主要国の外国人労働者受入れ動向:フランス

  1. 制度概要
  2. 制度改正・最近の動向等
  3. 流入・流出・在留状況
  4. 社会保障制度
  5. 労働市場に与える影響
  6. 社会統合政策

1.制度概要

EU加盟国およびフランスと二国間協定を締結している国以外の国民がフランスに3カ月以上滞在する場合には、外交官など少数の例外を除いて滞在許可証を申請する必要がある。EU加盟国との間では、労働者の自由な移動に関する枠組み条約があり、EU加盟国の労働者に関しては、原則としてフランス国内への受入れ手続きをする必要はない。ただし、2004年5月以降にEUに加盟した諸国に関しては、労働許可証を取得する義務を課している。2013年12月31日まで、ブルガリア国籍とルーマニア国籍の者の就業目的での入国が規制されていたが、2014年1月1日から自由化された。EU加盟国のうちクロアチアについては、移動の自由までの移行期間として2015年6月30日まで入国が制限される。

フランスの旧植民地として二国間協定(Accords bilatéraux sur les migrations professionnelles et échanges de jeunes professionnels)(注1)を締結しているアフリカ諸国の労働者については、個別に入国及び滞在に関する諸条件を規定している。

フランスの滞在資格は、「一時滞在許可(cartes de séjour temporaire)と「正規滞在許可証(carte de resident)」の2種類である。なお、最初の入国で発行されるのは、原則「一時滞在許可証」である。一時滞在許可には、学生(étudiants)、研修者(stagiaires)、学術研究者(scientifiques-chercheurs)、芸術文化活動滞在者(artistes)、企業内転勤者=給与所得者(salarié en mission)、能力・才能(compétence et talent)、季節労働者(travailleurs saisonniers)などである。

現在のフランスの入国管理政策は、6カ月間以内の季節労働者を除けば、未熟練労働者の受入れは抑制し、フランスの経済・社会発展への貢献度が高い高技能外国人労働者については積極的に受入れるという政策をとっている。「選択的移民(Immigration choisie)」の受入れという方針をとっているが、保守や右派が政権与党の時期には外国人受入れ規制が厳格化され、左派が与党の時期には緩和される傾向が見られる。

2007年 5月に内相時代から不法外国人の取り締まり強化をはじめとする入国管理法改正に積極的だったニコラ・サルコジが大統領に就任し、「フランスの社会・経済への貢献が期待できる高い能力を有する外国人には門戸を広げる一方で、それ以外の外国人については滞在条件を厳格化する」という方針はますます強化された。この後、2012 年6月にオランド政権が成立し、大幅な制度改正は行われていないものの、外国人受入姿勢を徐々に緩和する傾向が見られる。

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2.制度改正・最近の動向等

(1)国籍取得の手続きに関する通達

ヴァルス内相(当時)は2012年10月16日、国籍取得の手続きに関する新たな通達を出した。サルコジ大統領時代に厳格化していた帰化申請の手続きを緩和することを目的とした通達である。従来の帰化審査の過程で申請者の実際の状況を踏まえた手続きを行うべく、帰化条件を意図的に厳しくしないようにするための措置である。帰化申請書類の審査の基準の透明性と公正さを実現することを目的としている。申請に必要な要件の1つの「安定した就労生活」の項目というのがあるが、申請者が有期雇用や派遣の契約労働者でることだけをもって、安定的な就労生活に該当しないと判断することを避けるようにするねらいがある。また高学歴の若年者を対象に以前よりも国籍取得を促す内容となっている。

(2)議論中の項目

政府は7月23日の閣議に外国人の滞在許可に関する規定を改正する法案及び難民申請・認定等の手続きの改革に関する法案の2法案を提出し審議した。

(a) 外国人の滞在許可に関する規定を改正する法案(2014年7月)

才能ある人材を受入れるための新ビザの検討

法案の重要な改正点の一つに、才能ある人材をフランスに引き寄せることを目的として、新しい査証を導入するための措置がある。これは、研究者、投資家、起業家、管理職、アーティスト、スポーツ選手などを対象に、フランス社会への貢献が期待できる人材に対して、4年期限の新しい査証を発行するという趣旨である。現行の各種優遇待遇の許可証について、制度を一本化しつつ優遇度を高めるねらいがある。

