主要国の外国人労働者受入れ動向:ドイツ

  1. 制度概要
  2. 制度改正・最近の動向等
  3. 流入・流出・在留状況
  4. 社会保障制度
  5. 労働市場に与える影響
  6. 社会統合政策

1. 制度概要

外国人の受入れに関する主な根拠法令には、Zuwanderungsgesetz(以下ZuwG:入国管理法(注1))のほか、滞在法(AufenthG)、滞在令(AufenthV)、就労令(BeschV)、就労手続令(BeschVerfV)などがある。また、外国人がドイツに滞在するためには原則として滞在資格が必要である。滞在法は4つの異なる滞在資格(滞在許可、EU域内継続滞在許可、定住許可、ビザ)を定めており、以下の(1)~(4)の通りとなっている。

(1)滞在許可

滞在法が定める目的に対して付与される滞在資格のことで、図表1のような分類になっている。このうち、経済活動を目的とする滞在法18~21条は、主に高度外国人材の受入れについて規定している。

なお、一般的に滞在許可を延長する場合、初回の付与と同じ前提条件を満たす必要があるが、指定された目的から滞在が単なる一時的なものと見なされる場合には、管轄当局は延長を認めないことがある。滞在許可の延長では更に、外国人が規定通りに統合講習への参加義務を果たしているかどうかも考慮される。外国人に統合講習への参加義務があったか、又は現にある場合、滞在許可は原則として外国人が統合講習を修了するまで、又は公共・社会生活への統合が別の方法で実現されていることを証明するまで1年間に限り延長される(注2)

以下、滞在許可の補足情報

原則として、特別な資格がない場合は、ドイツに働きに行くことはできない。しかしながら、例外的に職業教育資格を要しない就労が許可される可能性については、就労令(BeschV)に定められている。就労令は滞在法の意図を具体化するもので、無資格・低資格就労を目的とする移住、いわゆる「非高度外国人材」の受入れは、期限付きでのみ認められ、長期滞在資格を付与することはできない (就労令17~24条 )。例えば、農業及び飲食分野における季節労働者の就労、オペア、家事手伝い労働も非高度外国人材に含まれる。就労令に基づく外国人の就労は、図表2のように分類されている。

(2)EU域内継続滞在許可

EU域内継続滞在許可(滞在法9a条)は、「EU域外(第三国)出身者の長期滞在資格に関する2003年11月25日のEU指令2003/109/EC」に基づく国内法整備に該当する。同許可は、無期限の滞在資格で、EU加盟国に滞在する第三国出身の外国人が、5年間の滞在後に取得することができるものである。この資格は他のEU加盟国に再移住する権利を認めるとともに、定住許可と同様に、第三国出身者に対して、権利を幅広く(例えば労働市場への参入や社会保障給付などの面で)付与するものである。

図表1:滞在法が定める目的に対して付与される滞在資格の分類
教育を目的とする滞在 (滞在法16、17条)
大学入学、語学講習、学校への通学(16条)、その他の教育目的(17条)
経済活動を目的とする滞在(滞在法18条~21条)
就労(18 条)、国外退去強制を猶予されている専門技術保有者に対する就労目的の滞在許可(18a条)、ドイツの大学の卒業者に対する定住許可(18b条)、有資格の専門家に対する求職活動のための滞在資格(18c条)、高資格者に対する定住許可(19条)、EUブルーカード保持者(専門技術者)(19a条)、研究者(20条)、自営業者(21条)
国際法上、人道上の理由又は政治的理由による滞在(滞在法22~26条、104a条、104b条)
国際法上の緊急の人道上の理由に基づく外国人受入れ(22条)、特別な政治的利益が存在する場合の受入れ(23条)、苛酷な状況における滞在の保証(23a条、一時的保護のための滞在の保証(24条)、人道上の理由に基づく滞在(25条)、十分に融合している少年及び成年の場合の滞在の保障(25a条)、滞在期間(26条)、既存事例に関する滞在許可(104a条)、猶予された外国人の統合された子のための滞在権(104b条)
家族の事情による滞在(滞在法27~36条)
家族呼び寄せ原則(27条)、ドイツ人の家族呼び寄せ(28条)、外国人の家族呼び寄せ(29条)、配偶者の呼び寄せ(30条)、配偶者の独立した滞在権(31条)、子の呼び寄せ(32条)、ドイツ国内での子の出生(33条)、子の滞在権(34条)、子の独立した機関の定めのない滞在権(35条)、両親及び他の家族構成員の呼び寄せ(36条)

