主要国の外国人労働者受入れ動向:アメリカ

  1. 制度概要
  2. 制度改正・最近の動向等(現在審議中の法案)
  3. 流入・流出・在留状況
  4. 社会保障制度
  5. 労働市場に与える影響
  6. 社会統合政策

1.制度概要

アメリカの外国人労働者受入れ制度は二つに分かれる。

一つは移民として永住権を付与するものであり、もう一つは、期間を限定した就労を目的に査証(ビザ)を発給するものである。このうち、永住権を付与する数がビザを発給する数を上回っている。2012年の永住査証の発給数は103万1,631、短期就労査証の発給数は61万1,912だった。

査証の期限が切れた後も国内に不法に滞在している、もしくは査証を持たずに入国して就労している労動者の数が政治的な論点となるほど多いという特徴もある。2007年から現在に至るまで、こうした外国人労動者に就労を許可するビザを発給し、将来的には永住権を付与する道を開くための法改正が議論されているが、いまだ成立をみていない。

  • 1924年 移民法(Immigration Act of 1924)
  • 1952年 移民及び国籍法(Immigration and Nationality Act of 1952)
  • 1965年 改正移民法(Immigration and Nationality Act Amendments of October 3, 1965)
  • 1986年 移民改革統制法(Immigration Reform and Control Act of 1986)
  • 1990年 移民法(Immigration Act of 1990)
  • 1996年 不法移民改正及び移民責任法(Illegal Immigration Reform and Immigrant Responsibility Act of 1996)
  • 1996年 個人責任及び雇用機会調和法(Personal Responsibility and Work Opportunity Reconciliation Act of 1996)
  • 1998年 米国の競争力及び労働力改善法(American Competitiveness and Workforce Improvement Act of 1998)
  • 2002年 国土安全保障法(Homeland Security Act of 2002)
  • 2000年 21世紀における米国の競争力法(American Competitiveness in the 21st Century Act of 2000)
  • 2004年 H-1Bビザ改正法(H-1B Visa Reform Act of 2004)
  • 2009年 アメリカ人労働者を雇用する法(Employ American Workers Act)

永住権および就労目的の査証を発給するための制度は、移民法によって定められている。この移民法は、環境の変化に伴い、改正を重ねてきた。

アメリカは、移民を中心として建国された歴史的経緯を持つ。当初は西ヨーロッパを母国とする外国人が中心だったが、東および南ヨーロッパ、アジアからの移民が急増するに従い、すでに特定の分野で職を得ていた移民が既得権を脅かされることを危惧したことから、出身国別に永住権の割り当てに制限を設ける目的で1924年に移民法(Immigration Act of 1924)が制定された。具体的には、東ヨーロッパ、南ヨーロッパ、アジアからの移民急増を防ぐ意図が込められていた。続く、1952年移民及び国籍法(Immigration and Nationality Act of 1952)は、職業能力に基づく査証の発給を初めて定めたものであり、現在まで基本的な考え方が引き継がれている。

1924年移民法は数度の改正を経て、このような背景により、移民として外国人に合法的な永住権を付与する手続きを軸に、期間を限定した就労を目的に査証を発給する手続きが付加された法律となっている。したがって本稿では、合法的に永住権が付与された外国人を「移民」、期間を限定した就労を目的に査証を発給された外国人を「外国人労動者」、査証を持たない、もしくは査証の期限が切れても不法に滞在している外国人を「不法滞在の状態にある外国人(労動者)」として記載する。

出身国別の割り当ては1965年改正移民法(Immigration and Nationality Act Amendments of October 3, 1965)で撤廃されたが、これにより、アジア、ラテンアメリカ、カリブ海諸国からの移民の道を開いた。1980年代になると、中米諸国は出生率の上昇と死亡率の低下で人口が急増し、政情不安と経済危機により職を失った人々が大挙してアメリカに押し寄せたが、永住権も査証も持たない人が多く含まれていた。こうした外国人労動者に合法的に就労できる道を開くともに、非合法に新しく入国することを防ぐ施策を織り込んだものが、1986年移民改革統制法(Immigration Reform and Control Act of 1986)だった。

