フランスにおける団体交渉の最近の展開
—伝統、制度の刷新と現在の検討課題

  • カテゴリー:労使関係
  • フォーカス:2014年4月

アネット・ジョベール
フランス国立科学研究センター統括研究員

JILPTは、2013年10月28日にアネット・ジョベール フランス国立科学研究センター統括研究員を招き、政策研究会を開催した。以下、同研究員が講演資料として執筆した論文を紹介する。

フランスの労使関係システムにおいて、一見して最も大きな矛盾と見える点の一つとして、労働組合組織率が約8%と非常に低いにもかかわらず、労働組合が多大な影響力を維持しており、労働協約の適用率が大半の欧州諸国より高いという事実がある。本稿では、この「矛盾」について説明するため、フランスにおける団体交渉システム、その主体、交渉レベルについての最近の展開と、これに関する最新の議論について述べる。

1.  労使関係の主体: 労働組合、使用者団体、国

フランスの労使関係の特徴として、労働運動が激しく分裂していること、雇用関係システムにおいて国が積極的な役割を果たしていること、そして伝統的に労働争議が非常に多いということが挙げられる。この点で他の欧州諸国と異なっている(Bevort, Jobert 2011;Goetschy, Jobert 2011)。

1.1 労働組合:複数主義と対立

フランスの労働組合運動は、一方では、複数組合主義、対立、分裂を特徴とし、他方では、財政的・組織的な脆弱性を特徴としてきた。1970年代以降、この組織的な脆弱性は顕著にあらわれるようになっている。フランスでは以前から組合の組織率が低かったが、1970年代半ばには25%前後であった組織率は、1990年代には8%になり(民間部門5%、公共部門14%)、それ以後は横ばいである。

フランスにおけるナショナルセンターは、Confédération générale du travail(労働総同盟:CGTConfédération française démocratique du travail(仏民主労働総同盟:CFDTForce ouvrière(労働者の力:FOConfédération française de l’encadrement-confédération générale des cadres(管理職総同盟:CFE-CGCConfédération française des travailleurs chrétiens(仏民主労働総同盟:CFTCの5組合である(いわゆる五大労組)。各労働組合において組合費を払っている組合員の数を正確に知ることは難しいが、CFDTおよびCGTの二大勢力についていえば、行政当局の推計によると、CFDTが86万人、CGTが68万2000人とされている(2013年)。

この5つの労組はすべて、全国レベルの「代表的労働組合」として認められており、第二次世界大戦後に国から与えられた「代表性」を事実上独占的に享受していた。すなわち、五大労組の「代表性」は組合員数および選挙(従業員代表委員と企業委員会の選挙)における得票数とは独立して認められていたのである。五大労組は多くの排他的権利が与えられており、そこには企業内の従業員代表制度における候補者の指名(従業員代表は労働組合の「候補者名簿」に基づいて選出されることが多い)、政府の委員会、その他の諮問機関への代表者の選出における候補者の指名が含まれ、さらには、すべての労働者に適用される(erga omnes;対世効を有する)協定を締結する権利も含まれている。企業レベルでは、この五大労組のいずれかに加盟している労働組合は、当該企業の従業員の中では少数派であったとしても、全従業員に適用されることとなる協定に署名することができたのである。このようなシステムは、2008年まで変わることなく続いていた。その一方で、60年代以降、UNSA(Union nationale des syndicats autonomes:独立組合全国連合)、Solidaire(連帯労組)といった、国から全国レベルの代表的労働組合とは認められていない独立系労働組合が発足するようになり、労働組合の分裂状態に拍車がかかってきたのである。