資料出所:滞在法(AufenthG)を基に作成。

図表2:外国人の就労に関する職種分類
連邦雇用エージェンシー(BA)の同意がなくても、滞在資格が付与される職種(就労令1~15条)
基本(1条)、職業教育・訓練の一環(学業、EUプログラム枠内、公的機関等の国際交流プログラムの枠内、公的機関等の奨学金プログラムの枠内)(2条)、高資格者(3条)、管理職・上級幹部(4条)、学術・研究開発(5条)、商業活動(3カ月以内)(6条)、特別な職業(プロスポーツ選手、コーチ、写真モデル等)(7条)、ジャーナリスト(8条)、ボランティア・慈善活動者(9条)、外国学生の休暇中のBAが斡旋したアルバイト等の就労(3カ月以内)(10条)、外国企業派遣者(11条)、国際スポーツ行事関係者(12条)、国際交通・鉄道(13条)、海路・空路スタッフ(14条)、EU・EEAに営業所がある企業の常用労働者が一時的に派遣される場合(15条)、滞在許可のいらない就労滞在(16条)
BAの同意を必要とする非熟練分野/職業教育を前提としない職種(就労令17~24条)
基本(17条)、季節労働(条件により6カ月、もしくは8カ月まで)(18条)、出店業者(9カ月まで)(19条)、オペア(子守など)(20条)、家事手伝い(要介護世帯での介護、3年まで)(21条)、外国企業派遣の駐在員の家事使用人(子守又は要介護世帯、2年まで、3年に延長可)(22条)、芸術・娯楽従事者(23条)、外国の修了認定を前提とした実習(24条)
BAの同意を必要とする熟練分野/職業教育・資格付与を前提とした職種(就労令25~31条)
基本(25条)、外国語教師・郷土料理人(教師は5年、料理人は4年まで)(26条)、IT専門家・学術的職業(27条)、管理職・専門職(28条)、社会福祉の仕事(29条)、看護・介護スタッフ(30条)、国際的な人材交流・外国プロジェクト(3年以内)(31条)

資料出所:就労令(BeschV)を基に作成。

(3)定住許可

定住許可は無期限で、原則として滞在期間や場所に制限がなく、営利活動を行う権利が認められる。定住許可の付与に対する前提条件については、滞在法9条に定めがあるが、例えば高資格者(滞在法19条)、人道的理由から滞在許可が得られる外国人(滞在法26条)、特別な政治的利益が存在する場合の受入れ(滞在法23条2項)等の特例規定が存在する。

(4)ビザ

ドイツの滞在期間や目的によってビザは複数ある(注3)。例えば「シェンゲントランジットビザ(Bビザ)」は、シェンゲン協定加盟国に第三国を通じて何度でも通過できるビザで、他国へ行く途中にドイツでの滞在が5日まで認められる。「シェンゲン・トラベル・ビザ(Cビザ)」は、シェンゲン協定加盟国の滞在を認めるもの(但し、就労目的の滞在は認めない)で、半年で通算3カ月の連続滞在あるいは複数の訪問が認められる。また、「ナショナル・ビザ(Dビザ)」は、ドイツに3カ月以上長期滞在する場合に必要となり、その目的によって、一時滞在許可もしくは定住許可、シェンゲン協定加盟国圏内のトランジット又はドイツへの入国などが認められる。

ドイツ入国以前のビザ取得は、ほとんどの国が義務対象で、ビザは申請者の国に駐在するドイツ大使館又は総領事館で申請することになる。しかし、(1)EU加盟国、(2)欧州経済地域(EEA)の加盟国、(3)カナダ、イスラエル、オーストラリア、日本、ニュージーランド、韓国、アメリカの国籍保有者とその家族は、ドイツ入国後にビザを申請することができる(ビザは滞在先の管轄の外国人局で発行される)。

(5)外国人労働者の不法就労に対する罰金

必要な滞在許可を持たない外国人労働者を雇用した使用者は、その違反行為に対して50万ユーロ以下の罰金を支払わなければならず、当該の外国人労働者には5,000ユーロ以下の罰金が科せられる(社会法典第3編404条2項3号、4号)。