1990年移民法(Immigration Act of 1990)では、1952年移民及び国籍法で定めた職業能力に基づく基準を、家族の呼び寄せ、職業能力、多様化プログラムの三つに拡大、整備した。新たに設けられた多様化プログラムは、移民として受入れた数が少ない国からの永住権希望者を抽選で選ぶ道を開いた。あわせて、高度技能者を対象とした査証、H1Bを新設した(1992年の発給数は6万5,000)。

不法滞在の状態にある外国人労動者が永住権を取得する道を開いた1986年移民改革統制法のあと、外国人労働者に対する社会保障制度の適用が厳格化されることになった。1996年不法移民改正及び移民責任法(Illegal Immigration Reform and Immigrant Responsibility Act of 1996)と個人責任及び雇用機会調和法(Personal Responsibility and Work Opportunity Reconciliation Act of 1996)が、不法滞在者に対する社会保障サービスの受給禁止と永住権保持者が受給できる社会保障サービスの種類をレベルによって限定したのである。

1990年移民法で新設されたH1Bビザは、1998年米国の競争力及び労働力改善法(American Competitiveness and Workforce Improvement Act of 1998)で発給数が拡大された。

外国人労動者の受入れに大きな影響を与えた事件が2001年9月11日におこる。同時多発テロ事件である。2002年国土安全保障法(Homeland Security Act of 2002)により、国土安全保障省が新設され、査証を持たない外国人労働者の摘発、拘留が拡大することになった。

ブッシュ政権下の2007年には、移民法改革法案(Secure Borders, Economic Opportunity and Immigration Reform Act, S.1348)が連邦議会に提出された。法案は、1986年移民改革法と同じ様な性格をもっていた。その内容は、2007年1月以前に不法入国した外国人滞在者に対して新たなカテゴリーの査証(Z)を付与することで将来的に永住権の道を開くものだった。5,000ドルの罰金と手数料を支払うことで申請が可能で、英語の能力試験で一定の成績を収めることと犯罪歴がないことが条件だった。査証は8年間有効で、その後は500ドルで更新が可能とした。あわせて、H2AとH2Bという技能レベルが低い単純労働者(ゲストワーカー)に対する査証の再発給について規制を強化することが盛り込まれた。議会での議論には結論がでず、移民法は改正されなかった。

2008年にはリーマン・ブラザーズ証券の破綻を契機にした経済危機を迎えたことで、米国籍を持つ労働者の雇用を守る2009年アメリカ人労働者を雇用する法(Employ American Workers Act)が施行された。これにより、外国人を雇用するために米国籍を持つ労働者を解雇することが禁じられたほか、企業がH1Bビザを持つ外国人を雇用する場合の基準が厳しくなった。

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2.制度改正・最近の動向等(現在審議中の法案)

2013年6月27日に連邦議会上院を通過したものの、結論がでていない法案が「国境安全、経済機会、および移民近代化法(Border Security, Economic Opportunity, and Immigration Modernization, S.744 」である。この法案は、共和党マケイン上院議員を筆頭に超党派の議員8名が提出したことから、別名でギャング・オブ・エイト移民法と呼ばれている。

その内容は、(1)不法滞在の状況にある外国人労働者に暫定移民登録(RPI:Registered Provisional Immigrant)をさせ、将来的に永住権を付与する道を開くこと、(2)16歳未満で渡米して高校卒業もしくは高校卒業認定試験(GED)に合格した者に永住権(グリーンカード)支給の道を開くこと、(3)家族の呼び寄せ手続きの迅速化、および規制強化、(4)国境警備の強化、の四つからなる。

RPIの申し込みは、罰金として1,000ドルと身辺チェックが必要になる。申し込みが受理され審査に通れば、6年間の滞在が許可され、6年後に再び同様の審査が必要になる。最初の申請から10年で1,000ドルの罰金を再び払い、永住権(グリーンカード)の申し込みが可能となる。審査に通ればそれから3年後にグリーンカードが支給される。

16歳未満の若年者のRPIの申請には1,000ドルの罰金の支払が免除される代わりに、2年間の大学在籍もしくは4年間の軍務が必要となり、あわせて身辺調査、英語能力試験、米国市民としての常識試験に合格しなければならない。PRIが受理されてから5年後に永住権(グリーンカード)の取得が可能であり、永住権取得直後に市民権の申請が認められる。

