労働運動の再生:アメリカ
寄稿3/AFL-CIOの分裂

  • カテゴリー:労使関係
  • フォーカス:2005年9月

カリフォルニア大学ロサンゼルス校、
労働研究教育センター所長
ケント・ウォン

分裂の背景

米国の労働運動は大きな難題に直面している。50年前は、米国労働者の3分の1が組合員であったが、現在の組織率は12%、民間部門に限るとわずか8%である。この減少は組合の影響力、効果の縮小喪失を意味する。組合員数はほぼすべての産業で減少中であり、かつて労働運動の原動力であった民間部門の労働組合員数は1973年には1,500万人であったが、現在では800万人にまで落ち込んでいる。

民間部門で最も打撃の大きいのは製造業で、500万の労組が壊滅的打撃を受けている。米国製造業の雇用は、長期操業停止、アウトソーシング、資本の流失により、1973年以来、全体で12%減少したが、製造業の組合員は66%減少と減少のスピードが5倍である。一方、今日の成長産業である小売、サービス、医療、金融及び保険での組織率は非常に低い。

労組は減少を続け、米国社会における労組の存在も縮小しつつある。組織率の低下は、貧困の増大と経済的不平等、労組の政治力低下をもたらす。現在、連邦政府の大統領、議会、最高裁判所は、労組に敵対する共和勢力が占めている。2004年の大統領選挙は、組織率の政治的重要性を反映するものとなった。民主党ケリー氏を選出するため、労組は大掛かりなキャンペーンを張ったが、組織率が低いために同氏に余裕の勝利を与えることができなかった。組織率が高い州は、ほとんどがケリー氏支持であったが、強力な反労組法をもち、組織率の低い22州、いわゆる働く権利の主張が強い州はすべて、ブッシュ氏を支持した。

AFL-CIOの変革を求める論争

低下の一途を辿る組織率と同じく低下する政治的影響力のまっただ中で、将来の方向性をめぐって米国労働運動内部で論争が勃発した。SEIUが中心となり、AFL-CIOの変革を要求。論争の主な焦点は、組織化についてである。権力、資金、及び資源の大半がAFL-CIO傘下の個別労組によって管理される現行のAFL-CIO機構は時代遅れであるとSEIUは指摘する。ゆるやかな連合体であるAFL-CIOは構成労組に対して強い権限を有していない。

1995年にAFL-CIOの現指導部が選出されたとき、彼らはこれまでにない規模と範囲で組織化に取り組むと宣言し、各労組に組織化の経費を10倍に増やすよう強く求めた。1995年当時、労組は組織化に平均で予算の約3%しか割いておらず、AFL-CIOは傘下の全労組にその率を30%まで増やすよう働きかけた。しかし現実に組織化目標を達成できた労組はごくわずかであった。

加えて、AFL-CIO内の組織内部の問題により、同一産業内で多くの労組が組合員を奪い合うという事態を招いた。その一例として、運送業では、15の全国労組が互いに組合員や排他的交渉権をめぐって競い合っている。建設業でも15の全国労組がしのぎを削っている。

カネと人を集中的に割いてキャンペーンを戦略的に進める場合、SEIUは業界全体で組織化するアプローチを提唱し、大きな成功を収めている。これまでにSEIUはサービス産業、医療産業、在宅ケア産業で勝利を勝ち取り、SEIUの組合員数は、10年前の90万人から現在は180万人に伸びた。

もう一方の争点は政治についてである。AFL-CIOは民主党へ数百万ドルの資金を寄付するばかりで、労働運動を強化するためのより戦略的な政治キャンペーンを開発することができなかったとして、SEIUはAFL-CIOを非難している。SEIUは、政治キャンペーンで労働組合が力を発揮するためにも、労組組織化への支援拡大を要求している。

将来の展望

AFL-CIOの分裂には、なお多くの問題が未可決で残っている。CWCの諸労組はAFL-CIOから脱退したものの、彼らは州や地方の同盟レベルにおける活動継続を希望している。この件に関しては、現在AFL-CIOとCWCとが検討中である。

また、AFL-CIO加盟組合とCWC加盟組合の間で起こりうる引き抜き合戦についても注目される。AFL-CIOの規約では、労組は互いの組合員の引き抜きを禁じていた。ところが主要3労組の脱退以来、特に管轄権の重複する2大労組、SEIUとAFSCMEとの間で、すでに引き抜きが行われたとの報告があった。

AFL-CIOの内部分裂は、全ての関係労組にさらに大きな変化を及ぼす可能性がある。AFL-CIOの場合は、財源の大幅縮小を余儀なくされるなかで、財源に関わる業務を最優先することが求められるだろう。CWCも、独自の機構確立、及び加盟7労組間の実務関係整備をめぐって、新たな課題を抱えることになろう。米国労働運動はこの新しい現実に適応するよう奮闘する一方で、米国労働者は経済保障と職場正義のために引き続き努力する。

ケント・ウォン

1956年ロサンゼルス生まれ。SEIUローカル660顧問弁護士などを経て、1991年よりカリフォルニア大学ロサンゼルス校・労働研究教育センター所長。アジア太平洋系アメリカ人労働者連合の創立会長でもある。

AFL-CIOの分裂とそれが示唆するもの

  1. インタビュー
    AFL-CIOの分裂が日本の労働運動に示唆するもの
    高橋均/連合副会長
  2. 寄稿
    前進のための後退なのかーAFL-CIOの分裂
    五十嵐仁/法政大学大原社会問題研究所教授
  3. 寄稿
    過去の栄光に倣っても、その歴史の風刺しか生み出さない
    ネルソン・リヒテンシュタイン/カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授
  4. 寄稿
    AFL-CIOの分裂
    ケント・ウォン/カリフォルニア大学ロサンゼルス校、労働研究教育センター所長
  5. 寄稿
    AFL-CIO分裂劇に見る二つのアメリカン・ドリーム
    山崎憲/労働政策研究・研修機構を一時休職し、現在外務省よりの委嘱を受け、同省より専門調査員として在デトロイト日本国総領事館に派遣中
  6. 解説
    AFL-CIOの分裂とその背景

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