EU憲法批准否決の波紋:ドイツ(1)
EU憲法

5月29日、EU憲法批准の是非を問うフランスの国民投票で反対が多数を占めた。国民投票方式ではなく議会の採決で賛成多数を得てEU憲法批准の道筋をつけていたドイツでは、シュレーダー首相をはじめとしてフランスの投票結果を「残念に思う」とする反応が多かった一方、労使からは、今後のEUのあるべき姿を提起する動きが出ている。労組側は、主に欧州レベルの労使協議制充実など労働者の権利と、労働時間など共通の労働条件づくりなど、「欧州社会モデル」を重視した主張を展開。これに対し使用者側は、成長と雇用のために労働市場の自由化を進めるべきだとしている。

ドイツ労働総同盟(DGB)は5月31日付で、会長のM・ゾマー氏が欧州理事会・委員会・議会各トップに宛てた書簡の形で声明を発表した。フランスでEU憲法批准が否決されたことについて、「人間より市場を大事にする『国民から遠い欧州』に対する懸念」がフランスに見られるとし、さらに欧州全体における社会的な諸条件の重要性を強調している。EUにおける「成長と雇用のための積極的な政策」を肯定し、「競争力とは、賃金・社会保障・税制への大きな圧力となる、容赦のない立地競争であってはならない」とソーシャル・ダンピングを否定。労働分野では、具体的に(1)国境を越えた欧州レベルでの事業所委員会の権利拡大(2)「欧州全体に例外なく適用される上限を設ける」労働時間規制――などを要求している(「今こそ社会的欧州のためにイニシアティブを!新しいウィンドウへ」を参照)。

DGBは、6月8日に出した、ドイツ総選挙(予定より1年前倒しされ、今年9月に実施予定)のための各政党向け要求書「ドイツは社会的に形成される」でも、5月31日付声明を踏襲したEUに関する政策要求を展開している。このほか、金属産業労組(IGメタル)も、6月14日付の「労働-イノベーション-公正」という選挙向け要求書で「欧州社会モデル」について言及。フランスとオランダの国民投票結果について、「多くの人々が、欧州と経済的・社会的な将来の不安とを結びつけてしまった」と指摘した。欧州社会モデルの重要性を強調して、(1)欧州次元で調和の図られた雇用政策(2)欧州の企業に対する最低課税水準設定(3)ソーシャルダンピングの防止と労働組合の国境を越えた活動を意図した、欧州次元での社会的基本権と最低基準の設定――の三点を要求している。

これら労組の主張に対して、ドイツ使用者連盟(BDA)は6月16、17日開催のEU首脳会議を前にD・フント会長が談話を出した。この中で同氏はリスボン戦略(2000年に採択されたEUの基本方針)に基づく「成長と雇用の目標」の重要性を強調。「社会的安定と教育訓練の両制度の構造改革」や「法制度面で硬直化した労働市場の開放」に高い優先順位を置くべきだとして、EUの競争力強化を重視する姿勢を示している。

ドイツでは、5月12日で連邦議会(下院に相当)、フランス国民投票の二日前の同月27日に連邦参議院(州政府代表で構成)において、それぞれ賛成多数でEU憲法の批准を可決していた。しかし、キリスト教社会同盟(CSU)のガウヴァイラー議員から、この批准決定がドイツ基本法(憲法に相当)に抵触するとして出されていた違憲訴訟に対して、ケーラー大統領が6月15日に、可決ずみの批准法案の署名をドイツ憲法裁判所の判断が下るまで延期すると発表。批准手続きは一時棚上げされた恰好となっている。フランス、オランダの国民投票とその後の情勢を受けて、ドイツ公共放送連盟(ARD)の意識調査でEU憲法批准への反対が支持を上回るなど、国民の意識にも戸惑いが見られている。

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