シェアリングエコノミー従事者の権利をめぐる議論

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シェアリングエコノミーの普及に伴い、従事者の雇用法上の権利をめぐる議論が広がっている。実態は従属的な労働者にもかかわらず、自営業者として扱われることが多いために、最低賃金や休暇の適用など、本来保障されるべき権利が損なわれているとして、使用者を提訴する動きもみられる。このため、労働者や使用者のニーズを考慮しつつ、制度の悪用を防止するための方策の必要性が議論されている。

従事者は約130万人、多くは副業

シェアリングエコノミー従事者に関する公式な統計はないが、シンクタンクCIPDは調査により、従事者数は国内の就業者全体の約4%、およそ130万人との推計を示している(注1)。同調査は、シェアリングエコノミー従事者の特徴をおよそ以下の通りまとめている。まず、一般の労働者に比べて、若年層の比率が相対的に高いとみられる(回答者の年齢階層は、18-29歳層が39%、30-39歳層が30%で、それ以外の労働者ではそれぞれ21%と23%)。また、多くは期間の定めのない雇用に就いている被用者で(58%、それ以外の労働者では78%)、本業としてシェアリングエコノミーに従事している層は全体の25%に留まる(注2)。平均的な時間当たり報酬額は、従事する分野によって異なり、乗客輸送サービスや配送サービスではいずれも6ポンド、短期の仕事の請負で7ポンドなど。場合によって最低賃金を下回る水準にあることが推測される(注3)。なお、安定して仕事が得られているとする層は、26%と少ない。

仕事の機会や金銭面での不安定さにもかかわらず、従事者の多くは、収入や仕事に対して満足していると回答している(収入に満足しているとの回答は51%、仕事に満足しているとの回答は46%)。これには、仕事における独立性・自律性や、働く時間を自ら選択できる柔軟性が影響しているとみられる。ただし、こうした評価は、従事しているサービス分野によっても異なる(図表1)。輸送サービスのドライバーは、総じて報酬水準や自由度の高さに対する満足度が高い傾向にあるが、配送サービス従事者の報酬や仕事への満足度は相対的に低い。また、半数が従事し始めてから12カ月以内、2割は3カ月以内と回答しており、多くが補足的あるいは短期的な金銭的必要を理由に、状況に応じて断続的に従事している状況がうかがえる。

図表1:報酬・仕事における独立性への満足度等
画像:図表1

出所:CIPD (2017) “To gig or not to gig? Stories from modern economy

なお、自らを自営業者と感じている(feel like their own boss)とする従事者は38%にとどまり、感じていないとする47%を下回る。従事者の63%が、労働者としての権利(最低賃金、休暇手当等)の保証に向けて規制が強化されるべきであると回答している。また、シェアリングエコノミー事業者に対して、教育訓練の提供や、職域年金への拠出を義務付けるべきであるとの意見も半数以上を占める(それぞれ58%と50%)。ただし一方で、シェアリングエコノミーに従事することを選択した時点で、より高い柔軟性や独立性と引き換えに、仕事の安定性や労働者としての利益を放棄することを選択している、とする回答も50%にのぼり、従事者の意識の複雑さが窺える(注4)

自営業者か労働者か

シェアリングエコノミー従事者は、通常、自営業者として扱われ、最低賃金や休暇などが適用されないほか、事業者側には社会保険料の拠出が発生しないなど、被用者や労働者とは制度上の扱いが異なる(図表2)。しかし、実態は従属的な労働者でありながら、契約上は自営業者として扱われることで、本来適用されるべき法的な権利が保障されていないとして、従事者が事業者を提訴する動きがみられ、雇用審判所がその主張を認める判決が相次いでいる。

図表2:就業者の区分による雇用法上の権利/保護
画像:図表2

注:雇用法上の就業者の区分は、「被用者」(employee)、「労働者」(worker)及び「自営業者」(self-employed)に大別され、このうち雇用契約に基づく「被用者」に対しては、雇用法制の定める広範な権利が保障される一方、「自営業者」については、差別禁止法制のみが適用される。「労働者」は、被用者のほか、雇用関係は存在しないが就業実態が純粋な自営業者と認められない場合を含む概念。

出所:同上

例えば昨年10月には、ウーバー社のドライバーが労働者としての権利を求めて申し立てを行い、雇用審判所はこれを認める判断を示したところだ。

ウーバー社は、ロンドンを中心に国内の複数の都市で配車サービスのアプリケーションによるプラットフォームを提供している。約4万人のドライバー(うち3万人がロンドン)がこれを通じて予約制ハイヤーサービスに従事しており(注5)、ロンドンではおよそ200万人が利用者として登録されている。

