賃金制度:イギリス
成果主義賃金をめぐる動向

英国の成果主義賃金は、1980年代から90年代にかけて、保守党・サッチャー政権が公務部門に導入し、制度を推進した。その結果、成果主義賃金は一般にも広く行き渡った感がある。しかし、ブレア労働党政権に移行してから、成果主義賃金の持つ負の側面も指摘されはじめ、これに代わる新たな制度をめぐる議論が繰り広げられている。

教員に対する成果主義賃金の導入

英国では元来、企業、グループ、個人における業績を報酬に連動させる業績給は「ペイ・フォー・パフォーマンス(Pay for Performance)」 あるいは、「パフォーマンス・ペイ(Performance Pay)」 などと呼ばれ、「ピースワーク(Piecework):出来高給」といった概念まで含めると、かなり以前から導入されてきた。

近年、成果主義に基づく賃金で最も関心を集めたといえるのが、業績賃金制(Performance Related Pay :PRP)の導入である。柱は一定の基準を満たした教員に、1年で2000ポンドの給与増額を行なうことを内容にした「メリット・ペイ(merit pay)」と呼ばれる成果主義スキームの導入など。2000年2月に、この制度を利用した賃金希望者の申請が始まり、2001年の春には支給の開始となった。しかしこの制度は1980年代に米国でも教職員に導入されたものの短期間で破綻した経緯があり、英国でも大きな議論を呼ぶ結果となった。特に全英教員組合(NUT)は、生徒の成績向上が評価の基準に加わることなどについて猛反発し、同労組が高裁へ訴えたために、同制度は当初の予定より大幅に遅れて実施された。この制度に関しロンドン大学ペーター・ドルトン教授は「教師に対する給与増額は生徒の利益になっていない。公務部門の業務は成果主義にはなじまない」など問題点を指摘している他、労組間でも正反対の主張がなされるなど大論争が展開された(注1)。

成果主義からの移行

成果主義は、保守党政権が1991年に公表した「市民憲章(Citizen’s Charter)」の中で「業績給」の導入が大きく謳われ、その後「新公共管理(New Public Management)」の政策を唱えるサッチャー政権の下で推進された。同時期に行なわれた様々な調査によれば調査企業の30~50%がなんらかの形の成果主義賃金を導入している(注2)。中でも人事考課による個人の業績評価を賃金に反映する「個人業績給(Individual Performance Related Pay :IPRP)」が広く普及、英国人材マネジメント協会(CIPD)の調査によれば管理職の40%に対してIPRPが導入されていた(表1)。しかしその後、個人が自身の報酬を目指して互いに競い合う結果、チームワークや協調性を損なう等IPRPの抱える様々な問題が顕在化した。現在はIPRPに対する再評価が行われ、チームベースの業績評価やコンピタンシーによる評価へ移行する等の動きが見られる。また、「地方政府コンサルタント協会(Employers’ Organisation for Local Government) によれば、地方政府でも1980年代から90年代にかけて成果主義への流れが顕著にみられたものの、現時点では制度の廃止や見直しが行なわれているとしている。

新しい給与比較の試み

このように、賃金に関する評価制度については、今後も議論が続いていくものと思われるが、現状として英国では様々な賃金制度が適用されることとなった。このため個人が自分の賃金水準を把握することが困難となっている。こうした状況に対応するため、英国労働組合会議(TUC)と給与関連の調査会社インカムズ・データ・サービシス(IDS)が共同で給与比較を行なうウェブサイト「ペイ・ウィザード」を開設した。同サイトでは、職種別の給与水準等が示されており、職種等を選択すると時給、週給、月給、年収等の全国平均額などを知ることができるようになっている(表2)。

資料:英国人材マネジメント協会(CIPD)

資料:PayWizard.co.uk www.paywizard.orgを基に作成

2005年2月 フォーカス: 賃金制度

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