2014年11月の中間選挙を経て、連邦議会は上院、下院ともに共和党議員が過半数を占めたことにより、移民法改革の先行きは難しくなったとみられている。これを受けて、11月21日にオバマ大統領はPresident Action(注1)を発表した。その内容は、現在、不法滞在の状態にある外国人の本国への送還を留保するものや、ホワイトハウスに移民制度改革のための省庁横断的なタスクフォースをつくることなどである。

不法滞在の状態にある外国人で本国への送還が留保されるのは、5年以上米国に滞在し、子供が市民権を持つ、もしくは合法的な滞在査証を有しており、犯罪歴がなくかつ納税の意志があって登録した者に限られる。また、制度改革のためのタスクフォースは、120日以内および1年以内のレポート提出を義務付けている。

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3.流入・流出・在留状況

(1)短期就労査証

短期就労査証を保持する労動者数のストックは、2012年度の短期就労者とその家族が3,049,419人、短期就労者と研修生が1,900,582人だった。

短期就労者とその家族 (人)
2008年 2009年 2010年 2011年 2012年
1,949,695 1,703,697 2,816,525 3,385,775 3,049,419
短期就労者と研修生 (人)
2008年 2009年 2010年 2011年 2012年
1,101,938 936,272 1,682,133 2,092,028 1,909,582

2012年度の内訳は、高度技術者向けのH1Bが473,565人、特定地域への看護師H1Cが29人、短期季節農業H2Aが183,860人、短期非農業従事者H2Bが82,921人、研修H3が4,081人、卓越能力者・スポーツ・芸術家・芸能人とその家族、O1、O2、P1、P2、P3合計で176,936人、国際文化交流Q2,494人、NAFTA専門家TN739,692人、企業内転勤者L1が498,899人、企業内転勤者の家族L2が218,994人、貿易駐在員・投資駐在員E1、E2,E3が386,472人、報道関係者Iが44,472人だった。

短期就労査証を保持する労動者数のフロー、つまり新規に査証が発給された外国人労動者(H、L、O、P、Q)の合計は、367,305人だった。そのうち、H1Bが135,530人、H2Aが65,345人、H2Bが50,009人、L1が62,430人、O1とO2が15,947人、P1~P3が33,020人、Q1が1,632人だった。そのほか、Hビザ保有者の家族が80,015人、L1の家族が71,782人だった。

企業内転勤や駐在員、その家族等を除くいわゆる短期就労ビザであるHのうち、滞在期間は、H1Bで初回が三年、最長六年までの延長、短期季節農業と短期非農業のH2AとH2Bで初回一年、最長三年までの延長、H3が最長二年となっている。H1Bの申請に際し、雇用主は、連邦労働省に雇用契約の内容や条件に関する労働条件申請書を提出する必要がある。同様にH2Aは雇用主が非移民労働者請願書 I-129 の提出、H2Bが適格な米国人労働者がいないことを確認する労働省の証明を取得する必要がある。

(2)合法的移民

永住権査証の発給数は2012年に1,031,631人(注2)で、そのうち雇用関係に基づくものが143,998人だった。雇用関係に基づく永住権取得には優先順位がある。1位が卓越技能労動者、2位が知的労動者、3位が専門職、熟練・非熟練労動者、4位が特別移民、5位が投資家となっている。

(3)不法滞在の状態にある外国人

続いて不法滞在の状態にある外国人の数である。正確な数字を把握することができないため、アメリカ地域社会調査(ACS; the American Community Survey)による外国生まれの住民の数と国土安全保障省(the Department of Homeland Security)が把握している永住権を取得した移民の数から、国土安全保障省が推計している。

2012年の推計値は1,143万人だった。

未認定の移民人口の入国時期 推計人口(2012年1月)
入国時期 人数(単位:人)
全年 11,430,000 100
2005-2011 1,540,000 14
2000-2004 3,250,000 28
1995-1999 2,920,000 26
1990-1994 1,720,000 15
1985-1989 1,110,000 10
1980-1984 890,000 8

