ドイツ・ハルツ改革の功罪

労働政策研究・研修機構(JILPT)は7月17日、ドイツ大使館のモニカ・ゾンマー参事官を講師として、海外労働情報研究会を開催した。以下にその講演の概要を紹介する。


モニカ・ゾンマー
ドイツ大使館 労働・保健・社会保障問題担当参事官

はじめに

研究会の様子ドイツでは過去15年間に、社会的に大きな変化があった。富める者は一層富み、貧しい者はさらに厳しい状態となり、貧富の二極化が進んでいる。ハルツ改革がこうした現状にどのような影響を及ぼしたのかについては、この講演後に皆様にご判断いただきたいと思う。

1. 政治・経済の文脈におけるハルツ改革

2000年代の初め、ドイツは―主要国の経済と比較すると―経済成長や失業率の面で、あまり成果が上がらない状況にあった。依然としてドイツ再統一の影響は顕著で、特に地域的な、新旧の連邦州間の深い溝が労働市場において顕在化していたという点も確かにあった。しかし、何よりもグローバル化時代における国際競争力の維持、豊かさの確保、社会保障制度の長期的機能維持、人口動態の変化(国内人口の規模と年齢構成)等を考慮すると、構造的な改革が必要だった。そこで連邦政府は2002年2月、次の2段階の計画によって決定的な方針を策定した。

  1. まず、労働行政を労働市場における現代的なサービス提供者へ転換するプロセスを開始した。当時の連邦雇用庁(Bundesanstalt für Arbeit)は、長官に代わって3人で構成される理事会(Vorstand)を持つことになり、自治の権限は政労使三者構成の管理評議会(Verwaltungsrat)によって再編され、任務の明確化が図られた。また、民間の職業紹介事業が、許可を必要とせず認められることになった。
  2. 他方で企業、労働組合、学界および政界の代表者で構成される「労働市場における現代的サービス委員会」(「ハルツ委員会」)が発足した。ハルツ委員会によって、労働市場における抜本的な構造改革のための法的枠組みが提言され、労働市場の各分野に関連する一連の措置が実施された。

2. ハルツ委員会の労働市場改革:労働市場における現代的サービスのための4つの法律と労働市場改革法

労働市場改革の基本理念は、「支援と要求」というスローガンの下、活性化する社会国家という構想だった。その目的は国家が整備する生存配慮(生存の確保)と、国民の自主的なイニシアチブとの間の新たなバランスを構築することだった。この労働市場改革は、いわゆる「アジェンダ2010」に組み込まれたが、アジェンダにはその他の分野の改革も盛り込まれた。

2.1 労働市場における現代的サービスのための第I法および第Ⅱ法

これらの法律の目的は、新たな雇用の可能性を開拓することだった。法的枠組みの変更と連邦雇用庁の組織再編によって、職業紹介の質とスピードを向上させること、そして提供サービスを再編して顧客が利用しやすい形に構築することを目指した。最も重要な取り組みには次のようなものがある。

  • 人材サービスエージェンシー(PSA)の設置
  • 労働者派遣法(AÜG)における既存の制限の撤廃
  • 職業再教育市場の再編、職業教育訓練クーポン(Bildungsgutschein)の導入
  • 個人創業助成金(Ich-AG)による自立強化
  • ミニジョブの新規定とミディジョブの導入

連邦政府は労働市場改革法(Gesetz zu Reformen am Arbeitsmarkt)(2003 年 12 月 24 日可決。2004 年1月 1日施行)によって、解雇保護法とパートタイム労働・有期雇用契約法を改正した。その目的は、特に小規模企業や新設企業における新規採用を促進することだった。解雇保護法の適用基準が変更され、従業員数10人以下の企業では、2004年1月以降に新規採用された労働者は解雇保護の適用から外れた(従業員が5人を超える企業ですでに雇用されている労働者は、従来通り解雇保護の適用対象)。新基準は、手工業者や小規模事業主が、好調な受注状況の際に従来よりも迅速な新規採用に踏み切りやすくすることで、求職者により良い雇用機会を開くことを目的とした。

一方、起業家にとっては労働者の有期雇用が容易になった(パートタイム労働・有期雇用契約法の改正)。新規事業の立ち上げから当初4年間は、有期雇用契約を正当な理由なく、4年間を上限として締結できるようになった。この改正では、困難の多い事業の立ち上げ段階においては、経済的な成果が特に定かでないこと、および人材需要の変動が見極めにくいことが考慮された。労働市場改革法はさらに、失業給付の受給上限期間を制限した(最高32カ月→55歳未満については最長12カ月、55歳以上について最長18カ月)。その目的は、早期退職への道を断つことによって、実際の生涯労働時間を延長し、当時の約60歳という平均的な年金受給開始年齢を引き上げるのに寄与することだった。