【不法滞在の状況】

2010年のドイツにおける不法滞在者数は、10万~40万人と推測されている。不法滞在者の多くは、21~40歳と働き盛りの世代が多く、男性が64%、女性が36%と推計されている。ユーロスタット(Eurostat)によると、2010年にドイツで実際に不法滞在者として逮捕された第三国出身者は計5万250人で、前年とほぼ同様の数値だった(図表3)。逮捕者の多くはトルコ、アフガニスタン、イラク出身者で、特にアフガニスタン出身の不法滞在者が増加していた(2008年から2010年にかけて4倍増)(注4)

なお、強制退去となる不法滞在者の本国送還や難民(もしくは難民申請者)が自発的に永久帰国を決意した場合の帰路の費用、その関連アドバイス費用には、欧州リターン・ファンド(RF)が使用されている。RFは2007年にEUによって設立された基金である。2007~2013年のEU全体の基金総額は6.76億ユーロで、プロジェクト申請に応じて各国に配分された(注5)。なお、同じく2007年にEUが設立した域外国境基金(EBF)は、ドイツにおいて国境警備の強化などに利用され、2007~2013年におけるEU全体の基金総額は18.2億ユーロであった(注6)。双方の基金を利用したプロジェクトの多くに、移住者難民庁(BAMF)や連邦刑事庁(BPol)が関与している。

図表3:第三国出身者の出身別不法滞在逮捕者数 (2008〜2010)
国籍 2008年 2009年 2010年
トルコ 6,675 5,610 5,565
アフガニスタン 880 2,665 3,700
イラク 4,715 4,530 3,060
セルビア 5,920 2,590 2,920
ベトナム 3,010 3,010 2,680
ロシア 2,415 2,085 2,125
中国 2,565 2,285 1,975
コソボ 1,605 1,935
インド 1,420 1,615 1,615
イラン 1.090 1,205 1,605
他の国籍 24,970 22,340 23,050
合計 53,685 49,555 50,250

資料出所:Eurostat

注:概数のため、各国を足し上げても合計とは少しずれる。

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2.制度改正・最近の動向等

ドイツの外国人労働者受入れは、第二次世界大戦後の経済復興期(1955年)にイタリアと二国間協定を締結し、低・中技能の外国人労働者を受入れたことから始まった。その後、こうした二国間協定は、スペイン(1960年)、ギリシャ(1960年)、トルコ(1961年)、モロッコ(1963年)、ポルトガル(1964年)、チュニジア(1965年)、ユーゴスラビア(1968年)とも締結されたが、その後、石油危機の一因ともなった急速な景気悪化と失業者の増大を受け、1973年11月に外国人労働者の受入れを原則停止した。しかし、実際には短期滞在の外国人労働者については引き続き、就労許可がなくても就労可能な法規命令や二国間協定に基づいて継続的に受入れ、その対象職種は拡大していった。

1983年には、外国人労働者の帰国を促進するため、「外国人帰国支援法(RückHG)」が施行され、年金の労働者負担分の速やかな返還や職業年金受給権の補償などが規定されたが、外国人の構成員に大きな変化はなく、1990年の東西統一後は、旧東欧諸国(特にポーランド)からの後期帰還移住者(注7)等の流入の増加により、かえって外国人は増加した。

2000年に入ってからは、ITの進展に伴うIT技術者不足を解決するために、「グリーンカード省令(注8)」が導入され、IT技術者を中心とする欧州経済領域(EEA)外の高度外国人材を最長5年の期限付きで受入れた。しかし、2005年ZuwG 施行に伴い、同省令は廃止された。

最近の大きな動きとしては、2005年のZuwGの制定と、その一環としてそれまでの外国人法に代わり「滞在法(注9)」が制定されたことが挙げられる。このZuwGによって高度外国人材の受入れ、滞在許可と就労許可の手続の統一化(ワンストップガバメント)、社会統合政策の推進などが規定され、現行制度の基礎が築かれた。

その後、同法の見直しが行われ、2007年8月には改正ZuwGが施行された。この改正では、2002年11月から2005年12月までに出された外国人の滞在権・難民の庇護権に関する11本のEU指令の国内法整備が図られると共に、偽装・強制結婚撲滅強化、国内の保安強化、外国人の起業の規制緩和、ドイツ語を話せない外国人に対する「統合講習」への参加義務付けなどが盛り込まれた。

