アジア・外国人労働者受入の制度と実態:台湾
2国間協定に基づく受入れを実施

国立台湾師範大学教授
洪榮昭

台湾では国内労働力不足の問題の解消を目的に、1989年以降外国人労働者の受入れ制度が開始された。以降、一定の単純労働分野においてタイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、モンゴルとの2国間協定に基づく外国人労働者の受け入れを行っている。(注1)就労期間は最長3年で受入れの際には国内の雇用確保を前提とする労働市場テストが行われるほか、各企業における外国人労働者の構成割合に上限を設定する雇用上限率(注2)などの受入れ規制を設けている。

外国人労働者数が増加国別ではタイ人がトップ

2004年末現在の外国人労働者受入れ数は約31万4000人である。このうち約3分の1(33.53%)がタイ人であり、フィリピン人が(29.03%)、ベトナム人が(28.74%)、インドネシア人(8.69%)と続いている。

受け入れ業種は当初、製造業と建設業に限定されていたが範囲が次第に拡大し、現在では(1)建設業、(2)製造業、(3)看護・介護、(4)家事労働者、(5)船員の分野で受入れが行われている。

2004年の受入れ業種について見ると、家事・育児に従事する外国人労働者数が全体の約4割を占めるようになっており、この背景には高齢化の進展に伴い介護などのニーズが高まっていることが挙げられる(図表1参照)。一方建設業については、政府認可による大規模プロジェクトが完了したこともあり、縮小傾向にある。

失踪外国人労働者の問題が深刻化

製造業の場合は行政院経済部、看護・介護の場合は医師による審査に通った案件のみ外国人労働者の雇用申請を行うことができる。各種審査後、募集ポストの職が国内労働市場では充足できなかったことを証明(労働市場テスト)した後、行政労工委員会による外国人労働者雇用許可が発給される。外国人を雇用したい企業・家庭と台湾で働くことを希望する労働者のマッチングは多くの場合、台湾および送り出し国における職業紹介機関を通じて行われる。

外国人労働者は、雇用契約期間中、労働許可を申請した雇用者の下にとどまることが要求される。しかし、外国人労働者を雇用する雇用者の20%近くが無断で雇用契約途中に雇用者を変えているなど外国人労働者の失踪率は概して高い。失踪率は労働者の出身国によって大きく異なり、平均してベトナムとインドネシアの労働者の失踪率が最も高く、過去には失踪労働者が多い事を理由にインドネシアからの受入を凍結した例もある。

製造業の場合

外国人労働者の雇用と管理

外国人労働者の雇用と管理に関して「外国人雇用に関する承認及び管理規則」及び「雇用のための業務に関する法律」は以下のとおり規定している。

  1. 外国人労働者は国民の働く権利を保護するために、使用者による許可申請なしに働いてはならない。
  2. 国民の雇用機会と労働条件を保護するため、台湾で働く外国人労働者の雇用を申請する使用者は国内で募集する労働者に妥当な労働条件を提供するものとする。雇い入れ後に要件を満たさない場合、使用者は労働力不足を補うために外国人労働者を雇用する許可を申請することができる。
  3. 使用者・外国人労働者間で締結された労働契約は「労働基準法」に規定される「期限契約」の規則に従わなければならない。
  4. 使用者は外国人労働者を2年間雇用し、1年以内の延長を1回のみ申請できる。他に特別な事情がある場合、使用者は行政院の定める労働期間の延長を申請することができる。但し、大規模建設プロジェクトの状況下では延長期間を6カ月を超えない範囲で延ばすことができる。
  5. 許可された雇用期間中に法律又は行政命令に違反することなく契約が終了した者、契約満了後帰国した者、又は当初健康診断に合格しなかったが後日帰国して労働に適すると判定された者は台湾に戻ることができるが合計雇用期間は6年を超えてはならない。

外国人労働者に対する保護および社会統合に関する施策

外国人労働者は言語、宗教、家族の結びつき、文化及び習慣の相違のために台湾における労働環境に適応しにくい場合がある。また、いわゆる3Kの職に就く外国人労働者は劣悪な労働条件に置かれることが多く雇用主から搾取される事例が後をたたない。一方、受入れ期間が最長6年で外国人労働者の定住化を想定していないため、外国人に対する施策はあくまで法的権利保護や台湾での生活での速やかな適応を助けることに重点がおかれている。施策の多くは行政院労工処(CLA)が主体となって実施されている。