2.2 労働市場における現代的サービスのための第Ⅲ法

この法律の中心的な規定は、当時の連邦雇用庁( Bundesanstalt für Arbeit)から連邦雇用エージェンシー(Bundesagentur für Arbeit)への改編である。これは単なる名称の変更だけではなく、顧客重視、柔軟性、効率性を特徴とする、パフォーマンスの高いサービス機関に改編された。また、組織構造の分権化によって、地域の課題により一層踏み込んだ取り組みができるようになった。組織内部では包括的な目標合意システムと機能的なコントローリング制度(効果的なマネージメントを行うための行政の進行管理システム)が構築された。政労使三者構成の自治組織(Verwaltungsrat)は引き続き、連邦雇用エージェンシーの理事会(Vorstand)や業務執行機関に対する監督権および情報請求権を保持した。画期的な点は、顧客センターの設置、サポート活動の強化、プロセスフローの再構築、ならびに「使用者という顧客」に対するサポート強化などだった。この法律で定められた失業保険の給付法および労働市場政策の簡略化の目的は、連邦雇用エージェンシーの職員が失業者の職業紹介により集中できるようにし、併せて官僚主義の撤廃に寄与することであった。

2.3 労働市場における現代的サービスのための第IV法

労働市場における現代的サービスのための第Ⅳ法によって、稼働能力のある人々に対する失業扶助と社会扶助は、新たな給付―求職者基礎保障(失業給付II)―に組み込まれた。その目的は、給付の受給者を、支援を受けない就業へ統合する機会を改善するためである。第Ⅳ法によって、失業扶助と社会扶助の非効率的な併存が解消された。統一的な求職者基礎保障の導入は、「新しい」労働市場政策の中心的なモジュールである。

この新しい給付制度の趣旨は、「支援と要求」の原則に基づく迅速で的確な職業紹介である。要扶助者一人に対し、一人の担当者が個別に相談に応じる。この専任担当者が、要扶助者の具体的なニーズの状況を調査し、そのニーズに基づいて(要扶助者自身が積極的に参加した上で)個別のサービスが計画され、管理される。複数の困難な障害のため労働市場への迅速な統合が不可能である場合には、専任担当者が特に集中的な形でのサポートを導入する。それがケースマネジメント(複数の関係機関が長期間にわたって援助する際、事例の進捗状況やそれぞれの機関におけるサービスの提供内容を把握し、必要に応じてサービスの調整等を行うこと)である。給付は2つの運営機関、すなわち連邦雇用エージェンシーと地方自治体が―通例は共同運営機関の形で―提供する。この部分の改革については最終的に基本法の改正が必要となった(基本法を改正する法律(第91e条)、詳細は3.1を参照)。

地方自治体のサービス担当分野

  • 住居と暖房のための給付
  • 育児給付
  • 債務や依存症の相談
  • 心理社会的ケア
  • 通常給付でカバーされない一時的需要の引き受け

連邦雇用エージェンシーの担当分野(上記以外の全て)

  • 全ての労働市場への統合サービス(たとえば相談、職業紹介、雇用創出措置(ABM)の支援、職業訓練および職業再教育の支援など)
  • 生計保障のための給付(失業給付Ⅱ、社会手当)および社会保険に関する給付

こうした共同運営機関のほかに、連邦全域で69の地方自治体が「地方自治体運営機関のオプションモデル」を選択し、それによって独自に求職者基礎保障制度を運営するようになった。このモデルと共同運営機関との異なる組織形態の間に公平な競争が起こり得ることとなり、研究機関などがこれを見守り、評価を行った。

3. 改革の継続:2009年から2012年の経済危機期の景気対策パッケージ

3.1 連邦憲法裁判所の判決に基づく基礎保障の再編と実施

2010年の「基本法を改正する法律(第91e条)Gesetz zur Änderung des Grundgesetzes (Artikel 91e)」および「求職者基礎保障の向上のための法律(Gesetz zur Weiterentwicklung der Organisation der Grundsicherung für Arbeitsuchende)」によって、憲法に沿って社会法典第2編(SGBⅡ)の組織体制を整備する枠組みが構築された。

3.2 社会法典第2編(SGBⅡ)-給付法の改革

2011年3月24日の「基準需要の調査並びに社会法典第2 編及び第12 編の改正のための法律(Gesetz zur Ermittlung von Regelbedarfen und zur Änderung des Zweiten und Zwölften Buches Sozialgesetzbuch)」は、2011年1月1日あるいは2011年4月1日に施行され、「基準需要(Regelbedarf)」の算定方法、子供や青少年のための教育・参加給付、就業者の所得控除額の規定が新たに改正され、社会給付受給時の「最低保障財産」が引き上げられた。基準需要とは、生活困窮者に対する扶助給付(Fürsorgeleistung)における生計上の需要(食事、住居、被服、身体衛生、家財道具等)に関する統一的な基準のことである。この教育・参加パッケージに関連する規定は2011年1月1日付で遡及的に施行された。低所得の家庭には、その子供に的を絞って、社会的・文化的生活の実現のための具体的なプロジェクトへの参加を可能とするよう支援する。この支援によって、連邦憲法裁判所の2010年2月9日の判決の要求が実施された。すなわち、求職者基礎保障(失業給付Ⅱ)および社会扶助における基準需要が合憲となるように再計算されただけでなく、さらに教育・参加パッケージの給付によって、子供や青少年、若年成人の特別な需要が考慮されるようになった。このような教育・参加給付は、社会的・文化的な生活を送るために必要な最低条件に含まれるとみなされ、独立した需要として基準需要を補足する形で認められている。