この他、外国人受け入れの手続きを簡素化するために複数年期限の滞在許可証を発行するという措置である。現行の制度において、外国人は1年期限の滞在許可証を毎年更新しなければならず、5年が経過したところで10年期限の滞在許可証を請求する権利が発生することになっている。今回の法案では、フランス国籍者の配偶者又は仏国籍の子供の親について、1年期限の滞在許可証の更新時に2年期限の許可証を発行し、この期限が切れる時点で10年許可証の発行請求を受け付けるという形に改正されるというもの。家族呼び寄せの場合には、1年、4年と許可証を発行し、その後10年許可証の発行請求を受け付ける形にする(注2)

外国人犯罪者の入出国に関する規制

2013年にフランスからEU圏外へ強制退去された外国人の数は、前年より13%増加した。また、摘発された密入国組織の数は14%増加した。2014年の摘発数は過去最高であったが、その増加は今年に入ってからも続いている。このような状況の中で、この法案には不法滞在外国人対策も盛り込まれた。

現行では、公共の秩序を大きく乱した罪を犯したEU加盟国出身者が釈放された(又は、刑務所から出所した)場合、フランス国外へ追放することは出来ない。これは、EU圏内の移動の自由があるためである。そのため、フランス国内で犯罪を犯したEU加盟国出身者が釈放された場合、フランス国内に留まったり、再び入国することが可能である。ちなみに現行制度でも、フランス入国後三カ月以内に犯罪を犯したEU加盟国出身者に対してのみ、国外退去命令を出すことは可能である。

今回の法案には、フランス国内で犯罪を犯したEU加盟国出身者及びその家族の国外退去とフランスへの再入国を1年から3年間、禁止することを可能とする内容が盛り込まれた。また、EU圏外出身の外国人が重大な犯罪を犯し、国外追放された場合、再入国を禁止するのを知事(警視総監)に義務付けることもこの法案に盛り込まれた。

不法入国者対策として、シェンゲン協定適用される国以外から路線を持つ交通機関(航空会社やバス会社、旅客船運行会社)には、チェックイン時にパスポートなどで到着国への入国可能な客しか搭乗させないことが求められている。しかしながら、それを遵守しない会社の運営する交通機関を利用し、入国を試みようとする外国人もいる。そのような者の数を減少させるため、そのような会社に対する罰金を倍増させることとなった。

(b)難民受入れに関する法案(2014年7月)

現行法下において約2年を要している難民受入れの手続きを迅速化して9カ月を目標とする措置が盛り込まれている。新しい難民申請の判断手順は、難民・無国籍者保護局(Office français de protection des réfugiés et des apatrides (OFPRA))の管理下で行われ、優先順位を公正で公平なものとする。庇護申請者受入れセンター(Centre d'accueil de demandeurs d'asile (CADA)での判断に要する期間は標準的なもので5カ月とする。申請が却下された場合の再請求は、庇護権全国裁判所(Cour nationale du droit d'asile (CNDA))において、5週間の期間で判断が下されるようにするというものである(注3)

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3.流入・流出・在留状況

(1)滞在する外国出身者と外国人の割合(2010年)

外国出身者及び外国人に関する統計で、国籍別の内訳まで見られる最新の統計数値は2010年のものである。2010年のフランスの総人口が6,276万5,235人、そのうちフランス人は 5,627万1,000人、外国人が370万5,000人、外国出身者が540万6,000人、外国で出生したフランス国籍取得者が278万9,000人である。「外国人」とはフランス国籍を持たずにフランスに居住する全外国人がこれにあたる。これに対して、外国出身者は出生地及び国籍の二重の基準により定義される(図表1参照)。

図表1:外国出身者と外国人の割合(2010年)

図表1:外国出身者と外国人の割合(2010年)

資料出所:INSSE資料(注4)より作成

(2)滞在する外国出身者の国籍別構成(2010年)

外国出身者について、国籍別に見ると欧州ではポルトガル、スペイン、イタリアが多い。また、アフリカではマグレブ3カ国、アジアではトルコ、カンボジア、ラオス、ベトナムが多い(図2参照)。