近年は高度外国人材の受入れ促進が加速しており、2009年には「労働移住者調整法(Arbeitsmigrationssteuerungsgesetz)」が施行され、新規EU加盟国の大学修了資格者の就労に対する「優先性審査」の廃止や専門技術を有する外国人の最低年収要件の引き下げなどが行われた。直近では、EU域外(第三国)出身者の専門技術を有する外国人の優遇措置や規制緩和を目的とした「国外職業資格認定改正法」や「EUブルーカード法」等が制定された。詳細は以下の通りである。

(1)国外職業資格認定改正法(2012年4月1日施行)(注10)

国外職業資格認定改正法(Anerkennungsgesetz)は、2012年4月1日から施行された。EU域外で専門技術を習得した外国人の資格認定を簡素化することで、高度外国人材の受入れを促進するのが目的である。EU域内者は、建築家や医師、看護師など一部の専門的職業の相互承認に関する基準などを定めた「EU専門職業資格相互承認指令(注11)」があり、資格認定は比較的容易になっている。その一方で、EU域外の教育・訓練機関で資格を得た者は公式に認定されるまで、試験・実習・面接など一連の過程を経なければならず、場合によっては数年かかるケースもあった。こうした事態を改善するため、同改正法では申請から認定まで全ての手続きを3カ月以内とすることを定めた。政府は、これによって国外資格の認定を受けられずにいるドイツ在住の約30万人の外国人が恩恵を受けると推定している。30万人の内訳は、約25万人が職業訓練修了レベル、約2万3,000人がマイスターもしくは熟練工レベル、約1万6,000人が大卒などの高等教育修了レベルとなっている。

(2)EUブルーカード法(2012年8月1日施行)(注12)

2012年8月1日に施行したEUブルーカード法は、2009年に成立した「EU域外出身者の高資格雇用目的の入国・滞在条件に関する理事会指令(2009/50/EC)(注13)」の国内法整備に該当する。アメリカの「グリーンカード」を模して「ブルーカード(Blaue Karte)」と呼ばれる滞在・就労許可制度は、EU域内の長期的な人口減少に伴って不足が懸念される専門技術者を、EU域外からの積極的な受入れにより補うことを目的としている。今回の国内法施行により、EU域外の高度外国人材に対して様々な緩和措置が実施され、主に「滞在法(AufenthG)」、「就労令(BeschV)」、「社会法典第6編」においてEUブルーカード関連の規定が新設された。特に恩恵を受けたのは、ドイツの大学もしくはこれに相当する外国の大学を卒業し、ドイツで一定の所得があるEU域外者で、最長4年の期限でブルーカードが付与される。また、ブルーカード保持者は33カ月以上就労し、期間中に法定年金の保険料を納付し、生計確保等の要件を満たす場合には、定住許可が付与される。更に、その中で一定のドイツ語能力(注14)を証明できる者は、この期間が21カ月まで短縮される(滞在法19a条)。

従来の滞在法19条では、所得要件がない“特別な専門知識のある学者”と“卓越した地位にある教育者又は科学者”のほか、所得要件がある(最低年収6万6,000ユーロ)“専門家”と“管理職・上級幹部(高度専門技術者)”を「高資格者(Hochqualifizierten)」として規定していた。

しかし2012年に19a条が新設され、19条の“専門家”と“管理職・上級幹部(高度専門技術者)”の所得要件は現在(2014年)4万7,600ユーロ(最低年収)となっている。さらに数学、IT、自然科学、工学(MINT)分野の専門技術労働者、医師などの不足職種の最低年収は3万7,128ユーロ(2014年)とされている。

従って、滞在法19条は、“特別な専門知識のある学者”と“卓越した地位にある教育者又は科学者”のみ(注15)が「高資格者」として適用されることになり、これらの者については、従来通り所得要件がなく、最初から定住許可が付与される。

ドイツの大学を卒業した外国人留学生についても「社会統合が容易な高度外国人材の卵」という観点から優遇措置がなされ、卒業後の求職期間の上限が従来の12カ月から18カ月まで延長された。また、在学中に認められる年間90日までの副業(半日の場合180日)も120日(半日の場合240日)に延長され、副業の拡大が就業に結びつく可能性を高めるよう配慮された(滞在法16条)。このほか、ドイツの大学修了資格、もしくは同等の外国の大学の修了資格を有し、かつ生計が確保されている外国人に対しては、その資格に相応する求職のために、最長6カ月まで滞在許可の付与が可能となった(滞在法18c条)。

