金融危機がもたらす影響と対応:韓国
公共投資を中心に14兆ウォン規模の経済対策
—倒産増え、主力産業で雇用調整の動き

米国に端を発した金融危機は、すでにウォン安や原材料価格の高騰の影響を受けている韓国経済にさらなる打撃を与えている。企業の倒産件数はすでに2005年3月以来の高水準に達した。韓国の主力産業である自動車、半導体メーカーなどで減産や雇用調整の発表が相次いでいる。政府は公共投資を軸とする11兆ウォンの財政支出と3兆ウォンの減税を合わせた14兆ウォン規模の総合経済対策を発表している。

自動車、国内需要も大きく減退

韓国銀行が11月19日に発表した「手形不渡り動向」によると、10月の企業の倒産件数は9月よりも118件(58.1%)多い321件となり、内需不振が深刻だった2005年3月の359件以来の高い水準となった。業種別では製造業が109社(9月66件)、建設業が65社(同49件)、サービス業が133社(同74件)、その他14社となっている。地域別ではソウルが111社(9月80件)、地方は210社(同123件)となっており地方への影響が大きくなっている。金融危機による市場の資金繰り悪化が倒産件数の増加につながったとみられる。

こうした中で、韓国の主力産業である、自動車や液晶ディスプレイ、半導体メーカーなどでは、景気悪化への対応として減産や雇用調整を相次ぎ発表した。このうち、韓国の自動車業界は、金融危機の深刻な状況を受けて消費者心理が急速に冷え込んだ結果、自動車購買需要の大幅な減少に見舞われている。そのため自動車各社では、減産による年産目標の下方修正が相次いだ。当初、景気悪化の影響で大型車の需要が急激に減少する中にあっても、韓国の主力である中・小型車への需要は堅調と見られ、さらには円高・ウォン安の影響から同じ中・小型車で競合する日本車に対して価格優位性があると考えられていた。しかし金融危機の影響により、外需はおろか比較的堅調であった国内需要も11月に入り大きく減退するものとなった。

GM大宇は先に年末年始の全工場の操業の全面停止を発表したが、同社への部品サプライヤーとの会議の席上、同社上層部は「2009年3月までに全工場の平均稼動率を半分に引き下げる」と発言したと伝えられている。また、双竜自動車も2009年の生産目標を2008年の13万台から9万台に減産するとともに非正規社員を対象とする希望退職の募集などの雇用調整を実施する予定である。また、ルノーサムスンも管理職以上の希望退職の募集を開始したとされ、その規模は全従業員7600人の1割を超える800人以上とみられる。現代自動車も10月に米国アラバマ工場の減産を発表したが、11月には蔚山市の工場の一部の休日生産を停止し国内も事実上の減産態勢に入った。

増える非正規社員のリストラ

このように、金融危機に追い打ちをかけられた産業界では、実体経済への影響が年明けから一層深刻化するのではとの懸念が出始めている。政府が重点目標として掲げる「雇用創出」は引き続き低下傾向を示しており、統計庁が発表した10月の雇用創出数(前年比の増減数)は9万7000人となり、2005年2月の8万人以来の低い数字となった。2008年の雇用創出状況を数値で辿ると、第1四半期21万人、第2四半期17万3000人、第3四半期14万2000人と減少傾向が続いており、政府が掲げる年間目標20万人の雇用創出の達成はもはや困難な状況とみられる。また、同統計庁がこのほど発表した「経済活動人口追加調査」(毎年3月及び8月実施)の結果では、金融危機の影響をみることはできないが、趨勢としては正規社員の増加基調が続く一方で、非正規社員の減少傾向が続いている。これは、景気悪化による雇用調整のしわ寄せが、自動車業界の例でみるように、非正規社員のリストラにつながっているためと考えられる。非正規労働者の内訳では、パート労働者数が前年同期比2.3ポイント増加している一方で、有期契約労働者数及び非定型労働者数(請負、派遣、日雇など)はそれぞれ7.3ポイント、3.2ポイントの減少となっている。ただし、非定型労働者の中では、派遣労働者や家庭内労働者の減少が大きい反面、輸送や清掃などの請負サービスに従事する用役労働者は同8.1ポイントの上昇を示しており、非正規労働者の中でも一人当たりの賃金が低いパート労働者や非定型労働者がコスト削減のため多く活用されていることを示している。

一方、失業率は2008年第1四半期3.4%(前年同期比0.2ポイント減)、第2四半期3.1%(前年同期比0.1ポイント減)、第3四半期3.1%(前年同)、10月3.0%(前年同)と推移している。失業者数をみると、2008年1四半期80.1万人(前年同期比5万人減)、第2四半期76万7000人(同2万4000人減)であったが、年後半を各月でみていくと、7月76万9000人(前年同期比3万3000人減)、8月76万4000人(同1万1000人増)、9月72万2000人(同4000人増)、10月は73万6000人(同3000人増)と、前年を上回る状況が続いている。

非正規労働者保護法の改正案も検討

こうした状況への対応策として、政府は財政規模約14兆ウォンに上る総合経済対策を発表した。内訳は11兆ウォンの財政支出と3兆ウォンの減税となっており、財政支出は雇用創出や景気回復効果が期待される公共投資に投入されるのをはじめ、特に金融危機の打撃の大きい中小企業や自営業者、農林水産業向けの支援が実施される見込みである。

同時に労働部では、景気悪化の影響による非正規労働者の解雇が続くことを避けるため、非正規労働者保護法により義務付けられている、正規化までの非正規労働者の雇用期間(2年間)を3年ないし4年に延長する案や、2009年7月から施行される100人未満企業への非正規労働者保護法の適用についても同施行を延長する案などを盛り込んだ、同法改正案の国会提出を検討していると伝えられている。

参考資料

  1. 韓国労働部Web、韓国統計庁Web、朝鮮日報Web(Chosun Online)、NNA

参考

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