特別企画:児童労働
検証:児童労働という現実

家業の手伝いや小遣い稼ぎのアルバイトのことではない。18歳未満の男の子が兵士として徴用されたり、女の子なら買春やポルノ産業に追い込まれる現実のことだ。農業や漁業もあれば坑内労働もある。しかしそれだけではない。紅茶やコーヒー、さとうきびや塩、冷凍の野菜や魚介類などの食品。さらにはサッカーボールやチョコレート、花火の製造過程にも児童労働が関わっているかも知れない。この現実を見据えるとき、児童労働はどこか遠くの貧しい国の出来事ではなく我々の日常の生活の問題でもあるのだ。

(本特集は特段の断りのない限りILOが発表した情報を基に作成しました)

検証1:児童労働とはなにを指すのか

答:児童と青年あるいは成人との境界線について世界的なコンセンサスがあるわけではない。その意味で児童労働という言葉が示す範囲や内容も国によって異なる。そうした中で広く使用されているのがILOの定義。大きく分けて二つある。

一つは「原則15歳未満の子どもが大人と同じように働く労働」とするもの(ILO138号条約)。「原則」とあるのは開発途上国の場合に限って「さしあたり14歳未満」とする例外を定めているからだ。もう一つは「最悪の形態の児童労働」とよばれるものでILO182号条約に定める。前者は子ども達の健全な成長をさまたげる労働を指すものであって家や田畑での手伝い、小遣い稼ぎのアルバイトなどは含んでいない。これに対して後者は「18歳未満の子どものすべて」を対象とし、具体的には(1)不特定の債務に縛られ不特定の期間にわたって弁済するため労働、武力紛争への強制的徴用、児童の人身売買などの「奴隷労働またはそれに類似した行為」(2)売春やポルノ製造、わいせつな演技のための児童の使用(3)麻薬の密売や生産、犯罪の手引きや取引などの「不正な活動に児童を使用すること」(4)危険有害業務、深夜業、坑内労働など「児童の健康、安全、道徳を害する労働」――を指す。

わが国と「最悪の形態の児童労働」との関連では売買春やポルノ製造という問題が広く知られている。例えば東南アジアにおける売買春の経済的・社会的背景として「西欧諸国や日本、台湾/中国(訳注:台湾をさす)の男性が特別に組織されたツアーでフィリピンやタイにやって来るセックス観光は、この産業の代表的な一面である」と指摘し、さらに「セックス産業は、国境を越えて広がっている。売春のために女性や子どもを売買する事例も増えている。少数民族や近隣の貧しい国々、特にミャンマー、中国、ラオス、カンボジアの未成年の少女たちがタイに売られてくる。他方でタイの女性と少女たちは、日本や他の西欧諸国に売られていく」と述べる(注1)。

2006年の6月現在の条約批准国は138号条約については145カ国、182号条約については161カ国がある。批准国は定められた期限までに法整備を行い防止、働く児童の解放、社会復帰、影響からの回復、無償の基礎教育を受ける機会の確保、特別な危険にさらされている児童への援助、女児の特別な事情の考慮といった措置を講じることになる。

表1:働く児童の年齢別推計(2000年及び2004年)

表1

資料出所:SIMPOC

表2:児童人口と働く児童の推移(2000~2004年、%)

表2

資料出所:SIMPOC

検証2:児童労働は現実に何人、どこの地域にあるのか

答:138号条約で定義する児童労働についてILOは2億1800万人(2004年)と推計する。2000年が2億4600万人だったから4年間で11%減少したことになる。しかしそれでもなお世界の子ども達の7人に一人が児童労働に従事しており、そのうち5~14歳が約76.1%、15~17歳が約23.9%を占める。182号条約で定義する「最悪の形態の児童労働」に含まれる危険有害業務は1億2600万人(2004年)。2000年と比べて26%減少したという。

児童人口に占める「経済活動に従事している児童数」の割合(5~14歳、2004年)が最も高いのはサハラ以南のアフリカ諸国で26.4%を占める。以下アジア太平洋(18.8%)、中南米(5.1%)その他の地域(5.2%)と続く。児童労働者数は主に中南米(ラテンアメリカとカリブ海諸国)での減少幅が大きく次いでアジアが続く。しかしアフリカ、特にサハラ以南のアフリカ諸国ではほとんど前進がみられなかった。ILOのグローバル・レポート(注2)はサハラ以南のアフリカ諸国について「世代ごとに人口が2倍に増えるなど人口増加が膨大であり、HIV/エイズ感染率と児童労働の発生率が依然として高い」と説明し「同地域は働く子どもの割合がもっとも高い。サハラ以南のアフリカ諸国がこの危機にどう向き合っていくか」について支援が重要と訴えている。