参考資料:国家安全保障省

入国時期は、1980年から84年が89万人で全体の8%、85年から89年が111万人で全体の10%、90年から94年が172万人で全体の15%、95年から99年が292万人で全体の26%、2000年から04年が325万人で全体の28%、05年から11年が154万人で全体の14%だった。全体の54%、617万人を占める1995年から2004年がもっとも多かったことがわかる。こうしたことが、2007年ブッシュ政権下の移民法改革法案、現在審議が続いている「国境安全、経済機会、および移民近代化法」の議論の背景にある。

不法滞在の状態にある外国人のストックは、2000年の850万人、2005年の1,050万人、2006年の1,130万人、2007年の1,180万人と上昇したのち、2008年に1,160万人と下降し、2009年に1,080万人、2010年に1,160万人、2011年に1,150万人、2012年に1,140万人と再び上昇している。なお、2009年までは2000年の国勢調査、2010年からは2010年の国勢調査を使った推計値であり、2000年の国勢調査を基にした2010年の推計値は1,080万人だった。

不法滞在の状態にある外国人は、短期就労査証を保持しないか期間が切れている者のことをいう。こうした外国人が就労している場合、移民税関捜査局(Immigration and Customs Enforcement :ICE)が事業所に立ち入り捜査により検挙し、本国に送還している。

2010年から11年にかけて、アリゾナ、インディアナ、ユタ、ジョージア、アラバマの各州は、不法滞在の状態にある外国人の取り締まりを強化するための州法を制定した。その内容は、雇用する労動者の身元を明らかにする社会保障番号の照合をオンラインで行なうことや、州警察による取り締まりの強化を含んでいた。

しかし、2012年に連邦最高裁判所によりそうした州法の大部分が違憲とされた。たとえば、アラバマ州では(1)証明書類の携帯義務(2)求職、就労の禁止(3)不法滞在が疑われる場合の令状なしの逮捕(4)警官による無作為の確認、の四つが州法に織り込まれていたが、(4)を除き違憲とされている。

こうした取り締まりにおいても、雇用主が届け出ない、就労可能な知人の情報を使って書類を届けている、といったような場合は取り締まることが難しいのが現状である。

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4.社会保障制度

(1)移民法改正による外国人に対する社会保障給付適用の除外

1996年不法移民改正及び移民責任法(Illegal Immigration Reform and Immigrant Responsibility Act of 1996)により、新たに「第5章外国人に対する社会保障給付の制限(TITLE V—RESTRICTIONS ON BENEFITS FOR ALIENS)」が加わった。

第501条は、虐待を受けた外国人社会保障除外の例外(SEC. 501. EXCEPTION TO INELIGIBILITY FOR PUBLIC BENEFITS FOR CERTAIN BATTERED ALIENS.)として、配偶者、親、家族のほかの成員等により虐待を受けた者が必要とする社会保障が受けられることとし、関連して1996年個人責任及び雇用機会調和法第431条が修正された。

第502条では、不法滞在の状態にある外国人に対する自動車運転免許の発給を取りやめるパイロットプログラムについて記載されている。第503条は、不法滞在の状態にある外国人が社会保障給付の受領資格を1996年12月1日で失うとした。

第505条は、不法滞在の状態にある外国人が大学等の高等教育機関に進学する際の補助を受ける権利を1998年7月1日以降に失うとした。

第510条は、1977年フードスタンプ法のもとで現在援助を受けている資格のある外国人は、1997年4月1日から年8月22日までに再認定を受けることになるとした。

市民権もしくは永住査証を申請中の合法的にアメリカに居住する外国人とその保証人の負担を第551条が定めている。市民権もしくは永住査証を取得する前に、外国人が社会保障給付を受けた場合、保証人が給付額を政府機関に返納しなければならない。また、保証人は貧困ラインの125%と同額の金額を生活費として援助する義務があるとする。

貧困層向けの住宅補助受給の制限もある。第576条は、住宅地域開発法第214条の改正をともない、家族のうち少なくとも一人に受給資格がなければならないとする。

(2)移民に対する社会保障についての財政負担に関する批判

1996年不法移民改正及び移民責任法と個人責任及び雇用機会調和法、住宅地域開発法の改正により、不法滞在の状態にある外国人および市民権と永住権を申請中の外国人のどちらも社会保障負担の適用から除外された。