1.2 使用者団体:MEDEFの支配的な地位

労働組合の分裂状態とは対照的に、使用者はその中心的なナショナルセンターであるMouvement des entreprises de France(フランス企業運動:MEDEFに糾合されており、MEDEF(1998年まではCNPF(フランス経団連))には、産業別組織と地域別組織を通じてフランスの全企業の4分の3以上が加盟している。しかしながら、MEDEFの加盟企業は規模も業種も多様であり、資本形態および経営幹部の経歴もさまざまである。英国およびドイツにおける使用者団体のナショナルセンターとは異なり、CNPF(1998年にMEDEFに名称を変更した)は、1960年代末期以降、ある程度幅広い事項について交渉に関わってきた。もっとも、賃金に関する交渉には関わらなかった。というのも、賃金率は産業レベルで定められるものだからである。

80年代以降、使用者団体は、各経営者に対して、事業所レベルでの積極的な労使関係政策の追求および現場の実務の柔軟化を促進することを強く推進してきた。MEDEFは、週35時間法の採択―(MEDEFからは)企業のコストにとって「大災害」だとみなされた―に至り、国の介入主義は頂点に達したと考え、労働組合と使用者が共同で運営する一部の社会保障機関への国の介入の増大に対しても批判的であった。なお、フランスの使用者団体のナショナルセンターは、MEDEFの他に、中小企業を代表するConfédération générale des petites et moyennes entreprises(中小企業総同盟:CGPMEと零細規模の手工業企業を代表するUnion professionnelle artisanale(手工業連合:UPAの2団体がある。中小企業(PME)は伝統的にフランス経済にとって重要な存在ではあるが、1950年以降は、大企業がより大きな役割を担ってきている。

1.3  国:曖昧なポジション

フランスの労使関係システムにおいて、国は団体交渉を規律するだけでなく、一定の労働者(労働組合)と使用者(使用者団体)の代表性を承認し、彼らに労働条件について交渉する権利を与えている。彼らが締結する協約・協定は、その団体の構成員(労働組合の組合員)だけでなく、協定の範囲に含まれるすべての労働者に適用される。20世紀初頭、団結する権利の定義を巡って活発な議論が展開されたが、最終的に判例はほぼ一貫した結論に落ち着き、この判例は今なお労使関係を支配している。判例は、労働組合および使用者団体は、その職業(産業)全体としての利益を守る責任を負うのであり、構成員に固有の利益を守るものではないという考え方を確立している。裁判所は、「職業(産業)の経済的利益の擁護者としての任を負う者として、職業別労働組合は真正かつ固有の権利に基づいて行動することができる。この権利は組合員からの委任の効果ではなく[...]団結権は個人の権利に付随する性格のものではない」(注1 )として、労働組合の基盤という問題につき、代表的労働組合は関係する労働者の全体のために行動するのだという考えを確立した。その後、1936年に、労働協約の拡張適用に関連して代表的労働組合という概念が法律で定められ、その定義に従い、政府は1966年のデクレによって前述の五大労組を代表的労働組合として承認した。

フランスの雇用関係においては、常に国が深く関与してきたが、法律と団体交渉との役割分担は実際上必ずしも明瞭ではなく、時とともに変化してきた。第一に、1936年以降、労働省は産業レベルで締結された労働協約を拡張適用することができるようになった。第二に、事前に交渉された協約、あるいは政労使の事前協議の結果に基づいて法律が制定される場合がある。第三に、使用者としての国は、賃金決定について、公共部門だけでなく、波及効果によって民間部門に対しても、多大な影響を及ぼしている(フランスでは、労働者の5人に1人が公共部門で雇用されている)。最後に、国は、最低賃金(SMIC)の決定を通して賃金に影響を及ぼしている。この団体交渉の領域への国の多大な関与は、使用者から繰り返し批判されており、時には、国の関与が過剰であると考えて、労働組合がこうした使用者の批判に同調することもある。

