地域格差と地域雇用:フランス
フランスの地域格差:暴動と郊外問題をキーワードに

  • カテゴリー:地域雇用
  • フォーカス:2007年1月

フランスにおける地域格差問題を考える際に、ひとつのキーワードとなるのが「郊外問題」(注1)である。これは、人種差別や失業、貧困、教育、宗教、若年者などあらゆる問題が複雑に絡み合ったものといえる。2005年秋の移民の若者を中心とした暴動の拡大は、この郊外問題が現在のフランス社会の抱える大きな課題であるという認識を国内外に示すこととなった。

フランスには現在、「問題の生じやすい都市地域」(ZUS)に指定された地区が全国に751箇所ある。その多くがパリやマルセイユなど大都市の郊外に集中しており、およそ470万人が居住している。ZUSの失業状況は深刻で、暴動発生の直前に公表されたZUSに関する報告によれば、同区域の15歳から59歳人口の失業率は20.7%に達している。これはフランス全体における平均の2倍以上の水準である。出身国別ではさらに深刻で、北アフリカなどEU(欧州連合)域外の出身移民の男性26%、女性38%が失業者である。

平等主義を謳うフランスでは、合法的な移民であればフランス人と全く同等な権利を有するとされる。しかし実際は、就職の際に提出する履歴書で、その名前や写真から移民と推定される場合が多く、書類選考すら通過しないことも少なくない。また、郊外の低所得者層居住地域出身というだけで就職は困難という現状もある。こうした移民系家庭出身者に対する差別は高学歴者ですら例外ではない。

こうした郊外問題への対応が不十分なまま、政府が異なる文化・風習・宗教を持つ移民たちに対して「フランス社会への同化」という名の下に行ってきた政策への日頃の不満が
一気に噴出したのが暴動の発端とする声が多かった。一連の暴動を「郊外の危機」と表現したド・ヴィルパン首相は、郊外問題への対応に早急に着手する意欲を示し、2006年3月には「機会平等法」(注2)を定め、問題の生じやすい都市地域(ZUS)に居住する若者の就職支援策や、深刻な失業状況にある一部の地区への都市免税地域(ZFU)の新たな創設、差別対策強化などを盛り込んだ。

こうした取り組みの背景には、「いかなる地域や経済分野に身をおこうとも、権利は平等に享受されるべき」という考え方が存在する。しかし、暴動からおよそ1年を迎えた2006年10月には、機会平等法で政府が定めた「匿名履歴書の義務付け」(注3)の先送りが決定されるなど、郊外を取り巻く状況にはあまり大きな変化は見られない。移民系若者に対する度重なる職務質問は、相変わらず街の至るところで見られ、若者の警察に対する反発も強まっている。

また、フランス全体の失業率は低下傾向を示しているが、都市郊外における失業率にどのような変化が出ているのかという公式のデータは、特に発表されていない。しかし、パリ近郊のZUSにある団地街へ行くと、若者だけでなく多くの移民系の中高年がウィークデイの昼間からたむろしている光景は日常化している。失業率が改善されたとは言い難い。AP通信は(2006年10月23日付)、パリ郊外のセーヌ・サン・ドニ県のラ・クルヌーヴ市の公共職業安定所(ANPE)の前で出会った失業者の証言を紹介しながら、現在でも顕著な差別により就職が困難であることを伝えている(注4)。

このように、フランスの郊外問題は、様々な要素が絡み複雑化しているため、単純に地域間の格差と一言で片付けることはできない。暴動を機に表面化したこの問題を、政府はどのように対処していくのか注目される。

2007年1月 フォーカス: 地域格差と地域雇用

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