保守系シンクタンク、移民研究センター(Center For Immigration Studies(注3))は、全米研究評議会(NRC; National Research Council(注4))とヘリテージ財団(the Heritage Foundation)の報告を引用して、合法、不法を問わずアメリカに滞在する外国人に対する財政負担が大きいとする。

NRCは、1997年の研究報告において、外国人世帯が合法であれ不法であれ、1996年の純財政負担が114億ドルから202億ドルの範囲にあることを推計した。この額は教育水準に大きく影響を受けているとしており、高校卒業未満であれば一人あたりの生涯の財政負担は89,000ドル、高校卒業であれば31,000ドルの財政負担となるが、それよりも上の教育を受けている場合は逆に105,000ドルの税収増となるとしている。

ヘリテージ財団は2013年の研究報告において、不法移民は世帯平均で税金の支払よりも14,400ドルほど多くの社会保障給付を受けており、年間総額で550億ドルに達するとしている。とくに不法滞在の状態にある外国人労働者の場合、平均で10年ほどの教育しか受けておらず、そのことが財政支出にもっとも大きな影響を与えているとする。

移民研究センターでも、2004年の研究報告において、不法滞在の状態にある外国人労働者が低学歴の場合、合法化されて社会保障給付を受けられることとなれば、一世帯あたり7,700ドル、合計で年間290億ドルの歳出超過(納税額―社会保障支出)をもたらすことになるとし、移民法改革が政府へ大きな財政負担になると主張している。

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5.労働市場に与える影響

2007年移民法改革法案の成立が頓挫し、ギャング・オブ・エイト移民法でも賛否が拮抗して成立が難しい状況が続いている。合法、非合法を問わず外国人労働者の存在が米国生まれの労働者の経済的状況を脅かすか否かが対立の論点となっている。賛成側は肯定的なところのみ、反対側は否定的なところのみを強調しており、どちらも長期的に条件が変わった場合について深く検討されているわけではない。中立的な立場からでは、短期的には米国生まれの労働者の賃金をわずかに下げるが、経済市場規模が拡大するために長期的にはプラスに働くというようにプラス、マイナスをあわせて考慮している。

米国の各州から選出される連邦議員にとって、外国生まれである者が人口のかなりの比率を占める州とほとんどいない州とで、また、メキシコと国境に近接する州であるか否かにより、立場が大きく異なっているということが、連邦議会で妥協点をみつけることが難しい状況を招いている。以下、労働市場へ与える影響を中心に反対、賛成派それぞれの論点を示す。

(1)移民研究センター―低学歴低スキル労働者の受入れはデメリットが大きい

保守系シンクタンク、移民研究センター(Center For Immigration Studies)は合法、不法を問わず移民および外国人の就労に否定的な立場をとっている。

2013年3月に発表した「米国おける移民の財務・経済上のインパクト(The Fiscal and Economic Impact of Immigration on the United States)」では、移民研究を専門とする労働経済学者、ハーバード・ケネディ・スクールのGeorge Borjas教授の研究成果を引用する。

それによれば、合法であれ不法であれ外国人労働者の存在はアメリカで経済規模を毎年11%(1兆6000億ドル)ずつ押し上げているものの、GDP押し上げ分の97.8%が外国人労働者の賃金と社会福祉のために向けられているとする。

賃金については、毎年推計で4,020億ドルの賃下げを米国生まれのアメリカ人にもたらす一方で、外国人労働者を使用する側の収益又は所得を4,370億ドルほど増加させているとする。外国人労働者が1%増加すると賃金が0.3%下降するとのNational Research Council (NRC)の調査結果も引用している。

雇用については、米国生まれのアメリカ人の人口が増えているにもかからず、雇用増のほとんどが外国人に向かっているとする。具体的には2000年の第1四半期から、2013年の第1四半期までの13年間に、16歳から65歳の米国生まれのアメリカ人の生産年齢人口が1,640万人増で、外国人が880万人増だったが、過去13年間の雇用は、米国生まれのアメリカ人が130万人減少する一方、外国人労働者が530万人の増加となっており、雇用増の全てが外国人労働者に向かっているとする。

