でなければならないが、モデル裁判例によれば、適法な三六協定が存在する限り、通常は就業規則の合理性が認められることになる。

ただし、就業規則に基づく一般的な時間外労働義務が認められる場合でも、個々の時間外労働命令について業務上の必要性が存在しない場合や、労働者にやむをえぬ事由(病気など)がある場合には、その命令は権利濫用に当たり無効とされる可能性がある。

(2)割増賃金の算定基礎たる「賃金」

使用者は、労働者に労基法の限度を超えて時間外・休日労働をさせた場合には、労基法37条に基づいて割増賃金を払う義務を負う。現行の法定割増率は、時間外労働については2割5分・休日労働については3割5分であるが、2008年12月の労基法改正により、月60時間を超える時間外労働については割増率が5割に引き上げられた(改正法の施行は2010年4月1日)。また、過半数代表との協定に基づき、月60時間を超える時間外労働に対して割増賃金の支払いに代えて有給休暇を付与することも認められた(37条3項)。

割増賃金の算定に当たり、「家族手当」「通勤手当」等は算定の基礎となる賃金から除外される(労基法37条2項、労基法施行規則21条)。その趣旨は、労働の内容や量と無関係な労働者の個人的事情(扶養家族の有無や数、通勤にかかる費用など)によって額が決まる手当を除外することにあり、これに該当するか否かは、手当の名称に関わらず実質的に判断される。例えば、壷阪観光事件(奈良地判昭56.6.26労判372-41)では、家族構成、通勤距離等の個人的事情に関係なく従業員全員に対して一律に支給されていた「家族手当」「通勤手当」が、実質的にみて除外賃金ではないとされている。逆に名称が生活手当等でも、扶養家族の有無・数により算定される場合は、除外賃金に当たる(昭22.11.5基発231号)。その他、通常の労働時間に対する賃金とは言えない「臨時に支払われた賃金」「1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金」(賞与、精勤手当、勤続手当等)も除外賃金に当たる。

(3)労基法37条と異なる方法による割増賃金の支払い

割増賃金は必ずしも37条所定の方法で算定する必要はなく、異なる計算方法を用いることや、割増賃金に代えて一定額の手当を支払うことも違法ではない。ただし、その場合にはポイント(3)に掲げた2つの要件を満たす必要がある(小里機材事件 最一小判昭63.7.14 労判523-6)。また、歩合給や年俸制が採用されている場合にも、上記と同じ規制が適用される(歩合給について、高知県観光事件 最二小判平6.6.13 労判653-12。年俸制について、創栄コンサルタント事件 大阪地判平14.5.17 労判828-14、システムワークス事件 大阪地判平14.10.25 労判844-79)。