ウーバー社は、配車サービスにかかわる自社の位置付けについて、あくまでアプリケーションの提供者であり、配車サービス自体は乗客との「契約」に基づいてドライバーが提供するもの、としている(注6)。このため同社は、ドライバーの間には雇用関係や委託関係等はなく、ドライバーは同社の「顧客」として配車サービスを提供する自営業者(independent company)である、との立場をとる(注7)

雇用審判所への申し立てにおける原告側(注8)の主張は、ドライバーにはサービスの提供において自営業者としての自律性は認められておらず、ウーバー社によるこうした規定は実態を反映していないというものだ。これには例えば、乗客が乗車するまで目的地は知らされず、目的地までのルートや料金も実質的にウーバー社側の主導で設定されていること、また乗客による評価システムや、配車のオファーに応じた(あるいは拒否・キャンセルした)頻度や比率などによる管理を受け、要求水準に達しない場合にはペナルティ(最も重い場合はアプリケーションの利用停止)も設けられていること、などが挙げられている。こうしたことから、ドライバー側は、自営業者ではなくウーバー社に雇用された労働者(worker)であるとして、最低賃金の適用や有給休暇の付与などの雇用法上の権利を保証することを同社に求めていた。

これに対してウーバー社側は、ドライバーは他社でも働けること、サービス提供の可否やその種類を任意に決められること、車両の運用やライセンス取得の費用もドライバーが負担していることなどを挙げ、彼らは自営業者であるとの従来からの立場を維持している。アプリケーションの利用方法に関して各種の規定を設けている点については、サービスの水準を維持するという両者の共通の利益を反映しているにすぎない、としている。さらに、ドライバーの大半は働く時間や場所を選択できることなどを理由に、自営業者として働くことを自ら選択している、と述べている。

また、ドライバーが労働者と認められる場合、最低賃金制度が適用されるが、その算定には何を労働時間とみなすかが関わる。原告側は、少なくともアプリケーションを利用している(配車依頼を受けられる状態にある)時間については労働時間とすることを求めているが、ウーバー社側は乗客を乗せている時間のみが労働時間であるとしており、両者の主張には開きがある(注9)

雇用審判所は最終的に10月下旬、ドライバーを労働者と認め、最低賃金や有給休暇などの法的権利を保証すべきであるとの判決を示した。判決文は、ウーバー社は配車サービスの提供に中心的な役割を負っているとして、アプリケーションの提供者にすぎないとする同社の主張を一蹴、実際には存在しないドライバーと乗客の間の「契約」や、ドライバーを「顧客」と表現するなど、架空の事柄やいびつな用語などに、懐疑的な立場を明確にしている。また、労働時間の範囲についても原告側の主張を概ね認め、ドライバーがライセンス上営業を認められた地域でアプリケーションを使用している時間は、労働時間とみなすべきとの判断を示した。

ウーバー社側は、判決を不服として控訴を決めている。

このほか、自転車便の配達人などによる同種の申し立てが、相次いで雇用審判所で認められている。いずれの判決も、従事者は自営業者であるとの事業者の主張は実態に即していない、と指摘する内容となっている。

「従属的契約就業者」として一定の権利保護を-専門家レビュー

こうした状況を受けて、政府は昨年、新しい働き方の拡大に付随して不安定の度合いが増している労働者の法律上の扱いについて、シンクタンクRSAのマシュー・テイラー所長にレビューを依頼していた(注10)。今年7月に公表された報告書「良質な仕事」(Good Work)は、「全ての仕事を公正かつディーセントで、発展性と達成感の余地があるものとする」ことを目標に掲げ、デジタル・プラットフォームの登場などで広がりつつある新しい働き方に関して、労働者や使用者の権利と責任、既存の雇用法の枠組みなどを検討、多岐にわたる提案を行っている(図表3)。

図表3:公正かつディーセントで、発展性と達成感の余地のある仕事に向けた7つの提言(要旨)

  1. 仕事の質と量は両立可能であるとの認識に基づき、全ての人に良質な仕事を提供することを目標とすべき。良質な仕事を作る直接の責任は政府にあるが、我々全てが責任を負う必要がある。

    ―全ての就業形態に同じ原則の適用を:公正な権利と責任のバランス、最低限の保護の保証、仕事における発展のルートがあるべき。

    ―長期的には、イノベーション、公正な競争、健全な財政といった観点から、全ての就業形態に一貫した税・社会保険料を適用するとともに、自営業者の各種給付等への権利を改善すべき。