表3:地域による児童の経済活動の世界的傾向
(2000年及び2004年、5~14歳の年齢層)
地域 児童人口
(単位:百万)
経済活動に従事している児童
(単位:百万)
活動率
(%)
2000 2004 2000 2004 2000 2004
アジア太平洋 655.1 650.0 127.3 122.3 19.4 18.8
ラテンアメリカ及びカリブ海諸国 108.1 111.0 17.4 5.7 16.1 5.1
サハラ以南アフリカ 166.8 186.8 48.0 49.3 28.8 26.4
他の地域 269.3 258.8 18.3 13.4 6.8 5.2
世界全体 1199.3 1206.6 211.0 190.7 17.6 15.8

資料出所:SIMPOC

表4:地域別の児童の経済活動率
(2000年及び2004年、5~14歳の年齢層)

表4

資料出所:SIMPOC

検証3:どんな産業のどんな仕事で児童労働があるのか

答:最も多いのが農業、児童労働全体の69%を占める。ここでいう農業には狩猟、林業、漁業も含まれる。農業分野の就労人口はもともと多く世界の就労人口の約半分を占めるといわれ、その規模の大きさが児童労働の多さにつながっている側面もある。続いて多いのが卸・小売業、ホテル・飲食業、運輸・通信などサービス業(22%)、そして工業(9%)となる。

OECDの報告(注3)によると、児童労働の圧倒的多数が無給で経済活動に従事しているが、無給の子どもの数は年齢の高まりと共に減少するという。その理由は成長と共に生産性も高まり脆弱でなくなるので自分の経済活動に対する報酬を請求できるため、と分析している。無給の経済活動に従事する割合は女児の方が男児より高い。これは家事を負担することが多いことに関連があるとみられる。ただし自宅での家事労働はこの報告では、経済活動とはみなされない。

サッカーボールは我々の日常と児童労働との関係を鋭く暴いた。IPEC(ILO児童労働撤廃国際計画)が1996年に実施した調査は世界のサッカーボールの約75%がパキスタンのシアルコットという地域で生産され、ここの5~14歳の子ども達約7000人のほとんどが学校にも行かずボールを縫っていたと報告している。

カカオ農園で働く児童労働も先進国の人々にショックを与えた。西アフリカはチョコレートの原料であるカカオの70%を生産するのがそこでは25万人を超える子ども達がカカオ農園で働いていた(国際熱帯農業研究所が行った2000年の調査)。こうした実態報告がきっかけとなり2003年には「カカオ・商業農業分野における危険かつ搾取的児童労働撤廃プロジェクト」がスタートした。18歳未満の子どもたち約8万人を児童労働から救済することを目指す同プロジェクトにはコートジボアール、カメルーン、ガーナ、ギニア、ナイジェリアが参加した。

表5:児童労働及び危険有害業務に従事している児童
(性別:年齢別分布、2004年、%)

表5

資料出所:SIMPOC

表6:部門別の働く児童の分布
(2004年)

表6

資料出所:SIMPOC

検証4:児童は実際にどんな仕事をしていて、どんな状況にあるのか

農業・紅茶のプランテーションで働くヨグ・12歳の例

お父さんは病気だし、私が姉妹の中で一番年上なので、お母さんと一緒に家族を養っていかなくてはならないの。私の一日の賃金は12ルピー(約30円)。毎日16キロの紅茶の葉を摘んで農園から2キロ離れた計量センターまで徒歩で運ぶの。これはとても重たくて疲れます。しょっちゅう胃や頭がいたくなるしケガをします。この間も鎌で深く切ってしまいボロ布で手当しました。休みは一日もないし、病気の時もそうでない時もただ働くだけ。

カーペット織り・シャンカル・6歳の例

ぼくはもっと小さい時から働いている。仕事は重たい道具を使ってカーペットの結び目を裁断すること。よく手をすべらせて指を切ってしまう。お母さんって泣くとご主人がぼくをぶつんだ。ご主人は病院に連れて行ってくれない。傷口をマッチの粉でふさいで火をつけたよ。そうすると皮膚と血が固まるんだ。その時ぼくが泣くとご主人はまたぼくのことをぶつんだ。