図表2:外国出身者の国籍別構成 (2010年)
  千人
フランス人 56,271 89.7
フランス国籍取得者 2,789 4.4
外国人 3,705 5.9
移民 5,406 8.6
欧州 2,062 37.4
EU27カ国 1,821 33.0
スペイン 248 4.5
イタリア 304 5.5
ポルトガル 588 10.7
その他EU諸国 680 12.3
その他欧州諸国 241 4.4
アフリカ 2,362 42.8
アルジェリア 730 13.2
モロッコ 671 12.2
チュニジア 241 4.4
その他アフリカ 719 13.0
アジア 791 14.3
トルコ 246 4.5
カンボジア、ラオス、ベトナム 161 2.9
その他アジア 384 7.00
アメリカ、オセアニア 299 5.4
合計 5,514 100.0

資料出所:INSSE資料(注5)より作成(表の上部と下部では異なった統計数値によるものであるため、外国出身者の合計数値が一致していない)

注:「外国出身者」は「フランス国籍取得者」と「外国人」の内数。「フランス人」「フランス国籍取得者」「外国人」の合計で100%。

(3)滞在する外国人の割合と人数(国籍別・2010年)

また、上記、図表2では外国出身の数が551万人とあり、以下で挙げる図表3の全体数は外国人労働者431万人の内訳であるので、この点についても、2つの図表は接続できないものである。

図表3:移民及びその子孫の労働者数 (千人)
EU域内からの移民の子孫 1,270
EU域外からの移民の子孫 810
移民 ポルトガル 380
その他EU諸国 410
マグレブ諸国 610
その他アフリカ諸国 330
トルコ 90
その他アジア諸国 230
その他諸国 180
合計 4,310

資料出所:INSEE発表資料(注6)より作成

(4)外国人流入の入国理由別人数

年々の外国人流入について、入国理由別に2000年以降の推移を示したものが、図表4及び図表5である。家族移動や学生が多く、経済的移動が少ないという特徴がある。家族移動とは、既にフランスに滞在している外国人が家族を呼び寄せ再統合する場合である。経済的移動とは、就労・経済活動をするためにフランスに入国する場合である。

図表4:国理由別人数 (単位:人)

図表4:国理由別人数

資料出所:SGCIC(2011b) 、SGCIC(2011a)等より作成

図表5:入国理由別人数 (単位:人)
経済的活動 家族移動 学生 その他 人道的移動 合計
2000 13,841 98,642 39,942 15,891 6,723 175,039
2001 17,411 98,643 43,859 14,314 9,288 183,515
2002 21,065 98,644 48,680 12,734 10,929 192,052
2003 13,777 98,645 51,873 12,870 4,635 181,800
2004 11,908 98,646 47,622 11,257 6,287 175,720
2005 15,661 95,123 48,959 15,545 22,500 197,788
2006 11,678 98,646 44,943 11,329 16,665 183,261
2007 11,751 87,537 46,663 10,511 15,445 171,907
2008 21,352 83,465 52,163 9,667 17,246 183,893
2009 20,181 85,715 58,582 11,342 18,581 194,401
2010 18,267 83,178 65,271 11,571 18,220 196,507
2011 17,821 81,171 64,925 11,627 17,487 193,031
2012 16,013 87,170 58,857 12,624 18,456 193,120
2013 17,813 94,457 62,984 13,322 17,754 206,330

資料出所:内務省資料「L'admission au séjour - les titres de séjour」等より作成

(5)不法滞在の外国人

フランスでは、「サンパピエ(sans-papiers)」と呼ばれる正規の滞在許可証を持たずに不法に滞在する外国人が数十万人にのぼるとされている。サンパピエは、観光ビザで入国して、滞在証明書の交付を受けないでそのままフランスに残留しているケースがほとんどであるとされている。フランスの失業率は高いものの、重労働とされる建設・土木業、清掃業やレストランでは、慢性的な労働力不足が続いており、不法滞在者の多くがこうした産業で就労している。

高山(2006)によれば、2006年移民法(Loi n°2006-911 du 24 juillet 2006 relative àl'immigration et à l'integration)以前は、不法滞在者であってもフランスに「10年常住」していることを証明できれば滞在証を交付して正規化する施策をとってきた。しかし、2006年移民法によって滞在が長いというだけの理由で、滞在が正規化する権利は奪われることとなった。その結果、従来であれば、居住者証が交付されるはずの不法滞在者の権利が剥奪され、正規の仕事に就くこともできないという、全くの無保障の状態におかれることになった。ところがこれらの不法滞在者たちは1945年オルドナンス第25条によって国外退去や国外追放からは保護されており、居住者証は与えられない一方で、国外退去や国外追放もできないという中途半端な状態におかれる不法滞在者が大量に発生することになった。