3.3 景気対策パッケージ「雇用確保および経済危機の克服のための労働市場政策」

経済危機の時に連邦政府は、2つの景気対策パッケージによって、雇用確保および経済危機の克服のための労働市場政策を策定した。具体的には、次のような、追加的な労働市場政策が講じられた。

  1. 操業短縮(操短)の利用が、前提条件の軽減化と申請の簡略化によって、全ての企業および労働者にとってより魅力的に、官僚主義をより排除した形で整備された。景気に起因する操短労働者手当は2段階で、24カ月に延長された。
  2. 操業短縮時の解雇の防止と資格取得の促進のために2009年と2010年、操業短縮時に使用者が単独で負担すべき社会保険料の半分を―(操業短縮中に資格を取得する場合には、その期間に対して申請により全額を)― 連邦雇用エージェンシーが、使用者に対して還付することになった。景気に起因する操短手当は、受給開始から7カ月目以降は、連邦雇用エージェンシーによって社会保険料が全額負担された。
  3. さらに、社会法典第3編(SGB Ⅲ)に基づく操短手当の受給者に対しては、欧州社会基金(ESF)から資金を調達するプログラムによって、操短期間中に職業資格の取得支援をすることが―2010年末までの期限付きで―可能となった。このプログラムの目的は、増大する労働市場の要求に対する労働者の適応可能性を、適切な資格取得措置の支援によって高めることであった。このプログラムの実施は連邦雇用エージェンシーが担当した。欧州社会基金からドイツに対して2009年と2010年に、操短期間中の資格取得支援および雇用確保のための企業相談プロジェクト支援のために提供された追加的な財源は、総額2億ユーロに達した。
  4. 在職中の労働者に対する職業再教育支援は、それまでは失業に瀕した労働者、職業教育の修了資格を持たない労働者、中小企業の高齢労働者に限られていたが、職業訓練あるいは最後の継続教育の受講時期から一定期間が空いた全ての労働者に対象が拡大された。このプログラムには1年当たり2億ユーロが増額された。
  5. 派遣労働者の再雇用のため、資格取得のための補助金が2009年と2010年に提供された。
  6. 連邦雇用エージェンシーは2009年と2010年に、高齢者介護労働者および医療看護労働者に対する再教育を行う場合に、費用の全額負担を行った。
  7. 雇用促進のための法定保険料率(=失業保険の保険料率)が2010年末まで2.8%に据え置かれた。予測される赤字分に対しては、連邦予算の相殺義務が法律で定められた。2011年1月1日以降は保険料率が3.0%となっている。
  8. 共同運営機関および連邦雇用エージェンシーの人材状況を安定化させるために、2009年予算に3,300の定員が計上された。さらに、連邦雇用エージェンシーおよび基礎保障運営機関において、それぞれ2,500の定員増の予算化によって人材の安定化を図り、職業紹介、サポート、サービス提供が強化された。
  9. 2009年と2010年に対して、求職者基礎保障の運営機関の活性化および資格取得支援のために、連邦予算の12億ユーロの追加財源が提供され、7億7,000万ユーロが連邦雇用エージェンシーに対し、特に職業教育の修了資格を持たない25歳以上の労働者や、すでに長期間、職業訓練ポストを探しているが見つからない青少年のためのさらなる支援拡充のために提供された。

3.4 2008年12月21日の労働市場政策再編法(Gesetz zur Neuausrichtung der arbeitsmarktpolitischen Instrumente)(連邦法律公報第一部、第64号、2917頁)

2009年1月1日に施行された、2008年12月21日の「労働市場政策再編法」によって、労働市場の改革が継続され、労働市場政策がさらに向上した。

その目的に変わりはなく、求職者をより迅速に労働市場に統合することだった。固有の構造的問題―たとえば若者や高齢者の失業の場合―により的を絞って取り組んだ。この法律は連邦政府と連邦雇用エージェンシーの間の新しい目標管理プロセスに対する基礎を築くものである。責任の分権化をより強化することで、求職者のより迅速な職業紹介を実現することが狙いである。詳しく述べると、この法律は以下の重点を含んでいる。

  • 職業紹介予算からの支援制度
  • 活性化および職業的統合のための政策
  • 画期的なアプローチの試行のための予算
  • 基幹学校修了資格の後年の取得準備に対する支援の法的請求権
  • 高齢者介護法に基づく職業訓練の助成
  • 稼働能力のある要扶助者に対する援助可能性の改善
  • 社会法典第2編(SGB II)の統合給付の再編(自由助成制度を含む)

