2005年版OECD雇用アウトルック:アメリカ
労働市場のグローバル化への対応
—貿易関連失業者への特別措置

アメリカは、労働市場のグローバル化によって生じた貿易関連失業者に対し、一般的な労働市場対策にとどまらず、貿易調整援助という特別措置を設けている点に特徴がある。以下では、貿易関連失業者に重点を置き、アメリカ政府の失業対策に関する「OECD雇用アウトルック2005」の評価を紹介する。

失業者の増大の懸念

2004年時点でアメリカの失業率は5.6%であり、OECD加盟30カ国全体の平均である6.9%、欧州の加盟国平均の9.2%に比べやや低い。また1年以上失業している労働者の割合は13%で、他のOECD諸国のわずか三分の一に過ぎない。しかし、2001年以降で見るなら、長期失業者の割合は2倍になっており、再就職がより困難になっている状況を示している。労働者の懸念を高める要因としては、アメリカの雇用情勢が堅調でないことに加えて、1)グローバル化、2)ホワイトカラー業務の「オフショアリング」の増加、3)低い賃金労働に支えられた中国とインドの急速な世界貿易システムへの統合――が挙げられる。

再就職しても賃金が大幅ダウン

OECD雇用アウトルック 2005は、労働市場のグローバル化が及ぼす労働者への影響をそれほど深刻視していない。その理由として、拡大傾向にある国際貿易と海外直接投資が輸出を通して雇用を創出し、全体的に生産性を押し上げることを指摘している。ただし、グローバル化の結果、一部の産業に失業者が出ることは不可避であり、課題は、求職者の希望と新しい就職口とのマッチングが可能な限りスムーズに機能するよう措置を講ずることである。

しかし、輸入の増加により産業が打撃を受けて失業した場合には、年齢や学歴の壁、また有する技能が時代のニーズにマッチしないなどの理由で、一般に再就職が難しい。レイオフの要因が主に国内事情であるサービス業と違い、国際競争が激しい製造業におけるレイオフでは、失業が長引く傾向にあり、この傾向は欧米各国共通である。またアメリカの場合、再就職できたとしても大幅な賃金ダウンを余儀なくされる場合が多い。(図参照)ヨーロッパでは再就職に当たって大幅な賃金ダウンは見られず、ここがアメリカとの最大の違いである。また、アメリカで失業が比較的長期化しない背景には、衰退産業から成長産業への移行に比較的大きな受け皿があることが影響している。ただしアメリカは、失業保険がヨーロッパほど高水準でないことに加えて、レイオフされると健康保険の対象外となる可能性があるため、ヨーロッパの失業者よりも厳しい状況に追い込まれていると言える。

貿易関連失業者向けの直接的対策とその評価

貿易関連失業者対策に関して、アメリカはOECD加盟諸国の中で例外的な存在で、一般対策(従来からの失業保険と再就職支援)に加えて特別措置すなわち貿易調整援助(Trade Adjustment Assistance・TAA)を行っている。アメリカ労働省から「TAA対象者」と認定されると、労働者は所得補償と職業訓練プログラムへの参加が可能となる。これと対照的に、他のOECD諸国は一般対策のみの対応としている。

TAAについてOECDでは次のように評価している。対象を特定したTAAのような措置は、貿易関連失業者と一般の失業者との差別化が難しいという点で難がある。従って、少なくとも経済的見地からは、貿易関連失業者対象の措置を別個に設けるよりも、一般対策を活用するほうが良いように見受けられる。しかし、公正の観点からは、アメリカ方式が好ましいと言える。なぜなら、貿易関連失業者は、政府による貿易・投資の自由化政策を失業の理由と捉えており、代償として公的支援を強く要望するからである。これと関連して、貿易関連失業者のための特別措置は、開放貿易体制に対する貿易関連失業者への政治的な支持をとりつけるための報酬を意味するという議論がある。アメリカでは、他のOECD諸国に比べ失業者への公的支援が全体的に少ないため、このような経済と離れた議論の比重が高くなる傾向がある。

問われる就労化戦略の中身

OECD雇用アウトルック2005は、貿易関連失業者も含めた失業者への所得保障、再就職、失業率低下のための改革案を数多く打ち出している。第一原則は、就労のための金銭的インセンティブを確保することである。特に再就職報奨金や就業を条件とする給付等は、失業率の低下に効果的であることが今回の調査によって明らかになっている。2002年に追加されたTAAの試験的賃金補償制度はこれを発展的に応用したものである。すなわち、50歳以上の貿易関連失業者が半年以内に再就職し、賃金が下がった場合、条件付きで差額の半分を埋め合わせるという制度である。フランスやドイツでも最近同様の制度が導入された。

一定の失業期間が経過した場合、集中的にカウンセリングや求職支援、再就職プログラム等への参加などを行うことは非常に重要である。このような就労化戦略は給付の支給とリンクして行われなければならない。このような戦略は失業の削減を成功させるための鍵を握っており、実際アメリカにおける福祉給付の取り扱い件数は、1996年に就業優先の取り組みが採用されてから半分以下に減っている。


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