2. 団体交渉プロセス

フランスの団体交渉システムには主に次の三つの特徴がある(Bevort, Jobert 2011)。

  • 第一に、既に述べたように、フランスの労使関係は、ルールが高度に法律化されていること、および国の関与の度合いが高いことを特徴としている。団体交渉のプロセスおよび―かなりの部分の―交渉内容について、法律による幅広い規制がある。2008年までは、国は五大労組にすべての交渉レベルにおける交渉権限を与えており、拡張適用を用いることによって労働協約に強制力を付与することができる。また、法律は企業レベルにおけるさまざまな代表機関(従業員代表委員、企業委員会、安全衛生委員会)の設置を義務付け、その役割と責任を定めている。
  • 第二に、フランスにおける団体交渉は、企業および事業所レベル、産業レベル、全国(職際)レベルの3つのレベルで実施される。フランスの労使関係システムは、20世紀初頭に産業(産業部門)を中心に構築されたが、1950年代以降、企業レベル―労使紛争に関して―と全国(職際)レベルの交渉が、いずれも法的な基盤がないまま(法的な基盤が発展するのは1970年代以降)発展し始めた。各交渉レベルがより良い条件を付加することを当然の前提とする伝統的な規範の階層性が尊重されている限りにおいて、この交渉レベルおよび規制レベルの多様化が大きな問題になることはなかった。加えて、「社会的公序」の原則により、労使が法律に違反することはできず、法律を適用除外の対象とすることもできなかった。ところが、1974年以降の経済危機と相互譲歩型の交渉の発展に伴い、規範の階層性は機能しなくなっている。
  • 第三に、ドイツと同じように、企業には労働者の代表者とつながる2つのチャンネルがある。企業内の労働組合支部は各産業別組合の代理として、事業所レベルおよび企業レベルの団体交渉に参加する。4年ごとに従業員の選挙によって選ばれる企業委員会と従業員代表委員には、情報提供および協議(企業委員会)、あるいは各従業員からの苦情への対処(従業員代表委員)が委ねられる。フランスでは、企業委員会(従業員50人以上の企業で設置が義務付けられている)の権限が年々拡大してきており、企業の経済・社会活動に関係したほとんどすべての問題について意見を求められるようになっている。その際に、企業委員会は、外部の専門家の助けを求めること、異議申立を行うこともできるが、ドイツ(の事業所委員会)のような共同決定権は有していない。なお、企業委員会の議長は使用者が務める。

2.1 産業レベルの団体交渉の弱体化

1936年、産業レベルの交渉は法律によって労働関係における規範を定める最も重要な交渉レベルと認められ、この1936年の法律は、ある労働協約によって当該産業および当該地域の全労働者がカバーされるという(労働大臣による)拡張適用制度を定めた。「産業部門別労働協約」が「職業の法」とみなされ、フランスにおいて団体交渉(労働協約)の適用率が非常に高い(約98%)のはこのためである。部門別労働協約は一般的に期間を定めておらず、雇用から解雇までの雇用契約のあらゆる点に関するルール、非典型雇用(有期契約労働者およびパートタイム労働者)、見習い、職務格付けおよび階層別最低賃金、労働時間編成、職業訓練、補足的医療保険および補足的年金、特別手当、交渉手続き、労働者代表の権利などを定めている。これらの事項の中には法律によってすでに規制されているものもあり、この場合、産業部門別労働協約は、法律をその「職業」の状況に適合させる。労働法は、賃金と職務格付け、機会均等、職業訓練などに関して定期的な交渉を義務付けている。一部の使用者は、画一的なルールを課すことで、企業別交渉の自治を制約し、競争力という新たな課題に対処する能力を制約するとして、産業レベルの規制に反対してきた。このような使用者は(右派)政府に対し、産業別協約を二次的な地位に置く(企業レベルの協定がない場合に限って適用されることにする)、あるいは産業別協約が定めたルールの適用を除外することを可能にすることを通じて、「規範の階層性」を変化させることを求めた。この要求は2004年の法律によって部分的に叶えられ、すなわち、2004年法は、産別最低賃金、格付け、補足的社会保護制度、職業訓練などの事項を除き、企業レベルの協約・協定が産別協約の適用を除外する可能性を認めたのである。政府は、労使の「共通見解」(全国協定)を立法化した2008年の法律において、企業レベルの交渉による法定労働時間を35時間とする法律の適用除外を認める規定を盛り込んだ(ただし、法定労働時間そのものは引き続き35時間が維持されている)(下記参照)。

