多様な働き方:フランス
働く女性の「仕事と家庭生活の調和」を支えるパートタイム労働

多くの先進国で少子化の傾向がみられるなか、フランスの合計特殊出生率は一時期1.65まで落ち込みながらも、2005年には1.94まで回復。少子化に一定の歯止めがかかっている。こうした出生率の回復の背景には、30種類にもおよぶ手厚い家族給付制度に加えて、働く女性の「仕事と家庭生活の調和」を支えるパートタイム労働の環境整備の推進が存在するといえよう。

フランスでは、女性は男性に比べ、期間の定めのある雇用(CDD)、雇用対策による臨時的雇用、研修等の形態で雇用されていることが多い(注1)。特に、ワークシェアリングの一環としてパートタイム労働奨励策(注2)が実施された1993年からパートタイム労働が増加傾向にある。パートタイム労働は仕事と家庭を両立させる一手段であり、公務員あるいは管理職の女性で子供を持つ者が、主に学校が休みとなる水曜日を休みとする形でのパートタイム労働を選ぶことが多い。INSEE(国立経済統計研究所)の雇用調査によれば、2005年の雇用者総数におけるパートタイム比率は17.2%まで上昇し、女性の被用者に占めるパートタイム比率は30.8%で、男性の5.7%よりかなり高い。また、パートタイム労働者の約82%が女性である。

我が国のパートタイム労働の特徴を「有期契約で更新打ち切りによる実質的な解雇が比較的容易で、基本的に時給制である労働契約。社会保険、雇用保険が完備されていない場合も多い」と捉えるとするならば、パートタイム労働という言葉からイメージする雇用形態は、日仏間で相当異なる。フランスにおけるパートタイム労働者とは、単に「労働時間が法定労働時間よりも短い労働者」という意味に過ぎず、フルタイム労働者と同様の労働協約上及び法的な権利を有する。そのため、パートタイム労働者の時間当たりの賃金は、同等の業務に従事している勤続年数の同じフルタイム労働者と同じでなくてはならない。社会保障制度にも加入し、保険料を支払う義務が法律で定められている(注3)。フランスで「パートタイム労働」と言った場合、純粋に労働時間の契約が他の社員より短いというだけの意味である。

また、子供の養育・疾病看護など、「仕事と家庭生活の調和」を目的とした「フルタイムからパートタイムへの転換」も認められている。例えば産前産後休暇(養子を迎えた場合も同様)の終了後、いつでもパートタイムへの転換が可能である(注4)。パートタイムへの転換期間終了後は、転換前の雇用あるいは同等の報酬を伴う雇用が保障される。さらに、パートタイムの雇用契約であっても就労の実態がフルタイムに近い場合は、フルタイムの雇用契約に自動的に転換される仕組みが労働法典に定められており、パートタイムからフルタイムへの転換も可能となっている。フル・パート間の賃金格差が小さいとはいえ、やはりパートタイムの収入は相対的に低いため、フルタイムへの転換を希望するパートタイム労働者の割合は高くなっている。

フランスのパートタイムは、フルタイムとの均等処遇が原則であり、基本的に個人の選択による「短い労働時間」と位置付けられている。さらに、パート・フル間の転換が可能など、その多様性もひとつの大きな特徴といえる。そこに解決を急ぐべき課題がないわけではない。女性に偏っていること、相対的に収入が低いために長時間労働に流れやすい、希望時間と実際の就労時間のミスマッチ等の問題が存在する。しかし、労働者のライフスタイルにあわせて選択するワーキングスタイルとしてのパートタイム労働は、フランス人女性の「仕事と家庭の調和」の実現をサポートしているといえよう。

参考

  1. 1ユーロ(EUR)=147.35円(※みずほ銀行ウェブサイト新しいウィンドウへ 2006年8月7日現在のレート参考)
  2. 『諸外国のパートタイム労働の実態~EU、仏、独、英、米を対象に~』 日本労働研究機構、2003年
  3. 特別レポートVo.5「フランスの家族政策、両立支援策及び出生率上昇の背景と要因」 日本労働研究機構欧州事務所2003年
  4. 「フランスのパートタイム労働―個人の労働時間短縮と半失業の狭間で」 鈴木宏昌大原社会問題研究所雑誌No.537 2003年

2006年8月 フォーカス: 多様な働き方

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