アジア・外国人労働者受入の制度と実態:韓国
雇用許可制度を導入

韓国労働研究院(KLI)主任研究員
キルサン・ユー

外国人労働者導入のプロセス

1960年代から70年代にかけての韓国は労働力送り出し国の1つであった。これが1980年代末頃から、国内の人手不足の問題が生じ、外国人労働力の受入れ国に転じる。このような労働力の流れの逆転は、韓国人の収入の増加、教育水準の向上と出生率の低下によって引き起こされた。最近まで、韓国が受入れていたのは従業員としての熟練外国人労働者のみだったが、未熟練外国人を訓練生として導入するようになった。しかし、慢性的な人手不足に取り組むために外国人労働者を訓練生として雇用することには数多くの問題があることに気付いた韓国は、外国人の未熟練労働者を従業員として受け入れる根拠となる雇用許可制度を2004年8月17日に導入した。2005年5月現在、韓国における外国人労働者は35万8000人を数え(図表1参照)、総労働人口の1.5%、全賃金労働者の2.5%を占めている。

図表1:外国労働者内訳
図表1

出所:韓国法務部

韓国で特徴的なのは、図表1に示されているように、外国人労働者の56%(19万9000人)が不法就労者であることだ。不法就労者の恒常的増加は、韓国の未熟練外国人労働者政策がうまくいかなかったことを意味している。このことに遅まきながら気付いた政府は2003年8月、「移民労働者に対する労働許可に関する法律」を制定.公布した。この法律のもとでは未熟練外国人労働者を「訓練生」としてではなく、「従業員」として雇用することができる。ただし同法の補遺第2条には、雇用許可制度が実施される前に不法就労者を法的に認可するための措置をとらなければならないことが定められている。この規定に従い、2003年11月までに一連の法的認可措置がとられた。その結果、2003年10月からは不法就労者数は急減している。

在外被投資企業のための産業技能訓練生プログラムの導入

韓国経済の急速な発展は、小規模な製造業や建設業など、熟練度の低い労働者を必要とするいわゆる3K産業を中心に、1980年代末期以降人手不足のさらなる悪化をもたらした。この人手不足に対処するため、政府は1991年11月に在外被投資企業のための「産業技能訓練生プログラム」を導入する。これにより在外被投資企業は、在韓国の子会社で雇用されている労働者を本社で訓練し、本来のポストに帰任させることができるようになった。

職業訓練生プログラムの導入

産業技能訓練生プログラムから主に恩恵を被ったのが大手の在外被投資企業であったのに対して、中小企業はまだ外国人労働者を利用する合法的な手段を見つけ出すことができずにいた。そこで政府は1993年11月、零細企業が人手不足の問題を解決するのを支援するために、外国人のための職業訓練生プログラムを導入した。職業訓練生プログラムとは、外国人が従業員300人以下の中小規模の製造企業に1年間、訓練生として導入される制度で、必要であれば訓練期間はもう1年間延長することが可能となる。職業訓練プログラムは、当初中小規模の製造企業のために導入されたが、その後拡大されて、1996年には沿岸漁業も、そして1997年には建設産業も含まれるようになった。

ところがこの職業訓練生プログラムは、参加する外国人労働者が公式的には「従業員」ではなく「訓練生」として分類されるため、韓国の労働諸法に基づく保護を受ける法的権利をもたないことを理由に批判された。この欠陥があったため、同プログラムは外国人労働者に対する需要が急増したにもかかわらず訓練生の数を増やすことができず、最終的には不法就労者の数を増やす結果となってしまった。この職業訓練生プログラムは雇用許可制度の導入に合わせて、2007年1月をもって廃止されることになっている。

訓練後雇用プログラムの導入

多くの職業訓練生は、実際に労働力を提供しているにもかかわらず、その資格が「従業員」ではなく「訓練生」であるために、労働関連諸法に基づいて十分な法的保護を享受できないことを理由に職場を去った。その上、このプログラムに基づいて導入された訓練生は人数が限られていて、外国人労働者を求める中小企業の労働力需要を満たすことができなかった。この状況を改めるため、2000年4月には「訓練後雇用プログラム」が導入された。このプログラムのもとでは、中断せずに1つの企業で2年間働いた職業訓練生は「訓練生」としてではなく「従業員」としての資格で、もう1年間韓国に居住して働く権利を得られた。ただし2002年には、2年間の訓練期間が1年間に短縮される一方で、訓練後の労働期間は1年間から2年間に延長された。

