(17)【賃金】休業手当

個別労働関係紛争判例集 4.労働条件

1 ポイント

(1)使用者の責任で、労働者が労務の提供ができなかった場合、労働者は賃金請求権を失わないが、労使の特約によって賃金請求権が発生しない旨の合意もできる。その場合でも、使用者は労基法26条により平均賃金の60%以上を休業手当として支払う義務を負う。

(2)労基法26条で定める「使用者の責に帰すべき事由」は、賃金請求権が発生する場合より広く、不可抗力を除いて、使用者側に起因する経営、管理上の障害も含まれる。

2 モデル裁判例

ノースウエスト航空事件 最二小判昭62.7.17 労判499-6

(1)事件のあらまし

原告Xらは被告Yの大阪と沖縄の営業所に所属する従業員であり、訴外A労働組合の組合員である。Yは羽田地区において、Yの従業員と混用して、訴外B社の労働者をグラウンドホステス業務等に従事させていたが、A労働組合は、これが職業安定法44条の労働者供給事業の禁止に違反するものとして、B社のグラウンドホステスを無試験で正社員にするよう要求し、昭和49年10月16日から18日までの間第一次ストライキを実施した。さらに、A労働組合は東京地区の組合員のみで同年11月1日から12月15日まで第二次ストライキを実施し、羽田空港内のYの業務用機材を格納家屋で占拠したため、羽田空港における地上業務が困難となり、予定便数や路線の変更をせざるを得なくなった。その結果、大阪と沖縄での運行が一時中止となり、Xらの就労を必要としなくなったとして、Yはその間の休業を命じ、賃金を支払わなかった。そこで、Xらはストライキによる休業がYの責任で労働できなかったとして賃金の支払いを請求し(民法536条2項)、これが認められない場合にも、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」にあたるとして休業手当の支払いを求めた。

(2)判決の内容

労働者側敗訴

労働基準法26条は「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合に、さしあたり使用者に平均賃金の6割以上の手当を労働者に支払わせることによって、労働者の生活を保障しようとする趣旨であって、休業が民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」に該当し賃金請求権を失わない場合でも、労働者は休業手当請求権を主張することができる。休業手当制度は労働者の生活保障という観点から設けられたものであるが、賃金の全額を保障するものではなく、使用者の責任の存否により休業手当の支払義務の有無が決まることから、労働契約の一方当事者である使用者の立場も考慮しなければならない。そうすると、「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則である過失責任主義とは異なる観点も踏まえた概念であり、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと理解するのが相当である。今回のストライキは、Xらの所属するA労働組合が自らの主体的判断とその責任に基づいて行ったのであり、Y側に起因する事象ということはできないので、休業手当請求権は認められない(なお、別件で賃金請求権も否定された)。

3 解説

(1)休業手当の趣旨

故意・過失などによって、使用者の責任で就業ができなかった場合、労働者は、反対給付としての賃金の請求権を失わない(民法536条2項、(13)【賃金】参照)。

しかし、使用者の故意・過失とまではいえない事情で、就労できなくなった場合には、賃金請求権は発生しない。そのような事態に備えて、労基法26条は、休業手当の定めをおき、その休業期間中、使用者は労働者に対して平均賃金の6割以上の休業手当を支払うことにより、労働者の生活を保護することとしている。

両規定の違いとして、第一に、休業手当を支払わないと罰則が科され、付加金の支払いが命じられる場合があること(労基法120条1号、114条)、第二に、民法536条2項は任意規定であり、これに反する合意は有効であるが、労基法26条は強行規定であり、同条が定める基準を下回る合意は無効となること、第三に、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」と比べて、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」の範囲の方が広いこと、などがある。

(2)使用者の責に帰すべき事由

使用者の責に帰すべき事由とは、天災事変のような不可抗力の場合を除いて、使用者側に起因する経営・管理上の障害を含む。

第一に、経営障害である。取引先の経営困難のために企業が原料や資材の供給を受けることができない場合、資金難による経営障害に陥った場合(昭23.6.11基収1998号)、関連企業の争議による業務停止に起因する休業(扇興運輸事件 熊本地八代支決昭37.11.27 労民集13-6-1126)、雨天の予報のため元請が工事を中止したため下請けの従業員が就労できなかった場合(最上建設事件 東京地判平12.2.23 労判784-58)、会社が業務を受注できなかったために休業となった場合(大田原重機事件 東京地判平11.5.21 労判776-85)、ゴルフ開発計画の凍結により事務所を閉鎖したものの担当者からの要請で就職せず待機していた場合(ピー・アール・イー・ジャパン事件 東京地判平9.4.28 労判731-84)、派遣労働者が派遣先からの差し替え要求により就労場所(派遣先)を失った場合(三都企画建設事件 大阪地判平18.1.6 労判913-49)などがある。

第二に、争議行為の影響による休業である。モデル裁判例のように、組合員の一部がストライキを行った場合(部分スト)、ストに参加していない組合員の休業手当請求権は、スト参加者と組織的な一体性があり、スト実施の意思形成に関与しうる立場にあることから、否定されている。これに対して、当該労働者が所属しない組合のストライキ(一部スト)によって労務の履行が不可能となった場合については、使用者の責に帰すべき事由の存在を肯定したものがある(明星電気事件 前橋地判昭38.11.14 労民集14-6-1419)。また、正当なロックアウトによる休業の場合にも使用者は休業手当支払義務を負わない(昭23.6.17基収1953号)。

第三に、休職処分による休業である。人身事故を起こしたタクシー運転手に対して司法機関の処分が出るまでの間の特別休職について、これを労基法26条の「休業」に当たるとして平均賃金の6割を使用者が負担すべきとしたもの(相互交通事件 函館地判昭63.2.29 労判518-70)、懲戒委員会の審査の間、労働協約に基づく休職処分を受けた場合、これが使用者の責に帰すべき事由にあたるとして休業手当の支払いを命じたもの(日通運転手アカハタ配布立寄事件 大阪地判昭47.10.13 判時697-93)などがある。

(3)労基法26条の効果

民法536条2項に基づく使用者の責任で労務の提供ができなかった労働者は、賃金そのものの請求をすることができるが((13)【賃金】参照)、例えば、違法な解雇を争って裁判をしている労働者が、その間に他で労働して得た収入(中間収入という)は、同項但書により、賃金の支払いと引き換えに使用者に引き渡すこととされている(通常、請求された賃金額から中間収入を控除する)。労働者が使用者への労務の提供を免れることにより、他から収入を得ることができたのだから、使用者からの賃金の他に二重取りをすることが不合理だからである。

しかし、労基法26条の趣旨から見ると、平均賃金の6割を超えて、中間収入を控除することには疑問が生じる。そこで、判例では、中間収入の控除は平均賃金の4割相当額以内として、平均賃金の6割の支払いは確保すべきであるとされている(米軍山田部隊事件 最二小判昭37.7.20 民集16-8-1656、いずみ福祉会事件 最三小判平18.3.28 労判933-12)。なお、労基法26条違反については、裁判所は、付加金の支払いを命じることができる(労基法114条)。