自営業者(Selbständige)については、外国人の起業をしやすくすることで、新たな雇用創出に寄与してほしいとの目的から、滞在法21条で定められていた従来の最低投資額及び創出する最低雇用数の一律要求が、2012年8月1日の施行をもって撤廃された。

なお、ブルーカードの発給数は、前述のEU指令(2009/50/EC)6条において加盟国がその規模を決めることを認めており、状況に応じてドイツが独自に「ゼロ枠」とすることも可能である(注16)。ドイツの発給実績は2012年 2,584件、2013年14,197件となっている(注17)

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3.流入・流出・在留状況

OECDの報告書(注18)(2013)によると、ドイツにおける2011年の外国人の流入数(注19)は、約30万人であった。

流入者を国籍別にみると、最も多かったのはポーランドで、次にルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、トルコ、イタリア、ギリシャ、アメリカ、中国、ロシアの順になっている(図表4)。

図表4:2011年における流入外国人の国籍(上位10)

図表4:2011年における流入外国人の国籍(上位10)を表したグラフ

なお、滞在許可別、および一時滞在の種類別による外国人の受入れ実績は、図表5、6の通りである。

2014年5月発表のOECD資料(注20)によると、近年、経済と労働市場が好調なドイツへの移住が急増しており、ドイツはOECD加盟国中、アメリカに次いで2番目に移住が多い国となった。トーマス・リービヒOECD専門官は「短期間でこのような急増は稀だ。明らかにドイツへの移住ブームが起きている。特に中東欧や南欧からの移住が増えている(図表7)」と指摘。同専門官は、これほどの上昇幅ではないが、今後もドイツへの移住は増加すると見ている。

OECDによると、EU域内からドイツへ移住した者の大半は職があり、2007年以前の移住者より高い技能を有している。その一方で、比較的寛容なドイツの社会保障制度が、技能や資格を有しない給付金目的の人たちをも惹きつけている可能性を指摘している。ドイツでは、2014年1月1日からブルガリアおよびルーマニア出身者に対する就労と移動の制限が解除された。これにより国内ではEU域内から社会保障給付を目的に移住する「社会保障ツーリズム(Sozialtourismus)」に対する懸念が強まっている。

図表5:外国人の受入れ実績(滞在許可別)
  2010年 2011年 2010年 2011年
  (千人) (千人) (%) (%)
就労許可 20.1 26.1 9.0 9.0
家族(帯同含む) 54.9 54.0 24.7 18.6
人道上の理由 11.8 11.0 5.3 3.8
移動の自由(EU域内) 133.3 197.5 59.9 67.9
その他 2.4 2.1 1.1 0.7
222.5 290.8 100 100

Permit based statistics (standardised).

図表6:外国人の受入れ実績(一時滞在型) (単位:千人)
  2005年 2010年 2011年 2006~2010年平均
留学生 55.8 66.4 72.9 58.6
研修生 2.6 4.9 4.9 4.9
季節労働者 329.8 296.5 167.6 295.9
企業内転勤 3.6 5.9 7.1 5.2
その他の一時滞在労働者 63.6 33.9 33.5 37.5

図表4~6 資料出所:OECD(2013) International migration outlook 2013.

図表7:EU域内の国/地域からのドイツへの流入推移(2010~2013)

図表7:EU域内の国/地域からのドイツへの流入推移(2010~2013)のグラフ

資料出所: OECD(2014)

なおドイツの統計では、2005年までドイツ国籍者と外国人とを区別するのが通例であったが、「この区分ではドイツ社会の現実を的確に評価できない」との判断により、2006年からドイツ国籍者も含む「移住の背景を持つ人」と「移住の背景を持たない人」という区別での把握も行うようになった(注21)

ドイツ全人口は8,170万人(2010年)で、前年から18万9,000人減少した一方で、「移住の背景を持つ人(外国人および移住の背景を持つドイツ人)」の割合は、19.2%から19.3%へと増加し、総数では1,570万人に達した。1,570万人のうちドイツ国籍を取得した人は860万人(総人口の10.5%)で、外国籍を有したままの人は710万人(総人口の8.7%)だった(図表8)。

図表8:移住の背景を持つ者がドイツの全人口に占める割合

図表8:移住の背景を持つ者がドイツの全人口に占める割合を示したグラフ

注: 外国人と移住の背景を持つドイツ人を足すと小数点以下が繰り上がり、19.3%となる。

出所: Statistisches Bundesamt, Mikrozensus 2010, BAMF.

