企業の社会的責任(CSR):アメリカ
CSR促進をもたらす社会的責任投資(SRI)

アメリカにおける企業の社会的責任(CSR)は「民間主導」の取り組みが中心であることで知られる。政府が旗振り役となってCSRを促進するヨーロッパと異なり、アメリカでは政府機関の積極的な関与は見られない。

企業への外部圧力として存在するSRI

アメリカにおけるCSR の促進において、主要な役割を果たすのは民間の社会的責任投資(SRI)である。SRIとは、従来の財務分析による投資基準に加え、企業が社会的責任を果たしているかどうかを考慮した上で企業価値を判断し、投資を行うことを言う。

SRIには(1)社会的スクリーン投資(環境問題や社会問題の評価を投資先の選別に反映させる)、(2)社会的株主行動(株主として企業に対話を求めたり、議決権の行使や株主提案を行う)、(3)コミュニティ投資(コミュニティの再生を目指して社会的弱者に低利で融資する)――の3分野があり、その中で最も規模が大きいのが、(1)の社会的スクリーンである。

米国のSRI調査・広報機関であるソーシャル・インベストメント・フォーラム(SIF)の調査によれば、アメリカにおける2003年のSRIの資金規模は、2兆1640億ドルで、これは全米で専門家が運用する資金総額の約12%に当たる。表1はアメリカのSRI投資信託の主な社会的スクリーンであり、どのような項目が注目されるかを示している。

アメリカのSRIの投資信託の主な社会的スクリーン
(単位10億ドル)
タバコ 124.0
アルコール 93.4
従業員関係 31.1
環境問題 28.9
ギャンブル 28.8
兵器関連 23.8
雇用の平等 22.0
製品サービス 16.6
人権問題 11.2
コミュニティーへの影響 10.3

また「企業倫理」に関しては、民間団体がランク付けをしており、2005年4月にニューヨークで行われた「企業倫理サミット」では、コーポレートシチズン(注1)100社のリストが公表された。企業の評価項目は以下の8分野である。(1)株主に対する総利回り、(2)地域貢献、(3)ガバナンス、(4)多様な従業員構成、(5)従業員への対応、(6)環境問題への対応、(7)人権、(8)製品――である。中でも項目(3)のガバナンスは2005年度に初めて導入された。例えば、最高経営責任者(CEO)への過剰な給与支払いや会計再報告などはマイナス評価であり、逆にCEO給与が50万ドル以下であればプラスに換算される。

このリストの上位には、インテル、ヒューレットパッカード、ピーアンドジー、ゼロックスなどの企業が並んでいる。ちなみに、米住宅金融最大手の連邦住宅抵当金庫ファニーメイは、数年来リストに上がっていたが、不正会計への関与が発覚し順位が落ちた。またゼロックスは、2002年に発覚した会計スキャンダルのため一旦はリストから外されたが、その後の地域サービスや多様な従業員構成を買われ、リストに復帰した。

組合と企業のCSRに関する取り組み具体例

組合のCSRに関する最近の代表的な取り組み例として、全米自動車労働組合(UAW)によるハリケーン・カトリーナ被災地に対しての支援がある。まず組合が寄付金を集め、予定額に満たない部分はジェネラルモーターズ(GM)が補充し、被災地ニューオーリンズに送ったほか、家、食物、衣類などの寄付や援助を行った。GMは、車の寄付やGMの自動車ローンを抱える被害者に対する援助を行った。

基本的に組合の活動や主張はCSRの趣旨に適うものであるが、その母体となる企業の存続に影響するような決定に関しては、企業側の立場に同調する場合がある。例えば、環境保護庁(EPA)が出している企業平均燃費基準(CAFE)は、事実上、自動車メーカーに燃費の良い車の製造を強いるものである。UAWはGMの立場に同調してこの基準引き上げに反対し、投票でGMが達成しやすい基準を選んだ。

参考

  1. 委託調査員レポート、「諸外国におけるCSRの動向と将来展望」法律時報2004年11月
  2. 1米ドル=117.96円(※みずほ銀行ウェブサイト新しいウィンドウへ2006年2月8日現在のレート参考)

2006年2月 フォーカス: 企業の社会的責任(CSR)

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