産業別協約が適用される職業の範囲、地域の範囲、およびその内容は非常に多岐にわたっているが、2009年に公表された労働省の報告書によれば、657ある産別協約の半分は、実質的には効力を失っていると評価されている。今や多くの企業において評価給制度が浸透しているため、過去には産別規制の中心であった賃金の規制力は減退している。フランスを含む欧州の労働者の半分以上が、なんらかの形の評価給(VPS)(個人またはチーム単位の業績にリンクした給与、利益参加、従業員持株)を受け取っており、企業は、賃金を個人、チームまたは企業の業績と関連付けることによって、その柔軟性を増大させている。評価給の目的は、従業員の意欲、生産性、革新性を高めることであるが、賃金格差を拡大し、同一労働同一賃金の原則を損なうという理由で、労働組合はこれに反対することが多い。

2.2 企業レベルの団体交渉への分権化

ほとんどの欧州諸国と同じように、フランスにおいても団体交渉は分権化の対象となってきた。標準的な無期雇用の基本的要素の規制については、産業別労働協約が重要な役割を維持しているものの、企業レベル(および事業所レベル、グループレベル)の交渉の重要性と自律性が増大している(Jobert 2013, Ministère du travail 2013)。なお、ドイツやイタリアなどとは異なり、フランスの産業レベルの労働協約は、企業および事業所レベルで交渉できる事項を特定するということはしていない。

強力な推進力が分権化を後押ししたのは1982年のことである。いわゆる「オルー法」は、代表的労働組合が存在する企業においては、使用者は賃金および労働時間編成について毎年交渉を行う義務があると定めている。この年以降、企業レベルまたは事業所レベルでの交渉義務が、男女間の雇用に関する権利の平等、健康保険および従業員貯蓄制度、高齢者雇用(企業内における高年齢労働者の雇用の維持)および雇用能力予測管理(これについては、従業員300人超の企業において3年ごとの交渉が義務付けられる)など他の多くの事項に拡大されてきた。

経済的理由によるリストラおよび整理解雇の場合における企業内の交渉を強化するため、2005年の法律(社会統合法)は、一定の条件の下、当該企業が法律上の規制の適用を除外できる可能性を定めている。この場合、企業委員会(従業員50人以上のすべての企業で設置が義務付けられている、委員が選挙で選ばれる機関)への情報提供および協議手続きにおいて、解雇を回避する解決策(再配置および再就職支援、早期退職、異動など)を見出すために使用者が策定しなければならない「雇用調整計画」の内容および経営側の計画に対する代替案に関して、使用者と労働組合が交渉をしなければならない。

2012年には、民間部門で約3万9000の企業別協定が締結され、企業別協定は民間部門の労働者の半分弱に当たる約750万人に適用されている。企業レベルの交渉は、10件に8件の割合で合意に達している(Ministère du travail 2013)。

団体交渉は主に中規模と大規模の企業で実施されており、労働組合がない小規模企業(従業員50人未満の企業の96%には労働組合がない)では今なお交渉は活発ではない。企業別協定の84%が、従業員50人以上の企業で締結されているのである。2008年法が、代表的労働組合のない従業員200人以下の企業において、使用者は労働組合員ではない従業員代表者と交渉できるという規定を置いたのは、こうした理由からである。この規定は、2004年から存在していたものの、産別協約による承認が条件になっていた。企業レベルの交渉のもう一つの限界は、多くの下請けを抱える大企業組織にはあまり機能していないことである。すなわち、大企業で締結される企業別協定は、「正規」労働者と並んで働いている下請企業の労働者には適用されない。下請企業の労働者は、実際の就労の現場である企業とは、正式な雇用関係がないからである。したがって、当該産業のすべての労働者に保護を与える産業レベルの交渉を維持することは重要である。