(1)労働保険及び国民健康保険

労働保険及び国民健康保険の加入に関して、外国人労働者は国内労働者と同様の権利を有している。「労働保険の指針」に基づく保険プログラムへの加入を求められる外国人労働者の使用者は、外国人労働者雇用許可証、外国人居住証明又は外国旅券の写しを提出することによって労働保険局の労働保険プログラムに加入しなければならない。また、国民健康保険については、「国民健康保険法」第10条により、台湾で雇用され台湾での外国人居住証明を得た外国人労働者は国民健康保険プログラムに加入しなければならない。更に、同法第2条に基づき、外国人労働者は保険期間中の罹病、負傷又は出産の場合に保険金の支払いを受けることができる。

(2)賃金

外国人労働者についても台湾人と同一の最低賃金が適用される。使用者は労働者の賃金から仲介料やその他の料金を差し引いてはならず、給与明細には被雇用者の母国語に翻訳された給与票が必ず添付されていなければならない。使用者が被雇用者に属するものを不法に差し引いた場合、被雇用者は給与票を証拠として法廷に提出できる。この規則に従わない使用者はその後の申請を許可されない。当局は進行中の申請手続きの停止又は既に承認された申請の取消しを決めることができる。またCLAは、使用者による税金の不当な前引きを防止することを目的に定期的にセミナーを開催し、徴税規則の周知活動を行っている。

(3)専任管理者と2カ国語を話す労働者の選任

「外国人雇用使用者の許可と管理に関する規則」第40及び41条は、使用者は外国人労働者に労働者の日常生活を適切に支援するために専任管理者と2カ国語を話す労働者を選任しなくてはならない、と規定している。このうち、専任管理者については、10~49人の外国人労働者を雇用する事業所当たり最低1名の管理者、労働者が50~100名の場合は2名、それ以上は労働者が100名増すごとに追加1名の管理者を設置しなければならない。

一方、2カ国語を話す労働者の選任については30~99人の外国人労働者を雇用する事業所当たり最低1名の2カ国語を話す人物、労働者が100~199名の場合は2名、それ以上は労働者が100名増すごとに追加1名の2カ国語を話す人物がいなければならない。

(4)政府による外国人労働者向け各種サービス

外国人労働者の台湾での生活習慣への適応に助力を与えることを目的に全国で合計24のカウンセリング・センターが設立されている。各センターでは法的、精神的カウンセリング、雇用への適応、労働紛争について通訳者付きのサービスと情報が提供されている。またCLAは2000年に2カ国語を話す人々との通話料無料ホットライン(英語、タイ語、インドネシア語、ベトナム語)を開設し、仲介者及び使用者に対する外国人労働者からの相談に応じている。

また、外国人労働者が職務によるプレッシャーやホームシックに対処し、台湾での生活習慣に適応する助けになるように、CLAは数カ国語のラジオ番組、休日の文化的催しなど一連のレクリエーション活動を行っている。

最近の動向-空洞化対策としての外国人労働者受入れに対する規制緩和が活発化-

2006年1月、行政院労働委員会は、台湾の製造業における従来型産業(注3)が中国本土や東南アジアに製造拠点を移したことに伴う現象、いわゆる空洞化が進んでいることから従来型産業のうち人材不足の著しい19業種において受入れの条件の緩和を行っている。

今回指定された19業種は金属表面加工処理、プラスチック、ゴム、染色、皮革など国内では労働力を充足するのが難しい、いわゆる3K分野である。緩和策により従来台湾人労働者2人に対して1人であった外国人労働者の雇用比率が台湾人3人:外国人労働者2人に変更された。

政府は今回の規制緩和で年間2万人の外国人労働者新規雇用が創出できると考えている。また、製造業については雇用上限率が15%となっていることから、外国人労働者数の増加に併せて台湾人3万人の新規雇用にもつながると考えている。一方従来型産業の経営管理組合は規制緩和が不十分であるとし、雇用比率は、1対1とし、雇用上限率も35%まで引き上げるよう要求している(注4)。

台湾における外国人労働者数 (業者別)2004

2006年3月 フォーカス: アジア・外国人労働者受入の制度と実態

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