2009年8月1日には労働市場政策の再編の一環として、就職困難者に対する職業訓練支援策が再構築され、いくつかの点で改善が行われた。職業訓練の伴走型支援の適用範囲は拡大された。活性化支援の意図は、「活性化および職業的統合のための政策」によって取り上げられた。雇用促進法(Arbeitsförderungsrechts)の範囲は、連邦の高齢者介護法(Altenpflegegesetz)に基づく事業所で実施される職業訓練が含められたことで拡大した。

3.5 失業保険へのアクセスの容易化

主に短期の有期労働者に対し、失業保険へのアクセスを容易にするために、2009年7月15日に社会法典第4編(SGB IV)を改正し、年金権調整金庫を設立した。また、その他の改正法の規定に基づき、主に短期の有期労働者は2009年8月1日以降、失業保険給付へのアクセスが容易にできるようになった。

アクセスを容易化するための前提条件には、特に次のものがある。

  • 基本期間(Rahmenfrist)内の就業日が、主に6週間以内の社会保険加入義務のある有期労働によって発生すること、かつ
  • 直近の12カ月の労働報酬が、社会法典第4編第18条第1項の規定による基準値(ドイツ西側2009年:2,520ユーロ(あるいは年間30,240ユーロ);東側2009年:2,135ユーロ(あるいは年間25,620ユーロ))を超えないこと

その他の前提条件が存在する場合には、2009年8月1日から2012年8月1日まで、6カ月の保険料納付期間が適用された。この保険料納付期間を満たす場合、失業給付期間は年齢に関わらず、次のようになった。

表:就業期間別失業保険給付期間
(社会保険加入義務のある)就業期間 失業保険給付期間
6カ月 3カ月
8カ月 4カ月
10カ月 5カ月

この規定は、労働者の職業または産業の特殊性のために、短期間での就業が主となり、それゆえに失業給付の請求権を得るために必要な通常の保険料納付期間(2年間)の基本期間内に12カ月の納付期間を満たすことができない労働者の社会保障を改善するものである(特に芸術家の特殊性に配慮した)。なお、同規定は3年の期限付きであり、社会法典第3編(SGB III)第282条の規定により有効性調査の中で評価を受けている。

3.6 雇用機会法(Beschäftigungschancengesetz)

雇用の確保のために、「雇用機会法(労働市場の雇用機会の改善のための法律)」によって、操業短縮手当に関する特別規定(SGB III第421t条第1項から第3項)、および労働時間短縮後の失業給付に関する特別規定(SGB III第421t条第7項)が2012年3月31日まで延長された。いくつかの期限付きの労働市場政策(高齢者統合補助金、高齢労働者の報酬保障、在職中の高齢労働者の職業再教育)はそれぞれ1年間、2011年末まで延長された。この規定によって、2010年を過ぎても、特に労働市場における高齢労働者の支援機会が維持されることになった。さらに若者の職業訓練の機会も、雇用機会法の規定によってさらに改善される予定となっている。

同様に2013年末まで、支払い不能の(破産した)事業所の職業訓練生を対象とする職業訓練ボーナスが延長された(この措置は経済危機の影響に配慮したもの)。対象となる若者に対し職業訓練の継続を確保するものである。

さらにこの法律は、失業中の起業家や外国人労働者に対する任意の継続保険を規定している。

自営業者および外国人労働者に対する任意の継続保険の規定に、まずは法的な期限が設けられた。これは、この規定が導入時に失業保険制度における新たな要素だったためである。これまでの経験から、任意の継続保険はその正当性が証明されている。この保険は主に積極的労働市場政策の有効な改善として歓迎されている。自営業者と外国人労働者の保険料は、平均的な労働者が支払う保険料に適合させる(1カ月当たり約76.50ユーロ)。起業家の特別な状況を考慮するために、起業家は起業直後の段階(起業に続く暦年の終わりまで)においては半額を支払えばよいとし、同時に自営業者は、保険を5年の経過後に初めて解約告知によって終了させることを可能とする。3年後には社会法典第3編(SGB III)第28a項が評価される予定である。

労働市場政策の職業紹介クーポン制度は、ある一定期間が経過した失業者が希望する場合、公共職業安定機関が発行したクーポンを使い、社会保険加入義務のある仕事を斡旋・提供する民間事業者のサービスを受ける権利があるという制度である。民間事業者に対しては職業斡旋が成功すれば、手数料として2,000ユーロが支払われ、長期失業者や障害者に対する職業斡旋が成功した場合は2,500ユーロが支払われる。2011年より前は、失業者がクーポンを受けるまでに2カ月間の失業期間が必要だったが、2011年1月以降は必要な失業期間が6週間になり、いわゆる請求権を有する失業者の待機時間が短縮された。

雇用機会法によって、さらに市民労働の保険加入免除が定められた。新規定の社会法典第3編(SGB III)第421u条に定める、モデルプロジェクト「市民労働」の枠内で行われる就業は、失業保険の加入義務を免除される。この規定にはプロジェクト期間を2014年12月31日までとする期限が付されている。主な規定は2011年1月1日に施行された。