また、自ら移住を経験した人は1,060万人に上り、移住の背景を持つ人の2/3を占める。これに対して1/3の520万人は移住経験がない、ドイツ生まれの移住者の子どもとなっている(ドイツ国籍を取得した子どもはこのうち160万人)。「移住の背景を持つ人」の特徴としては、全体の平均年齢が35.0歳と、そうでない人の平均年齢45.9歳と比較して非常に若い。なかでも、ドイツ全体の5歳未満の子どものうち、「移住の背景を持つ子ども」は34.9%を占めている。そのため、現在の政策では、学校教育や職業教育など、どちらかというとライフコースの早期段階における社会的統合政策に主眼が置かれている。

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4.社会保障制度

ドイツの最低生活保障および失業保障は、「求職者に対する基礎保障(社会法典第2編:SGBII)」と「社会扶助(社会法典第12編:SGBXII)」という2つの法律のもとで2005年に再編された。"SGBIIは、長期失業者や就業能力のある生活保護受給者に就労を促す目的で創設され、給付の中心となるのは失業給付II(ハルツⅣ)である。原則として、まずSGBIIによる給付が優先され、その適用とならない者がSGBXIIによる社会扶助給付の対象となる。SGBIISGBXIIも国籍を給付要件としていない。しかし、外国人の場合、SGBIIは就労許可を得ているか、あるいは得ることができる「稼得能力を要する」という要件がある(同法8条2項)。他方、SGBXIIはドイツに滞在する外国人も、生計扶助および保健扶助、出産扶助などの支給対象となっている(同法23条1項)。ただし、社会扶助受給目的でドイツに入国した外国人などは社会扶助から排除される(同法23条4項)(注22)

ドイツの社会保障は、社会保険料の納付がなくても就労可能性や要扶助性等が存する限り、原則として地域の窓口に受給申請をすることができる。しかし、現行法では、前述のように社会保障給付が目的と判断されるEU市民には原則として受給権を認めないという「排除条項」を設けている。こうしたドイツ人とEU出身者を異別に取り扱う「排除条項」がEU法に抵触するか否かが裁判で争われるケースが近年増加している。

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5.労働市場に与える影響

(1)社会経済的状況

ドイツ全体の労働市場をみると、2008年の世界金融危機以降、比較的好調に推移し、失業者数は2011年平均で20年ぶりに300万人の壁を下回り、297万6,000人まで減少した。東部ドイツでも失業数が初めて100万人の壁を下回り、約95万人となった。同年の就業者数は4,100万人を超えて最高記録を達成し、社会保険義務のある就業者数は2,840万人を突破した。このような労働市場の全般的な改善状況に伴って外国人の状況も若干ではあるが好転しており、例えば2011年平均でみると、失業者数(届け出制)も2005年と比較すると20万人以上減少している。しかし、その一方で、ドイツ人と比較すると、改善程度は鈍く、労働市場の好調の波に乗り切れていない状況にある。図表9は外国人とドイツ人の失業率の推移を比較したものであるが、外国人の失業率はドイツ人よりも高く、その差は拡大傾向にあり、2005年には2.15倍だったが、2011年には2.35倍にまで膨らんでいる。

こうした外国人とドイツ人の差は給与水準にも出ており、連邦雇用エージェンシー付属の公共研究機関である労働市場・職業研究所(IAB)が2013年1月に発表した調査では、ドイツで働く外国人の給与は、ドイツ人平均の64%に留まり、低い給与水準にあるとの結果が出ている(注23)IABではこれについて、言語の問題、外国における取得資格が認定されない場合が多いこと、ドイツの労働市場に関する知識不足により保有資格に相応する就業が困難なこと等の外国人特有の不利な点が一因になっているのではないかと分析している。ただ、トルコや旧ユーゴスラビア出身の外国人労働者の給料が低くなっている一方で、アメリカ、イギリス、オーストリア、オランダなどの先進国出身者はドイツ人の平均を上回る所得を得ているケースも多いなど、外国人労働者間でも出身国による格差があることも示している。

