アジアの若者に対する職業訓練政策:シンガポール
シンガポールの職業訓練政策/政労使で強力に推進

職業訓練政策の背景

人的資源省は1999年8月に「マンパワー21計画」を策定した。同計画は、生涯にわたるエンプロイアビリティの向上を掲げ、労働者の生涯を通じた職業教育・訓練の継続の重要性を訴えている。具体的には、低学歴の者に対する基礎教育(語学、数学)の徹底によって労働者全体の基礎能力の底上げを図ると同時に、高度人材の育成強化というものである。基礎教育の徹底については、シンガポールの高年齢者の中に若い時に中等教育を受けなかった者が多数存在するということ、また学校を中退した若者を労働市場に参入させる目的からその重要性が強調されている。

政府は、将来の労働力不足を深刻な問題として捉えている。人的資源省(Ministry of Manpower )傘下で、職業訓練政策を立案している雇用訓練庁(Workforce Developing Agency )は不足する労働者数を学歴別に試算している。同庁は2009年に、いわゆる商業高校・工業高校の卒業程度の労働者(Post Secondary)が約23万人、大卒の労働者(Degree)が約4万7500人不足すると見積もっている。

雇用・失業状況

「2004 Singapore Yearbook of Manpower Statistics」によると、2003年の人口は418万5200人(外国人居住者を含む)で、シンガポール人のみに限った人口は343万7300人。2003年6月の労働力人口(注1)は215万人で、うち就業者数は203万4000人となっている。産業別に就業者数(注2)をみると、「公共サービス」(54万8000人)が最も多く、次いで「製造業」(36万5000人)が多い。「公共サービス」には公務員・公共サービス・家事サービス業、社会福祉、医療など広い範囲のサービス業が含まれる。2003年平均の完全失業者数(注3)は10万4000人、完全失業率は4.7%となっている。年齢別にみると「20-29歳層」の完全失業率は5.2%となる。

職業訓練は外部に委託

人的資源省の傘下に2003年10月に新設された雇用訓練庁の最も大きな特徴は、職業訓練施設をもっていないことである。職業訓練を実施する企業や民間の職業訓練学校などに対する補助金の支給を通じて、雇用者のエンプロイアビリティ向上と、経済界の求める人材の育成を行っている。2004年度の同庁の予算は1億9870万Sドル(基金を含む)だった。

個人を対象とする職業訓練プログラムの中では、別業種(職種)へ移るためのSMCPプログラムの人気が高い。人気の理由は、受講前に訓練修了後の就職先が決まる点にある。求職者は訓練を受ける前に、プログラムに参加協力している雇用(予定)主に面接などによって選抜されなければならない。落選した者は訓練を受けられない。これまでに、IT、社会福祉、医療関連などへの転職するためのプログラムが実施されており、例えば、看護士コースの場合、大学か技術短大(注4)の卒業資格を持っており、医療機関以外の企業で2年以上、フルタイムで働いた経験者が病院の面接を受ける。合格者には、雇用開発庁が受講料金の50%(上限4000シンガポールドル)を助成し、選抜した病院も受講料金を助成する。雇用開発庁はさらに受講生が病院に雇われた後の最初の3カ月間の月給の50%(上限800シンガポールドル)を病院側に助成する。訓練は技術短大で2年間行い、訓練終了後に病院に雇用される。

労働組合に職業訓練を委託

ナショナルセンターであるNTUC(全国労働組合会議)は、雇用訓練庁から技能再開発プログラムの管理を受託し、1996年から全国的に展開している。プログラムの主な対象が在職の低技能者で組合員と重なるため、NTUCは組合員サービスの一環として受託している。訓練メニューは、民間の訓練機関が提供しており、建設、医療、ITなどの分野で1300コースある。2003年には5万1700件の訓練実績があった。同プログラムで最もユニークなのは、事業主が何らかの理由で従業員を訓練に送りたくなく、その企業で働く従業員が個人として訓練を受けたい場合、当該従業員が申請すれば、NTUCが「代理の使用者」となって、当該従業員を訓練に送り出すことができる仕組があることだ。労組が委託されていることの意味がこの点にあると言える。

教育省の職業訓練

教育省傘下の技術教育機構は、企業でのOJTによる実践的な技術訓練と訓練機関でのOFF-JTの学習を同時に行う「見習制度」を実施している。ドイツのデュアル・システムをモデルにした「学びながら働く(賃金を得る)制度」で、OJTは協力企業、OFF-JTは同機構もしくは同機構に認可されている訓練センターで行う。訓練は、自動車、経営、電気、医療など多様な分野にわたる。申請は、企業に申し込む方法と同機構に申し込む方法の2通りで、企業に申し込む場合は、企業の募集広告などに応募して採用される必要がある。技術教育機構に申し込む場合は、申請後にプログラム参加企業による採用面接を受けなければならず、「見習制度」に参加するためには、いずれにせよ参加企業に採用される必要がある。多くの企業が訓練生を訓練修了後に採用しており、例えば、自動車技術コースでは、3年間の訓練修了後、月給700-950Sドル程度の仕事に就けるという。技術教育機構は、自前の技術短大を5校、職業訓練校を10校持っており、中等教育修了者や学校教育からドロップアウトした若者などが入学している。ただし、これらは、教育省傘下ということもあり、訓練機関というよりは教育機関と位置付けられている。

2005年10月 フォーカス: アジアの若者に対する職業訓練政策

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