金融危機がもたらす影響と対応:フランス
大統領、雇用に関する行動計画を発表
—労組、既存計画の焼き直しと反発

世界的な金融・経済危機対策の一環として、サルコジ大統領は10月28日、雇用に関する行動計画「金融危機の雇用に対する影響を緩和するための主たる方策」を発表した。特殊雇用契約利用者を10万人増やすことや、試行中の職業移行契約(CTP)を拡大すること、公共職業安定所(ANPE)と失業保険運営機関(UNEDIC)の統合を急ぐことなどが主な内容。これに先立ち、同大統領は総額360億円にのぼる金融機関支援策を決めている。雇用不安が募っていることから、「雇用こそ優先して守るべきだ」との批判があがり、行動計画策定はこのような声を意識したものと受け止められている。労働組合は「既存計画の焼き直し」「金融機関救済とは違い、明確な数字がない」などと反発している。

金融支援策に総額3600億ユーロ

欧州連合(EU)議長国であるフランスのサルコジ大統領は、10月13日、世界的な金融危機に対処するため、ドイツなどユーロ圏15カ国による緊急会議を開催し、金融機関に対する公的資金投入を決定した。フランス政府が発表した金融機関救済策は、経営難に陥った金融機関への資本注入に400億ユーロ、2009年までに発行された銀行債券保証に3200億ユーロの総額3600億ユーロの支出にのぼる。

こうした大統領の金融危機対策に対し、国内では、「まず国民生活、国内の雇用こそ守るべきだ」という声があがっていた。大統領は「金融機関への支援策は、中小企業や賃金労働者、経済成長、そして雇用のためであって、金融機関のためだけではない。金融機関はこの支援を受けて、企業や個人に新たな融資を行うことができ、それが経済・雇用にプラスに働く」と説明してきた。しかし、今春以降、雇用情勢の悪化が表面化し、世界的な金融危機により失業者数がさらに増加することが予想されるため、今回の雇用に関する行動計画を発表したとされる。

大統領は、10月28日、訪問先のフランス東部レテル市(アルデンヌ県)において、「雇用不安はかつてなく高い」とし、世界的な金融危機からフランスの雇用を保護する対策を公表した。また、企業に対して、今回の金融危機とは明らかに関係がないにもかかわらず、金融危機を理由にした経営縮小や従業員解雇を行うことがないよう警告した。

行動計画の主な柱

大統領が公表した行動計画の主な内容は以下の通り。

  • 特殊雇用契約の増加
    フランスでは、積極的失業対策の一つとして「特殊雇用契約」がある。これは、ある一定の条件の下で締結できる雇用契約で、雇用主への賃金補助や再就職後の職業訓練費用の補助などを雇用契約に盛り込むことにより、雇用(再就職)促進を図るものである。2009年度の予算案では、23万人分の特殊雇用契約にかかる予算が組み込まれているが、さらに非営利部門について10万人分の特殊雇用契約を追加する。また、今夏に決定した2008年度分の6万人増加についても、年内に実行に移す。
  • 職業移行契約(CTP:contrat de transition professionnelle)の適用範囲の拡大
    特定の職業部門における従業員数1000人以下の企業で、経済的な理由で解雇された者に対し、職業訓練を受けることを条件に、最大で12カ月間、従前賃金の80%に相当する手当を支給する制度(CTP)を、フランス政府はアルザス地方の一部などで2006年から試験的に導入している。この制度の適用範囲を広げるとともに、手当については「従前賃金の100%相当」にし、再就職のための個別支援などのサポートを強化する。
  • 公共職業安定所(ANPE)と全国商工業雇用連合(UNEDIC)の早期統合
    失業者の再就職活動を支援するANPEと、失業保険制度の運営を行うUNEDICの統合については、「雇用に関する真の公共サービスを2008年までに段階的に実施する」ことを盛り込んだ社会統合計画法(2005年1月18日公布)の一環として、既に2006年に決定している(注1)。この統合を一刻も早く実現させ、2009年夏以降は、失業者が求職活動や失業手当受給手続きを一つの窓口で行えるように、再就職活動の方針や失業手当支給の決定に必要な聞き取り調査も、完全に一本化する。なお、統合後の組織名はPole emploi(雇用局)となる。

今年末の失業率8%の予想も

大統領はこの他に、中小企業における有期雇用契約(CDD)の規制緩和、派遣労働や有期契約終了後の再就職または職業訓練を円滑にするシステムの構築、日曜労働の解禁(注2)などを提案し、「これから到来する困難な時代の中で、フランス国民の期待する対策を見出すには、我々一人一人が責任を持って金融危機に対処する必要がある」と、労使代表にその責任感の自覚と発揮を繰り返し求めた。

これに対し、使用者団体のMEDEFは「公的雇用サービスの改革(ANPEとUNECDICの統合)の加速、経済を刺激する日曜の労働の解禁や中小企業におけるCDDの利用拡大など、大統領の『タブーをなくす』挑戦を大いに歓迎する」とし、大統領の掲げた雇用政策を高く評価した。

一方、労組側からは、「今回の雇用に関する行動計画は、2007年に発表された改革プランの再確認にすぎず、中小企業における有期雇用契約(CDD)の利用促進は、これまでに国民から拒否されたCPE(初回雇用契約)とCNE(新規雇用契約)を復活させるようなものである(注3)。さらに、日曜日の就業が、全ての職業において慣行化されることは断固阻止する」(FO:労働者の力)、「金融機関への支援と異なり、明確な数字が出されていない」(CFDT:民主労働同盟)など、批判の声が相次いだ。

現在、金融危機の雇用に対する影響についての統計データは、集計中のものが多く、公表されているものは少ない。雇用省が10月末に発表した雇用統計によると、2008年9月の失業者数は前月より0.4%増加し、5月以降増加が続いている。また、2008年第3四半期の派遣労働者数は、第2四半期とから4.5%も減少している。個別企業の動きでは、自動車需要の低迷を受け、ルノーやプジョーの一部工場で、10月下旬以降、在庫調整を理由に数日~数週間程度の一時操業停止を実施しており、さらにルノーでは、数千人規模での雇用削減の方針を打ち出している。

国際的な金融対策の策定で、現在のところ金融不安は落ち着いているが、消費の冷え込み、生産減少などの進行に伴い、雇用への大きな影響が懸念されている。今年第2四半期に7.2%であったフランス本土(海外県を除く)の失業率は、2008年末には8%に近い水準となるという予想も出てきている。EU議長国トップとして、世界的な金融危機解決に率先して取り組んできたサルコジ大統領だが、今回の行動計画で国内の雇用をどれほど守ることができるのか注目される。

参考

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