職業訓練生プログラムが廃止されれば、同訓練後雇用プログラムも自動的に廃止されることになる。

雇用管理プログラムの導入

職業訓練生は、中小規模の製造企業、建設業および農牧業にのみ配置され、サービス産業に携わることを禁止された。にもかかわらず、外国人労働者の多くは不法にサービス産業で働いていた。この現実に対応するため、韓国政府は2001年11月に「雇用管理プログラム」を導入した。この制度のもとでは、年齢が40歳以上で韓国に近い親戚のいる韓国系外国人は親戚訪問を目的として韓国に入国し、サービス産業の6つの部門(飲食業、ビジネス支援業、社会福祉業、清掃業、介護業、家事サービス)で職を見つけ、従業員として最長で3年間働くことを許可される。2003年5月10日にはこの年齢制限が40歳以上から30歳以上に緩和された。雇用許可制度の導入により、同雇用管理プログラムは同制度の特例に含まれることになった。

雇用許可制度の導入

韓国の外国人労働者政策には一連の修正と変更が加えられたものの、そのどれ1つとして、外国人労働者問題に対する決定的な解決策とはならなかった。政府が人手不足を根本的に解決することなくいくつかの手段に頼っている間、2002年末には不法就労者の数は総外国人労働者数の80%近くにも達し、喫緊に解決すべき深刻な社会問題となった。このような状況のもとで韓国は、企業の人手不足を緩和し、不法移民労働者の問題を解決するための新たな制度を必要としていた。

人手不足を緩和し、急増する不法就労者の問題に対処し、外国人労働者の人権を保護するためには雇用許可制度の創設はやむを得ないとする世論の高まりを受け、政府は「雇用許可制度」の導入に踏み切る。雇用許可制度のもとでは、製造業、建設業、農牧業、およびサービス業の6分野(飲食業、ビジネス支援業、社会福祉、清掃、介護、家事)に属する従業員300人未満の雇用主は、国内で労働者を見つけられない場合、労働部から許可を得た上で外国人労働者を雇用することができるようになった。雇用契約期間は原則として1年間とするが、最長3年間まで延長することが可能。雇用許可制度に基づいて受け入れられる外国人労働者の人数、その雇用分野および送り出し国は、外国人労働者政策委員会(委員長:政府政策調整担当大臣(Minister of Government Policy Coordination))によって決定され、毎年調整を受ける。

また、現行の職業訓練生プログラムのもとで労働者を送り出す国として指定されている国の数(合計で17カ国)が多すぎるという批判があることから、雇用許可制度のもとでの送り出し国の候補として中国、モンゴル、フィリピン、ベトナム、インドネシア、タイ、スリランカ、カザフスタンの8カ国が選ばれた。政府は1年おきに不法就労者の割合、雇用主の選好等について評価を行い、各送り出し国に対する移民労働者の割当調整を行うが、評価結果によっては送り出し国の指定を解除することができる。

2003年7月に制定された「外国人雇用法(Act on the Employment of Foreign Workers)」は、韓国政府と送り出し国の政府との間で交わされる覚書(MOU)について定めている。この計画は、送り出し国における労働者の選定と送り出しについて透明な手続きを設け、不法な労働力の移動を削減するための道固めをすることを目的としている。2004年8月現在で、韓国は労働力を送り出している6カ国とのMOUに調印した。MOUに含まれる主な項目は図表2の通り。

図表2:韓国と労働力送り出し国の間に交わされるMOUの主要項目
図表2

外国人労働者の特徴

外国人労働者の構成を見てみよう。2002年現在で外国人労働者全体に占める割合は男性が65.0パーセント、女性が35.0パーセントとなっている。また図表3の年齢構成からわかるように、男性の外国人労働者は女性よりも若干年齢が若い。

図表3:性別、年齢別に見た移民労働者
図表3

また産業部門別に見ると(図表4)、男性外国人労働者のほとんどが製造業と建設業で雇用されているのに対して、女性の大多数はホテル.飲食業、家事、介護や清掃部門などのサービス部門で雇用されていることを示している。