2.3 法改正に関する全国レベルの団体交渉

全国(職際)レベルの団体交渉では、労働者のみならず、若年者、失業者、退職者といった非就業者にも関わる幅広い経済的・社会的問題を扱い、その交渉事項は、社会的保護、失業手当、補足的年金、生涯職業教育および労働市場規制の改革などを含んでいる。このような問題は公序に関わる事項の一部をなすものであるので、その交渉には政府もしばしば関与する。政府は、検討の対象となる改正についての協議事項を定め、財政負担を求められるのが一般的である。複数の産業部門に関係するこうした職際交渉は、実際のところ政府の主導により行われている―例えば、最近の著名な3つの交渉がこうしたケースであった。すなわち、2007年の「労働市場の近代化」に関する交渉、労働組合の代表性に関する新たなルールに関する交渉(2008年に協定が署名された)、そして直近の雇用の安定化に関する交渉(2013年1月に協定締結)である。これらの協定は、その後立法化されている(後掲参照)。

全国職際協定の中には、欧州レベルの労使対話の枠組において、欧州レベルで締結された協定を実効化することを意図したものがある。在宅勤務に関する協定、労働に関わるストレスについての関する協定などがそれである。

3. 現代および将来の検討課題

近年、団体交渉および労働市場全体の変化により、フランスモデルが突きつけられた課題の大きさが明らかになっている。それは、労働組合の代表性の改革、社会的保護制度、法改正における労使の責任、企業における柔軟性と雇用の安定、地域レベルの労使対話に関する課題である。

3.1 労働組合の代表性の改革

2008年にフランスで採用された労働組合の代表性と協約の有効性に関する新たなルールは、労働組合活動を企業内にしっかりと根付かせ、従業員を関与させるという決意を示すものである(Bevort, Jobert 2011)。2008年法(この法律には労使間の協定(ただし、労働組合側はCGTおよびCFDTのみが署名した)の文言が組み込まれている)によると、代表的労働組合の資格は7つの基準で判断される。中でも最も重要な基準は、企業または事業所レベルの職場選挙の結果に基づいて組合が獲得する支持率であり、代表性が認められて企業レベルの交渉に参加するには職場選挙において10%以上の得票率を獲得しなければならず、産業レベルおよび全国職際レベルの交渉に参加するには8%の得票率を獲得しなければならない。協定が有効となるためには、職場選挙での得票率の合計が30%以上となる一または複数の労働組合によって署名されなければならず、かつ得票率の合計が50%を超える一または複数の代表的労働組合の反対がないことが条件となる。この新しい法律は、2013年に(それまでに)企業で実施された選挙結果が集計された後に、全国レベル、産業レベルで全面的に施行される。この改正は、労使間の交渉のルールを混乱させるかもしれないくらい大きな変化をもたらすものではあるが、労働組合および彼らが交渉した(結果である)協約の正当性を強化することにより、組合民主主義の拡大に寄与する可能性もある。

この改正は組合員数にはまだ影響を及ぼしていないが、産業レベルおよび企業レベルの労働組合の代表性にはさまざまな影響を及ぼしている。かつて団体交渉において活発に役割を担っていた労働組合が労使対話の舞台から姿を消すということもあるだろう。しかし全体としては、5つの「歴史ある」ナショナルセンターが全国レベルでの代表性を維持しており、民間部門での得票率は、CGTが26.7%、CFDTは26.0%、FOは15.9%、CFE-CGCは9.4%、CFTCは9.3%であった(2013年)。多くの専門家は、五大労組の安定性に驚き、キリスト教系労組CFTCが全国レベルの代表的労働組合になるためのハードルである8%に達したという結果は、特に大きな驚きであった。

