企業の社会的責任(CSR):ドイツ
ドイツにおけるCSRの現状
—背景にコーポラティズムの伝統

ドイツにおいては、CSRの統一的な概念が広範に認識されている、あるいは企業、労働組合、政府、消費者などの関係主体が共通の方向性をもって取り組んでいるとは必ずしもいえない状況が最近まで続いていた。欧州におけるCSRの状況を紹介している"Corporate Social Responsibility Across Europe"によれば、ドイツのたとえば使用者団体と労働組合によって形成されている「コーポラティズム」(社会の主な組織が階層あるいは個人の利害を調整していく政治・経済的な体制を示す)が伝統的に根強く、その影響が今日のCSRの発展にまで影響を及ぼしているとする。

この研究によると、この強固なコーポラティズムの伝統ゆえに、CSRの主体として労働組合、消費者、教会関連団体などに積極的な役割は期待しがたいとされ、「コーポラティズム団体が将来の課題にうまく適応して積極的に市民社会に貢献できるようになるか否かが、それらの団体の将来の影響力を決定する」とされる。また、政府の活動に言及しつつも、「ドイツに存在するのはCSRのまとまった完成図ではなくCSRのパズル絵の様々なパーツでしかないことを反映している」と、肯定的とはいえない評価が見られる。

ただし、この研究の中でも、たとえば多国籍企業とこれらを代表する中央の使用者団体(BDI=ドイツ産業連盟、BDA=ドイツ使用者連盟)のCSRに関する取組みや、活動例としての「自由と責任」イニシアティブ(主要な企業団体と経済誌が組織している)など個々のケースは丁寧に紹介されている。

このように、CSRに関する国全体としてのまとまったイメージ、コンセプトを描きにくいものの、世界的な影響力をもつドイツの多国籍企業がCSRの課題に取組み、従業員代表もそれを後押ししているケースも顕著に見られる。たとえば、ダイムラー・クライスラーは2002年7月に、従業員の意見を取り入れるための「世界従業員委員会」を設け、その後同委員会と合同でILO(国際労働機関)条約に準拠したグループ全体の社会的責任ガイドラインを作成し、取引先にもこのガイドラインを守るよう求めている。労働組合側も、IGメタル(ドイツ金属産業労組)が多国籍企業グループごとにIFA(国際枠組協約)を締結するよう働きかけている。労働組合の主な目的はILOの「中核的労働基準」の順守だが、サプライチェーンも含めると、広範な影響力をもつと考えられる。

2006年2月 フォーカス: 企業の社会的責任(CSR)

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