なお、連邦移住者難民統合委員(BBMFI)(注24)が2012年6月に連邦議会に提出した「ドイツにおける外国人の状況に関する第9回報告書(以下、第9回報告書)(注25)」によると移住の背景を持つ子どもの世代(二世)の貧困率は、一世とさほど変わらない。同報告書はこの理由について、二世の学歴向上があまり見られないことや、子ども世代の多くが未だに両親のもとで生活しているためではないかとみている。

図表9:主要な年における外国人とドイツ人の失業率 (年平均、%)

図表9:主要な年における外国人とドイツ人の失業率(年平均)

出所: Bundesagentur für Arbeit.

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6.社会統合政策

外国人および移住の背景を持つ人のためのドイツ語教育は、2005年ZuwGによる「統合講習」の導入で大きく拡大され、現在、統合政策の中で重点政策の一つとなっている。また、2012年3月には一部を除いて統合講習令(Integrationskursverordnung)の改正案が施行され、受講時間の拡大、受講料自己負担の引き上げなどが実施された。

統合講習は、「ドイツ語教育」(欧州共通基準B1レベル習得を目指す)と、ドイツの法律、文化、歴史などを学ぶ「市民教育」がある。統合講習の構造は、300授業単位の「基礎言語講習」に続き、300授業単位の「言語向上講習」がある。この基本パターンのほか、若年者や女性、子を持つ親、読み書きのできない人などの特定層を対象に900授業単位に延長した講習もある。言語学習のほかに別途開催される「市民教育講習」の総受講時間は、2012年に45時間から60時間へと引き上げられた(注26)

2005年以降、統合学習ために投入された予算は総額で10億ユーロを超えており、2011年には、総額2億1,800万ユーロを連邦政府が負担し、2012年の連邦政府予算では、2億2,400億ユーロが計上された。受講者の自己負担については、2012年に1授業あたり1ユーロから1.2ユーロに引き上げられた(一般的な計660授業単位の統合講習に対して792ユーロの自己負担になる)。しかしこの引き上げは、低所得層が多い受講者にとっては多大な経済的負担となるため、2012年3月に開催された連邦/州政府大臣会合では「自己負担の引き上げは、統合講習サービスの利用拡大に悪影響を及ぼす」との批判が出された。但し、生活保障受給者が統合講習に参加する場合には、その負担が免除されることがあり、受講資格を得てから2年以内に修了試験に合格した場合、支払った参加費の半額が還付される。

一方、第9回報告書では、2012年の統合講習令の改正について「講習参加中の保育サービスの提供を可能とする規定が盛り込まれたこと」を評価している。これにより保育サービスを要する若い親の参加の拡大が見込まれるものの、保育措置の提供が3歳未満の子に限るという年齢制限がある点で効果は限定的だとしている。2005年以降、統合講習へ参加した外国人の数は78万人を超える。

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注:

参考資料:

  • BAMF (2012) Practical Measures for Reducing Irregular Migration
  • BBMFI(2012) 9. Bericht der Beauftragten der Bundesregierung für Migration, Flüchtlinge und Integration über die Lage der Ausländerinnen und Ausländer in Deutschland.
  • European Commission (22.5.2014) the implementation of Directive 2009/50/EC on the conditions of entry and residence of third-country nationals for the purpose of highly qualified employment (“EU Blue Card”).
  • Florian Lehmer und Johannes Ludsteck (2013) Lohnanpassung von Ausländern am deutschen Arbeitsmarkt-Das Herkunftsland ist von hoher Bedeutung IAB-Kurzbericht 1/2013.
  • OECD (2013) International migration outlook 2013.
  • OECD (2014) Is migration really increasing?, Migration Policy Debates, OECD
  • イルメリン・キルヒナー(2012)「ドイツの在住外国人に対する言語学習制度」『自治体国際化フォーラJun. 2012』。
  • 木下秀雄(2005)「ドイツの最低生活保障と失業保障の新たな仕組みについて」『賃金と社会保障1408号』旬報社。

参考:

2015年1月 フォーカス: 主要国の外国人労働者受入れ動向

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