勤労者意識:アメリカ
米国就業者意識の変遷
—若年世代は「家族優先/仕事・家庭両立」が大半

米国ビジネス協会(ABC)(注1)は2004年10月、1977年以降25年間のワーク・ライフ・バランスや男女の役割などに関する米国就業者意識の変遷に関する調査結果を発表した。ABCの助成によりファミリー・ワーク研究所(FWI)が実施したこの調査は、FWI独自の「労働者の変容に関する全国調査」(1992年、1997年、2002年)及び米国労働省の「雇用の質に関する調査」(1977年)などのデータを用いて、「23歳未満層(1980年以降生れ)」、「23-37歳層(1965~1979年生れ)」、「38―57歳層(1946~1964年生れ=ベビーブーム世代)」、「58歳以上層(1945年以前生れ)」の世代間就業者意識を比較したもの(注2)。本稿では、調査結果のポイントをまとめる。

(1)若年世代では「家族優先/仕事・家庭両立志向」が8割以上

FWIの2002年調査によれば、世代別で相対的に「仕事優先」志向が高いのはベビーブーム世代(22%)で、他の世代層と大きく異なる(表1)。23歳未満層・23―37歳層の若年世代では、「家族優先」がそれぞれ50%、52%で、これに「仕事・家庭両立志向」を加えると、8割を超えている。また、「仕事・家庭両立志向」に限ってみると多数派を占めるのは58歳以上の高齢層(54%)で、若年層(36%)を上回っている。

若年層の家族優先度が高い要因としてFWIは、1)幼少期に母親が働いている比率が他の世代層より圧倒的に高い、2)激務に追われる仕事人間で走り続けてもリストラで失業に追い込まれた親の世代を見て育っている、3)雇用保障よりも個々の労働者のエンプロイアビリティが求められる社会的価値観の変容、4)グローバル経済に伴う仕事の激化、5)9.11同時多発テロによる価値観の見直し(仕事より家族・仕事より生活)――などを指摘している。一例をあげると、FWIが1992年に実施した調査では、会社勤めの米国労働者の42%が、過去数年間にリストラを実施した企業に勤めていたことが明らかになっている。

なお、「家族優先」あるいは「仕事・家庭両立」とした労働者は、「仕事優先」の労働者に比して、メンタルヘルス、仕事・生活双方への満足度も相対的に高い。

(2)若年世代の既婚男性の「育児・家事に費やす時間」が増加

2002年調査と1977年調査における既婚者の比較では、既婚女性が「1労働日あたり家事に費やす時間」は3.3時間(1977年)から2.7時間(2002年)に減少しているものの、既婚男性については、1.3時間(1977年)から2.0時間(2002年)に増加している。また、子供のいる既婚世帯で母親が「1労働日に費やす育児・家事時間」はそれぞれ3.3時間(1977年)、3.4時間(2002年)とほぼ変わらないが、父親については、1.8時間(1977年)から2.7時間と増加しており、男女の家庭責任分担が進んでいることが浮き彫りになっている。

一方、2002年調査における既婚世帯の父親が「1労働日あたり家事・育児に費やす時間」を世代別で比較すると、23―37歳層(3.4時間)と38―57歳層(2.2時間)には1時間以上の乖離があり、家庭責任分担の傾向は、若年世代で顕著であることが分かる。

(3)男女の伝統的役割意識に変化―大半がワーキングマザーを支持

ベビーブーム世代の1977年調査・2002年調査における男女の役割意識を比較すると、「伝統的男女の役割分担=男性は外で仕事、女性は家事・育児に専念する方がよい」に反対が1977年(当時32歳未満)には36%に過ぎなかったが、25年後の2002年時点では61%に増えている。男女別でみると、伝統的男女の役割分担に反対の男性は、34%(1977年)から58%(2002年)と24ポイント増加しており、男性の意識変化は顕著だが、女性は両調査とも「反対」が61%程度で、女性側の男女の役割意識には25年間に際立った変化はみられない。男性側の意識変化は、現役ベビーブーム世代で妻が働いている既婚男性の比率が68%に及んでいることを反映したものといえる。