    ―技術変化は仕事や雇用の種類に影響を及ぼし、それは我々にとって適応可能なものである必要があるが、技術はよりスマートな規制、柔軟な権利、生活や仕事の新しい組織の仕方など、新たな機会をもたらす。

  2. プラットフォームを介した仕事は、依頼元とこれを請け負う側の双方に柔軟性をもたらし、従来の方法では働くことが難しい人々に就業の機会を提供する。プラットフォームを介して働く人々や、これと競合する(プラットフォームを介さずに働く)人々にとっての公正さを確保しながら、こうした機会を保護すべきである。労働者(「従属的契約就業者」への名称の変更を提案する)という法律上の区分は維持すべきだが、労働者と適正な自営業者をより明確に区別する。
  3. 法律とその周知・執行は、企業が正しい選択を行い、個人が自らの権利を知ってそれを行使することを助けるものであるべきである。被用者にとっての労働慣行の改善をはかる方策は複数あるが、人を雇用する際の追加的な、概ね賃金外のコスト(employment wedge)はすでに高いことから、これをさらに引き上げることは避けるべきである。「従属的契約就業者」は、不公正な一方的柔軟性に最もさらされやすいため、追加的な保護や、企業が彼らを公正に扱うことへのより強いインセンティブを提供する必要がある。
  4. より良い仕事を達成する最良の方法は、全国的な規制ではなく、組織における責任あるコーポレートガバナンス、良い経営、強力な雇用関係にある。企業が良質な仕事について真剣に受けとめ、自らの組織の慣行をオープンにすること、また全ての労働者がこれに関与し意見を云うことができることの重要性もここに生じる。
  5. 全ての人が将来の仕事により良い展望を持ち、労働人生の始まりから終わりに至るまで、公式・非公式の学習や職場内外での訓練によって発達した能力について記録し、強化できることが、労働者や経済にとって重要である。
  6. 仕事の形態や内容と、個人の健康や厚生には強力なつながりがある。企業、労働者、あるいは一般の利益のため、職場における健康について、より予防的なアプローチを発達させる必要がある。
  7. 全国生活賃金は、低賃金労働者の経済的な基盤の向上のために強力なツールである。とりわけ低賃金部門の労働者が、生活賃金レベルの低賃金から抜け出せなかったり、あるいは雇用の不安定さに直面することなく、現在・将来の仕事を通じた発展を可能とするため、使用者、労働者、その他の利害関係者を交えた業種毎の取り組みが必要である。

出所:“Good Work

一連の提案の柱は、雇用法上の権利の明確化だ。報告書は、新しい働き方が従事者と使用者の双方にもたらす柔軟性の利益を強調しつつ、柔軟性に伴うリスク(仕事や収入の不安定さ)を従事者の側が一方的に引き受ける状況は公正さを欠いているとして、制度改正による対応の必要性を主張している。

このための具体的な方法として、報告書は現在の三区分を維持しつつ、労働者を被用者と自営業者の中間に明確に位置付ける方策として、法律上の「労働者」を「従属的契約就業者」(dependent contractor)に変更することを提案、これに該当するための基準要件を立法やガイダンスにより示し、自営業者との区別を明確化することで、労働者自身(あるいは使用者)に自らの法的な位置づけが容易に判断可能とするよう提言している。その際、労働者と自営業者を区別する基準として従来重視されてきた、代替要員による役務提供を契約上認めているか否かよりも、使用者による管理(報酬額や、業務に関わる指揮命令など)の度合いを重視するよう求めている(注11)

基準に基づいて、従属的契約就業者に該当すると認められた者には、労働者相当とみなして傷病手当や休暇手当に関する権利を与えるべきであるとする一方で、最低賃金の自動的な適用については、報告書は慎重な立場を取る。多くが従属的契約就業者に相当するとみられるシェアリングエコノミー従事者は、働く時間や提供された仕事を受けるか否かを選択することができることから、例えば閑散期であることを知りつつ仕事をする場合や、時間当たりの成果が平均を下回る場合などについては、労働時間に基づく最低賃金の適用は適切ではない、との考え方による(注12)。このため、当該の業務における平均的な報酬が最低賃金の1.2倍以上となることを使用者が示すことができれば、現行の最低賃金制度における出来高払い(piece rate)を適用することを提言している。併せて、プラットフォーム事業者に対して、蓄積されたデータに基づき、時間ごとの業務量の状況をリアルタイムで従事者に提供することを義務付ける可能性の検討を政府に提案している。

参考資料

参考レート

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