2009年10月には、サンパピエ労働者達が正規化を求めて派遣会社やレストラン、工事現場などでストライキを実行した。外国人労働者支援団体や人権擁護団体だけでなく、CGT(労働総同盟)やCFDT(民主労働同盟)などの労組もストライキを支持し、スト参加者数はおよそ2000企業の5400人にのぼったとされる。

これに対して政府は11月、不法滞在労働者の合法化に関する新たな基準を決定した。正規滞在許可証を持たない労働者で正規化を申請したい者は、最低5年間フランス国内に滞在しており、企業に最低12カ月雇用されていることを証明しなければならないというもので、雇用主による最低1年間の雇用契約に関する書類も揃える必要がある。さらに、「人員が不足している」職業に限られる。

この政府の対応に対して労組側は、「サンパピエ労働者たちは、既に統計にもカウントされており、ニューカマーではない」「人員が不足している職業で人手が必要だということを認めるならば、なぜそのうえ5年間の滞在証明までも要求されるのか」と強い反発を示した。また、同年11月に実施された世論調査によると、78%が「不法滞在の労働者はフランス経済にとって重要な役割を果たしている」と考えており、64%が「不法滞在の労働者を状況に応じて、合法化すべき」、24%が「全ての不法滞在労働者を合法化すべき」であると回答している。背景には、「不法滞在の労働者はフランス経済に大きな影響を与えている」とする国民の認識があるとされる(当機構・海外労働情報2010年1月参照)。

(6)帰国奨励政策

フランスにおける外国人労働者が退出する際の手続きについては、1977年から1978年末にかけて実施された「帰国奨励政策(L'aide au retour volontaire)」が挙げられる。フランスは、第二次世界大戦後1945年から1973年にかけて、「黄金の30年(Les trente glorieuse)」と呼ばれる高度経済成長期にあり、その間に労働者不足を補う目的で、多くの外国人労働を受入れた。ところが、1973年のオイル・ショックによって経済不況に陥り、政府はこれまでの移民政策の見直しに取り組む必要性に迫られた。

前田研究会(2014)によると、1977年5月30日に「帰国奨励政策」に関する法令が定められ、フランスの近隣諸国、旧植民地を中心とする23カ国の国籍を持つものが対象として帰国奨励策が実施された(対象となったのは、スペイン、ポルトガル、アルジェリア、モロッコ、チュニジア、トルコ、ユーゴスラヴィア、ベニン、カメルーン、コンゴ、コートジボワール、中央アフリカ帝国(現在の中央アフリカ共和国)、ガボン、ギニア、オートボルタ(現在のブルキナファソ)、モーリシャス、マダガスカル、マリ、モーリタニア、ニジェール、セネガル、チャド、トーゴ)。フランス国内における外国出身者の国籍の大多数が、この23カ国の出身者であった。だが、1978年11月24日にフランス国務院(Conseil d' État)によって、出身国を限定した差別的取り扱いを理由として法令は無効とされ、同年12月31日付で廃止された。

その後1984年に自発的帰国奨励が法制化され、労働法典(Code du travail)や入国滞在法典(Code de l' entrée et du séjour des étrangers et du droit d'asile)等の法典で部分的に明文化された。ただ、ミッテラン政権(1981~1995年)下の政策において、外国出身者を「退出」させるのではなく、フランス社会に「統合」させる方針に転換した。そもそもフランスに滞在を希望する外国出身者は、退出を希望する外国出身者に比べて非常に少なく、この制度を利用して帰国した外国出身者の数は、外国出身者全体に比べると少なかったため、帰国奨励政策はフランスにおける主要な外国人政策にはならなかった。現在の自発的帰国奨励は、入国滞在法典のL331-1条によって直接定められている。

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4.社会保障制度

(1)社会保障制度(注7)

フランスの社会保障制度は、原則としてフランス人と外国人の合法滞在者を区別しない。合法滞在の外国人の場合、雇用主が社会保障費を負担しており、疾病、年金、失業手当等、すべてフランス人と同等の支給対象となっている。これに対して、不法の外国人労働者の場合には、通常、社会保障の対象にはならない。