3.7 「教育・参加パッケージ」

「教育・参加パッケージ」は前述した通りだが、連邦憲法裁判所の判決を実施するものであり、2011年1月1日に施行された。連邦憲法裁判所の2010年2月9日の判決に基づき、子供および青少年に対し従前よりも有効な追加教育と成長過程における需要に基づく支援をしていくことが求められた。教育・参加パッケージの需要は、子ども、青少年および若年成人に社会的・文化的な最低水準の生活(人間にふさわしい最低水準の生活)を実現させるための一部とみなされ、それにふさわしいひとつの独立した需要として基準需要を補足する形で公認された。この需要を充足するために、教育・参加パッケージが導入された。このサービスは250万人の低所得の家庭の子供を、有効かつ的確に社会的・文化的生活実現のための具体的な活動に参加させることによって、より大きくより十分に将来のチャンスを広げていこうとするものである。

サービスの受給権者の範囲に含まれる対象者は以下の通りである。

  • 社会法典第2編(SGB II)に基づく求職者基礎保障受給中の子供
  • 社会法典第12編(SGB XII)に基づく社会扶助受給中の子供
  • 両親が児童加算手当または住居手当の請求権を有する子供(連邦子供手当法BKGG第6b条に基づく)、および
  • 庇護申請者給付法(AsylbLG)に該当する子供

基礎保障においては、教育・参加パッケージは「需要を喚起する」形で策定されているため、場合によっては所得または財産によって充足可能であり、それによって上述の社会給付の請求権を持たない家庭の子供でも、その子供の教育および参加の需要だけを理由として社会法典第2編(SGB II)の意味における給付権を有することもある。

教育・参加パッケージには以下の給付が含まれる。

  • 学校や保育所の日帰りの遠足および数日間の旅行の費用
  • 学校関係の個人的需要に対する1学年当たり100ユーロの助成
  • 通学費用助成
  • 必要に応じて学外学習への助成金
  • 学校、保育所や保育員制度における給食への参加のための追加費用、ならびに
  • 1カ月当たり10ユーロまでの、各種団体、音楽教室、余暇活動への参加のための費用

教育・参加パッケージは原則として現物またはサービス給付(受給権者へのクーポンの発行またはサービス提供者への直接支払い)によって提供される(例外:通学費用や学校関係の個人的需要の場合には受給権者への金銭給付)。教育・参加パッケージの運営機関は全ての法的範囲で地方自治体である。

教育・参加パッケージにおいて提供されるべきサービスに対する責任だけでなく、資金調達の責任も、地方自治体の運営機関が負う。財政憲法原理上の理由から、教育・参加パッケージに対する連邦政府の資金調達責任は存在しない。ただし、連邦政府は間接的に、求職者基礎保障における住居・暖房費に対する参加(BBKdU)の度合を高めることによって、地方自治体の運営機関のために財政調整を行う。連邦政府の地方自治体への調整規模は、2011年から2012年までで、教育・参加パッケージに対する行政コストを含めると1年当たり9億ユーロに達している。2013年以降の、調整規模は前年の実際の支出に適合させている。

現在、教育・参加パッケージは、受給権者によって十分に利用されている。2013年の初め、社会研究・社会政策研究所(ISG)は連邦労働社会省の委託で2,000を超える教育・参加パッケージの受給権を有する家庭に対し、再度アンケート調査を実施した。この調査結果から、教育・参加パッケージのサービスを受けた子供や青少年の数は、2012年時よりもさらに増加したことが明らかになった。現在、求職者基礎保障給付、児童加算手当または住宅手当を受給している家庭の子供の約4人に3人(73%)が教育・参加パッケージのサービスを申請している。他を引き離して最も利用者が多いのは、学校関係の個人的需要に対する1学年当たり100ユーロの助成である(いずれかのサービスを利用している子供のうち84%が利用している)。次に要扶助状態の子供の利用が多いのは、給食のための手当(同38%)、続いて数日間の旅行の助成(同36%)である。さらにその次は社会的・文化的生活への参加のためのサービス(たとえば、スポーツ団体や音楽学校への加入)と日帰りの遠足助成が続く(それぞれ同26%)。また、10%相当の子どもが通学費用助成を、5%相当の子どもが学校外の学習助成を利用している。そしてこの学習助成においてまさに考慮しなければならないことは、請求権を有していても需要が発生するのは少数の生徒に限られていることである。総じてアンケート対象者が最も高い有用性を認めているのは、クラス旅行のために提供される手当である。

