賃金制度:ドイツ
ドイツの賃金制度 ―能率・成果給の仕組み

ドイツの賃金制度は、労働協約または同等の条件が適用される場合が多い現業労働者と、協約対象の「職員」(協約職員)、協約対象にならない「協約外職員」(管理職層を含む)に大別される。このうち、協約対象の現業労働者および職員を中心に、能率・成果給的な要素が賃金制度にどのように入り込んでいるかをみる。

現業労働者の場合は時間給としての賃金(Lohn)、職員の場合は月給としての給与(Gehalt)を得るのが一般的であり、ともに次のような等級づけに従って職務給を構成している。

現業労働者の場合、労働協約のうち、賃金・給与の「枠組協約」によって、職務に対する賃金等級が決められている。金属産業では、このうち、賃金等級1~2が「不熟練職種」、3~6が「半熟練職種」、7~10が「熟練職種」に分類され、「専門工」資格をもつ人が最初につく基準賃金等級は7である(地域によっては、等級が8~12程度に分類され、基準賃金等級もそれに応じて異なる)。職員の場合も、銀行のように労働協約適用率がもともと低いケースでも、10程度の給与等級に分かれる協約賃金システムが土台となっている。

労働協約には、一般的にこれらの等級に相当する職務が例示されており、事業所ではそれに基づいて経営者と事業所委員会が、等級づけの仕組みなどを決定する(事業所組織法による「共同決定事項」)。事業所委員会のない企業では、経営者の裁量に委ねられることが多い。

この職務給の上乗せとして、能率賃金があり、それはさらに「アコード賃金」と「プレーミエン賃金」に分かれる。もっとも、これらの用語には、実際にはプレーミエン賃金であるのに違う呼び方をされているといった混乱がある。また、現実には能率・成果にかかわらず一律に支給される事例も存在するなど、個別企業・職場ごとに仕組みと運用が異なり、理解が難しくなっている。

アコード賃金は、基本的には能率給であり、労働者が基本的に支給される、協約で決められた「最低賃金」に加え、標準時間あたりの作業量を上回った場合(標準時間より早く作業した場合)、その能率向上の度合に応じて支払われる。能率の算定にあたっては、個人の作業を対象とする「個人アコード」と、グループの作業を対象とする「集団アコード」がある。アコード賃金は本来の考え方からすれば、生産能率と賃金が正比例しており、シンプルで透明性がある。

これに対して、プレーミエン(プレミアムの意で複数形、単数形はプレミー)賃金は、生産量だけでなく、品質や納期といった要素を勘案したり、効率化・経費削減などの要素を取り込んで成果を算定する(日本の品質管理手法である「カイゼン」の要素も影響を与えている)。対象はやはり個人の場合と集団の場合がある。当然のことながら制度は複雑になるので、大企業などでは労使によるプレミー委員会で制度の改変等を協議するケースが多い。なお、アコード賃金およびプレーミエン賃金ともに、産業によってはその一部が事実上時間賃金化し、評価にかかわらず支払われているケースがある。

能率賃金制度がない場合においても、多くの現業労働者と協約職員には、最低賃金の役割を果たすことが多いいわゆる協約賃金に加えて、成績加給の制度が取り入れられていることが多い。これは査定項目ごとに、5段階程度の評価を主に上司が行い、査定を受ける本人が同意したうえで決定する。同意できない場合は、苦情処理制度が整備されており、必要に応じて評価内容が本人に開示される。成績加給率は、多い場合で基本賃金の30%に達することがある。平均的には、たとえばバーデン・ヴュルテンベルク地区の金属産業では、平均15%程度相当という数字をあげている(同地区金属産業労組=IGメタルによる)。成績加給の仕組みについても、事業所委員会がある場合は事業所ごとに経営者と協定を結び、透明性の確保を図っている。この「透明性の原則」は法律的にも適用され、成績加給率が過大な場合などは違法とされる可能性がある。

参考資料

  1. 日本労働研究機構『ドイツ企業の賃金と人材育成』(1998)
  2. 高橋賢治『成果主義賃金の研究』(信山社、2004)

2005年2月 フォーカス: 賃金制度

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