多様な働き方:アメリカ
雇われない働き方「独立契約者」

従来の正規雇用に代わる働き方である非正規雇用には、派遣やパート、契約社員など多様な働き方があるが、なかでもアメリカで定着した働き方の一つに「独立契約者(注1)」がある。独立契約者は、(1)期限付きで専門性の高い仕事を受託して行い、(2)企業との間に雇用契約でなく、業務委託契約を結ぶ者――を指す。独立契約者は、従来の被用者とは異なり、組織から独立し、顧客の獲得や仕事の進め方等を個人の価値基準で決定する、「雇われない働き方」をする。アメリカにおいてこのような働き方は、IT業界や金融業界を中心に広まってきたと言われる。

アメリカ労働統計局(BLS)の発表によると、独立契約者の数は2005年2月現在、1030万人で就業人口の7.4%を占め(注2)、2001年の調査時点から1ポイント増加している。呼出労働者(オンコール・ワーカー)(注3)や派遣労働者等の他の非正規労働者は2001年の調査から大きな変動がなく、増加を見せる独立契約者とは対照的である。BLSの分析によれば、独立契約者は従来の被用者に比べて35歳以上の者、男性、白人の比率が高く、学位を有する者の割合も高い。職種では、役員・管理職、精密・加工・修理工、専門職、営業・販売職、サービス職に多い。業種別では、従来職に比べ建設業、金融業、専門職に従事する割合が高い。また、従来の就業形態を希望する者が10人に1人以下と非常に低いことも特徴である。

独立契約者の職種別内訳

図1

独立契約者の業種別内訳

図2

出典:アメリカ労働統計局Current Population Survey新しいウィンドウへ

独立契約者のメリット・デメリット

雑誌「ヒューマンリソースプラニング」の記事(2005)によれば、企業が独立契約者を活用するメリットとしては、(1)福利厚生費、採用・選考費等の経費削減、(2)契約終了が容易、(3)教育訓練費用をかけずに高度な技能が利用可能――等が挙げられる。また専門性の高い労働者の間でも、企業に縛られない自由な働き方を好む傾向が強まっていると言われる。ある研究によれば、フルタイムで働く独立契約者の収入は、組織に雇われている労働者より平均で15%も多い(注4)。特にIT関連職種は、一般に高学歴で賃金水準も高い。アメリカでは、賃金は担当する業務内容に応じて決定されるため、契約形態の如何に関わらず賃金水準は確保されている。

ただし次のような問題点の指摘もある。独立契約者の仕事は、プロジェクト単位など期間を限定したものが多く、専門性が高くなければ安定的に仕事を確保することが難しいとされる。福利厚生も提供されないことが多く、2005年に自営業者の全国組織(NASE)が行った調査によると、回答者の49%は保険料が支払えないために医療保険に加入していないとの結果が出た。また、同じチームで同じ上司の下、同じ業務に就きながら、独立契約者として雇用されているために、他の正社員には提供されている福利厚生等が提供されないというケースがある。業務の性質上、本来なら被用者と扱われるべき者が、独立契約者という形式で仕事をするという独立契約を装った雇用を回避するため、内国歳入庁(IRS)や州政府は、企業に対し、実質的な使用者かどうかを判定するテストを実施している(注5)。

IT業界で働く独立契約者の実態

アメリカでは80年代以降、IT部門業務の外注化が進み、正社員でなく、臨時的または特定の業務に対して企業と契約を結ぶ就業形態が増えた(注6)。ビジネス雑誌「ブラック・エンタープライズ」(2006)によれば、1992年からワシントンD.C.で独立契約者として働く、あるITコンサルタントの女性は、年収が独立前には5万ドルであったのが、現在は10万から15万ドルになった。独立当初、契約が切れた後の職の確保が不安であったが、実際に職探しに困ることはなく、ITコンサルタントの需要が高まった最盛期には、契約期限が近づいた段階で2~3のインターネット職業紹介サイトに履歴書を載せるだけで、1日に最大で5件もの仕事のオファーがあったと言う。このような働き方を可能にする背景には、柔軟性の高い労働市場がある。彼女のような独立契約者は、会社の垣根を越えて働き、一時に複数の会社と契約を交わしている。

独立契約者には経済的な補償は無く、税金対策、生命・医療保険の設計等を個人で行わなければならないなど、自己責任の範囲が広い。しかし、キャリアの形成や時間の使い方、やりがいなどの観点から、雇われない働き方をする彼らの仕事の満足度は高いとされる。

独立契約者を活用するしくみ

アメリカでは、独立契約者を支援するしくみが整っており、職種を問わず全般を支援する団体(注7)と、専門職に特化した団体(注8)がある。全般を支援する団体の主な支援内容は、独立契約者の働く環境を整えるためのロビー活動、医療保険等の団体加入、自己啓発プログラムの提供など多岐に渡る。専門職に特化した団体は、IT関連職種、販売職など、職業群別に構成されており、企業との契約書の交わし方、所得申告の方法など、より実務的な支援を行っている。また、インターネット上に支援サイトも多数存在し、職業別、プロジェクト単位での仕事情報の流通が盛んである。

参考

  1. ダニエル・ピンク(2002)『フリーエージェント社会の到来』ダイヤモンド社
  2. Human Resource Planning, “The unexpected employee and organizational costs of skilled contingent workers” June 1, 2005
  3. The Independent Contractor’s Survival Guide, Black Enterprise, March, 2006

2006年8月 フォーカス: 多様な働き方

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