教育・参加パッケージに対して何度も繰り返し寄せられてきた批判は、申請が複雑すぎるというものであった。今回のアンケート調査によると、教育・参加パッケージに申請を行ったことのある回答者のうち、80%が、その手続を「簡単」だったと回答している。前回の2012年のアンケートではこの割合はまだ65%であった。したがって、この点で明らかな改善が認められる。官僚主義的な負担をできる限り小さくするという、全ての関係者の努力が実った形である。回答者のうち、申請手続きを「困難」だったと感じたのは7%に過ぎなかった。これに対し、92%は肯定的に評価している。これらの結果は、教育・参加パッケージのサービスが家庭から肯定的に受け入れられており、十分な支援となっていることを示している。このことは、連邦家族・高齢者・女性・青少年省の委託で実施されたパネル調査の結果でも証明されている。この調査は、児童加算手当を受給する家庭による教育・参加パッケージの利用や評価に関する、より踏み込んだものであった。この調査でも、教育・参加パッケージについては、両親の約90%が、子供の機会を改善するのに有意義な支援策であるとみなしている結果が表れた。

3.8 労働市場における統合機会の改善のための法律(Gesetz zur Verbesserung der Eingliederungschancen am Arbeitsmarkt)

労働市場における統合機会の改善のための法律によって、労働界の変化と人口動態に伴う最新課題が取り上げられている。この法律の目的は、有効で効率的な労働市場政策によって、就業への統合、特に社会保険加入義務のある就業(第1労働市場)への統合のために提供される財源を、従来よりも有効に利用すること、さらに労働市場の受け入れ可能性を拡大し、就業への統合を加速することである。そのために必要となるのは、職業訓練ポストや仕事を探す人々を、適切に支援することである。この法律は第1労働市場をより重視すると同時に、より多くの人々に就業への持続的な参加の機会を開くものである。この取り組みは、今後数年間の国内における就業人口の規模、年齢構成の重大な変化を考慮すると、必要不可欠なものである。一方で、中長期にわたり就業できない人たちにも、さらなる支援の手をさしのべることがこの法律の構想となっている。このような人々に対して展望を開くために、就業に向けた公的な支援が導入される。この支援は就業への統合に向けた長期的な構想の構成要素であり、最終的には多くの人々に対し、正規雇用への移行を可能とすることを目的としている。だれも見放さないことが、この法律の方針なのである。さらに、若者に対する労働支援のサービスは再構築され、より柔軟かつ明確なものとなる。若者に主眼を置いた労働市場政策の取り組みの中で特に重要なのは学校から職業への移行である。将来を見据えて学校から職業への移行期における中心的な支援策として職業訓練などの伴走型支援活動を確立することが定められている。その点で、この法律は現場において広く受け入れられることを目指している。職業の選択は長いプロセスであり、学校で困難を抱える学生に対しては、持続的かつ長期的な伴走支援が必要となる。

以下の目標を達成することが、この法律の目的である。

  • 分権化の強化:地域の決定権限を強化
  • 柔軟性の向上:さまざまな異なる支援状況に適合可能な、柔軟に導入可能な労働市場政策
  • 個別性の拡大:個人別の相談、支援の改善
  • サービス品質向上:労働市場サービス提供者の参入における品質保証の強化
  • 透明性の向上:明確に構成された一覧性の高い手段によって、サービスの受け手を重視する姿勢を強化

積極的労働支援策の数を約4分の1に減少させて、その裁量の余地を拡大する。類似する方針を持つ支援策を統合する。

若者に対する積極的労働支援サービスは再構築され、より柔軟に、より明確になる。さらに社会法典第3編(SGB III)における言語の使用で、「青少年」に代わって「若者」が統一的に使用されるようになる。

社会法典第3編(SGB III)の個人創業助成金(Ich-AG)は完全に裁量給付に転換される。総支援期間(最長15カ月)に変更はない。社会法典第2編(SGB II)における給付の受給権を有する自営業者は、将来的にはその自営の就業に関しても、相談等の支援を受けることが可能となる。

求職者基礎保障における公的な就業支援は、2つの支援に統合される。一つは、いわゆる1ユーロジョブ(追加的経費補填型の就業機会:Mehraufwandsentschädigung)、もう一つは労働報酬補助金による労働関係助成制度である。後者に対しては、従来の報酬支払型の支援が、従来の雇用促進のための各種サービスと結び付いて、新しい労働関係の支援策となる。この支援の前提条件となるのは、「稼働能力のある受給権者であって、かつ労働市場への統合機会が欠けていること」である。この2つの支援は、労働市場の統合に向けた通常の職業紹介サービスや裁量給付よりも、優先順位の下位に置かれる。以上により、公的就業支援の方針は、労働市場から遠ざかっている人たちを対象に、稼働能力の維持、(再)獲得という方向性が強化されていく。

自由助成制度の給付はさらに柔軟化される。将来的には、ジョブセンター(AA)に従来よりも大きな役割を持たせることにより、長期失業者などを対象とした社会法典第2編(SGB II)の受給権者を労働市場に統合するための独自支援策を開発し、有効に活用していこうとするものである。法定給付からの逸脱の禁止、またはそれに上乗せ給付をすることの禁止は長期失業者に対しては完全に解除される。