ごみあさり・ロザリン・12歳の例

2年前学校をやめた時から働きはじめたわ。ごみをあさるために何キロも歩かなければならないし12キロ離れた国際空港まで行くこともある。私達は毎朝、早く起きて仕事を始めなくてはなりません。他のゴミひろいがいいものを拾ってしまうからです。ときどき近所の人が自分の家の前から私たちを追っ払おうとするわ。私たちがなにか盗むんではないかと心配だからよ。

路上の商い・サイション・16歳の例

9歳のとき汽車に乗ってバンコックに来てしばらく駅で暮らした。その時は見るもの聞くもの珍しいものばかりで毎日ワクワクしながらあっちこっち歩き回って物乞いをした。まわりにはギャングがいて、そいつらが子どもの物乞いの上がりを取り上げてしまうんだ。路上で寝泊りして物乞いした罪で何度も補導され結局少年鑑別所に送られたよ。

売春・パム・15歳の例

お母さんがうなずいて男の人から80ドルもらって、それから私は売春宿につれていかれてすぐ働かされた。その頃私は1回に20セントしかもらえなかった。売春宿は朝7時から翌朝の3時まで開いていて、仕事時間に眠ったり仕事に取り掛かることが遅いと20ドルの罰金をとられる。売春宿に雇われている男がいて売春宿を逃げようとした子どもをいつもひどくなぐっていた。男が怖かった。

検証5:児童労働が無くならない最大の原因は教育の欠如か

答:ILOは児童労働について(1)教育機会の欠如(2)不適切な法制度(3)貧困そして(4)児童の地方から都市への移住(5)子どもの地位が低い価値観や地域社会の労働慣行(6)武力紛争・災害などによる社会の混乱そしてHIV/エイズ――などの様々な要因が関係する複雑な問題、と説明する。

中でも教育についてILOは「児童労働をなくすために大変効果的」であるとして教育制度の改善を提唱する。しかし実際には多くの子ども達が学校にはいっていない現実がありILOは以下のようにみている。

  1. 多くの国で義務教育は無償となってはいるが実際にはカバン、昼食、学校に着てゆくための衣服などが必要。貧しい家庭にとってはこれさえ負担となる。
  2. 学校自体が不足しているという理由もある。人里はなれた過疎地に住む子ども達は学校に通うために遠くまで歩いて行かなくてはならないが、これは子どもの安全にとって様様な面で問題になる。
  3. 少数民族、異民族、移民、都市のスラム街に住むなど社会から疎外されている人々に対して教育制度は、完全に対応できているとはいえない。多くの場合こういうグループの子ども達は学校に受け入れてもらえない現実がある。
  4. 女児の場合、男児よりも学校に行けない子どもが多くなる。女児は家事を任されることが多く、また伝統的に教育の必要性が低いとみなされていることによる。
  5. 学習に必要な教科書やノート、筆記用具などが不足していて授業ができないという実態がある。
  6. 教育制度が十分に整備されていないため子ども達に必要な教育を提供できない国が少なからずあること。原因は深刻な予算不足、さらには子ども達が将来、より良い生活や雇用機会を得るのに必要な知識や技能を内容とするカリキュラムが提供されていないことなどが指摘されている。
  7. 教員の問題もある。例えば教員の給料が低すぎて教育活動に専念出来ないことや、教員が十分な訓練を受けていないために、適切な指導が出来ないという問題だ。

検証6:不適切な法制度や貧困はどう影響するのか

答:ほとんどの国には一定年齢以下の子どもの就労を制限し禁止するための法律がある。だがしかし法律の執行確保という面で困難が生じるというのが現実だ。

大抵の国にはわが国の労働基準監督官のような労働監査官のシステムがあり、こういう職務の役人が法の執行を確保する。しかしこのシステムの機能を阻むのがインフォーマル経済の存在だ。ILOもインフォーマル経済の拡大を重要視し、同セクターには「最悪の形態も含む多くの児童労働が見受けられる」としている(注4)。

インフォーマル経済が法の執行から除外される現実が少なからずあり、それと児童労働が多くの場合、同心円になるという問題意識だ。「政府の公式統計には現れにくいがフォーマル・セクターよりも実際はインフォーマルセクターに8~9割の児童が働いている。零細企業、家族農業、家内労働、家事労働、行商などである」とする研究は端的に実態を説明している(注5)。

児童労働と貧困の関係について「児童労働の背景には、いうまでもなく貧困がある・・・多くの貧しい世帯では(家族が生きていくうえでの)基本的ニーズを満たすため、もてるかぎりの資源をすべて最大化しようとする。貧者がもちえる唯一の資源は労働力である。そこで貧しい世帯では、大人から子どもまで、男女を問わず、すべての労働力資源が家族や世帯の維持、再生産のために動員され、結集されることになる。ここに児童労働発生の基本構造がある」と述べる説明は明確で理解しやすい(注6)。