(2)カリフォルニア大学サンディエゴ校Gordon Hanson「The Economic Logic or Illegal Immigration」

保守系シンクタンクの移民研究センター、NRC、ヘリテージ財団は低学歴外国人労働者がもたらす米国生まれのアメリカ人に対する賃金、雇用におけるマイナスのインパクトと社会保障と教育における財政負担を強調する。とくに、教育レベルの低さが財政負担を増していることを強調する。その一方で、そうした外国人労働者や子どもに対する職業訓練や教育の効果については語ることはない。つまり、外国人労働者が米国生まれのアメリカ人に対する経済的なマイナスのインパクトのみを強調する。それに対して、カリフォルニア大学サンディエゴ校Gordon Hanson教授はプラス、マイナスの影響を上げることを通じて、アメリカがかかえる外国人労働者問題の論点を明らかにしようとしている。

ピュー・ヒスパニック・センター(Pew Hispanic Center)が2005年に行った調査では、回答者の53%が不法滞在の状態にある外国人労働者の母国への送還を望んでいる一方で40%がなんらかの保護が与えられるべきだとするように国論を二分しているとする。

アメリカは過去30年間で外国生まれの人口が増え続けている。その数字は1970年の960万人から3,500万人を超えるほどになっている。全米で均一に外国人労働者が存在しているわけではなく、カリフォルニ州の28%、ニューヨーク州の21%のように州人口の決して少なくない人数を占める州がある一方で、ほとんどいない州もある。これが社会保障費や教育費負担の差を州別に産むことになり、政治的な対立を招く原因だとしている。

合法的に永住権を取得する外国人労働者はハイエンド、不法滞在の状態にある外国人労働者はローエンドの能力という違いもある。移民人口の33%が高卒未満であり、米国生まれの12%と比べれば高い。ローエンドの労働者を必要とするのは、主として農業、グラウンドメンテナンス、建設、食品調理であり、それぞれ45%、34%、26%、24%が外国人労働者となっている。高卒未満の米国生まれのアメリカ人は1960年には50%に達していたが、現在では12%に過ぎず、米国生まれのアメリカ人だけではローエンドの仕事を充足できないのが現実であるとする。

こうした特徴から、外国人労働者の活用における勝者(Winners)は雇用主と消費者であり、敗者(Losers)は競争相手となる労動者だとする。そのうちの最大の勝者は農業事業主、工場事業主、日雇い労動者を活用する建設業者である。

Gordon Hanson教授は、外国人労働者の活用のGDPに与える影響は年率マイナス0.1%減だが、経済規模が拡大することにつながるため、外国人労動者の子どもを教育することで最終的には生産性を高めることになるとする。

(3)移民法改革推進派

ギャング・オブ・エイト移民法を提出した共和党マケイン上院議員の経済ブレーンDouglas Holtz-Eakinはダイナミックスコアリング(Dynamic Scoring)という発想で、移民法改革による10年間の経済効果がGDP成長率を0.9%、10年後の一人あたりGDPを1,700ドル押し上げ、連邦政府の財政赤字を10年間の累積で2兆7000億ドル減少させると2013年に試算した。

サンフランシスコ連邦銀行、アトランタ連邦銀行もそれぞれレポートを出している。

サンフランシスコ連銀は2010年にGiovanni Periが短期的にも長期的にも外国人労動者が米国生まれのアメリカ人労動者の雇用を奪っている証拠がなく、長期的にはアメリカ生まれの労働者の賃金と生産性を引き上げるとした報告書を出した。

住宅資産を外国人労動者が引き上げているとの報告もある。

外国人労働者は消費者としてアメリカ経済を支えている。また、荒廃しているためにミドルクラスのアメリカ人が住みたがらない地域に不動産を購入するもしくは借家として生活することで、本来であれば空き家となる場所の不動産価値を高めるとともに、その地域の周辺に居住するミドルクラスの居住する不動産価値を高めているとする。

