ブラジルで労働規制が大幅に緩和

ミシェル・テメル大統領の主導する労働法改革が、2017年7月11日、上院議会の承認を受け、施行が決定された。改革推進派は、改正によって労働市場の現代化と経済の再活性化が実現されるとするが、労働組合や市民からは、労働者の権利を弱め、使用者の裁量を拡大する改正だとして強い反対の声が上がっている。

労働者の孤立が進むか

ブラジル社会にとっては、1943年の労働法(ポルトガル語名称はConsolidação das Leis de Trabalho(労働法集成))制定以来の歴史的な大改革である。100条項以上に及ぶ変更の中には、労働法に対する労働協約の優先、雇用契約や就業形態の多様化、企業の全活動へのアウトソーシングの開放など、重要な改正が数多く含まれる。

労使関係で最も注目されるのは、基本的な労働条件について労働協約が労働法に優先されるとする改正である(注1)。これにより、労働法を逸脱する労働条件を労使間交渉で決定することが可能となる。さらに、高等教育の学位と一定以上の給与をもつ労働者(注2)は、労働法や労働協約に縛られず、使用者と個別に契約を交渉できるとする。これらのことが、労働組合の力を弱め、労働者を孤立させるとの批判を受けている。

その他、組合の脅威となる改正事項として、これまで労働者の義務であった組合費の拠出が自由意思となる。また、200人以上の従業員を有する企業では、労働組合に帰属しない従業員代表委員会の創設が可能となり、使用者と労働条件の交渉を行うことが可能となる。

労使紛争に関しては、労働者が訴訟を提起する際の条件が厳格化された。ブラジルでは、労働者が使用者を訴える裁判が頻繁に起こされる。改正法では、弁護士・裁判費用や証明責任等の労働者負担が増加し、悪意ある訴訟には罰金が科されるなど、労働者による訴訟に一定の歯止めをかける内容となっている。

労働条件の領域で注目されているのは、12時間労働の合法化である。改正により、労働時間は法定の週44時間(残業は4時間まで可)を超えない限り1日12時間まで延長可能となった(直後36時間の休息を条件とする)。これには労働組合の許可を必要とせず、使用者と労働者が個別に取り決めることができる。休暇日数については3回まで分割可能とするなど(注3)、労働時間・休暇期間の柔軟な運用が進められる。

アウトソーシングの全面開放、新しい雇用形態、容易な解雇

アウトソーシングについては、これまで労働法の定めはなかったものの、判例により企業の副次的業務についてのみ可能とされてきた。改正によって、企業の中核的業務も含めたあらゆる業務でアウトソーシングが可能となる。

その他注目される改正として、労働者と使用者の継続的な関係を必要とせず、「断続的労働」や「断続的契約」と呼ばれる新たなタイプの雇用形態が作られる。労働期間と非活動期間が交互にあり、労働時間および労働日数・月数が不確定で非連続的な業務が対象である。非活動期間における労使関係は、労働契約として書面で明記されれば、存在しないものとする。

解雇に関する改正も多い。使用者は、労働者を解雇する場合、労働組合または労働雇用省の承認を受ける必要があったが、改正後はこれが不要となる。整理解雇の場合も、労働組合の承認が必要とされていたが、今後は不要となる。また、解雇時には通常、使用者は勤続年限保証基金への上積み(注4)を支払わなければならないが、労働者と使用者が「相互に合意した解雇」では、これが半額になり、労働者への事前通知は30日から、15日前へと短縮される。また「合意した解雇」では、労働者は失業保険受給の権利を失う。

本改正については、11月の発効までに改正案への修正が行われる可能性がある。南北アメリカ諸国の主要な労働組合が加盟する国際労働組合総連合・米州地域組織(CSA-TUCA)は、ブラジルとの競争力を確保する目的から、周辺諸国での規制緩和が進展すれば、労働者の権利や労働条件が後退するのではないかと警告を発している。

(和田佳浦 早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程)

参考文献

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