検証7:児童労働撲滅のために今必要なことは何か

答:児童労働撲滅に向けてILOは1919年の創立総会で最低年齢(工業)条約(第5号)を採択した。撲滅に向けての第一歩である。その後も様々な方法で取り組みを進めてきており2002年には毎年6月12日を「児童労働反対世界デー」と定めることも決めた。

児童労働撲滅を推し進めるためのILOの中核はIPECと呼ばれるILO児童労働撤廃国際計画。これはILO最大の技術協力プログラムで1992年に開始された。現在は87の途上国で展開されているという。ILOではこのプログラムの成果について「IPECの活動によって児童労働から解放された子どもたちは、リハビリテーションを受けて心身の傷を癒します。そして予防活動を通して児童労働に陥ることを免れた子どもたちと共に学校に通って勉強に励んでいます。このようにIPECの利益を受けた子どもたちの数は最近の1年間で約14万人にのぼりました」と説明している。1992年の開始以来、直接・間接にIPECからの利益を受けた子どもの数は既に500万人に達するという。

IPECの活動は政府、労働者や使用者の団体、NGO、学校、メディアなど様々な関係者によってすすめられており、ドナーと呼ばれる資金協力者が支援している。政府ではわが国を含む22カ国、団体では連合を含む7団体が名を連ねている(詳細は表7)。

表7:IPECの活動に資金協力するドナー
(1992~2004年)
政府 オーストラリア、オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、イタリア、日本、ルクセンブルグ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェイ、ポーランド、韓国、スェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国
団体 タバコ産業児童労働撤廃財団(ECLT)、欧州委員会、国際サッカー連盟(FIFA)、Hey U Entertainment Group、国際菓子協会・世界ココア問題グループ(ICA-GIG)

検証8:児童労働撲滅のために日本はどんな貢献をしているのか

ILOの報告は「児童労働への対応には正しい技術的な手段だけではなく、正しい政策の選択が必要であり、これには労働者・使用者の組織が社会対話の精神に基づき中心的に係っていくことが必要」と指摘する(注7)。

NTT労組のスタディツアーイベントはこうした期待に応える運動として注目を集める。同労組は2004年にインド、タイ、パキスタンに組合員を派遣しインドでは児童労働の現場である採石場、タイでは女性のための職業訓練施設や働く児童に教育を提供するNGOを、そしてパキスタンでは児童労働の現場として医療用機器製造工場を訪問した。同労組は児童労働撲滅キャンペーンを重要運動課題の一つと位置付けており、そのキーコンセプトは「知る・伝える・行動する」。スタディーツアーはその実践として力点が置かれている。
労働組合の活動としてはこの他に1998年から2000年にかけて連合が実施した「フィリピンの児童労働と観光産業」の実態調査やネパール、カンボジア等での教育資材の現地語訳支援が知られている。

政府が実施する取り組みでは(1)厚労省が2000年から2002年に実施した「児童労働に関するアジア・太平洋地域三者構成セミナー」の開催(2)国連人間の安全保障基金を通じた出資があり、この資金はベトナムやカンボジアの児童・女性の人身売買防止プロジェクト、タイやフィリピンにおける人身売買犠牲者の社会帰還支援のためのプロジェクトに貢献している。

検証9:我々の日常生活は児童労働とは無縁といえるか

答:最近急速に広がりをみせたことばとしてCSRがある。日本語では企業の社会的責任と訳される。企業が展開する活動のプロセスに社会的公正性・倫理性への配慮が組み込まれているかどうかを問う考え方のことで、それを判断するための問題領域として労働・人権がある。その領域の一環として児童労働の禁止が存在することは今や常識といえる。今日ではさらに一歩進んで”complicity”(共犯)という考え方も定着している。これは日本のある企業が自社の活動範囲では立派にCSRを実行していても部品・材料を仕入れるルート、つまり海外を含めたサプライ・チェーンにおいて人権問題が露呈した場合、それを無視すれば「共犯者」と認識されるという考え方だ。

JILPTの研究報告書は「NGOからの指摘がきっかけとなってサプライ・チェーンの児童労働問題の解決に取り組んだ例として1990年代のナイキのケースが有名である」と紹介している(注8)。これを対岸の火事と片付けるわけには行かない。食品、玩具、嗜好品。これらの商品がどこかで児童労働を経由している可能性を否定できないからだ。ナイキの経験から学ぶべきことは決して少なくないのである。

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