リベラル系シンクタンク、アメリカの進歩センター(Center for American Progress)は不法滞在の状態にある外国人に合法的に就労することや市民権を取得することで、職業訓練や教育を受ける機会が高まるとともに、賃金の高い職に就くことが可能になるために、GDP、米国生まれのアメリカ人の収入、連邦税・州税、外国人労動者の収入、雇用数において、2013年、5年後、10年後で試算をし、早ければ早いほど経済効果が大きいことを指摘した。

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6.社会統合政策

外国人労動者とその家族の社会統合は、市民権を付与するプロセスの帰化テスト(The Naturalization Test)のなかで行なわれる。帰化テストは、歴史や社会について尋ねる市民テスト(Civic Test)と英語テスト(English Test)の二つからなる。

子どもの教育については、1982年のプライラー対ドゥ判決(Plyler v. Doe case)により、公立学校で無償の教育を受ける権利があることが最高裁で確認されている。

各州の教育省や教育委員会は連邦政府の助成金により、外国人の子弟に対する教育をすすめている。管轄は連邦教育省。

連邦教育省には、成人教育と移民の社会統合を目的とする部門もある。職業および成人教育局(Office of Vocational and Adult Education)である。主要な事業は、(1)効果的でイノベイティブな英語教育プログラムへの移民のアクセスの改善、(2)市民権取得へ向けた道筋へ移民をサポートすること、(3)教育訓練による移民のキャリア開発の支援である。

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注:

参考資料:

  • Americas Society/Council of the Americas (AS/COA) and Partnership for a New American Economy (PNAE), (2013), NEW DATA SHOW IMMIGRATION ADDED $3.7 TRILLION TO U.S. HOUSING WEALTH, Analysis of U.S. Census Data by Americas Society/Council of the Americas and the Partnership for a New American Economy Finds That Immigration Helped Stabilize Communities Where Home Prices Have Declined
  • BAKER, BRYAN AND RYTINA, NANCY (2013) Estimates of the Unauthorized Immigrant Population Residing in the United States: January 2012, Office of Immigration Statistics Homeland Security.
  • Camarota, Steven A. (2013) The Fiscal and Economic Impact of Immigration on the United States, Center for Immigration Studies
  • Federal Reserve Bank of Atlanta (1997), How Has Immigration Affected the U.S. Econnomy?, Economics Update, Federal Reserrve Bank of Atlanta.
  • Hanson, Gordon, (2005) Examining the Economic Impacts of Immigration
  • Hanson, Gordon H. (2007) The Economic Logic of Illegal Immigration, Council on Foreign Relations
  • Holtz-Eakin, Douglas (2013a) Immigration Reform, Economic Growth, and the Fiscal Challenge, American Action Forum
  • Holtz-Eakin, Douglas (2013b) Study: Immigration Reform, Economic Growth, and the Fiscal Challenge, American Action Forum
  • Immigration Policy Center (2014) An Immigration Stimulus, : The Economic Benefits of a Legalization Program.
  • Lynch, Robert and Oakford, Patrick (2013) The Economic Effects of Granting Legal Status and Citizenship to Undocumented Immigrants, Center for American Progress
  • Martin, Jack and Ruark, Eric A. (2010) The Fiscal Burden of Illegal Immigration on United States Taxpayers, Federation for American Immigration Reform
  • MONGER, RANDALL AND YANKAY, JAMES U.S. (2013) Lawful Permanent Residents: 2013, Office of Immigration Statistics Homeland Security.
  • Office of Immigration Statistics Homeland Security (2013) 2012 Yearbook of Immigration Statistics
  • Peri, Giovanni (2009) The Effect of Immigration on Productivity: Evidence Frome US States, NBER Working Paper 15507.
  • Peri, Giovanni (2010) The Effect of Immigrants on U.S. Employment and Productivity, Federal Reserve Bank of San Francisco, Economic Letter, Aug. 30, 2010.

参考:

  • U.S. Department of Education, Office of Vocational and Adult Education ウェブサイト
  • 1米ドル(USD)=117.39円(※みずほ銀行ウェブサイト新しいウィンドウ2015年1月19日現在のレート参考)

2015年1月 フォーカス: 主要国の外国人労働者受入れ動向

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