次に2002年調査の世代別男女の役割意識に関する比較では、上述の男女の役割観に反対する回答は、23歳未満層で63%、高齢層49%。また、「専業主婦もワーキングマザーも同等に子供との良好な関係を築ける」とする23歳未満層は82%であるのに対し、58歳以上層では60%に過ぎない。これは、現役23歳未満層の大半が、ワーキングマザーに育てられており、それをプラスの経験として認識していることを示している。

(4)「より責任を伴う仕事につきたい」就業者は39%のみ

現役全世代の平均でみると、「より責任を伴う仕事につきたい」が39%に過ぎない。世代別で最も比率が高いのは仕事の地位や収入が発展過程にある23歳未満層(60%)で、逆に最も比率が低いのは退職間近の58歳以上層(12%)であった。しかし、58歳以上層で「現在と同じ責任レベルで仕事を続けたい」は75%で、大半が雇用継続を望んでいることが分かる。男女別では、「より責任を伴う仕事につきたい」とした男性が45%、女性が32%。逆に「現在と同じ責任レベルで仕事を続けたい」とした男性は47%で、女性は59%であった。23歳未満層以外で「より責任を伴う仕事につきたい」傾向が高いのは、低所得者、低い地位の職種で仕事に従事する者、低所得世帯の就業者などで、男性に特に顕著であった。

次に1992年調査・2002年調査の大卒現役世代(23歳未満層、23―37歳層、38―57歳層)について10年間の出世欲の変遷をみると、1992年調査の男性大卒現役世代では「より責任を伴う仕事につきたい」が68%を占めているのに比して、2002年調査の男性大卒現役世代については52%過ぎず、12ポイント減少している。さらに、女性大卒現役世代では、57%(1992年)から36%(2002年)と21ポイント減少。対象をさらに絞って、経営・管理者候補として企業が期待する大卒現役世代で比較すると、「より責任を伴う仕事につきたい」とする4年制大卒者は43%、大学院卒の学位取得者は39%に過ぎず、将来的に組織のパイプラインとなる人材の出世欲はここ10年で大幅に低下している。前途有望なキャリアを育児を理由に断念する有能な女性の増加については、米国ではニューヨークタイムズ誌が「オプトアウト革命」と称して話題を集めた。だが、調査では、より責任を伴う仕事への出世のために私生活を犠牲にしたいと望む就業者が男女ともに大幅に減少し、出世コースを進むより一定のレベルに留まる選択をする傾向が全体的に高まっていることが明らかになっている。

一方、「仕事優先」志向の者と「家族優先」志向の者との出世欲の比較では、「家族優先」で「より責任を伴う仕事につきたい」が、「仕事優先」で「より責任を伴う仕事につきたい」を上回っている。これは、仕事優先志向の労働者が、家族優先志向の労働者よりも、仕事・私生活・家庭生活のバランスの取れた両立に困難を感じている可能性を示唆している。

なお、この調査で「より責任を伴う仕事につきたい」とは、必ずしも同一組織内のいわゆる「昇進」を意味するものではない。「より責任を伴う仕事につきたい」労働者のうち52%が「来年中にできればあるいは強く転職したい」と回答。逆に、「現在と同じ責任レベルの仕事を続けたい」者で、「現在の企業に継続勤務することに満足している」は73%に及んでいる。

(5)大卒現役世代の8割が「現状より実労働時間を短縮したい」

若年層では生活・家族志向が強まっているものの、週平均実労働時間(所定内労働時間+所定外労働時間、未払労働時間を含む)は25年前より長期化している。最も週平均実労働時間が長いのは、23―37歳層(44時間)及び38―57歳層(45時間)。また、2002年の23―37歳層の週平均実労働時間は、1977年調査の同年齢コホートより3時間長い。職種別では、管理者・専門職が主たる仕事に費やす週平均労働時間が45.3時間と、他の職種平均の41.9時間を上回っている。また、年収5万3000ドル以上の高所得者の週平均労働時間は49.7時間で、年収2万600ドル以下の低所得者に比して15時間長い。

所定内労働時間については、「40時間」としたのは男性72%、女性55%で、男女別平均では、男性39.3時間、女性35時間であった。しかし、主たる仕事に男性が費やした平均実労働時間は46時間(所定外労働時間+5時間)で、女性は39.8時間(所定外労働時間+3.8時間)であった。「望ましい労働時間」に対する回答は、男性が38.5時間、女性が32・5時間で、所定内労働時間内の就業を望んでいることが分かる。

