企業再編と雇用:フランス
フランスの企業再編と「解雇規制」をめぐる動き

EU統合とグローバル化の進展に伴い、フランスでは1990年代以降、「国際競争力の強化」に向けた国内の企業によるリストラや、M&A(企業の買収・合併)の動きが加速した。

2001年以降の世界経済の減速の影響を受けて、国内の経済状況が悪化すると、その動きはさらに活発化。その背景には、1999年のユーロ導入を契機に、M&Aなどの戦略をとりはじめた欧州の大企業の動きが存在する。特にフランスの企業は、1)M&Aによる業界再編、2)事業拠点分散化の積極的推進、3)サプライチェーン・マネジメントの導入による取引業者及び顧客を含めた生産工程の合理化、4)欧州市場での資金調達(ユーロの使用、特にユーロ建て起債が増加)――という戦略の推進により、収益性の改善を目指した。

2001年に入ると、フランスでは、食品大手のダノン、英国系大手スーパーマーク&スペンサー、家電メーカーのムリネックス・ブランド、自動車部品メーカーのバレオなど、大企業が大型リストラ計画を次々と発表。人員削減に伴うリストラが相次ぎ、ダノン製品ボイコット運動が広がるなど、国民の不安・不満は高まりをみせた。

こうした状況を受けて、当時のギグー雇用・連帯相は、2001年4月、解雇に伴う企業負担の引き上げや再就職斡旋義務の強化などを柱とした、リストラ規制の具体案を発表。2002年1月には、経済的理由による解雇、特に大量解雇の場合の手続きを厳格化する条項を盛り込んだ「労使関係近代化法」が施行された。

ところが、2002年5月の政権交代を機に、「解雇規制」はそれまでの「強化」から「緩和」へと流れを変え始める。ラファラン保守中道政権は、解雇手続きに時間を要することが企業活動にとって大きなマイナスになることを憂慮し、「労使関係近代化法」の見直しに着手した。政府は、解雇手続きの等のあり方を大幅に労使合意に委ねることを目的として、「雇用に影響する企業再構成にかかわる団体交渉に関する法」を提出し、2002年12月に成立、2003年1月4日に施行された。同法は、「労使関係近代化法」のなかの「経済的理由による解雇の規制強化」に係る条項の大部分を18カ月停止することを主たる内容としており、産業界の「規制緩和」への強い要望に応えた修正となった。

2004年10月20日には、「解雇規制」をさらに緩和する法案が閣議決定された。これにより、企業の競争力維持を理由とした従業員の解雇は認めない一方、経済的理由(経営悪化)による解雇の条件を緩和し、経営側の負担は軽減されることになった。また、解雇について従業員が異議申し立てすることが可能な期間は、それまで5年であったのを、1年に短縮。企業がリストラをしやすくするものとして、労組は激しく非難した。それに対し政府は、解雇社員の再就職支援の義務付けを中小企業にも拡大することを法案に盛り込んだが、経営者側は、解雇制限に関して十分な緩和が行われていないと批判した。このように同法案には、労使双方が反発を示したが、結果的に解雇規制は緩和されるかたちとなったといえる。

現在でも、企業の大規模なリストラ計画の発表は相次いでいる。2005年1月には、フランステレコムが、同年中にフランスで5500人の雇用を削減する予定であると発表。同社では、2004年に、既に6000のポストが削減されている。2005年5月には、IBMが1万~1万3000人の雇用削減を発表。その対象として、フランス、ドイツ、イギリス、イタリア、そしてアメリカを挙げている。

2005年6月1日、欧州連合(EU)憲法批准否決という国民投票の結果を受け、ドビルパン新内閣が発足したフランス。失業率の上昇、リストラの増加という問題を抱え、「雇用創出」を最優先課題に掲げる新内閣が、「解雇規制」に対する「緩和」の流れを変えるのか。動向が注目される。

参考

  1. JETROユーロトレンド(2000)「巨大単一市場誕生への企業戦略と資金調達の変化(フランス)」
  2. JETROユーロトレンド(2001)「EUの労使関係指令に対する主要各国の取り組み(フランス・ドイツ・英国)」
  3. 海外労働時報(2003)『特集国別労働基礎情報 』日本労働研究機構

2005年6月 フォーカス: 企業再編と雇用

関連情報