合法滞在の外国人は、年金や医療保険、子どもに対する養育費としての家族給付(子どもにはフランスへの滞在要件あり)等、拠出制の給付を受給できる。無拠出制の給付については、労働市場への復帰が当面期待されていない者に対する給付には、成人障害者手当(AAH)等を除き、国籍要件が付されている。一方、労働市場への復帰が見込まれる者への給付である積極的連帯所得手当(RSA)(生活保護に相当)等には、国籍要件は存在しない。なお、年金若しくは労働災害及び職業病、又は、親が社会保障の被保険者である未成年者の医療保険(疾病・出産・死亡)に関しては、不法滞在者であっても受給できる。

(2)住宅支援(注8)

外国人世帯の多くは、集合住宅や社会賃貸住宅等に居住している場合が多い。少々データが古いが、1999年の調査時点の数値として、フランス国内で外国人人口の最も多いイル・ド・フランスの外国出身者の住宅状況をみると、外国出身者世帯の61.3%が賃貸住宅に居住している。さらに、公営適正家賃住宅(HLM)の集合住宅に居住しているケースが非常に多く、イル・ド・フランスの全世帯では賃貸住宅の居住者の24.3%がHLM居住者であるのに対して、外国出身者では30.5%である。また、出身国により住宅環境は異なり、ヨーロッパ出身者(47.5%)と東南アジア出身者(47.3%)の住宅の保有状況はイル・ド・フランスの全世帯(44.3%)より高く、特にイタリア出身者は、フランスで生活し始めてから歴史が長いことと、建築業に就いている外国出身者が多いことから持ち家率は63.0%と非常に高い。アフリカ出身者は75.9%が賃貸住宅に居住しており、さらに程度に差はあるものの約半数がHLMの集合住宅に居住している。フランスにおける住宅保障をみると、HLMへの入居は、フランス人、外国人に関係なく住宅困窮度の高い者からという規則が適用されている。

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5.労働市場に与える影響

(1)外国出身者の労働力率、失業、就業率(2011年)

労働省発表資料(注9)によると、外国出身者の労働力率は67.5%となっており、フランス出身者の70.7%と比較して低い水準である。男女別では外国出身者男性の労働力率が78.0%でフランス出身者男性の74.6%より高いのに対して、女性では外国出身女性の労働力率が58.0%でフランス出身女性の67.0%より低い。出身国別の労働力率は、ポルトガルの78.8%を筆頭に、インドシナ諸国やサハラ砂漠以南のアフリカ諸国で7割を超えて高い水準にある。逆にトルコ出身者の労働力率は57.8%と低い。この違いは女性の労働力率によるものとされている。ポルトガル出身女性の労働力率が75.3%に達しているのに対して、トルコ出身女性では32.0%に過ぎない。

外国出身者の失業率は16.1%と高い水準にありフランス出身の8.5%と比べて2倍近い水準である。出身国別にみると、特にトルコ出身者の失業率は25.8%に達しており、北アフリカのマグレブ諸国及びサハラ砂漠以南のアフリカ諸国出身者でも20%を超えている。それに対して、ヨーロッパ諸国失業者の失業率は低い。ポルトガル出身者が5.6%、スペイン出身者が7.4%、イタリア出身者でも8.5%にとどまっている。なお、インドシナ出身者の失業率は11.4%であった。

外国出身者の就業率は56.6%でフランス出身の64.7%より低い水準にある。特に、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国出身者の労働力率は比較的高いのにもかかわらず、高失業率の影響により就業率は58.0%にとどまっている。トルコ出身者は労働力率が低い上に失業率が高いため就業率が42.9%に過ぎない。

他の条件を一定であると仮定すれば、すなわち、年齢、子供の数、学歴、フランス滞在期間などが同じ場合、外国出身者が失業者となる確率は、ヨーロッパ諸国(イタリア、スペイン、ポルトガルの3国)出身者以外はフランス出身と比べて高い。特に、北アフリカのマグレブ3カ国の出身者の失業者となる確率は、フランス出身の2倍を超えている。

(2)長期失業者、パートタイム労働者(2011年)