また、今後の経営・管理職候補となる大卒以上現役世代(23歳未満層、23―37歳層、38―57歳層)で「現状より労働時間を短縮したい」との回答は80%に及んでおり、就業者全体の61%を大幅に上回る。高学歴層の労働時間短縮志向が高まっている。現在より労働時間を短縮したい大卒現役世代で「より責任のある仕事につきたい」は40%、現在より労働時間を増やしたい大卒現役世代ではその比率は70%であった。

(6)長時間労働により私生活への「しわ寄せ」が多いと出世欲が低下

調査は、長時間労働の私生活への「しわ寄せ」と出世欲の関連についても尋ねている。「仕事のせいで家族や私生活に大切な人たちに対する時間とエネルギーが割けない」「家庭では仕事ほどうまくできない」「仕事のせいで家庭や私生活での重要なことに集中できない」「仕事のために家庭で自分が望むような良いムードを保てない」――などの仕事による家庭へのしわ寄せが低レベルに収まる大卒現役世代で「より責任を伴う仕事につきたい」とするのは60%で、しわ寄せの程度が高い大卒現役世代でその比率は39%と大幅に下回っている。この傾向は男女とも同様。また、「激務に追われていると感じている」大卒現役世代のうち「より責任を伴う仕事につきたい」は30%に過ぎないが、「激務に追われていると感じることはほとんどあるいは全くない」大卒現役世代では「より責任を伴う仕事につきたい」が53%に及んでいる。


表2:世代別・男女別出世欲
2002年調査 仕事の責任レベル(%)
現在より責任の少ない仕事につきたい 現在と同レベルの仕事を継続したい より責任を伴う仕事につきたい
世代コホート
23歳未満(若年層) 7 33 60
23-37歳層(若年層) 7 40 54
38-57歳層(ベビーブーマー) 10 60 31
58歳以上層(高齢層) 13 75 12
性別
男性 9 47 45
女性 9 59 35

表3:大卒現役世代の出世欲
(人口統計的/その他のファクター)
2002年調査
(人口統計ファクター)
仕事の責任レベル(%)
現在より責任の少ない仕事につきたい 現在と同レベルの仕事を継続したい より責任を伴う仕事につきたい
世代(年齢層)
23歳未満(若年層) 0 36 64
23-37歳層(若年層) 4 37 58
38-57歳層(ベビーブーマー) 9 56 34
性別
男性 6 41 52
女性 8 56 36
未婚/既婚
未婚 8 51 41
既婚 6 44 50
配偶者の雇用の有無
8 54 39
8 41 51
子供の有無
18歳未満の子供有 9 51 40
18歳未満の子供無 6 48 47
職業
管理/専門職 9 53 38
その他 5 40 55
年収
20,600ドル未満 3 39 59
20,600-34,314ドル 6 50 44
34,315-53,000ドル 8 56 37
53,000ドル以上 10 45 45
世帯所得
28,000ドル未満 3 32 65
28,000-49,999ドル 6 51 44
50,000-79,000ドル 6 49 45
80,000ドル以上 10 52 38
その他のファクター
希望する労働時間
現在より短時間 9 51 40
現在と同時間 2 50 47
現在より長時間 2 23 75
仕事の家庭へのしわ寄せレベル
低レベル 4 37 60
中レベル 5 53 41
高レベル 14 48 39
過去3カ月間に激務に追われていると感じた頻度
非常に頻繁に感じた 16 54 30
頻繁に感じた 11 49 40
時々感じた 4 51 45
ほとんど感じない 5 43 53
全く感じない 0 48 53

参考資料

  1. Families and Work Institute, Generation & Gender in the Workplace (American Business Collaboration, Boston, 2004).
  2. Usatoday.com “The family-first generation”, Dec.12, 2004.
  3. Nytimes.com “The Opt-Out Revolution”, Oct.26, 2003.
  4. American Business Collaboration, “Study Examines Differences Among Generations in the Workforce Over the past 25 Years”

2005年4月 フォーカス: 勤労者意識

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