3.2 懸案の社会保障制度に関する労使の役割

社会保障制度は全国レベルの労使関係システムの一部分を構成している。すなわち、社会保障制度の中には、労使間の協定(例えば、1958年の失業保険に関する協定)によって誕生し、使用者団体と代表的労働組合(五大労組)が共同運営しているものも存在するのである。このような制度には、社会保障基金(医療手当、家族手当)、補足的年金基金、失業保険、労働者のための職業教育などがある。これらの制度への国の関与はさまざまであるが、社会保障システムの危機に伴い、国の関与は大きくなってきている。労使は社会的保護の縮小傾向についての責任を共有したくない一方で、彼らに力と財源をもたらすものでもあるこの制度を手放すというつもりもない。労働組合の力が弱く、しかも組合間の意見が対立していることが、これらの制度の改革を(改革自体は必要と考えられているにもかかわらず)非常に難しくしている。

3.3 労働市場の規制に関する労使の新たな責任

近年、フランス政府は労使自治および団体交渉の強化を試みてきたものの、大半の専門家は、労使関係において国がなおも中心的役割を維持していると考えている。2007年1月31日の法律(欧州レベルの労使対話の仕組みを基礎としている)の目的は、政府に対して、労働法の改正をする前に労使との協議を行うことを義務づけることにより、この状況を抜本的に変えることである。すなわち、労働者および使用者をそれぞれ代表する組織は、個別的・集団的労使関係、雇用、職業訓練についての交渉に呼ばれ、その交渉の内容が、立法化されることになるというのである。もっとも、確立されている立法手続きにおいて、内閣あるいは議員が、協定の文言の修正を行うこともある。

2012年に、労使との協議を強化するもう一つのステップがスタートした。選挙で社会党が勝利した直後に、政府は労使との協議(concertation)の制度化を目的とする新しい方式を採用し、2012年7月、社会政策を決定するために政府の代表と労使が一堂に会して「政労使大会議」が開催された(Clauwaert, Schömann 2013)。1年後の2013年6月には、政府が開催した第2回政労使大会議で、雇用および労使対話についての問題提起、改革、および交渉に関する12ヶ月間にわたるロードマップが策定された。2012年に労働大臣が配布した提案文書では、労働市場における雇用不安の問題、雇用能力予測管理、集団的解雇手続の改革、経営難に直面する企業における雇用契約の4つが交渉優先事項に定められ、政府は2012年末までに全国(職際)協定を締結するように労使に要請した(結果に関しては後掲参照)。

3.4 柔軟性と雇用の安定

近年、柔軟性および雇用の安定に関して2つの重要な職際協定が締結された(Eiro, 2008, 2013)。

  • 2008年に五大労組のうちの4組合と使用者団体3団体が署名をした第一の協定は、無期雇用契約を(辞職および解雇とは別の方法として)使用者と労働者の双方の合意により終了させ、この場合に当該従業員が解雇補償金および失業手当を受けられるという新しい方法を導入している(Freyssinet, 2011)。この手続は、雇用局の承認を受けなければならない。この協定は、専門職および管理職についての新たな有期労働契約も導入している。こうした柔軟性の拡大と引き換えに、勤続1年以上の労働者は失業手当を受給することができ、雇用終了の際に、勤務先企業にかかる労働者の社会保障上の権利の一部について、新たな雇用に引き継ぐことができるようになった。統計によると、双方の合意による雇用契約の終了という新しい方法は大成功を収めた(2012年にはこの方法による雇用終了は32万件)。一方、これまでのところ、管理職についての有期契約はわずかしか締結されていない。
  • 第二の、労働市場改革に関する全国協定は2013年1月に締結された。この協定には「改良主義」3労組(CFDT、CFTC、CFE-CGC)が署名した。この協定は、労働者のための雇用の安定性を改善するとともに、企業のために柔軟性と競争力を改善することを意図している(Béthoux, Jobert 2013)。雇用の安定化に関する規定としては、無期雇用契約を奨励するための措置(短期雇用契約に関する失業保険の使用者負担分の増額による)、週24時間未満のパートタイム雇用を禁じる(例外あり)パートタイム雇用の規制、企業内外の同意による配置転換および配置転換命令に関する新たな枠組みである。他方で、この全国協定は、予期せぬ深刻な経営不振の場合に解雇を回避するための措置として、賃金および労働時間について一時的調整を行う(上限は2年)企業レベルの交渉を可能としている。この企業別協定は、職場選挙で合計50%以上(2008年法が一般的な協定の締結に要求しているのは30%)の得票率を獲得した一または複数の労働組合によって承認されなければならない。(この協定に基づく)労働条件の引き下げを拒否した従業員については、現行の「経済的理由による個別的解雇」に適用されるルールに従って解雇することが可能になる。さらに、この全国協定にはリストラおよび整理解雇の手続の簡素化が盛り込まれている。この手続に関しては、職場選挙で合計50%以上の得票率を獲得した一または複数の労働組合が雇用調整計画に署名していなければならない。企業レベルの協定を欠く場合には、企業は労働行政官庁に手続案を提出しなければならず、この場合、提出後3週間以内に労働行政官庁から意見がなければ、手続は有効になる。