労働省発表資料によると、失業者に占める長期失業者の割合についても、外国出身者が高い水準にある。長期失業者の割合はフランス出身で40%であるのに対して、外国出身者は48%となっている。特に、北アフリカのマグレブ諸国出身者は52%であり、さらに女性に限れば、58%に達する。ちなみに、非移民女性の長期失業者の比率は39%である。

パートタイムで就業する者の比率は、フランス出身で17.4%であるのに対して、外国出身者では20.4%と比較的高い。男女別に見てもパートタイムで就業する者の比率は、フランス出身と比べると外国出身者の方が高い。また、パートタイムで就業している最大の理由として、「フルタイムでの仕事が見つからなかったため」としている者は、フランス出身で29%であるのに対して、外国出身者では41%となっている。特に、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国出身者に関して、この比率が55%に達している。

さらに、有期の雇用契約(有期雇用契約CDD及び派遣)で就業している者の比率は、非フランス出身で13.2%であるのに対して、外国出身者では16.2%となっている。特に、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国出身者では、この比率が21.0%に達している。

(3)外国出身者が多く就業する業種

労働省発表資料によると、外国出身者が比較的多く就業している業種(注10)は、家事代行・支援業や警備業、建設・土木業、ホテル・レストラン業である。就業者全体では、8.6%が移民であるが、家事代行・家事支援の職では34.7%、警備員では28.6%、建設業の熟練労働者の27.1%、ホテル・レストラン業の従業員(管理職は除く)の19.4%が外国出身労働者によって占められている。ちなみに就業者に占める公務員の比率はフランス出身で20.6%であるのに対して、外国出身者では10.4%に過ぎない。

(4)賃金水準

外国人・外国出身者の賃金水準に関する公式統計は見つかっていない。ただ、外国出身者が多く就業する業種・職種は低技能で低賃金のものに偏っている傾向が見られるため、外国出身者の賃金水準はフランス出身のそれと比較して低い水準にあると言われている。

(5)外国人受入れの影響分析

Gross(2002)はフランスの外国人労働者受入れと国内労働市場への影響について分析している。外国人受入は短期的に失業率を上昇させるものの、中長期的には失業率を低下させていると述べている。失業率が低下する理由としては、労働需要が次第に増加し、調整がなされていくことがひとつの要因として挙げている。

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6.社会統合政策

(1)「受入れ・統合契約(contrat d'accueil et d'intégration)」(注11)

「受入れ・統合契約」は、外国人に対する市民教育、言語教育を推進することによって、外国人がフランス社会にとけこみ、フランス的考え方を身につけることを目的としている。

2003年7月以降、外国人の社会統合に関する公的政策を具体化するものとして「受入れ・統合契約」が施行されている。永続的な定住の観点から、少しでも早期にフランス社会にとけこむことを目的に、新たに入国した外国人に対して「受入れ・統合契約」が提示される。県知事と個々人が契約を締結するかたちをとり、社会統合のための積極的な取り組みに対する双方の義務は、同契約書に具体的に記されている。すべての給付は無料で行われる。契約の締結に伴って、フランス共和国は当該外国人に対して以下の提供を保障する。(1)受入れのための説明会、(2)滞在資格の交付を可能にする健康診断、(3)社会的、言語的な位置づけを行うソーシャルエディターとの個別面談、(4)ソーシャルワーカーとの面談と個別の社会的支援、(5)フランス共和国の大原則と基本的権利、フランスの諸制度を提示する市民教育、(6)新規入国者のニーズに応じた言語教育、(7)公的雇用サービスや職業訓練へのアクセスに関する情報の提供、(8)医療、学校、住居、職業訓練や雇用といったテーマごとのニーズに応じた情報提供(9)外国人が抱えている諸問題に対する支援や評価。

一方、契約を締結した外国人は国に対して以下の義務を負う。(1)市民教育講座に参加すること、(2)命じられた言語教育を受けること、(3)本契約のフォロー・アップを可能とするために、決められた面談に赴くこと。

「受入れ・統合契約」は、2005年1月18日以降、滞在許可証の発行は当該外国人が共和国に統合されることが条件となっており、「受入れ・統合契約」にサインすることが滞在許可証発行の条件となっている。

(2)外国人に対する教育(注12)