この法律の主要な規定は2012年4月1日に施行された。

3.9 労働者派遣法の改正

2011年に労働者派遣法(AÜG)のさまざまな改正が行われた。「労働者派遣法の第1次改正法-労働者派遣の乱用の防止」(第1次AÜG改正法)によって、いわゆる「回転ドア条項」が導入された。回転ドア条項とは、労働者を解雇して、または継続雇用せずに、再び同じ企業または同じコンツェルンの別会社で派遣労働者として、派遣先企業の労働者よりも悪い労働条件で使用するケースにおいて、労働協約による均等待遇の原則から逸脱する可能性を制限するものである。このようなケースでは、使用者/派遣先企業が派遣労働者を使用することはできるが、その派遣労働者に対して主要な労働条件を守る必要があり、特に派遣先企業の同等の労働者と同一の賃金を支払うことを確保する必要がある。この規定は2011年4月30日に施行された。

同じく2011年4月30日に、派遣労働者の最低賃金導入に関する法規定が施行された(AÜG第3a条)。連邦労働社会省は、労働者派遣分野の労働協約当事者(労使)の共同提案に基づき、派遣労働者の最低賃金を定めることが可能である。労使による複数の提案が出された場合は「労働者送出法(AEntG)」の手続きに依拠した選択基準が定められる。最低賃金額は、地域的な差を含むことができる。労働協約委員会は見解表明権を持つ。最低賃金規定に反する場合には、法に基づき(派遣先における同等の労働者との)同一賃金への請求権が発生する。低賃金部門において派遣先の同等の労働者の賃金が、派遣労働者の最低賃金を下回る場合には、派遣労働者は少なくとも最低賃金額の請求権を有する。

第1次AÜG改正法によって、さらに派遣労働に関するEU指令(2008/104/EC)の国内法化のための法規定が決議された。この規定は2011年12月1日に施行された。

第1次AÜG改正法、2011年7月30日に施行された不法就労撲滅法によって、労働者送出法(AEntG)と同様の管理・制裁規定が労働者派遣法(AÜG)に導入され、税関行政機関の不法就労税務管理局に対して最低賃金の遵守の監視を可能となった。なお労働者派遣法(AÜG)に基づく労働者派遣に関する許可の付与や延長については、引き続き連邦雇用エージェンシーが管轄することに変わりはない。

4. 2014年の新「黒・赤」連立政権:労働協約パッケージ(Tarifpaket)

「協約自治の強化のための法案(2014年5月)」には、最も重要な構成要素として、時給8.50ユーロの法定最低賃金が含まれている。本法案は、2015年1月1日からドイツ全域で、全労働者と全産業に対して適用されることになる。この法案は、ハルツ立法の最も広範な修正となった。

7月現在、最低賃金の例外が激しい議論になっている。法案によれば、以下の人々には最低賃金の規定が適用されない。

  1. 青少年労働保護法の意味における子供および青少年であって、職業教育の修了資格を有しない者(すなわち、職業訓練を未修了の18歳未満の青少年は対象としない)
  2. 職業訓練生
  3. ボランティア活動
  4. 実習生であって、学校、職業訓練または大学教育の枠内における義務的実習を修了する、または職業訓練の選択のための最長6週間までのトライアル実習あるいはオリエンテーション実習を行う者。同じことが大学教育または職業訓練における最長6週間までの職業訓練給での自発的実習にも適用される。ただし、実習が同じポストで何度も行われることがない場合に限られる
  5. 長期失業者であって、社会保険加入義務のある(第1労働市場)への統合を予定する者。そのような失業者に対しては、最初の6カ月間の就業に対しては最低賃金の請求権が適用されない。連邦政府は2017年1月1日付で、この例外が長期失業者の雇用機会の改善につながったかどうかの検討を行う予定である。労働協約が適用される労働者には協約賃金に基づく支払いが行われる

この法律には、現行の最低賃金協約に対する経過規定が含まれる。

(1)将来的な最低賃金手続:

最低賃金の額は定期的に審査される。最低賃金委員会によって提案された最低賃金の調整額は、連邦政府が法規命令によって公布する。

連邦労働社会省(BMAS)は、法定最低賃金の導入(2015年1月1日)によって、370万人の労働者がその恩恵を受けると見込んでいる。

(2)協約自治強化法のその他の構成要素:

(2)-1. 一般的拘束力宣言(AVE)の容易化

一般的拘束力宣言の改革によって、労働協約で拘束されない使用者への労働協約の拡張を容易にすることを目的としている。労働協約の拡張は将来的には、産別レベルおよび全国中央組織レベルの労働協約当事者が共同で拡張を必要であるとみなし、公共の利益においてその拡張が必要であると思われる場合には、常に可能とする予定である。労働協約のカバー率は、公共の利益の審査の枠内で引き続き重要な役割を果たす。ただし、これまで適用されてきた一般的拘束力宣言の前提条件としての50%の定足数は削除される。この定足数は、労働協約適用率が低下する中、充足がますます困難になる可能性がある。また、一般的拘束力宣言の改革と同時に、社会政策的に特に重要性の高い、たとえば建設業における社会金庫の存在は確保される。