図表4:産業部門別に見た移民労働者
図表4

図表5は不法就労者を国籍別に見たものだ。不法就労者の約半分が中国系であり、またその半分が韓国系中国人であることがわかる。不法就労者数は、中国に続くのがタイ(6.9%)、これに次ぐのがフィリピン(6.3%)、バングラデシュ(5.6%)、モンゴル(4.7%)の順となっている。

図表5:国籍別に見た不法就労者
図表5

高技能労働者受入れ政策

韓国政府は、先端技術の分野における有資格の高技能労働者を受入れる上で積極的な役割を担っている。情報技術、電子商取引、電子ビジネス、および先端技術のその他の分野で高度の技能をもつ外国人が、こうした労働力に対して大きな需要をもつ韓国のベンチャー企業で働こうとする意欲を高めるため、政府は2000年11月から韓国における合法的居住に関する規則と要件を緩和した。政府による支援は、規模を拡大したマルチ入国ビザの発行、最長滞在期間の延長、居住認可書類で認められている以外の活動への従事に対する認可などの形で行われるが、いずれの場合にも国籍は問われない。以前は、韓国で職を求める者にはシングル入国ビザしか発行されず、マルチ入国ビザの発行は、送り出し国との協定が結ばれていることが原則だった。しかし2000年11月には協定が結ばれているかどうかとは無関係にマルチ入国ビザを発行することを可能にするために、制限が撤廃された。適格申請者には、韓国のベンチャー企業および製造企業に情報技術関連の職を求める人々、および情報技術の知識を有していて電子商取引その他の電子ビジネス分野で働くことを要望している人々が含まれる。この2つのグループのいずれも、関係省庁(産業資源部、または情報通信部)の責任者から雇用推奨を受けることを要求される。資格要件は、情報技術、電子商取引、および電子ビジネス分野において5年以上の経験があること、または関係分野で学士以上の学位をもち、関係分野で2年以上の経験があることとなっている。

居住認可を得た時点で1回ごとに定められる最長滞在期間は、以前は2年間であったが、2002年11月に3年間に延長された。その上政策の見直しにより、雇用契約が更新された場合には居住延長請求が処理されれば無制限の滞在が許可されるようになった。加えて2000年11月までは、居住認可書類に記述されている以外の活動を行うことや職場の変更は、所在地についても件数についても認められていなかったが、その後こうした制限は緩和され、当初の雇用主が同意する限りにおいて、職場を最大で2カ所増やすことと、追加的活動を行うことが認められるようになった。

韓国に暮らす外国人の社会統合

外国人労働者雇用法の第22条には、「外国人であることを根拠に、外国人労働者に差別待遇を行ってはならない」と定められている。この規定は、外国人労働者が韓国人労働者と平等な処遇を受けるための道を開くものである。

外国人労働者は雇用許可制度と訓練後雇用プログラムのもとで労働関連諸法の適用について、韓国人従業員と平等に保護されており、労働組合への加入も認められている。ただし、労働基準法は韓国の民間家庭でのサービスには適用されないため、民間家庭で清掃、介護と家事サービスに従事している労働者は、労働基準法の適用を受けない。

雇用許可制度と訓練後雇用プログラムのもとで外国人労働者は、雇用保険制度、労働災害補償保険制度、国民健康保険制度、および国民年金制度への加入を要求され、韓国においてこれらの制度からの給付を受ける資格がある。ただし失業保険制度に入るかどうかは任意。図表6は、労働関連諸法と社会保険制度が外国人労働者に対してどのように適用されているかを示したものである。

図表6:移民労働者に対する労働関連諸法と社会保険制度の適用
図表6

一方、職業訓練生は従業員として扱われないため、彼らは労働関連諸法によっては全面的に保護されていない。職業訓練生の保護と管理のための指針に基づき、職業訓練生に対して適用される労働基準法の規定は、暴力と強制労働の禁止、訓練手当ての支払い、期限の到来しているその他の勘定の精算、労働時間中の休憩、休日、残業についての取り決め、休暇等ときわめて限られている。

不法就労者については、労働基準法とその他の労働関連諸法が適用されるもととなる「移民労働者の苦情処理に関する指針」がある。しかし、不法就労者はその資格が非合法であるために行政当局への届出を避ける傾向があり、これが非合法労働者を適切に保護することを困難にしている。

2006年3月 フォーカス: アジア・外国人労働者受入の制度と実態

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