1995年までフランス政府は外国人の成人への教育に対して、原則として関与してこなかった。フランスにおける教育は国民教育省の管轄にあり、国民教育省は16歳以下の子供に対してのみ国の教育義務が発生するとの考えから、16歳以上の居住者に対しては、国の教育義務が発生しないと考えてきたためである。そのため、1995年までは外国人を対象とした教育は民間団体によるボランティアなどで行われるものに限られていた。しかし1995年以降、政府は外国人受入れ政策を転換し、成人への教育を実施しているアソシエーションに公的助成を行うとともに、2003年以降は「受入れ・統合契約」に伴う市民教育、言語教育を推進している。

市民教育とは、当該外国人に対してフランス国民としての教育を施すことを目的とした教育であり、その内容はフランスの共和国としての共和制と非宗教主義の原則を尊重し、さらに民主主義の原則、男女同権などを外国人に認識してもらうためのものである。言語教育はフランス語能力が十分でないと判断された場合のフランス語教育であり、受入れプラットホームで行われるソーシャルエディター、ソーシャルワーカーとの会話、および外部教育機関による言語能力テストによって受講対象者を選別している。受講時間数は、評価結果をもとに決められ、当該外国人の言語能力レベルに応じて300~500時間のフランス語教育が実施される。

市民教育および言語教育の受講後には、市民教育講座への参加を証明する証明書、受講した語学教育のコースに応じて習得したフランス語の能力レベルを法的に認める政府発行の証明書がそれぞれ交付される。

子女に対する教育

出生主義によりフランス国籍を取得している外国人の子供たちは、両親の出身国の言葉や文化を家庭で受け継ぎ、一方でフランス社会のなかでフランス人として生活している。フランスにおける外国人の子女に対する教育政策として、ニューカマーならびにロマ人(ジプシー)の教育問題のためのCASNAV(Centre Académique pour la Scolarisation des Nouveaux Arrivants et des enfants du Voyage、ニューカマーならびにロマ人の子どものための修学センター)が挙げられる。

(3)国籍取得手続きにおける社会統合政策

(1)最近の動向において既述のとおり、ヴァルス内相(当時)によって2012年10月 16日、国籍取得の手続きに関する新たな通達が出されたが、この通達には国籍取得手続きにおける社会統合の新たな方策が示されている。

フランスでは、外国人が国籍取得の申請をする場合、原則として次の 4要件が必要となる。(1)成人(18歳以上)であること、(2)申請時とそれ以前の5年間フランスに居住していること、(3)安定した就労生活を送っていること、(4)フランス社会に定着していること(フランス語力や共和国の価値に対する理解があること)などである。

手続きとしては、国籍取得希望者が必要書類を居住地の県庁へ提出し (手数料として、55ユーロを納付する必要がある)、書類審査を受け、面接調査 (聞き取り調査)、最終審査などを経て、18 カ月以内に結果が通知されることになっている。

このような状況を踏まえて、ヴァルス内相は2012年10 月16日付けで、国籍取得手続きに関する通達を出した。この通達では、従来の帰化審査の過程で申請者の実際の状況を無視している場合があったり、有資格者の帰化条件を意図的に厳しくしていることもあったことを認めている。その上で、帰化申請書類の審査は、民法典 21-16 条及びそれ以下の条項で定められる条件に基づいて行われており、国籍付与 (帰化)の基準が透明性を持ち、公正なものでなくてはならないとしている。

このような状況を踏まえて、ヴァルス内相は2012年10月16 日付けで、国籍取得手続きに関する通達を出した。この通達では、従来の帰化審査の過程で申請者の実際の状況を無視している場合があったり、有資格者の帰化条件を意図的に厳しくしていることもあったことを認めている。その上で、帰化申請書類の審査は、民法典 21-16 条及びそれ以下の条項で定められる条件に基づいて行われており、国籍付与 (帰化)の基準が透明性を持ち、公正なものでなくてはならないとしている。

この通達では、(1)安定した就労生活、(2)25歳以下の若年者、(3)新卒者・学生、(4)国籍取得に必要なフランス滞在年数、(5)65 歳以上の語学力の評価について、(6)フランスの歴史及び文化、社会に関する知識と、フランス共和国の原則及び基本的な価値に関する理解についての評価などに関する詳細を定めている。

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注:

参考資料:

2015年1月 フォーカス: 主要国の外国人労働者受入れ動向

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