(2)-2. 労働者送出法(AEntG)の全ての部門への開放

労働協約で取り決めた信頼性のある部門別最低賃金を、労働者送出法の適用範囲の拡大によって、将来的には全ての産業で適用可能とする予定である。この開放は労働協約当事者によって希望されたもので、将来的には従来はこの法律に含まれなかった産業に対しても、労働者送出法の有効な規定を援用し、全ての労働者に対して、外国から送り出された人々に対しても適用される、最低労働条件を取り決めることを可能にする。法定最低賃金の導入段階において労働者送出法の開放はさらに、全ての産業の労働協約当事者に対して、この法律を労働協約上の適合化プロセスの形成のために利用することを可能とする。

(2)-3. 労働協約パッケージのスケジュール

連邦議会での協議はまだ終了していない。連邦参議院における議決は2014年9月に計画されているため、この法律は予定通りに2015年1月1日の施行が可能である。

5. ハルツ改革の総括

ハルツ改革は総括すると、全体的に相反する結果を示している:

まず肯定的な側面としては、連邦雇用庁を連邦雇用エージェンシーに改編したことで、行政サービスは総じてより柔軟かつ効率的になったことが挙げられる。労働市場関係者との密接な協力関係も実現し、これによって失業者数は経済危機を経ても、さらに減少させることができた。長期失業者の割合ですら、低下させることができたことは肯定的な成果と評価し得る。

次に否定的な側面としては、新設された職業ポストの大部分がむしろ不安定な労働関係に属し、将来の展望を提供するものではないことがあげられる。ハルツ改革法の最初の3つの法律を評価した研究機関がすでに早期に指摘していたことは、正しいことが明らかになった。すなわち、労働市場における改革は、確かに労働市場を柔軟化したが、「失業問題の解決への貢献はわずかなものであった」ということである。また、期待とともに実施された政策のいくつかは、ほぼ完全な失敗に終わった。この失敗には、第1労働市場(社会保険加入義務のある就業)において、失業者を派遣労働者として就労させることを企図した人材サービスエージェンシー(PSA)が含まれる。

改革の当事者と直接的に関係する社会福祉事業団が発表した2012年の総括の中には「ハルツ改革は失敗に終わった」と書かれている。この総括によると、ハルツIとハルツIIで提案された、たとえば人材サービスエージェンシー(PSA)や個人創業助成金(Ich-AG)などの改革策は、現在ではほぼ姿を消している。また、ハルツ改革によって、むしろ、

  1. 当事者全体の4分の3が長期継続的に「ハルツIV」受給者のままである
  2. 労働市場においてかなりの品質低下が発生した
  3. 僅少就業者の割合が増加した
  4. 130万人がいわゆる上乗せ受給者(就労しながら失業手当を受給する者)に分類され、その収入は失業給付IIから独立するには不十分である
  5. 公的な雇用部門が縮小した

この総括には、活用されていない潜在的労働力の規模が大きいという事実も含まれる。その数は2011年、740万人に達した。

これに対し、政府によって委託された研究者の評価は、個人創業助成金(Ich-AG)のほか、職業再教育支援にも良い評価を与えている。ただし、期待される再統合機会(「予測される統合持続率」)という基準に基づく職業再教育の支援の方針は、低資格の失業者の犠牲の上に成り立っていると指摘している。十分な景気回復が労働力需要を再び増加させ、熟練労働者不足の最初の兆候が発生している、この状況において、低資格者も支援することが重要なのである。

連邦議会に現在、提出されている法案パッケージは2002年以降の改革のいくつかの重要な修正を予定している。たとえば、ミニジョブは第1労働市場(社会保険加入義務のある就業)への架け橋としては適していないことが判っている。ミニジョブは、従事する労働者の所得税の免除、社会保険料の免除・段階的な軽減措置が行われる制度だが、ミニジョブの増加は社会保険の収入を減少させ、保険料を基礎とする社会保障制度を長期的には弱体化させることになる。

今回の修正によって、この数年間に急速に進んだ所得の格差拡大、そして何より「ワーキングプア」の増加が持続的に食い止められるかに注目が集まっている。

以上、全体として見ると、ドイツはハルツ改革以降、経済危機や世界全体の景気後退時期を通り抜けてきた。もしハルツ改革がなかったらどういう状況を招いていたかを考えると、その意味では、ハルツ改革のプラスの面の方がもう少し強調された方が良いかもしれない。

なお、この改革は終わりではなく、本年動きがあった最低賃金の導入や一般的拘束力宣言制度の要件緩和などを見ても分かるように、ドイツは現在でもトライ&エラーの改革を常に行いながら、様々な問題に対処している。

参考レート

講師略歴

モニカ・ゾンマー 労働・保健・社会保障問題担当参事官

大学講師、DGBの法律顧問を経て1995年から2000年に在日ドイツ大使館に着任。その後ILOアディスアビバ地域事務所のシニアアドバイザー、アディスアビバ大学研究員、オックスフォード大学アフリカ研究所研究員、南アフリカのドイツ大使官参事官などを歴任し、2014年4月から二度目の日本着任。

関連情報