この全国協定には、企業の戦略的決定に関する情報提供の改善および雇用能力予測管理の強化に関連した規定もある。大企業(従業員数10,000人以上またはフランス国内の従業員数5,000人以上の企業)では、従業員の意思決定への参加を確保するため、経営戦略が決定される取締役会に従業員の代表が出席するものとされる。この従業員代表は1人または2人であり、他の取締役会構成員と同じ権利を有する。

3.5 地域レベルの労使対話:労使間の規制の新たな道

労使対話という概念は―公式、非公式を問わず―企業レベルおよび地域レベルにおける労使間の交渉、協議、情報交換といった、さまざまな活動を包括的に表現するために用いられることが多い。この意味で、労使対話はより制度化されている団体交渉とは異なる概念である。

地域レベルの労使対話は地域レベルの経済・社会政策に関する対話であり、その実践は欧州諸国においてもさまざまに見られる(Didry, Jobert 2012)。このカテゴリーには、「地域別協定」と、地域の経済的・社会的見通しに関わる幅広い問題について労使が設定する職種別あるいは職際型の委員会の両方が含まれる。地域レベルの労使対話では、州または地方―その範囲が行政単位および政治単位に対応しているのはその一部に過ぎない―におけるさまざまな分野が取り上げられる。地域レベルの労使対話の特徴は、その対象となる事項の多様性である。すなわち、地方経済の発展、リストラ、企業と下請け業者の関係、労働市場の規制、社会的包摂、環境保護などがテーマとなる。地域レベルの労使対話の実践にあたっては、多数の主体が関わる。すなわち、企業、労働組合および使用者団体、NGO、その他の団体、地方公共団体、国の出先機関といった者たちが関与する。労働組合は多くの地域レベルの労使対話において主導権を握っており、その役割が増大している。労働組合は、このような活動は、労使対話の新たな場を開くとともに、企業内における労働条件規制を補完し、労働者の中での組合の正当性を高めると考えている。

結論

以上のフランスの労使関係制度に関する解説は、相反する2つの側面を浮き彫りにしている。すなわち、一方では、経済危機は労働組合を弱体化させ、賃金、雇用、労働条件に悪影響を及ぼし、団体交渉を侵食している。その一方で、経済危機は、労働組合および従業員代表に対し、企業の決定について話し合い、新しいテーマについて交渉し、地域レベルでの新たな規制を構成するといった、新たな場を開いているという側面もある。こうした新たな動きは、情報提供、協議、参加、団体交渉に関するEUレベルの立法およびフランス国内の立法に支えられている。一部の改革(フランスの2008年法律など)は、団体交渉の当事者および彼らが署名する労働協約の正当性を強化することを目的としている。また、最近の立法は、リストラに関する予防および予測という考え方を促進している。こうした考え方は、労働者に対する情報提供および協議、雇用能力予測管理のような、集団的解雇を回避するための予防措置に関する集中的な交渉を促しているのである。

参考資料

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